199.通報しよう
「う"うぅううぅぅぅぅぅうううぅぅぅぅぅ
あ"あぁあああああぁぁぁぁああああああ
あ"ああああああああああああああぁああ」
「き、キャーーーーー」
「だっ、誰だあんた!」
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「……え? 今日ミコ休み?」
「ええ、私も今日は忙しいからあなただけよ
部活に出れるの」
「ついにソロ活動になるのか」
いずれ来るであろう事象だとは思っていた。
もとより常時参加する部員が二人だけの部
なんだから、片方が休むとなれば俺だけに
なるなんてあり得るし、逆にそうならなかった
のはぶっちゃけ奇跡だと思っていた。
あ、当然のように義堂がいないことに
なっているが、今日はたぶん来ない。気分
とかそういうのではなく、捕まっているのだ。
相手は物理の先生。
単位不足。あと単元テストのサボタージュの
お咎めだ。
こればかりは仕方がないし、逆に出てくれる
だけ助かる。こういう面倒ごとには顔を出さない
タチなだけあって、補習すらもさぼるかとも
思っていた。成績が足りなければ、部活にすら
出られないっていうのが効いたのだろう。
そういうところが真面目なのが憎めん。
さて、帰りのホームルームが終わりいつもの
ように、よぉし部活だー! と意気込んでいた
矢先に加賀音から部長の不在を宣告されたのだ。
一応、部活をやるように告げてしまったため
部室に顔を出すだけは出す。出すような人間は
部室にはいないんだけれどな。
「ミコがどうしたんだ? ミコも補習?」
「いえ、家の事情よ。どうにも人手が足りなく
なっちゃったらしくて、もう帰ったわ」
「足りなくなるんだな、あの一族の数で」
だからといってミコはちょっと人選ミスな
気がするけど、スキルだけ見れば手伝いぐらいは
できるか、さすがに。
はぁー、一人だけってなるとやっぱりヤル気
そがれるな。って言っても、部室にほったらかした
荷物とか持ち出して俺はぱっぱと帰りますよ。
「……?」
……どこかで誰かの悲鳴が聞こえた気がする。
一階か? 下校を狙った変質者でもいたのか?
「ま、いいや関係ないし」
さっさと俺も用事を済ませて下校をしたい。
今日は読みたいマンガがあるんだ。部室に
ほったらかしたものというのもそのマンガの
続きだ。なんで、主人公が覚醒してこれで
決めるんだ! パーーンチ!!! 決まった!
で、次回次巻に続くみたいなカットの仕方を
するんだ。めっちゃ気になるだろ。
がらがらっ
「……あ」
そうだ、ずいぶんと寂しいなと思ったが。
誰もいないんだから当たり前だ。いつもミコが
先に居座っているから気にしていなかったが、
体育倉庫の閑散さは、少なからずあるな、
この部屋は。
「……って、ないじゃん」
ミコ持って行ったままじゃん。えーすげぇ
もやもやする。このまま、神社に取りに行く
のもありだな。どうせ休みだし……って駄目だ。
あの場所には当分近づきたくないんだった。
理由は「クマ」。これに尽きる。
今も剛隆じいさんはアイツのマーク2の開発を
しているのだろうなぁ。マンガよりもクマの
ほうが気になって仕方がない。
誰か持っていないものか。マイナーなマンガ
なのだから持っている人間すらもこの学校には
いないってことも考えられる。……いいや、
気長に待つか。
廊下を抜けて階段を下りて、さっき悲鳴が
聞こえた一階の廊下に出る。変質者はいない。
あるいは連行されたか。
「……あ! 神前君!!」
「……? 会長??」
意外な人物が話しかけてきた。まーた加賀音に
仕事ぶん投げてブラブラしてるのかよ。
「違う違う! 緊急緊急!!」
「え?」
「こっちこっち!!」
俺は言われるがまま、会長に連れられる。
靴を履いて、猛ダッシュで下校の生徒と生徒の
間をくぐって、グラウンドに向かう。
「どうしたんですか!?」
「いいから!」
「??」
見たところグラウンドには問題らしい問題は
発生していない様子。会長はそのままグラウンドを
横切ってさらに向こうの野球部が使っている
バックフェンスの裏に突っ走る。確かそこは
野球部の部室があるはず。
「野球部で何が?」
!?
悲鳴が再び、野球部の部室の中から聞こえる!
「え?」
「急ぐよ!」
「は、はい!」
一体野球部でいったい何が?
ガチャッ!!
「だ、大丈夫ですか!」
俺の部室に入った第一声だ。お邪魔しますの
一言もなく、勢いよく建付けの悪い部室のドアを
開けて、安否の確認の一声を上げたのだ。
我ながら人見知りだというのによく声を
張ったものだ。人間、やれるときはやれる。
「う"うぅううぅぅぅぅぅうううぅぅぅぅぅ
あ"あぁあああああぁぁぁぁああああああ
あ"ああああああああああああああぁああ」
「き、キャーーーーー」
「だっ、誰だあんた!」
「お、おい………………って。え?????」
部室を見ると野球部員とそのマネージャー、
そして、明らかに場所不相応な格好で倒れた、
女がいた。
それに、俺はその女を知っていた。
「ぬ"ううううううううううううううううう
ん"んんんんんんんんんんんんんんんんん」
「な、なにしてるんですか!? ここは
野球部の部室ですよ!!」
たまらずマネージャーの女が倒れたままの
見知らぬ女に言い放つ。
「お、男と女のに、においいいいいいいいい
いいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
「ひっ、キャーーーーーー!!!!」
「………………あの、
何してるんすか?????
三好さん」




