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ダメな巫女娘に悪魔の加護を。  作者: 琴吹 風遠
Made in Utopia
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189.復帰しよう

 まったく何と言っていいか。ずいぶんと

俺たちは時間をかけすぎてしまったようだ。

あの今となっては気味が悪かった鹿羽の家の

訪問から実に2週間がたった。いいや、たって

しまったと言っていいものか。


 マヤに無理を言ってさらに追加で休みを

とったことについては改めて生徒会室に赴いて

でも謝らなければならない。


 もっとも、学校にでも通いながらでも職務を

全うしてもよかったのだが、もういっそのこと

不登校児と同じ気持ちになってしまおうと

決め込んでの行動だ。だからといって丸ごと

毎日毎日町中を探し回り、勉学をおろそかに

するのは生徒会からの"職務"ではなく学生

としての"職務"を放棄してしまうことになる。


 だからミコと俺とで交代交代で休んだり

休まなかったりして、鹿羽を探すことにした。


 どうせ1日程度で見つかるだろうと(たか)

くくっていたが思ったよりも彼女、小賢しい。

どうせここは小さい町で、俺からしてみれば

町中の事情なら古参も甚だしい。かくれんぼ

なら負けないし、小学生時代からその不敗の

異名は変えられたつもりはない。


 が、鳥瞰でもあるのかと思うほどに残滓すら

一生見つけることができなかったのだ。


 そりゃあそうだ。


 相手は本当に鳥瞰とは言わずとも「鳥」の

ように空を飛んで俺たちよりも先に俺たちを

見つけることができるのだから。鬼のほうから

見つかってしまっては、かくれんぼのルールも

立場関係も意味がない。


 そこで、最終手段として探すのではなく

待つことにしたのだ。こちらから行動を起こす

わけではないため、見つけられるのはいつに

なるのかと不安の中の選択だ。


 この決定をした瞬間に、俺の頭はマヤに

頭が上がらなくなることが懸念点だった。


 結果としては無事見つけることができたから

まぁまぁよしとしていいのだが、実に10日ほど

引き伸ばしが発生したことだけはよくはない。


 どこか隠れる場所をあぶりだしてそこで

張るという、古典的な張り込みスタイルを

するしかなかったし、想像以上にこれがまた

だるかった。


 最初、俺がこの作戦を立ち上げた。

当然ながら俺が悪魔であり、眷属たちを使って

みたらいいだろうと、のうのうな考えからの

作戦だ。


 今更ながら相手が「天使」なら目立つ天敵を

横立ちさせるわけがないというのに。


 ミコが「いいの?」と聞いて、

「大丈夫大丈夫」とフランクに答えた。


 そう言っちゃったからなぁ。ミコにも

その役をさせるのも忍びなく、ほとんどのその

役回りを俺が務めることになってしまった。


 いいんだよ。俺も悪魔なんだ。かろうじて

前例だと俺単体では、悪魔認定されにくいらしく、

「不眠不休の夜の眷属」である俺だったから

どうにでもなる。ただただ、だるいだけで。


「…………話が長いんだけど」

「マヤ、もうちょっと待て」


 まだ鹿羽を見つけたパートまで話してない

だろ。ちょっと待てマヤ、もう少しでセリフ

パート入るから。前回は鹿羽サイドの会話

メインだったから解説的なポジションが

いないから、ここに詰め込むしかないんだよ。


 話を戻すか。


 そしてちょうどおとといの夜にその張り込み

かなって、鹿羽を見つけることができたのだ。

張り込みの場所は唯一、俺が隠れ場所として

教えたことで候補にあった、廃工場の一棟だ。


 というか、そこ意外は張りこめない。


 「異能部」として顔が知られた今、うろうろ

町のいたる場所で捜査活動をするのはメンツに

関わる。やはりその点でも人気のないあの場所

しか候補がなかった。


 そのときの監視役は俺だった。だから早急に

神社でノンキにしていたミコを呼び出し、鹿羽との

会話に踏み込んだのだった。いやはや、呼んだ

俺としてもあれほど工場に駆け付けるのが早い

とは思わなんだ。神社のある山を下って、さらに

町の全体を横切る程度に抜けないといけないはずが

気が付けば、呼んでものの10分程度で来るとは。

高校生の自転車が持つ自由自在なユーティリティは

一体なんなんだろうな。それでいてミコは、

AKI〇Aのバイクのように俺の目の前でスマートに

止めてきた。かっけぇ。


「ちなみにAKI〇Aに出てくるバイクだけど、

 あのバイクは金田のだかr」

「それ知ってるから。いいから早くー!」


 いやだってね、よく間違う人いるじゃん。

最後の最後までアキ〇出ないんだからそりゃ

主人公の名前だって思うし、あれ自体もう

かれこれ何年前のマンガと映画だよ。若者

どころか俺と同年代(30あたり)ですらもう

あやしいラインなんだから、元ネタ知らない

って言われて、それをガミガミ元ネタはあーだ

こーだ言いたくないんだもん。


 え、もうぐだぐだ言ってる? 失礼失礼。


 確かにこの話に2000字使って本編にすら入って

いないんだから早く話をしなければならない。


 そのあとといっても、だいたいの話はすでに

前の話「たそがれよう」を読んでくれれば

おおむねわかってくれるはずだ。と言いつつも

実を言うと俺は、いったいあの場で何があって

どういう経緯をたどったのかはミコからは

聞かされていない。


「あれ? 何するかは打合せしてないの?」

「いや全然」

「てことは見つけても特に何言うかなんて

 決めてなかったってこと?」

「その通り」

「よく、それで先陣切れたわね。じゃあ余計

 なんでミコちゃんに頼んだのさ」

「俺だと警戒されるんだよ」


「え、なんで?」

「何がなんでも」


「……まぁ、別に聞くほど大事なものでもない

 からあんまり問いたださないけれど」

「問いただしても、何も言えないからな。

 大方、俺が原因で不登校になったのだから

 被告人が何を発言しても聞く耳がないって

 ぐらいの解釈でいいよ。


  それに、俺だろうがミコだろうが鹿羽に

 伝える言葉は変わらないさ」


 あのファミレスでやらねばならないこととして

一致した意見であるならば、俺もミコも鹿羽も

同族だ。だからこそ俺はミコに一挙手一投足を

聞くこともないし、鹿羽の動向をうかがうことも

ない。


 できることはやった。伝えることは伝えた。


 あとは本人次第だ。これ以上は足を踏み込めない。


「……で、どうだ俺たちの成果は?」

「うーん、まさかそれで本当に達成するとはねぇ」

「ほめているのかそれ?」

「半分ほめてる。半分は疑ってる」


 俺ら「異能部」はもう学校に復帰して、普段通りの

授業と部活を行っている。それすなわち、俺らに

課せられたミッションが無事に完遂したことを

意味している。


 鹿羽さんを登校させることに成功したのだ。


 少なくとも、所在不明のまま霧隠れなんてことに

なっていた状態から、もとの町を転々としてあの

"不気味な"鹿羽の自宅に帰らないだけの、本当に

俺たちが初めて出会ったときの状態に戻しただけ

なのだが。これでも、登校させるだけ働きをかけた

ことだけはマヤは評価はしてくれているらしい。

のちにわかるのだが、生徒会書記の権限で部費が

割増しになっていることがわかった。


「それで、」

「学校を休んだ分をどうにかしてかすめられないか

 って話し合いでしょ?」

「……話が早いな」


 延長してしまった分の、ツケの支払いはしなくては

ならない。仮にポケットに収まった部費が減額

されようが、それだけは譲れないようだった。


「といってもねぇ…… 真面目に授業を受けて

 もらう以外どうにもならないから、それは」

「ですよね」

「かろうじて、私たちが2年生になりたてって

 ことで1年生の復習を主にやっているから

 よかったものの。これで赤点とって部活が

 できませんとか面白かったのに」

「面白くねぇ!」


 そう言われたらなんか不安になってきた。


 ミコも休んでいたから、前回みたいに勉強会か

何かしないとまずいんじゃないか…… って、あ

そうか、もううちにはエリート副会長がいるから

そこはどうにでもなるわ。


 よかったよかった。 ……本当か?


「それで追加で分かったこととかあるか?」

「え?」

「ほら、鹿羽の家系調べるとか言ってただろ、

 それでほかに何かわかったこととかあるかって

 こと」


「オシエナーイ、バーカバーカ」


 バカっていうほうがバカなんだぞ! と返事を

することができないぐらいマヤらしくない腑の

抜けた罵倒だ。


「前も言ったでしょ。情報はタダじゃないって。

 ちゃんとした理由と、れっきとした立場を

 考えてからそれを言いなさい」

「グッ、なんもいえねぇ」

「けど、あんたんところの部長はいいところ

 正解を出していたってことだけは言ってあげる」


「…………それもう言ってね?」

「あ、ほんとだ」


 そうか。やはりそうなのか。


 家庭の問題が裏にかかわっているのか。


 となるとやはり俺たちは早急に身を引くが

身のためだったのかもな。ここからはとても

デリケートなゾーンなのだ。それこそマヤとか

「会社」あるいは「社会」の人間の手が

必要なゾーンになってくる。


「だから急いでほしかったのか?」

「そうよ。首を突っ込むといいことないよこの世界」

「なんか、裏の社会みたいな言い方だな」

「え、その通りだけど?」


 情報社会とはまぁまさに、知らなきゃよかった

事実なんてザラにある。知りたいなんて好奇心で

アレコレと手をこまねくのは得策ではない。


 ……と、そういえば前に会長に言われていたな。


 結果として、加賀音を部活に招くことができた

結果オーライな結末にはなったが、今更ながら

あれは俺としてもよい選択ではなかったのかもな。


 いいや。過去はカコ、起きたことは取り返せん。


 人間たるもの、イマを生きるしかないのだ。


 学ぶ、これもまた人間の行いだとするならば、

俺もそれにのっとって会長の言う通り、他人ごとに

ムリヤリには首を突っ込まないことにしよう。


「これでもう終わり?」

「え、あぁ俺はもう言うことないぞ。っていうか

 そんな急いで聞きたかったのかよ、この話」


 いつも通り、放課後に呼び出しを食らうなり、

そうでなくとも俺たち側から赴くつもりだった。

実のところ今は放課後ではなく、お昼休みの

時間だ。この呼び出された生徒会室でグダグダと

話をしていると、うっかり次の体育の授業に

間に合わなくなる。


「いいえ。休みの延長の話は逆にココから

 お願いしに来るんだから、わざわざこっちから

 呼び出すわけないでしょ」

「そういえばそうか」


 それもそうか。わざわざ名指しで生徒会室に

昼休みが始まったと同時に呼び出されたのだが、

そんなの俺から願い下げるべき内容なはずだから。


「っていうかのんびりしすぎたから、パパっと

 言いたいことを言うと。


  まず、ミッションクリアおめでとう。と、

 ありがとう。ってこと」

「あぁ、それはどうm」

「そしてもうひとつは、遅すぎる!」

「いや、それは仕方ないだろ。あっちもあっちで

 身を潜めていたんだから」

「だとしても、もう少し、せめて1週間でけりを

 付けてほしかった」


 だったら部費ももうちょっと奮発したのに、と

ぼそりとつぶやいた。


 が、俺にはその言葉を読み取るよりも先に、

マヤのその歯を歪ませんとばかりに食いしばる

険悪な表情が俺の思考の邪魔をした。


「私が思っていた、いいえ、"あなたたち"が思って

 いた結末には"遅すぎた"ことでならなかったって

 ことを言いたいのよ」

「結末」


「鹿羽さんはまだ学校に来て、授業を受けてくれている。


  けれどいずれ、また姿を消すわ」

「え、なんd」

「何でもなにも、時間がかかりすぎたのよ。時間が

 かかりすぎて、時間が余ってしまったの」

「時間があまる?」


「なんか、同じ不登校になってみたとは言っていたけれど、

 そんなんじゃ理解できない本当の裏の学校社会が

 あるのよ。


  考えてみて、


  学校に急に来なくなった一見不思議なあの子。


  好奇心にそそられた生徒たちは何をする?


  それも、ほんの3日とか1週間とか短い不在期間

 なんかではなく、半月近くの不審な不登校という

 「本人不在の自由に見聞き調べができる時間」が

 たっぷりあるならば」


「…………つまり」

「…………ちょうど今日から3日前に、どこかからか

 流出したわ。鹿羽さんの過去に起こした暴力事件。

 私たちも必死でそうならないように努力はしたん

 だけれど時間稼ぎにしかならなくてね。はぁー

 まったく、情報ってのは一滴の血よりも獰猛な

 サメをおびき出しちゃうものなのよ。今となっちゃ

 1年生全体に広まってるわよ」


 …………


 俺たちはもっと早くに気が付くべきだった。俺と

ミコが鹿羽に言ったセリフはすでに時効を迎えていた

ということに。そうなのだ、人はそれぞれ生き方が

違う。一様に等しくない。俺たちは偶然にも意見が

合ったからこそいるわけで、鹿羽さんにそれが

当てはまるかもしれない、なんて淡い期待を込めた

セリフは他人の独り言に過ぎないことまで考えて

いなかったのは事実。


 ……そんなことはない、はずだ。


「それは、鹿羽本人は知っているのか?」

「それって?」

「"自分の過去"が広まっていることに」


「たぶんね。それもさっき」

「え」

「だから大急ぎであんたを呼んだんだから


  鹿羽さんが、クラスメイトを突き倒して

 窓から飛び出してどこかに姿をくらませたの。


  「異能部」ならまた追っかけそうだったから

 先に伝えておかないと思ってね」

「…………


  よくわかってるじゃないか」

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