17.伝言を聞こう
授業をサボった俺たちは学校に戻って
教室に入ったときは、もう5時間目が終わり
今は、授業合間の休み時間だ。クラスの
一人から聞いたところ、先生から
「あとで職員室にくるように」
と言われていたようで、放課後にでも
お叱りを受けに行く必要ができてしまった。
もちろんミコ、お前も道連れだ。さて、
これからのことを考えて6時間目の授業を
受けるとしよう。そしていまさらになって
さっきの不良少年のことを思い出した。
”義堂 力也”
俺たち(俺は30歳前後だが)の一つ上の
同級生だ。「一つ上の同級生」というのは
そのまんまの意味で、つまりは一度高校で
ダブっている。今でも授業に出ていなく、
時には学校にも来ていないこともあって
”義堂 力也”のことを一切知らない奴も
いれば、逆に「そんなヤツ」がいると
一部ではある意味有名人なのだ。
そして、俺は人間観察をよくしている
ことから義堂は俺にとって、知らない
はずのない人物でもある。だというのに、
あの場で本人から”義堂”の名を聞いたとき
「噂の義堂」だと気が付けなかった俺を
悔みたい。正直なところ、義堂の話はもう
どうでもいい。直接本人からイラナイと
申しつけられたんだ。あのまま、後を
追ってもよかったんだが、それこそ
野暮ってものだし、あれ以上根気よく
しつこくかまっても何も得るものは
ないだろう。これが最終的に俺が出した、
長年の勘のこたえだった。
こう考えている間に授業が終わり、待望の
放課後となったが俺たちはこれから職員室に
怒鳴られにいかなければならない。まったく、
気が滅入るったらありゃしない。だが、ミコも
同じく罪をかぶっているんだ。ちゃんと今後の
活動のためにも職員室に行かなければ。
「おい、ミコ。行くぞ」
「うーーー」
寝てたのかお前?
「行くぞ、ってどこに?」
「いや、聞いてなかったのか? 曲がりなりにも
俺たちは授業をサボったんだ。それで俺たちは
職員室に呼ばれているってわけよ」
「あー、あ…………あと、5分」
お前やっぱ寝てたな? こいつと一緒に行く
必要はあんまりないため、このまま俺はミコを
捨てて職員室に向かった。が、俺は衝撃の事実を
告げられることとなる。
「え、御前は呼んでない……?」
先生に第一声としてミコがまだ来ないことを
伝えたときに先生は、ミコは最初から職員室に
呼んでいないと言ったのだ。俺は訳を聞く。
「なんで御前さんが呼ばれてないんですか?」
「いや、だって5時間目いなかったのって
”腹部の激痛で気絶”していたって本人が俺に
自己申告してきたんだ。それに、6時間目も
御前は授業、受けてなかっただろ?」
「え?」
あれ? 確か、教室にはいたような……
「ん? 気づいてなかったのか神前?
御前は途中で退席して保健室にいたんだぞ。
確かに、腹部に何故か軽傷の痕があったと
保健室で聞いているし、5時間目も
この傷が原因で気絶していたんだろ」
「その理屈はおかしい!!」
……とは言えなかった。御前は嘘を
言っていないし、その傷をつけたのが何を
隠そう俺だからだ。
まさか、ミコにハメられるとは……!
そんなわけで俺一人の説教が終わり、
職員室を出たのは実に30分もの後の話に
なる。結構な時間、俺は説教をくらって
いたらしい。もう、しばらく職員室には
近づきたくないものだ。
「あ、いたいた。おーい神前君ー!!」
俺が職員室を出て、一息ついたときに
廊下の向こう側から誰かに呼ばれた。
ん? あれって、生徒会長じゃないか。
「どうしたんですか? 俺に用なんて。
部活については副会長からあらかた
聞いているんで問題ないのですが」
「いや、違う違う。伝言を頼まれたんだよ
君宛にさ」
「はい? 誰からですか?」
「義堂君」
!!!!!!!?
「義堂が俺に? 一体なんですか?
それもなんで生徒会長から俺に?」
「うーん、君たちが生徒会室から出てきた
ってことを知ってたからじゃないかなぁ?
だから、また君が生徒会室を訪問するって
踏んで僕に伝言を頼んだんだと思うよ」
義堂が俺に? それもさっき関わるなと
言ってきたというのに? いや、そうだから
こそか。俺から接触ができないから、
こうやって誰かを介して伝えたいことが
残っていたのだろう。
「で、内容は?」
「うん、さっきなんでか知らないけど
生徒会室に君と一緒にいた女の子が
来たから、おんなじことを言ったけど」
なんでミコが生徒会室に? あぁ、ミコに
さっき俺が「職員室行く」って話した内容が
「生徒会室に行く」となにか脳内変換が
起こったのか。
眠いとそんなことあるよね。作者は一度、
それで大事な集まりに遅れたことがあります。
(実話)
「「廃工場には近づくな」だってさ」
「廃工場?」
廃工場といえばここから数百メートル離れた
ところにあるパルプ工場のことか? あそこは、
15年ほど前に火災で全焼してからずっと
手つかずの廃工場となっている。ちなみに俺は
15年前、生でその光景を見ている。
悪魔たるもの、赤黒く燃え滾る炎になにかしらの
インスピレーションを感じてしまう。あの場所に
近づくなということは……。というか、昼の
あの様子を見るとなんとなく何があるのかは
察しがついてしまう。ようはあの廃工場は今
バトルフィールドと化しているってことか。
「それだけですか?」
「うん、それだけだよ。それと
これは生徒会長の独り言だけど、
実は義堂君には結構感謝してるんだ」
感謝?
「義堂君はああ見えて礼儀が正しいんだ。
僕に伝言を頼むときも深々と頭を下げて
お願いしてきたし。それに、今こうやって
この学校が何事もなく平穏無事なのも
義堂君が一役買っているんだよ。この学校は
昔はとっても荒れててね。その名残でまだ、
うちの近所の学校同士で抗争とかも起こったり
しているんだ。それを力づくで解決しようと
しているのが義堂君、ただ一人でなんだ。
僕が入学してきたとき、つまりは1年前に
なるのかな? そのとき初めて抗争ってものを
見ちゃって、なんとかしたいと思ったんだ。
そしたら、おんなじクラスだった義堂君が
「なんとかする」って言って一人で抗争の
中に飛び込んで、相手の高校の人たちを
追っ払ったんだよね。それから、何か学校間の
抗争があるたび、僕たちほかの生徒に
飛び火しないように抗争を収めているんだ。
それに、生徒会長として義堂君から
「外の抗争は俺に任せろ。中の生徒は夕霧
お前が守ってくれ」って言われてるしね。
だから、生徒会長になったってのもあるけど。
義堂君は君たちに関わってほしくないんだ。
多分、このままだと抗争に自分以外の生徒を
巻き込みかねない、って思ったんだろうね。
あんな言葉遣いで性格も悪い。けど、義堂君は
この学校で一番、学校が大好きな立派なうちの
生徒だよ。もちろん、このことを言ったのは
義堂君には内緒だよ。じゃないと何をされるか
わかったものじゃないしね」
「それを言って、どうしたいんですか」
「いやぁー、それは君たち次第だよ。でもこれ
だけは言える。義堂君は強いよ。それも
学校の平和を担えるくらいにね」
”義堂 力也”。あいつには聞きたいことが
たっぷりとあるが、こうも生徒会長から
念を押されてしまっては俺は何もできない。
俺は義堂のことを指をくわえてみている事
しかできなくなってしまった。
と思ったが矢先、義堂本人が姿を現す。
「あ、義堂君。丁度伝え……」
ボグゥ…………!!
義堂は何も言わずに生徒会長の腹に
目いっぱいの拳を突き付けた。
「お”い”! 夕霧ィ!! ちゃんと伝えた
んだろうなぁ!! あ”ぁ!?」
「いったぁ。いや僕はしっかりと二人に
伝えたって……」
「だったらなんで、あの女が廃工場に
いるんだよ!」
!!!? ミコが廃工場に!?
「ちょっと待て。なんでそんなことに」
「あ”、てめぇ、神前じゃねぇか。おい、
てめぇんとこの女が勝手に廃工場に行って
銅栄の連中につかまりやがった」
「「!!?」」
銅栄高校はうちの近所にある高校の一つで
言ってしまえば「底辺高」だ。うちの学校は
そこと抗争をしていて、その事実を学校で
知っているのは生徒会長と義堂、そして俺の
3人だけだということか。
しかし、生徒会長から廃工場に行くなと
言われたというのに、なぜミコはわざわざ
そこに向かったのか。あそこは基本、
閉鎖状態で一般の人は入ろうとは思わないし
偶然入り込んだとも考えにくい。だとしても
廃工場に入る理由がない。一体なぜ……
「夕霧ィ。おい俺との約束を忘れたわけじゃあ
ねぇよなぁ!? なんでもいいから理由を
つけてでもあそこから、この二人を遠ざける
ってことをよお”ぉ!!」
ん? 理由を付ける……?
「生徒会長。御前……あの女の子にこれを
伝えるのにどんな理由を付けたんですか」
「え、えーっとなんだっけ…………確か……
「ヤバい霊が住み憑いている」
……って言ったはずだけど……
もちろん嘘だけど、理由としてはこれが
一番嘘っぽくていいんじゃないかなと」
「………………」
……生徒会長、それは……
アイツには一番よくない理由です。




