195.話をまとめよう
「それで、勧誘はどうなったの?」
「スゥーーーーーーー…………」
まとめパートに入る。いいところ新年度から
粘度の高い依頼から受けたわけだが、ひとまず
俺らができることというのは完全にすべて、
終了した。
鹿羽については、学校を飛び出した翌日から
何事もなかったかのように普通に登校してくれた。
これで完全に、マヤの依頼通りの仕事をこなした
ってもんだ。
あの廃工場で戦った夜の顛末については、
正直あまり言えることはない。だいたい義堂が
倒れたところあたりから、俺も死んでいたのだから。
最悪の寝落ちとも表現できる。
やはりあの廃工場で、必ずバタンキューをするのは
俺の運命なのかもしれない。
義堂曰く、体の傷がすぐに治ったらしい。何か
魔法でも使ったのだろうか? とは言いつつも、
体に残る疲労はぬぐえなかったらしく、だるいと
言って、1週間ほど学校にすら来なかった。
お前が不登校なってどうする。とツッコミを
入れたい反面、俺も休みたかったから何も言えない。
ちなみに、俺にはその魔法は使われていない。
いや、それでいい。むしろ使われたらそれこそ
死んでいた。あれは天使の使う技なのだから悪魔に
使うとなると逆効果になりえる。半人半魔だから
その限りではないかもしれないとはいえ、何が
起きるかはわからない以上、英断だった。
どうせ俺も化け物だ。寝れば治る。
まぁどちらかというと、HPよりもMPをえぐられた。
そんな具合だ。寝ても治らないんだわ、これ。
「ミコ、俺たちはやることを全部やった。あとは
もう、来るのを待つしかないだろ?」
「そうだけどさぁー」
いつも通りの部活の風景。一応、もしものためにと
用意した茶菓子が少しばかり多いだけで。俺と
ミコはその「もしも」のために、今日はいると
いっても過言ではない。
と言いつつも、かれこれあの鹿羽との戦いの
日から1週間がたとうとしている。
「…………本当に来るの?」
「さぁ、こればっかりはもう鹿羽に託すしか」
これでも、勧誘活動は少しづつ進めている。
加賀音が生徒会の仕事が増えた関係で、また
簡易診療所を開くことができなくなったとは
いえ、俺らが何も手をこまねいてるなんて
時間を無駄にすることはしない。
と、言いつつもいつも通りの雑用なのだが。
新入部員の対応に追われる同級生の手伝い。
これがまた意外と儲かるのだ。趣旨と違う
気がするが、できることなんてこれくらいしか
ない。思ったよりも、この学校は平和なのだ。
日々、霊がうろつくほど、アウトローではない。
「あら? 今日はお休みじゃないの?」
「あ、ロッカちゃんおつかれさまー」
「お疲れ様。で、収穫は?」
「ないよ。だから休めない。それに、アイツ
いつ来るかもわからんし」
毎日、来もしない待ち人を待ち続けている俺らに
なさけをかけたのか、加賀音が部室に合流した。
「そういえば、そっちに何か話って転がって
ないのか?」
「ええ、それを伝えに来たのよ。これを伝えたら、
職員室に呼ばれてるからすぐ出るわよ」
「「お!!!!」」
「ええ、鹿羽さん。無事に入会が決まったわ」
「「いえーーい!!」」
柄じゃなくミコとハイタッチをした。ん?
加賀音の言い回しに何か含みがあるな。
「え、入会? 入部じゃなくて?」
「ええ、入会よ」
「え?」
「生徒会に入会したわ」
「あ、なるほd」
…………
「「はあああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああ
!!????????????????」」
__________________
「ちょっと! 話が違うんじゃないんすか!?」
「あ、六郷君が伝えに行ってくれたから、
大丈夫かと思ったけれど、その様子だと
なんか出鼻をくじかれたっぽいね」
思わず、部室を飛び出して生徒会に直撃した。
ミコがあまりの勢いに生徒会室のドアに顔を
ぶつけていたのは、面白かった。
「話が違うっていうか……話してもいないから
なにがあったのかは知らないけれど」
「いやいや、あの流れ、そのまま「異能部」に
入部してもっと友達増えたね的な流れでしょ!!」
「そんなこと言われても。生徒会だって同じこと
できるでしょ」
生徒会室でどっかり回る椅子に鎮座していた会長は
その様子のまま、俺たちと応対する。一応、
俺ら客人のポジションなんだけどなぁ……。
そして、会長に気を取られていたが、本来の
客人席にちょこんと人影がいた。黙ったまま
だから、すぐに気が付かなかった。
華奢で小さくて、声も小さそうな少女。
今回のメイン人物「鹿羽 歩」だ。
「前も言ったけれど、うちの生徒会は勧誘制も
あるから誘っただけだって。名目上はまだ、
一年生だから、生徒会の仕事の重役には
させられないけれど、小さなこまごました
ことをしてほしいなと思ってね。まぁ、
鹿羽君は優秀だから」
「ええ……」
そうだった。中学を飛び級して直接、うちの
高校に入れるくらいには頭がよく、例の暴力事件を
抜きにしたら生活の態度もいい成績の部類なの
だった。
「それに、僕としてもこれは英断なんじゃないかな
って思ってるよ」
「……そうっすか?」
「そうだよ。だって、それは神前君、きみが一番
痛感してるんじゃないかな? その様子だとあまり
彼女と相性がよくなさそうだなぁっと思ってたから、
極力「異能部」には入れたくなかったのさ。
ま、黙ってたらきっと入ってくれただろうけれど。
だからって違う部活とかのグループに入って
イチから関係を築くのもちょっと厳しいかなと
思って、"異能部と密接で、知っている顔もいる"
場所だと思って誘ったんだ。ま、一人分ちょっと
メンバーが足りなくなっちゃったからね」
あぁ、そういえば須田という優秀な書記が
生徒会にいたんだった。今は自分探しの旅と
言って休学しているのだが、元気にしている
だろうか。
「それに、僕はあくまで「誘った」だけだよ。
自分で決めたのは鹿羽君本人だから。君たち、
僕たちがそれにあーだこーだ言うのもね」
「そう、ですけど、ねぇ」
鹿羽次第。そうは言ったけどさぁ。
えーまた俺のせいで目的失敗したの?
「…………」
「ということで、鹿羽君これからよろしくね」
「…………は、はい」
「うん、いい返事」
鹿羽はこじんまりしたままお茶を飲んでいる。
今日は「鹿羽」のようだ。
アウトローといえば、そういう観点からも
鹿羽は「異能部」よりも「生徒会」のほうが
立場上はよかったのかもしれない。
鹿羽は自分の過去がらみでクラスメイトと
前に揉めてしまっている。言うなれば自身の
汚点のひとつとなってしまっている事件だ。
それの重しを軽くするためにも活動がふわふわ
している部活よりも、名目通りのブランド化
された「生徒会」のメンバーになるほうが
これからの生活のためにもプラスに働くの
だろう。
「ひとまず、鹿羽さんが抱えていた問題は
解決はしてくれたっぽいから。英嶺君からも
少し部費を割増しできるように頼んでおくよ」
「それはどうもどうも。で、そのマヤ本人は
今どこに?」
「今日は家の事情でおやすみ。忙しそうだからね。
特に、六郷君よりもあの子、いやあの"家系"は」
「まぁ、そうっすよね」
どこもかしこも疲労がたまるような一日を
送っている様子だった。新しい学年、新しい生活
なんてものはやはりアレコレうまくはいかない。
それでいいんだよな。そういうものだから。
鹿羽もその喧騒に飲まれたただ一人、
……いや、たった二人の少女なのだから。
「あ!!!」
「? どうしたミコ」
「名前決めたんだった!」
「あ、そうだったな」
「「????」」
毎度恒例となっている、ニックネーム決めは
「異能部」からしてみればどちらかといえば
日常的に行われていることだが、会長と鹿羽に
とってはこのテンションの上がり方について
来てない様子だった。
うん、そりゃそう。内輪ノリってそういうもん。
「鹿羽さんのことは…………」
「…………」
(ちょっと)
(え)
(ドラムロール!)
(それ一人でもできるだろ!)
「改めて! えー鹿羽さんってなんか呼びにくい
気がするので、これからは」
ミコが合図のようにちらっとこっちを見た。
えぇ、あんまりやりたくないんだけど……
「でん、でれれれれれれれれれれれれれれれれ」
「ジャジャン! "バンビちゃん"になりました!」
「……いえーい」
ここまでがワンクール。まぁ、俺はちゃんと
シカバネって呼びますが。
「ちゃんとカワイイ鹿って名前があるんだから、
鹿っぽいカワイイ名前だと思って」
「ええ」
「会長! ちょっと引かない!」
「いや、別にいいんだけど………… カワイイから
いいってものじゃないよ?」
蚊帳の外のように鹿羽はお茶を飲んd
「きやすく、名前呼ぶんじゃねぇ!」
「え…………」
「え…………」
「あ…………」
「…………あ、ぃぇ。こほん、なんでも、ないです」
…………どうやら天使にはお気に召さないようだ。




