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ダメな巫女娘に悪魔の加護を。  作者: 琴吹 風遠
世界で一番忙しい一日
168/446

167.お返ししよう

「あ! おねーちゃん!」


 俺たちは無事に御前神宮に帰ってくることが

できた。しかも、本来の目的だったくまと共に。


 運ぶためにはやはり会長の罠が仕事をした。

相手がリアル害獣ではないにしろ、その手の

捕獲関係の資格を持っている人間がいただけ

かなり楽ができたと感じる。


「はー、ただいま、愛」

「くるしゅーない!」


 かわいい


 俺たちを真っ先に出迎えてくれたのはミコの

妹である、ミコ曰くちょっと成長が遅いかもしれ

ないと不安になっている若干小学生の愛ちゃん

だった。


「説明長くない?」

「いいだろ別に」


 愛ちゃん、クリスマス以来久々の登場なんだから、

説明が長くなってもいいだろ。けど、さすがに

「成長遅い」はもしかしたら失言だったかもな。


 ミコはくまに一度飛ばされたが、意外と辺境な

地に飛ばされることはなく、安全に合流することが

できた。こう表現すると、どこか道なり御神木なり

目印のある場所があったと思われてしまうかもしれ

ないが、そうではない。


 ここは辺境なように見える山ではあるが、あくまで

ここは御前一家の生活の一部となっている土地だ。

あの元気満々なミコ自身、子供のころから山遊びは

もっぱらだったということで、山のどこに飛ばされ

ようが、よほどのことがない限り迷うことはない

とのこと。経験は最大の学習であるとは、まさに

このことだな。


 で、義堂とは本堂に行き着くまでに合流する

ことはできなかった、が。


「あれ? ギドー君?」

「あ”おせぇぞ」

「なんでもういるの?」

「んな決まってんだろ、ここに飛んだんだぜ」

「ズルい!」


 愛ちゃんに遅れて、義堂が迎えに来た。


「ぎゃー、こわいにーちゃん追ってきたーー」

「あ”誰がこえぇって!!!??」


 おまえや


 義堂は愛ちゃんのもっちもちのほっぺを横に

引っ張る。のびーるのびーる。申し訳ないが

楽しそうだ。義堂も愛ちゃん自身も。


「むにー」

「で、何とかなったんだな神前てめぇ」

「何とかな、ほんっと」


 合流したミコは停止したくまを見て、安全と

念を押してくれているからもう大丈夫だろう。

さっきのエラー騒動は水に流すとして、想定外の

出来事として大目に見といてやる。


「義堂君、ちょっと手伝ってくれるかい?」

「おう」


 会長は義堂に罠を引っ張っていた手綱を渡す。

……あ、違うわ、カメラ出したから写真撮るんだな。


 って、ツーショットじゃねーじゃん、義堂と会長と

くまのスリーショットだろそれはもう。せっかく

捕まえたくまのポゼッションが、観光名所の入り口の

銅像と一緒になってるだろそれは。


「ほら神前君も」

「……」


 パシャッ


「……かっけぇ」

「うん」


 あとで聞いたのだがこの時の俺の顔はいいところ

気持ち悪くにやにやしていたそう。カメラ映りは

キリっとしていたが、シャッターを切った途端に

何かが切れたようににやついたから余計に気持ち悪い

とも念押しされた。そんなん情報念を押してでも

聞きたくなかった。


 閑話休題


 とりあえず今日は学校に戻らなければならない。

加賀音がまだ生徒会の仕事が終わっていないから

部室に来ていないだけであって、時間的にももう

そろそろ終わって部室で待っていることだろう。


「それに、会長を業務に戻さないと早く」

「睨まないでほしいな」


 今の立場は会長じゃないだろ。ただの狩猟免許

持ちというだけで駆り出したただの先輩だからね。

はやくこの男を本来の業務に戻さないと胃の穴が

広がっていく一方だ。俺も加賀音も。


「開いてることは確定なのね」

「開いてないとでも」

「で、御前さん、この後はどうすれば……」

「あー、ちょっとおじいちゃんに捕まえたこと

 話してから撤収するかな」

「「はーい」」


「おじいちゃーん」

「おじーちゃーん」


 ミコはたたたと、神宮に戻っていく。それに

付いていくように愛ちゃんも戻っていく。なんか

ペンギンの親子を見ている気分だ。


 俺と会長と義堂は再び、捕獲したくまを

目にやる。いや……やっぱ日曜大工で爺さんが

作る代物じゃないよこれ。


 それでもエラーが出るぐらいには不良品だった

のが不幸中の幸いだったなと今でも思うよ。

どうやら故障、というよりかは充電切れだと

いう説が濃厚だった。といってもエラーが起きて

余分に電気を使ってしまった結果だと言われれば

故障でもあり充電切れでもある停止だったのだが。

まぁ、どのみち止まればいいんだよ止まれば。

故障で一生動くことがないよりかは、充電切れで

一時的に動かないと言われたほうが、気が楽だ。

こんな目にあわされたとはいえ、このくまは

御前一家の持ち物なのだから、うかつに破壊する

わけにもいかなかったからな。


 ひとまず裏口で待機することにするか。

春先とはいえ外で待機したままは寒い。が、

本堂に用事らしい用事はないから靴を脱いで

入るまではしない。あくまで玄関先で待つ。


「しかし、熊退治かと思ったらコンプラギリギリの

 くま退治をさせられるとはねぇ」

「誰も思いませんよ、作者も構想はあったけど

 書くわけにはいかないと歯止めをかけていた話

 でもありましたし」

「大丈夫だったのかなぁ」


 多分大丈夫じゃない。アニメ化もコミカライズも

不可能だ。できたとしても大事なバトルシーンも、

多々ある会話のほとんどがモザイクやピー音で

遮られる、あり得ないぐらいよくわからない話に

なってしまう。


 ワン〇ース知らない人は余計ついていけない。


 ネットの海に流すことすら怖いよ(作者談)。


「……にしても、ミコのおじいさんアニメとか

 見るんですね……」

「うーん、多分そうじゃないんだよね……」

「え、なんで知ってるんですか?」

「だってツイッタでそんな話してないし、一度

 アニメ話題のコメントに、


 「"呼吸"で鬼をしばくんならわしは

  "こぶし"でしばいたるわ」


  ってよくわからない返事していたし」

「その相手可哀そうだな」


 会長、剛隆アカウントをフォローしてるのか。

それと呼吸で鬼を倒しているわけじゃないっす、

おじいちゃん。あくまでちゃんと刀で切ってます。

あと何でそんなことで張り合ってるんだよ。

一体何をもってマウントとろうとしているかもよく

わからないし、それに対するコメントも困るし。


「マンガで知ってたとか」

「そりゃあ、あん妹が見てんだろ」

「え?」


 質問の返答をしたのはまさかの義堂だった。


「さっき、あのデカブツの話をしたらよ、すげぇ

 あれこれ言いだしてよ」

「あれこれ?」


「あぁ、どうやら


 「でっかくてつよくてすき」


 なんだとよ」

「へー……」


 ……


 何かを感づいた俺と会長は見合った。そして

ミコたちが走り去っていった本堂の奥に目をやる。


 そしてかすかに聞こえる御前一家の話し声。


「おじーちゃん、くま、これわっちゃったよ!」

「なにぃ、愛!? わしの"はいてくましーん"が

 こわれただとぉ! あと"わ"と"れ"が逆じゃ」

「以後きをつけますっ!」

「ええんや、ええんや。で、小恋、何がどうなって

 壊れたんや!」

「なんか、いつも飛ばしている場所に行ったら、

 飛ばす場所がなくなって暴れちゃって」

「ほぉー、そりゃあまずいねぇ」

「おじいちゃん、〇猿のモノマネ似てないよ」

「なぁに、また来年までに何とかしたるわい!!

 愛! おじいちゃんがまた作ってやるからなー

 もーちょっと待っててなー」

「もーおじいちゃんったら愛に甘いんだから」

「そりゃあ小恋、お前もやろうがい」


「そうだけど……あ! ついでにじゃあ新世界編で

 ビーム出せるようになってたから、アップデート

 してほしいな!」

「おねがいちます!!!」


「よーーし、おじいちゃん頑張っちゃうぞー!!!」

「「わーい!」」


 ……


 ……


 ……


 俺たちはかすかに……いや、鮮明に大声で剛隆の

おじいちゃんとミコと愛ちゃんの会話を聞いて、

再びそっと顔を合わせた。どうやら義堂を含めて

俺たちは、何もかもを理解したのだった。


 俺たちはまた来年、くま退治をさせられること。


 末っ子にデキ愛の御前一家の恐ろしさ。


 そして何より、


 当分、御前神宮含めたこの山には近づかない。


 と、男3人は固く誓って頷いたのだった。


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