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ダメな巫女娘に悪魔の加護を。  作者: 琴吹 風遠
世界で一番忙しい一日
172/446

171.話をまとめよう

「それでどうなったの?」

「どうなったのとというと」


 いつもの


 とは言うものの私が締め飾るのは初めてだから

いつものではあってもいつも通りではないわね。


 すでに学校に戻ってきて、先の連絡通りに部室の

鍵を開けて、再びこたつでほっこりとしている所存。

春先とはいえ温かいものはほっこりとしたい気分には

なってしまうのは、布団から出れない感覚と似ている

気がするわ。そうは言いつつも、春先は春先。きっと

そんなことを言ってられないくらい日向が温かい頃に

なるんでしょうね。


「それよりも人が少ない気がするけど、退部?」

「怖いこと言わないでよ。新入りにそれ言われちゃ

 ココもギドー君もなんにも言えないけど」


 部室には私と、ミコちゃんの二人しかいない。


 これだけが連絡とは異なる点。


 とはいえ、聞かずとも理由は察しが付くけど。

時間が時間だもの。マヤのお迎えさんが墓地から学校

まで猛スピードで戻ってくれたとはいえ、墓地で

色々としていたら、とてもじゃないけれど部活を

このまま続けるには遅すぎる時間になってしまった。


 から、神前君がしびれを切らして帰って、義堂君も

それに乗じて帰ったと言ったところでしょう。事実、

ミコちゃんも帰りの準備をしていた様子だったし、

もう少し私が帰るのが遅かったら、部長もしびれを

切らしていた可能性もある。


 ミコちゃんは巫女服を部室に置いていきたいから

是が非でも部室に戻りたかった様子ですし、間に合って

よかったわ。セキュリティ管理は大目に見ましょう。


「それで、銅栄墓地に行って、いろいろ諸々やってた

 のは聞いたけど、大丈夫だったの?」

「ええ、大丈夫よ。といってもミコちゃんなら、別に

 大丈夫だってわかるでしょ?」

「そう? そうでもないと思うけれど」

「え?」

「だって、藁人形があったんでしょ? それがたくさん

 あること"自体"がまずいから」

「……そういうものなのかしら?」


「藁人形って誰もが思いつく、一番簡単な呪いのアイテム

 みたいなイメージがあって、一番おふざけでやっても

 大丈夫そうなイメージもあるけど、そうじゃないからね。

 元々は、魔よけとしての役割が大きいから、ちょっと

 勘違いしがちだけど……あ、ごめん」

「いいのよ。私が何も考えずに単独突撃したのが悪いん

 だから。流石に私の無知を認めなきゃいけないわ」

「藁人形って一番の厄介なのは、作りやすさでも、

 認知度でもなくて、


  "呪おうとする行為"の簡略化なんだよね。


  悪魔も鬼も誰かを呪うときに人形を使うわけじゃない

 でしょ。人が人を呪うときに媒介として人形を使うと

 言われればそれも正しいんだけれど、その手順が明らかに

 人の手でできて、それでいて簡単なのがまずいのよ。


  だからこそたくさん呪いを量産できて、小さな呪いを

 詰め込みやすい。さらには認知度があるから"それ"が

 ある、イコール呪いを連想させることができちゃうの。

 「呪いは連鎖する」はよく聞く話だけど、視覚化させる

 だけの力が藁人形、それも大量に不穏な作り方であるなら

 なおさら」

「ということは、早めに解決してよかったってことなの?」

「危ないことはないと思うけれど……早いことはいいこと。


 呪いの道具が呪いを起こすんじゃない。


 呪おうとする心が呪いを起こす。


  特にロッカちゃん霊感よさそうだし」

「まぁ、そうね」


 神前君曰く、ミコちゃんはよい巫女であることに

変わりはないけれど、才能があるわけではない。本人の

たぐいまれなる努力で成し遂げている。みたいなことを

言っていたけれど、きっとこういうことなんでしょうね。


 あの一族の娘なんだから才能がないわけがないん

でしょうけれど……何か含みがある言い方だったのは

何か意味があるのかしら?


「でも、その言い方なら何か大丈夫な何かあったの?」

「ええ、マヤがいなきゃあったとしてもわからず

 終いだったかもね」


 胸ポケットから携帯を取り出して、一枚の写真を

画面に表示させる。明るくはない森の中でフラッシュを

たいて撮っているから、ちょっと見づらくなって

しまっている。


「これは……クッキー?」

「箱の見た目はね。けど、このサイズの箱といえば思いつく

 ものがあるでしょう。


  今は春先よ。私たちのように出会いもあれば、学校

 単位での別れもある時期。そういうときにやることが

 ひとつあるわよね」


「タイムカプセル!」

「正解」


 むしろそれを先に思いつかないほうがおかしいのよ。

私の霊感を持って、あの場が安全というのであればすぐに

何かの「目印」だと判断してよかったわ。そして場所が

山の中、ようは誰も見ないような場所ならば、モノも

死体も、宝物も「埋める」にはうってつけなんだから。


「ってことは藁人形の刺さっている木の下を掘ったら

 見つかったってこ……と? あれ? でもたくさん

 あるのに?」


 そこが私とマヤを惑わせた理由でもある。


「ええ、でも藁人形は藁人形でもちょっと細工がして

 あったのよ」

「あ、顔が付いてたとか」

「顔……はついてなかったわね。お札が貼ってあったり

 血が付いていたり」

「え! 血!!?」

「あ、血に見える絵具よ。お札もそんなたいそうなもの

 じゃなくて普通の紙を長細く切っただけのものよ。


  大事なのはその二つの細工がなんでされていたか。

 どうして、その考えに至ったかなのよ」


 ???????????????????????


 と言いたそうな顔をミコちゃんはこちらに向ける。

「クエスチョン」とは発音はしないでしょうけれど。


「多分、最初は藁人形ひとつだけさして目印にしていたん

 でしょうね。けれども場所や、状況も考えてこれだけ

 ではすぐに撤去されてしまうと考えた」


 ここは近くに墓地。住職が見つければ即座にいたずらと

思って外されかねない。いえ、それ以前に銅栄高校の

たまり場になっていたのであれば余計、無関係の人間に

撤去されていた可能性のほうが高い。


「から、単純に増やして紛れさせたってこと?」

「でも、それだと自分もわからなくなるわ。だから

 大事になってくるのがお札と血なのよ。これは

 マヤのアイデアで、助かったわ」

「ってことは、お札と血が付いている藁人形に

 タイムカプセルが……」

「いえ、それだと意味がないわ」


 もともと紛れさせるために増やしたのに、唯一

目立つように細工がしてあれば、余計その場所に

何かがあると思われかねない。


「だから、逆よ逆。目立たないことが大事になるの


  最初に刺した藁人形に何も細工がないのだから、

 たくさんある藁人形の中でも唯一血もお札もない

 ものが、目印だったってことよ」


 まさかあの時の数学の下りがここで回収されるとは

思ってもなかったわ。私としては冗談半分で言った

つもりだったけれど、まじめにマヤが計算してくれて

いたから、気が付いたのは本当に助かったわ。


 真面目に計算していたというよりかはマヤも

ふざけて計算していた説もあるのだけれども。


「そして持ってきていたスコップで掘り出したら

 これが出てきたってわけよ」

「それで、このタイムカプセルは?」

「そのまま埋めようかと思ったけれど、依頼の目的

 からしても、放置はさすがにできなかったわ。

 だから、その持ち主に返したわ」


 タイムカプセルなのだから、当然ながら中身には

入れた本人の名前も書かれたものもある。その目論見

どおりに缶の中には教科書や名前が縫い付けされた

体操着があった。


 あとはマヤのお仕事。


 「名前」と「この町」で「卒業する人」とまで

絞り込めばマヤにかかれば特定も容易にできるわ。

名前は伏せるけれど、中学を卒業する人とだけ

伝えておく。


「へー……」

「その人の特定でちょっとだけ時間がかかって

 しまってこんな時間になってしまったわ」

「それはいいんだけど……」

「……?」


「なんで"藁人形"だったのかな?」

「……」

「目印だけだったら"旗"とかでよかった気がするけど……」

「それは、場所が場所だったからでしょうね。墓地が近いし、

 事実、近づきにくい環境を作るとなれば藁人形を使う

 ことはわからなくもないわ」

「そう、なの……か、なぁ……」


 すごいわね。


 タイムカプセルだと解決した時にマヤはそんなことは

聞いてこなかったわ。ミコちゃんが巫女としての資質が

あるからこその質問ね。そこまで、あの場所で頭は

回らなかったからこそ、タイムカプセルだということで

事を済ませたのだけれど。


 ミコちゃんにはこう言ってはいるけれど真実を私は

知っている。知らなかったからこそ、タイムカプセル

だと思って箱を開けた私だけが知っている。マヤに隠して

見てよかったと今になって思うわ。


 中にあったのは教科書と体操着。


 ……見るも無残に切り刻まれた。


 それ以外に物は入っていたけれど、そのほとんどに

藁人形にも使われた真っ赤な絵具や、マッキーで大きく

文字が書かれて使い物にすらならなくなっている。文字と

言葉をぼかしてはいるけど……


 ……察してほしいわ。


 タイムカプセルのように「時間」が解決するように

祈った結果の、藁人形だったと思うしかないでしょう。


 だから、もしかしたらミコちゃんがさっき言った通り、

もっと正しく手順を踏んでいれば、十二分に呪いとして

成立していたかもしれないわ。だからこそ事を急いで

解決を図ったのだけれども。


「ミコちゃんの言う通り、行為自体があまりよいもの

 ではないから、こうやって即座に対応できたのは

 ミコちゃんから色々と聞いたりしていた甲斐が出た

 のかもしれないわね」

「いやいや、勝手に助かるものだよ」


 どうやら今日のロッカちゃんサイドの話は物語

シリーズネタをふんだんに使うらしい。噂によると

神前君サイドでもコンプラアウトすれすれを責めた

ネタを繰り出していたようですし。


「でもこれはさすがにうちの功績よね?」

「あ、本当だ」

「気にしていなかったの?」

「やったー」


 報告をするべき内容が増えてしまったわ。いいこと

何でしょうけれど、自分で仕事を増やして、それを

自分で解決して、さらに増やしているのよねきっと。

ウロボロスのように自分で自分を噛みついている。

藁人形よろしく、藁をもつかみたいとはこのことね。


「でも、そのタイムカプセルの話は私関係なくない?」

「……そうかしら? ミコちゃんならまっさきに

 思いつきそうだと思っていたけれど……」


「私じゃなくて、ココが思いつきそうだけど……」

「……自覚ないのかしら?」

「え?」


 うちの部活の人間はずいぶんと鈍感な人たちのようね。

その一人、私もその鈍感のひとりなんでしょうけれど。


『お前と俺は似ている』


 あの言葉、ほんの少しだけ訂正しないといけないわね。


 きっと、神前君はミコちゃんとも似ているわ。お似合い

とは天地がひっくり返ろうとも思いもしないけれど。

そう言う意味でも私はこの部活にこの春、入ってよかった、

そう思えるだけの価値がこの狭い部室に感じるわ。


 春、タイムカプセルと共に思い出との別れがあるように

思い出との出会いがあるといいわね。


 そうして、ひとつ年をとる。


 「二年生」に私たちはなる。


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