201.悩みを聞こう
「小恋ォ!! 儂のさっき使った護符どこ置いたぁ!!」
「おじいちゃん、さっき食べたでしょ」
「おぉ、そうだったか! そりゃ…………そんなわけ
あるかい! って、あんれ裾にあったわ」
「そんなんで呼ばないでよおじいちゃん! 私まだ
別のお仕事あるんだから!!」
もー、なんで私も力仕事しなきゃいけないのよ。
こういうのは私じゃなくて神主とか男の人にでも
頼むものじゃないのかな。ご神木の運搬とか絶対
女子高校生に任せる仕事じゃないでしょ。
「お姉ちゃんってなんで、今日いないの??」
「そんな知らん。アレだ、思春期ちゅーやつだ」
「大学生だけどお姉ちゃん」
大学生の思春期ってめんどくさそう。今日、私が
お仕事に駆り出されたのは人手不足、とは言ってる
けれど、本当はスーパーワーカーなお姉ちゃんに
任せていたお仕事が、色々と急遽できなくなったから。
それに合わせて、物運びとか裏の手回りの仕事が私に
振られたってわけ。
どうしたんだろう? お姉ちゃんは毎年のことだけど、
定期的に死にかけた顔になっている。そういうときは
いつも「シメキリ」「解釈違い」って唸り声と寝言に
うなされている。
うーむ、お姉ちゃんに実際に聞いてみようか否か。
「お! 帰ったか三好!!」
「うーす」
「元気だせぃ!!」
「あんたは元気すぎんだよジジイ!!!」
「なぁにぃ!!??」
「言っておくが、私は今日はもう寝る。だから
仕事ふってくんな、だから我が妹、あとは
よろしく」
「え」
お姉ちゃんはドラゴンみたいなアクビをした。
やっぱり眠そうなのは確か。
「ちょっと! お姉ちゃん!!」
「なんだ? お姉ちゃんは今から死ぬ」
「なんかあったの?」
いっつも何かに苦労してるお姉ちゃん。私に
仕事が振られることを考えたら、手伝ってあげた
ほうがいいのかもしれない。どう思うかはわからない
けれど、誰だって悩みの種をパパっと片付けたい
ってものでしょ。おせっかいかな、やっぱり。
「え、何って聞くのかよ私に」
「うん、だってこんなぐったりしてたらそりゃね」
「………………フゥー………………
………………ちょっと、一瞬いいか」
「え? いいけど?」
お姉ちゃんは私を手招きする。二人だけの
内緒話をしようとしているみたいだけど……
……え? そんな深刻な話なの?
私はおじいちゃんから受けた仕事をいったん
切り上げて、私たちの部屋のある廊下に向かう。
この御前神社にはいろんな建物があって、
ここは来客とか私たちの部屋がある、旅館っぽい
建物。そういえば、前にココとギドー君と
一緒に来たときに、この場所に案内したっけ?
「……ハァー、あのな実はな、お姉ちゃん」
「うんうん」
「………………」
お姉ちゃんは苦い顔をしてる。
「………………
………………
………………大学の、だな、
授業があってな。そこで"恋愛学"の勉強を
しているんだ………………」
「え、初耳」
ひっそりとお姉ちゃんが「真実言えねぇー」
ってぼそっと言ったのが聞こえた。けど、
それよりも何それ? レンアイガク???
「その、えーー、大学の宿題でな。高校生の
男女の恋愛事情に関する研究と論文を書く
ことになって」
「一周回って逆に気になるな、その授業」
「今、そのサンプル調査をしててな、でも
いかんせんぜんっぜん進まなくてな」
「あ、だから寝てないの?」
「………………そう」
うーん、大学ならなんかいっぱい付き合ってる
人たちがいるイメージだけど、高校生ってなると
ちょっと情報を集めるの大変そう。
「もしかして、うちの学校に行ってたの?」
「そ。そこでやっとそういったことに詳しい人
捕まえられたから、どうにかなるんだけど」
「でもうちの学校付き合ってる人とかなんでか
ぜんぜんいないよ」
「……同じこと言ってるなお前ら。ほんとに同じ
部活なんだな、アイツと」
「?」
私、異能部ですが何か?
「いや、だからムリヤリにでもデートの時の
スポットとか聞けりゃあなぁって思ってる
程度だから」
「そうなんだ………………
………………あ、もしかしたら手伝えるかも」
「え? でも小恋、色恋沙汰ゴミほどねぇじゃん」
「うるさい!」
いいんですーー、2年生から本気出しますーー。
200話超えてからが本番ですーー!!
「私の友達に人脈がすごい人いるから、もしかしたら
その人からも話聞けるかも」
「お、マジかよ! 助かる! って、いうかちょっと
もしかしたらなんだが……」
お姉ちゃんががっちり私の肩を掴む。
「デートできる奴っているか???」
「え、デート??」
「そう、さっき実際にデートできるヤツを見つけてな。
そいつの相手を探したかったんだ。もういっそ
私が相手やろうかって思ってt」
「お姉ちゃん、大学生でしょ」
「まだピッチピチだからイケるだろ」
「イケる人なら"ピッチピチ"って言ってないよ」
もうそれも死語でしょ。
「わかんないけれど………………ちょっとお願い
してみるね」
「っしゃあぁ! よくできた妹だ!!」
声を張り上げてはいるけれど、覇気がない。
ずいぶん寝ていないらしく、もう倒れそうだ。
そんなにロンブンって大変なんだなぁ。
喜びようから、締め切りにうなされるのも
なんとなくわかる。けれど、寝言の解釈違い
っていうのは一体なんだろう。
「んじゃ、ちょっとお姉ちゃん寝るわ。詳しくは
あとで連絡するから。そんじゃ残りのお仕事
よろしくー」
おやすみ。という前にさっさと自分の部屋に
お姉ちゃんは戻っていった。お姉ちゃんの部屋は
もうずっと入っていない。私がずーっと子供の
ときから「禁忌の土地だ」「不浄が移る」とか
「お前には許容できる力ではない」って言われて、
入らせてくれない。
もともと、興味がないからいいけれど。
……お姉ちゃんは一体何者なんだろう。
とりあえず、私にはまだまだお仕事がある。
ちゃっかり目の前で仕事を投げられたけれど
別に、いやだってわけじゃないからいいや。
「さーてお仕事お仕事!」
学校ですっかり疲れた体にさらに労働は
しみますわー。こんなに頑張っているのなら
もうちょっと神様ぐらい、大目に見て私に
霊感のちょっとやそっとくれてやっても
いいじゃない。
「と、その前に」
ちょうどこの場所は職場……というか、
この土地全体が職場と言っちゃえばその通り
なんだけれど、一応プライベートゾーン
ってくくりの場所だった。今のうちに
お姉ちゃんから言われた通りの該当人物を
当たってみてもいいか。
「ピポパっと
……
あ、シモシモー。え? もしもしってこと。
流行らないし、流行らせないって? いやいや
一昔前は流行ってたんだって。おじいちゃんが
言ってたよ。ピポパもおじいちゃんが言ってた
から真似してる。
それでね、かくかくしかじかで……うん、
それでデーt、買い物のお手伝いできる
女の子を探しているんだけど……
え、ほんと? あ、依頼主は私のお姉ちゃん。
よくわからないけれど、高校生の実態を見たいん
だって。
えーっと、場所は……えーっと、町のポストの
前だって。はーい、ありがとーー」
これでよし。あとは勝手になんとかしてくれる
でしょ! 見た目と裏腹にちゃんとした人だから、
私がアレコレ口出ししてもいけない。
……って、そういえば相手の男の人って
どんな人なんだろうか。お姉ちゃんから聞いて
おけばよかった。
まぁ、人脈よしマナーよしなできる子だし
どうにでもなるや。
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当日、町ポスト前
「………………」
「………………」
「………………」
「………………あ"ぁ? てめぇがなんでここにいる」
「義堂君こそなんでこんなところで?」
「言われたから来たに決まってんだろうが」
「あら、あいにく私もなの」
令嬢"英嶺 真綾"
不良"義堂 力也"
まさかのマッチアップとなった。
「「じっ、人選ミスったあああああああああああ
ああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああ!」」




