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ダメな巫女娘に悪魔の加護を。  作者: 琴吹 風遠
Made in Utopia
192/446

191.触れよう

「"憑依召喚・フォビー"」


(俺を呼ぶとは珍しいな)

「たぶん、お前しか打破できる悪魔はいない。

 だから頼むぞ」

(うす)


 "フォビー(英:phobia)"


 意味は「恐怖症」。この単語だけで使われる

ことは少なく何かしら手前に何の恐怖症なのかを

明記されて単語化されていることのほうが多い。

例えば「高所恐怖症」なら「acro phobia」

(大まかにアクロバットなことの恐怖症)みたいに

扱われる。


 恐怖とは悪魔そのものを助長させる存在だ。

そして、相手は神聖そのもの。パワーにはパワーを

ぶつけるなんて安直な考えでもある。が、ちゃんと

れっきとした理由がある。本来、守護霊を取り払う

なんて自分の身を危険にさらすような真似はしない。

それをやってのけるためには、もっと根源的な

意識の変化が必要だ。


 ……うーん、ちょっと難しい言い方になったか。


 わかりやすく言えば、体に取りついた悪魔を

取り払うには、おはらいをして自分の身を守るために

祈ったりして、保護されている状態にするだろう?

だから体にいる悪魔は守護霊と取り換えられると

言い換えてもいい。


 それと根本的な考え方は同じだ。体にいる

天使を悪魔と取り換える。そのときに必要なのは

簡単に悪魔に取りつけるような簡易な存在。


 だから"フォビー"を選んだ。


 単純な恐怖は簡単に人の体に入り込む。とは

言っても俺の眷属だからその恐怖で何ができるか

と言われても特にできることもやることもない。

というのもあって人に憑依が簡単で便利な悪魔

ではあるがあまり"フォビー"を使ったことはない。


 だが、今回はうってつけだ。憑くだけだから。


 俺の腕に憑かせた"フォビー"で直接、鹿羽を

触る。それだけだ。それだけで俺の仕事は終わる。

あとは体に憑いていられなくなった天使が外に

出るのを待つだけ。


 霊体で触れる。まさに霊障そのものだ。


 残念ながら"リア"の刀が曲がってしまって、

剣と刀のスーパー異次元バトルとはいかなく、

素手での対決になるのが、懸念点ではある。


(無茶はするなよマスター)

「わかってるよ。というか"フォビー"ってそんな

 クールっ系のキャラだったのか」

(恐怖っていうのはこういうものだろ)

「……そうなのか?」


 そうなら別にいいけれど。


「ドラァ!!!!!!」


 シュッ


 あらよっと、アブナイ!


 鹿羽の攻撃は止まらない。俺が眷属と談笑を

していても剣舞が俺の体を削らんとしている。

まぁ、テレパシー的なヤツではなしているから

鹿羽に、この会話は聞こえていないんだがな。


 「あらよっと」とのんきに言っているが、

ぶっちゃけそんな状況ではない。なんなら

眷属と話す暇もない。パワー任せの美しいとは

形容しがたい剣舞が俺を殺そうと飛び交うのだ。


「ア”アッ!!」

「うおっ!」

「この野郎、ちょこまかと……」


 触れるだけなのに、あまりにハードモードだ。

身を削って触れに行ってもいいが、俺の命が

危うい。それにさっきから剣でしか攻撃を

してこないのだから、リーチで差があるのだ。


 Gルートでもここまで難しくない。


 おかしい、健全にピースフルな選択をして

来たはずなのだが……。


 だが、向こうも疲れが見えている。いずれは

チャンスはある。そこはGルートと同じ結末を

迎えそうではあるな。


 ……あっ、これはネタバレになるのか?


 まぁ、なんのゲームの話なのかはしてないし

大丈夫でしょ。忘れて忘れて。


「つべこべ言ってんじゃねぇ!」

「えっ」


 ザザザザザザザザザザザザザ!!!!!!!!!


「ちょちょちょちょちょ!!!」

「ウ”ラララララ!!!!!!!!!!!」


 攻撃のパターンが変わった。早い!!


 ひとつひとつにパワーをかけるのはしんどい。

ならば、細かく攻撃を繰り返せばよい。そんな

バカも等しい、発想の攻撃にも見えるが、避ける

身としてはこっちのほうがつらい。大ダメージを

受けるよりも小さいダメージが積み重なるほうが

シンプルにキツイ。


 ……いや、ならば。


「シャア!!」

「!!!!!!???」


 ザクッッッ!!!!!!


「ギッ!! 痛っ!!!!!!!」

「ッシャア!!!!!!!!!!」


 ふとした考え事はよくない。


 単調に避け続けていた攻撃に少しばかりの

工夫があっても、すぐに反応ができなくなる

からだ。剣での攻撃と言いつつも突進の勢いを

かけ合わせた、いわばフェンシングのように

突きを主体にした攻撃。それが突如として、

横薙ぎのレパートリーに変わったのだ。


 それにすぐに俺は反応できなかった。


 上半身と下半身ですっぱり分けようとした

剣先をムリヤリ自分の腕で止めた。もっと頭が

回れば、後ろに下がるなんてこともできたが、

そんな暇もなかった。


 人間の体というのは意外と頑丈にできている。

特に、重いものを運んだり、受け身をとったりと

なんだかんだ、酷使している「腕」という器官は

並大抵のことでは砕けない。


 問題なのは、これがただの「剣」ではないことだ。


「ぐあああああああああっ」


 溶ける! 溶ける溶ける溶ける!!!!

 腕が溶け落ちそうだ!!!!!!!!!!!!


 剣先が食い込んだ腕の傷の内側から焼かれるような

今までに味わったことのない異常な激痛が神経を伝う。


「このっ! 早く切れろ!!!!!」

「ギギギギギ…………ヴィ…………


  "ヴィーハ"、"リア"!!!!!!!!!!!!」

((はい!!!))

「!?」


 ガキィィィィィィィンンンンン!!!!


「なっ…………


  ピストル!!?」


「はぁっ…………はぁっ…………はぁーーーっ……。

 悪いな"リア"、また働かせちまって」

(いえ、でもこれで私も限界です)

(リア姉、あとは任せて)

(わかってるわよ)


 切られることは予想していた。腕が頑丈だからこそ

骨一本で耐えたとはいえ、さっきまでの力任せの

攻撃のままだと、多分腕はおろか体ごと丸ごと

スッパリだっただろう。


 だからこそ、パワーよりもスピードに力量を

注いできたのは逆にチャンスだった。


 小さくも俺にダメージは入るが、鹿羽あんたにも

ちょっとした代償を払ってもらうぞ。


「グッ」

「やっと止まったか」


 "リア"には申し訳ないがもうひと踏ん張りして

もらった。これ以上の登用はさせられないにしろ、

十分な仕事をしてくれた。あとは休んで曲がった

体を治してくれ。


 刀身ではなく、今は銃身だがな。"リア"は

刀にピストルとなんにでもなれて助かる。


 それにさっきは失敗した"ヴィーハ"も見事に

相手の背後に回り込んで、不意を打ってくれた。

これで、本人としてもミスの汚名を返上できて

本望だろう。


 鹿羽は剣でしか攻撃してこなかった。空いた

左手でぶん殴ることもしていない様子からも、

剣さえ封じればスキが生まれると思っていた。


 そこで力が弱まったタイミングで"あえて"

攻撃を受けたのだ。これで刺さった剣は一瞬

使えない。あとは、裏で耳打っていた二人に

不意打ちをさせればよい。


「チッ、剣が!」


 切られた腕は左手だ。利き手じゃないほうで

よかったと思うと同時に、"フォビー"を憑かせた

右手じゃなくてよかった。これで"フォビー"が

切られてやられていたらやばかった。


 にしても、うちの眷属たちはとても利口だ。

しっかりと俺の忠告に従ってくれている。


 出した眷属たち全員に俺はこう伝えている。

"鹿羽は何があっても殺してはならない"と。


 どんなに敵対すべき相手である天使がいたと

しても、殺すような真似はするな。俺たちが

今から相手する敵はあくまで「人間」なのだから。


 背後をとった"ヴィーハ"はそのまま"リア"の

銃口を心臓めがけて撃ち込んでもよかった。

むしろ、そうしたほうが自然だろう。


 器用に鹿羽の手元の剣だけを狙って撃ったのだ。

これで、鹿羽の手から剣をはじき出すことができた。

それも、宿主でマスターある俺が殺そうとしている

相手への恨み怨みをかみ殺して急所を外して

撃ったのだ。


 欲望の塊のようなニンゲンにはできない芸当だ。


 刺さったままの腕の剣はいつの間にかない。

光のような塵になって消えたようにも見える。

持ち主の手から離れたら、消滅するシステムなのか。


「…………いいぜ、やってやるよ……」


 鹿羽は両手を合わせてバキバキと骨を鳴らす。


 目が座ってる。かんっぜんにヤル気だ。


 鹿羽は首から下げていたネックレスを力づくで

引きちぎった。ネックレスなんて洒落たものを

付けていたようだが、どうやらオシャレコーデの

ためのものではなさそうだ。


 隠すように服の中にしまっていた、ネックレスの

飾り部分を手に握り込む。


 その形は見覚えのある「十」の文字のマーク。


 そうだった、鹿羽はキリストの派生宗教の生まれ

だったな。お守りとしてそれを身に着けていたのか。


 あるいは、今回の用途みたいな「護身用」か……。


「……今から話し合うっていうのは?」

「いいや、そんなのいらないね」


 ドン!!!!!


 !!!!!!!???


 鈍ッ!!!!!


 そうだった。剣はなくなっても翼はある。さっき

までの機敏さは一切失っていない。むしろ、余計な

道具がないおかげもあるのか、さっきよりもキレが

ある。


 それでも疲れはある。俺も疲れているけどな。


「お前、よくその華奢な体でそこまで動けるな!」

「あんたも同じだろ!!」


 話し合いの承諾願いむなしく蹴られた瞬間に、

俺に吹っ飛んできた。そしてさっきと同じように、

突進のようなパワーに合わせた、重たい一撃を

俺の胸当たりにぶつけた。


 俺はさっきから防戦一方だ。触るだけの攻撃すら

通せるようには思えない。だが、防御の腕は俺の

ほうが上のようだった。


 貫通された痛みはあるが、最低限度のダメージで

抑えるように立ち振る舞えている。


 これ以上のダメージは俺が死ぬ、というよりも

魔力の供給先である眷属たちにも影響が出かねない。

特にメインで働いてほしい"フォビー"が機能しない

までに疲弊すると本末転倒だ。


 それでも……


「ここだ!」

「遅い!」


 パシィ。


 え!? 腕をつかまれるだと!?


「オラッ!」


 ボグウ!!!!


「ぐえっ」


 ???????


 マジか。ここからカウンターをかますのか。


 精一杯に突き出したパンチを、上から掴み、

身動きがとれなくなったところを、適切に

裏拳を顔面にぶち込まれた。瞬時の出来事に

頭が働かない。それくらい相手の手数が

多すぎる。


 それでも多少のダメージ覚悟で殴ろうかと

思っても、もうそのときには、鹿羽は危険を

察知してバックに飛び去っていやがる。


 そして、後ろへのステップのリズムを崩さず

また攻撃に移行してくる。マジでスキがない。


 ならあまりやりたくなかったが……


 ふところから、再びミコンを取り出す。また

拳銃を取り出したのかと思ったのか、驚いた顔で

鹿羽は飛んで後ずさり、壁の上に立つ。


 「壁の上に立つ」は決して比喩ではない。忍者の

ように足裏を廃工場の壁に貼り付けて、こちらの

様子を見ているのだ。


「****************************!!!!」


「"具現召喚・ヤミー"!!」

(任せろい、アニキ!)


 ミコンから急遽呼び出した悪魔"ヤミー"は息を

吸い込んで、腹を膨らませる。そして、黙って

数秒後、ぶわぁああっと息を思い切り吐き出した。


 その息吹は真っ黒で、真っ暗。


「クッ! なんだあれ? 煙幕か?」


 "ヤミー(日:闇)"


 今までインテリぶって英語とかドイツ語から

名前を引用していた俺としては珍しい、日本語の

まま命名した悪魔だ。確かその理由は、闇を

英語にするとどうしても幻のポ〇モンの名前と

若干かぶってしまう。特に、役柄もほとんど同じ

なのだから余計に。だからあえて日本語のまま

名付けた……のだったか? 覚えてないや。


 あたりを暗くする悪魔、言ってしまえばただ

それだけだ。見た目も、胴体と顔らしき部分が

ほんのりとわかる程度で、黒い影が視認できる

ような、うごめく浮遊物体といった表現が

相応しい。


「……これで、隠れたつもりかクソ悪魔」


 鹿羽は壁をダンと蹴り飛ばして、飛び立つ。

廃工場の天井は高く、"ヤミー"の闇に飲まれない

高さで翼を羽ばたかせてホバリングをする。


「フンっ! 消えろっ!」


 ぶわっ!


 左の翼をビンタの要領で払う。そこから一陣の

風が、小さな竜巻のように闇の中に飛んできた。


 が、効果はない。


「これは、ただの煙幕じゃないな」

「あぁ、ただ"暗い"だけだからな」


 ビシュッ!


「!?」


 翼に何か突き刺さった。これは……小石?

あの闇の中から空中に浮いている鹿羽を狙うのは、

夜目が効く悪魔からしてみれば、昼のダックハント

よりも簡単だ。


「このやろっ!」

「もう一発!」


 ドゴン!


「痛っ!」


 翼を集中的に狙う。地上戦では一瞬しか出して

こなかった翼というエンジンを空中戦にさせる

ように仕向けることで、むき出しにしてやった。


 さすがにたまらず、鹿羽は墜落した。そして、

闇の中に落ちていった。


 鹿羽の体制は、墜落しても崩れていない。

本当に油断も隙もない、完璧な「構え」だ。


「クソッ、出てこい!」

「………………」

「…………どこだ……」


 前だ。


「!? オラっ! いや、いない!」


 いや、後ろだ。


「でりゃああっ………… くっそ、またかよ」

「…………」

「このやろう……なんか言ったらどうなんだ」


 さっきまでの防戦一方から立場を変えたのだ。

このまま相手の思い通りになってたまるか。


「……なめやがって。いいぜ、いい気になってやがれ。

 お前に天使の力を見せてやる」

「???」


 暗闇の中で鹿羽は十字を握った右手を真横に、

左手の人差し指を、上に指して両腕で十字を

作る。ウルトラマンのスペシウム光線のような

構えだ。


「"汝、我が天啓によって滅せよ。"


 "汝、万物は貴様の銘を裁く。"


 "汝、地平の先を望む覚悟を抱け。"」


 上に指していた人差し指を地面に向ける。

一体、何をする気なんだ…………。


「"神は貴様の存在の一切を許容しない。"


 "死せよ、不浄。"


 "穿て!! 浄化之光(プリフィケーション)!!"」


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