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ダメな巫女娘に悪魔の加護を。  作者: 琴吹 風遠
Made in Utopia
193/446

192.死にかけよう

浄化之光(プリフィケーション)!!!!!」


 カッ!!!!


 指先が光りだした。"ヤミー"の闇をかき消すような

あまりにも目に悪いまぶしい光り方だ。その光を

例えるなら……光線、ビーム。


(アニキ! まずいっす! あの光、俺ら悪魔を

 打ち抜くやばいヤツっす。どうやばいっつーと

 めちゃくちゃやばいっす!)

「アイツ、まだそんな技持ってたのかよ」

(どうします! 今ならまだ俺らのこと気が

 つかれてないんで、戦えまっせ!)


 語彙力なさすぎだろ"ヤミー"お前。なんだ

「やばい」ぐらい「やばい」って。


「そこ!!!!!」

(「!?」)


 ドン! キィィィィンン!!!


(だあああっ!)

「"ヤミー"!!!!」


 ビームが闇の奥から俺たちめがけて飛んできた。

光と俺たちの会話を頼りにムリヤリ闇の中から

場所を特定して撃ってきやがった。


 その光は俺の心臓あたりに飛んできていた。

それに対して"ヤミー"がかばったのだ。やはり

今この空間を支配している悪魔である"ヤミー"

だからこそ、危険を察知して動いてくれたのか。


 体に穴は開いていない様子だが痛そうだ。

"ヤミー"の体を覆うモヤから弾痕らしきものは

かすかに見える。


(あ、アニキ、俺は大丈夫っす。けど闇が……)

「……あ」

「見つけたぞクソ悪魔」

「……」


 "ヤミー"が戦闘不能になったとなれば俺らを

隠していた暗闇も消える。いつの間にか鹿羽の

手には再び剣が握られている。力が復活して、

また武器を作れるようになったのか。


「はあああっ!」


 ザッシュッ


「…………!!? ガハッ!!!!!!」

(ア、アニキーーー!)

(マスター!)


 俺は鹿羽の攻撃を避けなかった。避けれなかった

のではない。わざと避けなかった。先ほどのように

かわすことはいくらでもできたが、今俺が避けたら

この足元で体を撃ち抜かれて倒れている"ヤミー"が

死んでしまう。


 だから俺は、かばってもらった分、避けずに

体で鹿羽の突進突きをくらったのだ。


「グッ…………」

「終わりだ、半端野郎」


 あーぁ、だからこれはやりたくなかったんだ。

"具現召喚"は自分の弱い部分を外に出すのと同じだ。

俺に"死にそうだから切り捨てる"なんてことは

できないのだから。自分に憑依させたりしない

限りは戦いの場で、仲間を危険な目に合わせて、

俺もまた窮地に立たされるなんてくだらない

自滅はやりたくなかった。


 だが、"ヤミー"。


 ちゃんと仕事は果たしたぞ。


「…………!!?」

(え?)


 目の前の光景に驚いたのは、鹿羽だけではない。

体を撃ち抜かれて倒れた"ヤミー"と、遠目で見守る

"ヴィーハ"も驚いている。


「…………いつの間に、いない?」


 さっきまで心臓を刺し苦しんでいたはずの俺が

いない。消えたわけでも、逃げたわけでもない。

そこにあるのは、そこで何もなかったように、

むなしく刺したはずの剣だけが残っていた。


 血もついていない。空を切ったかのように。


 鹿羽は慌てる。空を切って前に構えただけの

剣、ようは無防備に前掛かりな状態だ。特に

これで決めると意気込んで突き刺した剣が、

不発に終わったのだから、出し切ったあとの

実に不意を突かれた状態だ。


 目の前に処すべき敵がいないことに驚いたのは

一瞬。すぐに臨戦態勢を整える。


 それでも、油断したならばもう遅い。


「後ろだと!?」

「いや横だ!!」

「なに……!!? ぐあっ!!!!!!!!」


 鹿羽が右を振り向く。


 が、残念、俺は左だ。


 いや、もしかしたら前だったかもしれない。


「やっと捕まえたぞ、鹿羽」

「てめぇっ! なっ、何をしてやがる!!!」

「お前の体に、ちょっと細工をしてるだけだ。

 天使、お前にはそこから出て行ってもらうぞ」

「な、なに? ぐ、だぁあああああ!!!!!」


 "フォビー"を憑かせている右手をがっちりと

鹿羽の首の根元から捕まえ上げて、そのまま

地面にたたきつける。


 首の太さといい、床への倒れ方といい、先の

暴力的な動きから考えられないほど、弱弱しい。

お姫様抱っこをしたときも思っていたが、

あまりに体重が軽い。


 弱すぎて逆に申し訳ない気持ちにもなる。

だが、仕事は仕事だ。"フォビー"、あとは

頼んだぞ。


 前に"ムム"と"ビビ"から魔力を奪い取る

要領と同じだ。奪い取るのではなく、今度は

魔力を送り込むように。"フォビー"を首から

先まで鹿羽の体に浸透させるように。


「クソお前、さっきぶっさしただろ……」


「いいや、さされてないぜ俺は。もしかしたら

 殺されたのかもしれないが、"どちらでもない"

 というのが正しい。鹿羽、さっき確かにお前が

 振り向いた方向に俺はいたのかもしれないが、

 そこに俺は存在していなかった」

「はぁ?」


「いいや、よく理屈をよくわかっていないのは俺も

 同じだ。理屈で語るような"悪魔"でもないからな

 こいつは。呼ぶつもりはなかったんだがね」

(まったくですよ、急に呼ばれたらどうにも

 めんどうごとになってんですからねぇ)

「悪いな


  "ヴァンダー"」

(いえいえ)


 スルリと"ヴァンダー"が俺の体から声を出す。


 "ヴァンダー"


 前も説明したが、改めて。


 英語では「wonder」。「徘徊」の悪魔。

うろついてどこにでもいるように、何処にも

いるし、何処にもいない。俺自身、見張り役に

使っていたりと、わざわざ戦わせるような

悪魔ではない。


 だが、物は扱いようだ。俺に憑依させて

俺自身を不確定な存在にしたのだ。だから、

俺だと思って鹿羽が切りつけた「俺」は、

もう「俺」ではなかった。だから、ふと

切られた俺はいなくなったのだ。


 だって、そんな存在はなかったのだから。


 物は言いようだ。チートも甚だしい。

生きた本物の"デコイ"を殴らせているもの

なのだから、手ごたえもあれば実際に

殺したと思ってもくれるだろう。


(んで、こりゃあずいぶんとやられましたねぇ)


 "ヴァンダー"は満身創痍な"ヤミー"と

切り傷だらけの俺の体をみてそう言った。


(さすがっす"ヴァンダー"のアニキ!)

(久しくじゃないか"ヤミー"。そのアニキ

 なんて呼び方は慣れないねぇ)

(いやいや!僕からしたらみんなアニキっす

 からね!)

(ほぅ、じゃあ"ヴィーハ"さんは?)


(アニキっす!!!!)

(私もアニキなの!!?)


 身の心配をして駆けつけてきた"ヴィーハ"が

まさか、俺の心配よりも悪魔同士の井戸端会議に

先に参加されるとは。いいけどさぁ、さっきまで

バチバチ戦っていたのに、ノンキだろ。


 せっかくの盛り上がりどころに欠けるだろ。


(それで、このお嬢さんは?)

「あぁ、今やっと終わったところだ」


 そうだ。"ヴィーハ""ヤミー"、"ヴァンダー"の

他にも、現在進行でお仕事中の悪魔がいるんだ。

"フォビー"が鹿羽の体の中で頑張ってくれて

いるのだろう。俺の腕からいなくなっているし、

ちゃんと取り憑いてくれたらしいな。


 目の前では、鹿羽が苦しそうに倒れている。

俺はまだ、首を捕まえたままだ。だが、一度

憑いてしまえばわざわざ俺が苦しめさせる

ように首を絞める必要なないのか。


 俺は申し訳なさそうに手を放す。だが、

鹿羽は立ち上がる様子はない。さすがに

体に答えているようだ。


(にしても、まさかマスターが"ヴァンダー"を

 使うなんてね。私、初めて見たかも)

(いいや、確か前に一度憑いた記憶がありますな。

 あれは何の時でしたか……)

「え、そんなことあったか?」

(記憶違いでしたか。まぁ約束ですからねぇ。


  自分の命が危険な時にだけ憑かせる、って。


  よほどのことですよ、これは)

「今回ばかりは仕方ない。悪いな」

(いやいや、使うだけならいいんですよ)


 別に何か"ヴァンダー"を使うとペナルティが

あるとかそういうわけではない。また当分、

使えなくなるだけで。


「"ヴァンダー"、次はいつ使えそうだ」

(どうでしょうな。15年は無理でしょうな)

「そうだよな」


 ほとんど一度きりの技なのだ。ほんとうに命が

尽きるかもしれないという場面でしか使えない

のもこのクールダウンの長さでわかるだろう。


 逆に言えば、ここから十年半はもう死ねない。


 危ない橋はわたるわけにはいかない。


(それで、そこのお嬢様はどうするんだい)

「"フォビー"がとり憑いている天使を引っ張り

 出してくれればあとは本人次第だな」


 できれば前にも打診したように部活にでも

入ってくれればうれしいんだが、少なからず、

鹿羽相手に攻撃的な態度をとってしまったから

イメージダウンが原因で頓挫してしまうに違い

ないだろう。俺だってそうする。


 仮に悪さをしたのが自分じゃなくてもだ。


 目の前で苦しそうにもだえ倒れている様子を

眺めていることしかできないなんて、なんとも

男らしくない。もっとも、刃を向けてこない

清純な性格ならば俺もそうしたのだろうが。


(…………)

「? どうした"ヴァンダー"」

("フォビー"もいるんですか)

「あぁ、今そこで頑張っているよ。すぐには

 戻っては来ないだろうが……」


(…………)

「え?」


 ……


 ……あれ、そういえば。


 悪魔たちのその反応で思い出した。俺の体の

システムからしてみれば、一見不思議な状態に

なっていることに。


 半年前


 俺がまだ1年で帰宅部どころか「異能部」の

名すらなかったときに、一度クラスメイト相手に

"メアー"という悪夢を見させる悪魔を憑かせた

ことがあっただろう。そのときに体に取りついた

悪魔と会話をするために、憑かせた人物の体に

触れていた。


 俺は触れている相手の悪魔と会話をすることが

できる。


 だから、鹿羽に憑かせたであろう"フォビー"と

話すこともできたはず。なのにさっきまで首に

触れていたというのに反応がなかったんだ。


 対象がどんな状態でも反応ぐらいは……


 ……


「…………!!!!!!???」


 振り向いた時にはもう事を察した。


「はぁーーーーーーーーっ」

「し、鹿羽」


 顔は倒した時の苦しみの表情のまま。その眉間に

しわを寄せた鬼神の形相のまま、立ち上がり

こちらを見ていた。


「くっ」


 慌てて臨戦態勢に入る。"ヴァンダー"は使った。

"ヤミー"は戦闘不能。"ヴィーハ"はもしものための

保険。今、この場で鹿羽と相対するのは俺しか

いない。とっさに引きぎみに、距離をとった。


「はっ?」


 鹿羽がいない。また素早く刺される前に!

今度は"ヴァンダー"を使ったエスケープは……


(後ろ!)

「うしr」


 ダメだ。気配はするが首が曲がらない。


 首を曲げるよりも先に静かな金属の音を

聞いてしまった。世界がスローになるのを

感じる。ただ後ろで、あのとき鹿羽が握った

十字架のネックレスを右手から下げて、構える。


さっきと同じように、構える。


俺を撃ち抜くように、構える。


 チャリン


 チャリン


 チャリッ


「"死せよ、不浄"」


 カッ


 ーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!


「い"っ…………………………………………

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

(マ、マスターァ!!!!)


 背中から出した光のビームが右胸を通って、

前に飛んでいくのが見える。そうか、そうか、

俺の体を貫いたのか、そうかそれだけか。


 さっき撃ったのはまだ本気じゃなかったのか。

鹿羽の手を見れば、指先から発射していない。

手に十字架をかざして、手のひらから太い

光線を放ったようだった。


光線ではないな。まるでスポットライトだ。


「?」


 あー息ができない。胸を貫かれたのだから

当たり前だ。だが薄れゆく意識の中で、穴の

空いた体に触れてみると、しっかりと体が

何事もなくあった。胸もあるし、肺もある。


 だが、息ができない。不思議な感覚だった。


 かろうじて、心臓を避けて貫いたおかげで

一命はとりとめたが、


「心臓を外したと思っているだろう半端野郎。


 ちがう、わざと外したんだ」


 は、外した? それもわざと。


「ぐっ………………………………」

「確か、こうか」


 鹿羽は十字架をポケットにしまい、右手を

俺に向ける。そして、倒れ込んだ俺の首を

つかむ。


 最初、とどめを刺すため絞めるのかと思ったが、

そうではない。そのつかみ方は、さっき俺が

鹿羽にやったときと同じだった。


「ふっ」


 鹿羽が力を入れると俺の体に魔力が流れ込む。

これは倒れた俺に対する「慈悲」ではない。


 ただの「返品」だ。


「………………………………ふぉ"フォビー"」

(くっ、すまないマスター。まさか、この女

 ここまでやるとは)


「なめるなよ半端野郎。俺は「血」でつながった

 守護霊だ。そんなつぎはぎだらけのカスに、

 楽にはぎとれるほどのザコだと思ったか」


 俺を生かしたのは"フォビー"を返すためか。

宿主がいなくなれば"フォビー"はきっと体内で

魔力を求めて暴れるのだろう。そんなことは

されたくないってか。


 あたまいいなぁ、あんた。


(マスt)


 ざしゅっ


(うっ!!)

「………………"ヴィーハ"…………」

「触れさせないぞ女。そこでマスターとやらが

 死ぬところを見てろ」


 願い通り、俺をどうにかして運び逃げるように

動いてくれたが、鹿羽はそれすらも許さない。

近づいた"ヴィーハ"めがけて生み出した剣を

足の甲に突き刺す。


 すぐに刺さった剣は消えたが"ヴィーハ"は立てない。

そこでひざまづくことしかできない。


 今は殺さない。


 いずれお前も死ぬのだから。と言われたように。


(…………や、やめ…………)

「?」

(………………………………やめ、て)

「……」

「"ヴィー、ハ"」


 膝をついて"ヴィーハ"が泣いている。ははっ、

こっちも泣きたいよ。だがもう俺には泣くほど力が

ないんだよ、もう。


「半端野郎、最後に言いたいことはあるか」

「……ミ」

「み?」

「………………ミ。コ」


「巫女。そうかそれがお前の遺言か。


 …………


  何か弁解でもあれば考えたが、確かお前の部活、

 「異能部」の部長だったか……ギッ………………

 お前と俺はどっちもただの人間じゃない。俺と

 お前はどっちが正しいかなんてどうでもいいが、

 俺はお前が憎い。どんなに、お前らが助けるだとか

 学校で楽しいことをしようとか言おうが、

 俺はお前が憎い。


  …………お前が憎いよ。


  だからお前は死ななくてはならないんだ。


 終わりだ。"鎖之解放(ディスコントラクト)"」


 鹿羽は再び、剣を手に携える。今度は両手で力を

込めるように心臓に構えた。


 ………………………………そうだ。


 ………………………………そうだったのか。


 俺は朦朧とした頭でずっと考えていたひとつの

答えを出せた。


 なんでこの天使は俺をここまで憎むのだろう、と。


 理由はもっと簡単だった。俺と鹿羽は同じだから。

ヒトと悪魔、ヒトと天使。ヒトとヒトならざる者で

作られた存在で、ずっと一人でずっとずっと孤独で、

いつまでも続く悪夢のような日々を過ごしていた、

同じな二人のはずなのだ。


 なのに、俺はミコや「異能部」や生徒会。周りを

見ればたくさんの仲間がいる。悪魔である俺には

"なぜか"仲間がいる。


 今まで"何も"、"何もかも"がなかった鹿羽は

それが許せないんだ。


 ………………………………俺だって


「てめぇは何をしてるんだ」

「!?」


 …………? 誰だ。誰かが……………………


「てめぇ、うちのもんに何しようってんだ」

「お、お前は」


 …………………ぎ、義堂?


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