196.話をまたまとめよう
え、またまとめパート? と思うだろうが、
話が続いているとはいえ、生徒会室ではない
場所で、まだ話すことがある関係でこういった、
変なタイトルになってしまった。
まとめの延長だと思ってくれ。
またしても舞台は廃工場。それも
鹿羽と大乱闘となった錬である。なぜも
忌々しいこの場所に行くことになったのかと
いえば、俺の好奇心がまた悪さをしたとしか
言いようがない。
ああも接戦を繰り広げたとはいえ、実は
俺自身、天使然りああいった聖職関係の敵と
ガチバトルをしたのは初めてである。そして、
あの場所で行われたのは、小さいながらも
れっきとした天使と悪魔の対決。「聖戦」だ。
これからは、こんな私欲によって起きる程度の
くだらない聖戦は起きないだろう。争いと
いうのは、しっかりとした目的と理由があって
こそあってほしいものだ。そうであろうし、
かつての世界が滅びに向かった2度の戦争も、
血のたぎった人間たちの愚かな行為であった
だなんて思いたくもない。
その聖戦で得た報酬は、俺だけの力では
一介の天使ひとりに勝てないということだ。
根本的に、俺は半端ものであるという問題点を
抱えている以上、どうしようもない。そうだと
しても、これからの活動指針としても戦いが
あったあの場所を見ておく必要はある。
…………というのは、建前だ。
ただ、死にかけで帰ったときにミコンを
すっかり忘れてしまったなんて、それこそ
くだらない理由だなんて死んでも言えない。
仕方ないだろ! 死にかけていたのだから!
あのあと起き上がったとはいえ、すぐに
気絶したからな。体力が回復していたことも
あったから、かろうじて"ヴィーハ"に俺を
また操作してもらってやっと帰れたのだから。
もう勘弁してくれ。忘れ物にまで頭が
働くほど脳に血が回るわけがないんだわ。
「"ヴィーハ"」
(なーに? マスター?)
「ミコン忘れた俺が悪いんだけどさ。ミコンに
帰れなくなったのはわかるけれど、その間
ずっと俺に憑いてなくてもいいんだぞ?」
(えーいいじゃん)
「いや、重たいんだよ! "ヴィーハ"
あと"フォビー"と"ヤミー"!!!!!!」
(仕方ないだろ。俺は具現化できない)
(アニキのことが心配っすから! それに
俺も撃たれたダメージがあるんで具現化したく
ないっす!)
そう。ミコンに帰れないとなれば俺が召喚した
悪魔全員を、俺自身に憑かせるしかないのだ。
言ってしまえば、風邪と赤痢とインフルエンザに
同時にかかっているようなものだ。
自分の持つ力で自分のことを苦しめる。
俺は野口英世かっ! ん? 例えが変か?
ちなみに、"ヴァンダー"はダメージもないことも
あって普通に俺にてくてくとついてきてくれている。
「なんでこういう時に限って曇りなんだ」
(ねー、満月だといいんだけど……)
具現召喚は実は悪魔の観念からしてみれば、
解釈違いとも言える。言うなれば悪魔なんて想像の
産物だ。憑依されて人の思考や心に巣食って
生まれるはずの存在。それを魔力を使って
この現実世界に紐づけているのだ。そのため、
憑依させるよりも、若干魔力が多く使われるし、
鹿羽の戦いで痛手を負った悪魔たちは魔力の
供給源である俺に憑いてもらったほうが、
気が楽なのだ。
おんぶにだっことはこのこと。それで自分が
疲弊してどうしようもないんだが。
「それで…………あれどこで俺は倒れたん
だっけ?」
(えーっと、そこらへん? あの、よだれっぽく
地面が湿ってるところ)
「あ、あそこか」
とは言いつつも、こんな場所にミコンが捨てて
あるわけはないとは内々に思っている。俺が
鹿羽なら、放置された敵の所有物ならよっぽど
警戒心がない限り、拾わない手はない。
トロイの木馬だったらな、あのミコンが。
あるいはデスノートよろしく燃えてしまうか。
「やっぱないよな」
(またいっぱい呼びだして探すの? やだよ私)
「俺だっていやだよ。というか呼べねぇよ」
(あ、そうだった)
今の時刻と日付は、あの戦いの日から明後日。
それまでミコンも持たずに何をしていたかと
いえばもちろん死んでいた。かろうじて戻っては
これた自宅のベットの上で、丸々学校にも行く
こともできずに、立つこともなくずっと横に
なったままだった。
そしてやっと、人間的な生活に戻らなくてはと
躍起になって、体を横から縦にしたときに、
ふところにいつもある大事な大事な自分の
ミコンがなかった、というわけだ。
監督不届きなんて言わないでくれ。俺だって
死にたくて死んだわけではない。
「っていってもどうすりゃいいんだ」
「はぁーまったく、現場に犯人は戻ってくる
とは言ったが、そんなまだ古典的なヤツが
通じるなんてなぁ、ものの50年は見てねぇぞ
俺でも」
「!?」
「おらよ」
暗い廃工場の奥から、高速の物体。俺も
鈍くはない。この流れから飛んでくるものは。
ゲシッ!!
「アイダァ!! 背表紙のカドォ!!!」
「おいおい、自分のものぐらいしっかり
キャッチしろよ」
自分の腕の力を過信していた。寝て回復
していても、リハビリ明けとなっては思った
ように手が上がらないものだ。
「い、いてー。って、いいのかよコレ」
「んなもん俺が持っていても意味がねぇよ。
持ってたとしても、お天道様からの
異端審問で俺も殺されちまうよ」
「鹿羽。まだここにいたのかよ」
「まだここにしかいれないからな」
ミコンは無事手元に戻った。敵からの
塩ではなく砂糖のデリバリーだ。
「それと、鹿羽と呼ぶのはやめろ。"鹿羽 歩"は
俺の名前じゃない」
「…………じゃあ、何て呼べば」
「"ヴァンヴィ"。それが俺の名前だ」
「バンビって、かわいい名前だなずいぶん」
「相棒の先祖が付けた名前だ。バカにすんなよ。
それと"ヴァ、ン、ヴィ"だ」
小鹿とはずいぶんと似つかわしくない名前だな。
鹿羽、あらためてヴァンヴィの登場である。
やはり口調と体格と態度があっていない。
こじんまりした体でえらそうに腰に手を当てての
登場だ。
「義堂はどうしたんだ?」
「義堂? あぁ、あのバールの男か。あんたと
同じじゃないかな。ずっと寝てるよ」
「なら、本当に俺と同じだな」
「それで、なにか聞きたいことでもあるのか?
そんな、本のために死にかけたまんま丸腰で
来たわけじゃないだろ?」
「…………その、まさかなんだけど」
「言ってあげた俺のやさしさを返せ」
聞きたいことなんて山ほどある。が、それを
いちいち聞いてられないんだわ。
「言っておくが、もう殺すつもりはないぞ。
つかれたのはお互いさまだよ。
それに、相棒からもぜっったいに殺すな
って言われちゃったしな」
「相棒?」
「鹿羽のことだよ。いっつも相棒って呼んでる。
それよりも、目的があるのは俺のほうだ。
あんたに聞きたいことが山よりもある。
お前、なんで巫女と一緒にいるんだ?」
これは答えていいものなのか。答えると
言っても、かれこれ半年以上の歴史を振り返る
ことになるのだが。
「…………長くなるぞ」
「そのつもりだよ、はなっから」
こうして小さいながらも情報交換が始まった。
俺からは自分の半年の高校生活を、鹿羽からは
天使"ヴァンヴィ"が鹿羽の一族に付き従っている
わけを。
あまりに聞きすぎたのもあって、俺も少し
ばかり口を滑らせて、自分に霊感センサーが
あることやミコンを通じて、眷属である悪魔を
呼びだせることを口走った。
こればかりはあまりに愚直すぎる。自分の
弱点を天敵に明かしているようなものだ。
といってもヴァンヴィも同じか。ならば
等価交換だ。俺自身は、眷属なしではただの
半端野郎でしかないという欠点をさらして、
ヴァンヴィは、力の存在がピーキーである
欠点を知る結果となった。
「はぁーーん、なーるほどねー。物好きが
いるもんだな」
「それはほめてるのか」
「いいや、巫女の手伝いをするなんて正気の沙汰
じゃないだろ。
まぁ、そういうとこもあってお前は別に
脅威じゃないってことにしておくよ。それに、
ここは"あの世"じゃない。治外法権だ」
「むしろ、なんで鹿羽はまだここにいるんだよ」
「そりゃ…………あぁ、
帰れないからな。そこんとこの問題はまだ
解決してないからな、どうせあんたらは何が
あったかは知ってるだろ」
「あぁ、そりゃあな。相棒ちゃんが一人で解決
するしかないからなぁ、こればっかりは」
「言っておくが、今相棒は寝てるぜ。いろいろと
悩むことがあるんだよとよ。部活とか学校とか
そりゃたくさんな。ただの守護霊の俺じゃ、
一緒に悩んであげられないからな。今はその
知恵熱で休んでるってとこだ」
前向きに考えてくれてはいるんだな。ぜひとも
「異能部」に加入していただきたい所存だ。
まぁ、結果は前回の通りなのだが……
さっきも言ったが今日は戦いから明後日。
そして前回の生徒会に入ることを知ったのは、
1週間先の話。まだ俺は鹿羽の行先を聞いていない。
時間軸がずれてしまって申し訳ない。先に話すべき
内容というものもあるのだ。
「傷は俺の力じゃ治せない。悪いな」
「いいよ、というか悪いって思ってるのかよ」
「思ってるぜ、こう見えて? 天使ってのは
悪魔と対になる存在で、正義の代行人なんて
ポジションでもある。その名義であんたを
倒そうとしたが、知れば知るほどあんたを
ぶっころす理由がなくなっていく。
……なんなんだお前は?」
「一応、悪魔ですよ、アクマ」
「わかってるよ半端野郎。半端なせいで、俺が
向くべき矛先がずれたんだ。あんたは"悪"だが、
"死ぬべき"じゃない。だから俺が"悪い"」
「そうか」
「そうだ、仲良くしようぜ。半端同士」
俺はそれで許さないほど器は小さくない。逆に
優しすぎると思われても仕方がないが、悪魔も
天使と対になる存在なのだ。ヴァンヴィが対になる
つもりがないなら俺も相対する理由もない。
ならば俺は「鹿羽」の選択を見届ける。
「それでヴァンヴィ」
「どうした?」
おせっかいって言われても仕方がない。
それが俺なんだから。
「おばさんの血液型ってわかったりするか?」




