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ダメな巫女娘に悪魔の加護を。  作者: 琴吹 風遠
Made in Utopia
181/446

180.手帳を届けよう

「ええ、あってるわよ、しかばねさんで」

「マジかよ」

「むしろ下の名前が間違ってる。アユミじゃなくて

 アユムね」

「マジかよ」


 まさかの人物から名前当てクイズの答えを教えて

もらうことになった。いや、それほどまさかではないな。

なんといっても俺が今対面している相手は、うちの

学校の生徒全員の個人情報を管理している企業、

兼グループ、兼いち家系の娘なのだから。


「ようこそ、我が邸宅へ。何用かな貴殿」

「マヤ、お前そういうキャラじゃないだろうが」

「いいじゃん、せっかくの2年生なんだから

 キャラチェンジの一つや二つ」


 実に絡みにくくなるからぜひとも2回チェンジして

元に戻してくれ。


 マヤこと”英嶺麻綾”、参上。いや、参上したのは

俺のほうだが。


 マヤが言った通り、俺はマヤの家、つまりは学校裏に

あたる英嶺一族の家に立ち寄っているのだ。ちなみに

目の前でくつろいでいるマヤの姿はモッ〇ルではない。

どうやら、着ぐるみ姿なのは冬の寒い時期だけのものらしい。

だから今はいたって普通の部屋着だ。パジャマとも言い難い

すらっとした白いワンピースのような服だ。そういえば俺は

マヤの部屋着姿は初めて見るかもしれない。着ぐるみは

ノーカンにしたとして、制服以外の格好をしているのは

新鮮ではある。


「ココ、あんたは時間のわきまえって言葉を知らないの?」

「仕方ないだろ、個人情報が書き込まれた忘れ物を

 こっちで預かっているわけにいかないんだから」


 今の時間は夜の10時を少し回ったところ。確かに普通に

お宅訪問するにはあまりに遅すぎる、大大大迷惑な

時間である。うちの部活の特質上こんな時間になって

しまいがちなのは目をつむってほしい。それにこっち側

としてはこの時間まで落とし物の持ち主の登場を

待っていたのだから、遅くなって当然ではある。


「一応さっき家に行っていいか聞いただろ」

「さっきってホントにさっきでしょうが!

 お風呂に入ってたわよこっちは!

 おかげでいつもの着ぐるみ用意できなかったんだから」

「アレ、いつもセッティングしてるんかよ」


 早めに連絡してたら、また例のモッ〇ルだったのか。

だったら直前アポは正解だったな。


「それで、手帳って?」

「あぁ、これだ」


 俺は自分のカバンから手帳を取り出す。もちろん

自分のではない。というか自分の手帳なんて持っていない。

今の時代はスマホなんて便利なものがあるのだから、

わざわざ別個で手帳を買うほどの予定が詰まっていない

限りは不必要と思っている。多忙でもないし、スマホの

手帳アプリすらもすかすかだし俺。


「あーはいはいこれね…… 中身見たの?」

「……見た」

「ま、そうじゃないと名前とか色々わかんないからね」


 マヤがそう解釈してくれて助かる。名前の確認とは

言いつつも、正直に言うと手帳に何が書かれているかを

こそっと覗いている。あまりいいこととは言えない、

興味本位で行動する俺の悪いところでもある。が、その実

そこまでの収穫はなかった。「×月〇日:体操着を忘れない」

とか「×月〇日:学校に行く」とかありきたりなことばかりだ。

もっと大事なことを書いていてもいいだろ、と読んでいて

勝手ながら思った。否、手帳の始まりの日付を見ればその意味も

よくわかる。何と言っても今は新年度なんだ。言われれば

当たり前だが、手帳も新しくしたばかりで、汚れ一つとして

ついていない新品に近い状態である。


 もっと、自分のことについて書いてくれれば、

暴挙に出てしまう理由やスイッチについても考察ができたのだが。

物事そうもうまくはいかないものだな。


「それで、なんで鹿羽さんが異能部に?」

「それなんだが、よくわからないんだ」

「よくわからない?」

「本人は自分に霊が憑いていると思っているが

 実際は違うって感じだ」

「それって一目見ただけでわかるものなの?」

「ミコならわかるだろ、巫女なんだから」

「それもそっか」


 こういう時にミコの立場を持つ巫女は便利だ。おっと失礼、

逆だ逆。巫女の立場を持つミコだ。


「マヤ、お前知り合いだったりする? ほら、名前すぐに

 わかったくらいなら」

「まさか、そんなわけないでしょ」

「だよな」

「私も最初は名前見てびっくりしたんだから。

 一回見たら忘れない苗字だし。


  にしても、日本にはまだまだ不思議な苗字の人が

 いるものだわ。どうやら鹿羽って苗字、南蛮方面の人たちの

 一部がつけた苗字なんだけどね、もともとは。むかしに

 日本の名前の文化になじむためにつけた名前で、その読みが

 たまたまシカバネになっちゃったらしい」

「へー、詳しいな」

「詳しい、というか調べたんだけれどね。

 あまりに気になりすぎて」

「にしては、普通に日本人っぽい見た目だったけどな」

「だって、そんな「日本になじむため」って言っても

 500年以上も古い様式だから、この時代までその血が

 つながっているとは考えられないでしょ。ましては、

 その人たちは日本文化になじむために暮らしていた人たちで、

 南蛮由来のモノを大きく伝承してこなかったって

 考え方もあるわ」


 クオーターのクオーターのクオーターぐらいに

あたるのだろうか。それなら四捨五入して日本人の

見た目にはなるよな。


「んで、鹿羽さんはそのいるかもわからない霊を

 祓いに来たと」

「が、正直手ごたえはないな。空気を殴っているみたいだ」

「具体的に何か困っていたの?」

「困っていたのは……」


 俺はここで口を止めた。これは言っていいものなのか。

プライバシーという面も考えてここは伏せておいたほうが

いいと、マヤを相手にして気が付いた。

マヤだからこそ気が付いた。


「いや、言わないでおくよ。本人も嫌がるだろうし」

「ありゃ」


 霊障よりも個人情報を取る。それが現代霊術。


「というか、よかったのか? ほんとに俺がいきなり来て」

「よくないわよ。パジャマだし私」

「あ、やっぱりそれはパジャマだったのか」


 「私服を見る」を飛び越して「パジャマを見る」を

したのか俺は。なんとも節操のない野郎だと自分でも思う。


「わかったよ、その手帳を預けるだけだから今日は。

 だから家に届けるとか何とかくれないか」

「何とかしてって、ずいぶんと図々しいわね。

 できることならそうしたいのもやまやまなんだけれど、

 少しそうともいかないんだよね」

「え」


「鹿羽さん、最近家に帰っていないようなのよ。

 おうちの人から連絡があったんだけれど、もう1週間ほど

 家に帰ってきた様子がなくて。でも学校には来ているから、

 逆不登校って感じ。だから異能部でそのあたりの情報を

 キャッチしていると助かるんだよね」


 “暴れる”からなのだろうか。だとしてもマヤにそれを

伝えるつもりはない。家の事情にまで首を突っ込みだしたら、

面倒ごとが重なるだけだ。


 ……あー確かに帰っている様子はないな。


 実は今、俺は鹿羽さんを監視している。厳密には、

俺の眷属の一人”ゲイジー”が気づかれない程度に後を

追ってくれている。霊感は高いほうだから念には念を入れて、

かなり遠目に見張る程度でいいと”ゲイジー”には伝えてある。


 さっきから定期的に、ミコンを通じて状況を俺に教えて

くれているのだが、確かに家に向かっている様子はなさそうだ。

今は街にいるようだが、そもそもこんな時間に高校生が街に

いること自体がおかしい。不良生徒というわけでも

なさそうだから、一体何をしているのだろう。


「だから情報交換よ、ジョーホーコーカン。そっちが

 知っていることと私が知っていることを共有するって意味でも、

 訪問の理由を私に伝える義理はあるでしょ?」

「……お前は本当に交渉が上手いな、そこで聞いてくるのかよ」


 つい最近に加賀音、いやその頃はまだ副会長と俺は

呼んでいたか。その絡みで会長にあまり人の話に手を出すなと

釘を打たれたばかりで大きく動けないっていうのに。もっとも

警戒すべき人間は部下にいるとは思わなかったのか。

警戒したとしても効果はなさそうではあるが。


「いいよ、今回の依頼については話す。だからそっちは

 鹿羽の住所を教えてくれ」

「住所を聞くのは、もう度を過ぎている気がするけれど……

 事情が事情だから今回は目を瞑ってあげる。その代わり、

 何とかしなさいね。一応、立場上私は部外者だから手出しは

 できないから。鹿羽さんの問題を払拭できるのは、

 あんたたち「異能部」しかいなそうだしね」

「そう言われるとプレッシャーかかるな。まぁ、今回の依頼は

 よくある”パラノイア”って感じだ。自分が霊に憑かれていて、

 自分の思っていないように自分が動いてしまう。それで、

 他者を傷つける可能性がある、あるいは傷つけてしまった、

 って具合だ」

「自分の意志で動けないってこと? それこそゾンビみたいに?」

「いや、本人もそれについては話してくれない。

 というか知らないんじゃないか? 自分が何をしたかを。

 だから第三者から自分の行動について改めて聞いたら、

 こんな大変ことをしてしまっていましたとわかったんだろうな」


 ゾンビみたいにか。シカバネがアユムように。


「ゾンビの霊って説はないの?」

「ゾンビの霊ってなんだよ。ゾンビがもう霊みたいなタイプだろ」


 いるとしたら、俺はさすがに知らない。が、改めて考えてみると

確かにあり得なくもない。そもそも霊が”死んだ人間”の意志に

よって下界に居残り続ける存在なのだ。文面だけで言えばそれは

”すでに死んだ人間”だったとしても成り立ちそうではある。

そこまで人間としての意志が存在できているのかと考えると

難しいところではあるが。


「ただ、さっきも言ったが元から霊が憑いていない。いや、

 もしかしたらゾンビの霊みたいにレアケースがいる

 かもしれないが」

「レアケースも考えうるのがプロでしょ」

「プロじゃねーよ、あんたんところの経済志向押し付けんな」


 こっちは企業じゃないんだ。たかが部活だ。特殊な人員を

確保した特殊な”ただ”の部活だ。


「だから、考えられるのは」

「多重人格」

「そう、だがその人格発生のターニングポイントが

 どうにも、それっぽくない」

「それもレアケースってこともあり得るでしょ」

「レアレア言い出したら何でもありだろ」


 ステーキでもそんなにレアレア言わない。

お腹どころか思考回路を壊しかねん。


「だから、お前なら色々と知っているだろうから

 聞きたかったんだが……あまり期待はできなそうだな」

「ごめんねー。まだ鹿羽さん1年生だから集められても

 限界があるの。ただ、あの子の家ならある程度の

 情報は集められるかもね、確かに。いずれお邪魔して

 みるのもありね」


 ただ、不法侵入だけはするなよ。と付け足して、

俺のテーブルの目の前に一枚の紙切れを置いた。中には

俺の町の名前と見たこともない住所が記されている。


「それがこっちで登録されている住所よ。確か、

 おばあちゃんと二人暮らしだったはずだから、

 どんな時間にアポを取って尋ねても大丈夫なはずだから」

「ありがとよ」

「それと、ここでの取引は他言禁止ね」


 情報交換会、とは言いつつもその情報源はどちらもここに

いない人間のものなのだから、ウィンウィンの取引と

言いつつもダブルルーズの人間がいることを忘れてはならない。


「それで、この手帳…… どうしたのココ?」

「……いや、何でもない」


 ?? 窓のほうから呼ばれた気がする。俺はマヤに

悟られないよう何気なく窓のほうに向かう。

そしてカーテンの外を覗く。


(マスター! マスター!!)

(? どうした”リア”)


 “ゲイジー”とついでに召喚していた”リア”だ。

単純に”ヴィーハ”、”ゲイジー”と呼んだら”リア”も

呼ぶかぁといつもの三人衆を合わせて呼んだだけなのだが、

それでも仕事はしっかりある。さっきから”ゲイジー”を

使って鹿羽さんの様子を監視しているのだが、その情報を

こちらに流すパイプ役を担ってくれている。

”ゲイジー”一人でできることではあるのだが、

何分”ゲイジー”が仕事を増やしがたがらない性分なのだ。

ようは分業だ。今流行りの分業だ。


(ミコンを通してでいいだろ報告は)

(そうではなくてですね。ちょっと緊急事態です)

(緊急事態?)


(マスターが見張ってほしいって言っていた少女なんです

 けれど……今、別の学校の男に襲われています)


 ほら、言わんこっちゃない。やっぱり厄介ごとになった。


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