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ダメな巫女娘に悪魔の加護を。  作者: 琴吹 風遠
Made in Utopia
194/446

193.駆けつけよう

「てめぇら、ここで何してやがる」

「お前は確か、あの時」

「って、なんだてめぇよく見たらあんときの

 女じゃねぇか」


 気づいてなかったんかい。ってそういえば

前に一度会っているんだったか。


 むしろなんでここに義堂がいるんだ。と

思ったが、そういえばここは廃工場だった。

義堂の寝床の近くでここまでどんちゃんして

いれば気づかれても当然か。


「んな、しゃべり方だったか、てめぇ?」

「っ! お前こそなんでここにいるんだ」

「決まってんだろ、ここが俺の寝床だから

 だろうが」


 それも言っていないな俺は。あくまで

"アブナイ人"がいるとだけ伝えているから

具体的な人名は知らないよな。


「そうじゃねぇ、てめぇこれはなんだって

 聞いてんだよ!!! あ"ぁ!!?」


 義堂は気が付けば鹿羽の腕をつかんでいた。

俺に突き立てた剣を食い止めるかのように。


 助けてくれた、のか?


「はなせ! 今からこの男を…………え」


 鹿羽の思考が止まった。気が付いたら義堂は

右手は剣を止めたまま、思い切り左手でふり

かざしたのだから。 


「どらぁっ!!」


 ボグゥ!!!!!!!!!!!!!!!!

!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


「ゴハァ!!!!!!!!!!!」

「こいつはなんだって聞いてんだ!!!

 黙って答えやがれ、あ"ぁん!!?」


 口で聞かないヤツは拳で伝える。いつもの

義堂らしいやり方だ。だからってか弱そうに

見える女の子で、しかも知り合いをここまで

本気で殴ります? 俺の出会いがしらみたいに

壁までふっとんだぞ、鹿羽。


 それにしてもさっきまでの鹿羽とは思えない

ほど弱いな。それもそのはず。その力の正体は

天使の力であり、「悪魔」である俺に対して

有効なだけなのだから。


 ………………ぐふっ、説明係もだるい。


「ちっ、んなぶっそうなもん使いやがって

 …………って、あ"?」


 鹿羽をぶっ飛ばしてぶんどった剣がすぐに

消えてしまった。目の前で起こった超常現象に

不思議な顔を見せたが、まぁどうでもいいやと

また鹿羽をにらみつける。


「くっ、こんの」

「………………ぎ、ぎど……」


 話しかけようと思ったが、倒れた俺を

一瞥(いちべつ)もくれる様子もない。そういう

ヤツだったな義堂は。向かうべき敵がいれば

たとえ仲間が倒れても、前を向き続ける。


 そんな"仲間思い"なヤツだ。


「あんたには関係ない。その男と俺の話だ。

 勝手に首突っ込んでくんな」

「は"? どういうこったよ」

「お前には関係ない」


 鹿羽は吹っ飛ばされたことにも気にせず、

再び、こちらに近づいてくる。それをふさぐ

ように義堂は再び、立ち構える。


「…………」


 それに応じることなく、義堂の横を鹿羽は

歩き通ろうとする。邪魔すんなと顔と背中で

語りながら。


 コツン


「うわぁっと!」


 だが、義堂は足をすくう。小学生がやる

ような古典的な足のひっかけをしてやった。


「てっ、てめぇっ!!!」


 ブォン!!


 ガキィン!!


「!!???????? なっ!?」


 三度、鹿羽の手に剣が握られていた。それを

義堂めがけて振りぬく。実に短気な天使だ。

だが、それ以上に大人げなく短気なのは

義堂だって負けてはいない。


「んな大振りで、ぶったおせるってでも

 おもったんか?」

「バ、バーr」


 キィィィィン!!!


「なっ、おm」


 バキャッッツ!!!!!!!


「がっ!!!!????????? うっ、

 だぁああああああああああああああああああ

 ああああああああああああああああああああ

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 骨の折れる音が工場の高い天井に響いた。

うわぁ……他人事ながら、骨だけで済むと

いいのだが、これは……


 義堂の辞書に容赦なんて言葉はない。

あるのは「目には目を歯には歯を」だ。


 武器で切られたのであれば、こちらも

武器を使ってぶっとばす。それがたとえ

女子供だったとしてもだ。


 義堂はふところにしまっていたバールを

居合の要領で取り出し、鹿羽の横薙ぎを

はじき返した。そこまでは、まだ理解できる。


 そのままバールのくいっと曲がったところで

器用に鹿羽の手元から剣をすくいあげるように、

はじいて上空に上げたのだ。


 まだ、そこまでは理解できる。


 問題なのは、打ち上げられた剣に注意が

それた鹿羽に、なんの躊躇も遠慮も慈悲もなく

バールのとがった先を、あばらめがけて

振りぬいたことだ。


 一番痛々しく、一番痛烈で、一番グロテスクな

一撃を若輩少女相手にぶちかましたのだ。


 遠目、遠のく意識で見ていた俺自身も

身の毛がよだつ光景だった。


 最悪だ。俺が知る中で最悪の光景だった。


「俺ぁ関係ねぇって? ざけんじゃねぇぞ。

 俺がどん…………!!!!??」

「こんのぉ!」


 それでも戦うのか、鹿羽。


 骨は砕けたはず。それでも鹿羽は実質、

人間を超えた存在だ。多少の痛みや負傷など

別段、気に留めたところで意味がない。


 仕返しと言わんばかりに、鹿羽は俺にした

ように、猛突進からの振り上げをかました。

義堂もさすがに避けれない。ばっちりみぞおちを

突き上げてやった。


 たまらず義堂は、腹を抱える。


 つまり、片手が空いた。


 その隙を逃さない。


 狙うは、当然、顔!!


「うら"ぁっ!!!!!」

「ちっ!」


 ボグゥ!!!!!!!!!!!!!!!!

!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


「お返しだ、不良」

「…………てめえええええええ!!!!!!」

「だから、お前には関係ないって言ってるだろ。

 いちいちつっかかりやがって」

「それが、どうしたってんだぁ"!! てめぇが

 殴っていい理由になるってかぁ"!! え"ぇ」


 殴ったのは義堂からなんだけどなぁ。


「神前ぃ!! ぶち殺しちまっていいかぁ!!」

「…………」

「なんか言いやがれてめぇ!」


 無茶言うな。こっちはこっちで死にかけてるんだ。

だからって、俺の口から「殺せ」とも言えるかよ!


「…………こ、ころす…………n」

「ッシャア!!!」

「…………な」


 待て待て待て!!!! 義堂待て待て待て!!!

鹿羽の家にあったダイイングメッセージみたいな

勘違いをお前がしてどうするーー!!!!


 ……って言えない。もうどうなってもいいや。


 考えるのもだるくなってきた。


 もうなるようになってまえ。


「お"らぁ!!!!」


 義堂はバールをぶんなげる。投擲武器ではないの

だが、すさまじい回転をしながら鹿羽めがけて飛んで

行く。まぁ、バール自体も武器ではないんだけど。


「避け…………


  ………………!!???」


 ザッシュッ!!!!!!


「なっ!!!!?????」

「……あ"ぁ、なんだ!?????」


 さっきまでの戦いを見てる限り、鹿羽なら所詮

ブーメランやピストルのような、遠距離武器ではない

ただの「長細い棒」が飛んでくるだけの攻撃なら

避けれたはずだ。


 義堂自身もそれはもうさっきの攻防で、多分

察しはついているはず。だから、バールの次の二投目

としてその場にあった鉄パイプを手に握っていた。


 しかし、鹿羽は避けれなかった。


 なぜか、バールが目の前から消えたのだから。


 その現象に驚いたのは鹿羽だけではなく、投げた

義堂本人もだ。


「ぐ…………がっ…………お、お前…………!!!

 なんだ、その武器は……!! くっそ、傷の治りも

 遅い……。俺に何をしやがった!!!」

「あ"ぁ!!? そいつをぶち当てただけだろうが」

「そんなわけがない!!」

「はぁ??」


 ぶち当てただけで致命傷のはずではあるが、それは

まぁまぁ置いておいて。消えた理由と言い、傷の治癒が

遅い理由も、実のところ細工をした張本人の俺だけが

知っている。


 義堂のあのバールには"ロズ"を憑かせたままだ。


 "ロズ"


 "失う"という名を持つ俺の眷属だ。


 去年の話にもなるが、"ロズ"自身の願いでバールに

憑いたままにしたのだった。調べたいことがあるとか

言っていたがそれ以降は、義堂のことを守る役割を

担っている。


 俺自身、眷属が知り合いの近くにいるというのは

都合がよかったからそのまま、オーケーサインを

出している。


 鹿羽が飛んできたバールを見失ったのは間違いなく、

"ロズ"の見失う力によるものだ。義堂自身も知らない

のも当然。


 おまけに義堂の攻撃に合わせて、相手に霊障も

付け加えている。抜かりがない。生身の俺ですら

できなかったというのにな。


「はぁ、はぁ」

「……んで、てめぇ一体なにがしてぇんだ」


 さすがに思いがけない攻撃にへたり込む形で

ダウンした鹿羽に、拾い上げたバールでおどしを

かけた。これまた俺がさっき鹿羽に剣でされた

ような構図だ。


「……何がしたい? 決まってるだろ。そこで

 倒れてる男を殺すことだ」

「あ"? てめぇがなんで神前を殺すんだ?」

「そんなの……まさか、お前。


  あいつの正体を知らないのか」

「は? 正体?」

「………………………………!!??」


 やばい!


 そうだ。問題視すべきところはそこだった。

俺の正体を暴くだけで、俺の立場は大いに崩れる!

「悪魔」だということを鹿羽は知っている。それは、

それだけは、止めねばならない。


 あまりのピンチに活力をからからに失った体にも

力が入る。


「……鹿羽!」

「んだよ、正体って」


「あいつは……


 「悪魔」だ。それもかなり危険な。


  俺は、だからあいつを浄化する。


  お前じゃ力不足だ。あいつを殺さなきゃ

 何があるかわからない。だから俺の邪魔を

 するなと言ってるんだ! わかったか」


「……」

「……」

「……」


 ………………………………


 ………………………………


「………………………………はぁ?」


 ポカーーンとした顔を義堂は見せた。悪魔だ浄化だと

言われてもピンとは来ないよな。


「どういうこったよ」

「俺はあの悪魔を倒す力を持っている! あいつを

 殺すことが俺の……いや、俺たちのやることだ」


「だからなんで殺すんだって聞いてんだ」

「は?」


 え?


「っせぇんだよ、なんだ浄化だ倒すだってよぉ。

 てめぇは神にでもなったんかよ?」

「神……いいや、俺はてn」


 ぐいっ!


「!!??」

「んな、誰でもいい。てめぇが俺のダチをシバくに

 ふさわしいかって聞いてんだよぉ!!!」


 義堂は脅して構えていたバールを落として、屈強な

両手で小さな鹿羽の体を胸倉ごと持ち上げる。

まくしたてる義堂に割り入るように鹿羽は声を出す。


「わかってるのか!! あいつは「悪魔」でお前らが

 思うニンゲンじゃないんだぞ」


「んなこと知ってる」

「え!!!??」

「え!!!!!!!!!??????」


 鹿羽が驚く。それ以上に俺が驚く。


「神前が、フツーのヤツじゃねぇってんは知ってんぜ。

 前な、こん場所で別ん学校とぶつかったときに、

 アイツと一緒に、一方的にぶちのめしてやった。

 そん時の神前てめぇは、もうニンゲンなんてもん

 じゃないナニカになっていやがった。


  それこそてめぇが言った「悪魔」だ。


  それがどうしたってんだ。


  ……アイツは俺を救った。それだけで俺にとっちゃ

 すべてだ。


  悪魔だろうが! 神だろうが!


  神前は「神前」に決まってんだろうが!


  てめぇがなんかうらんでやがっても、俺が大事な

 ダチを捨てるクソ野郎に落ちぶれてたまるかってんだ。

 俺がてめぇをぶん殴ったのは、そいつが理由だ。

 「俺のダチ」がぶん殴られたからぶん殴った。

 そんだけだ。


  「悪魔」だとか「悪人」だとかだけで、殺すか

 どうかを決めんじゃねぇ!!!!」

「ぐっ……はなせっ!!!」

「……ぎ……義堂……」


 義堂は手を放す。すかさず、鹿羽は義堂から離れて

喉を抑えて大きく気管を確保するように咳をした。


「ゲホッゲホッ」

「そういや、聞いてなかったな。


  てめぇ、いったい何が目的だ」

「…………は? そりゃさっき…………」


「てめぇじゃねぇよ。


  俺があんとき話した、声のほっせぇほうの

 女に聞いてんだ。やっと聞けるぜ、てめぇの

 目的をよぉ」


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