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ダメな巫女娘に悪魔の加護を。  作者: 琴吹 風遠
世界で一番忙しい一日
167/446

166.作戦通り捕まえよう

 場所は先ほどくまに会い、何も手を下すことなく

飛ばされたところ。そこに俺と義堂が再び参上した。

多分、ここで飛ばされたら元の場所に戻る頃には

諦めて、下山の選択を余儀なくされるだろう。


 だとしても、諦められない戦いがここにある。


 目的がくまとツーショットを撮るためだとしても

それで火が付いた人間がいる以上は、諦めるなんて

選択をするわけにはいかない。事実、俺も写真は

欲しい。


「ここでいいんだな」

「あぁ」


 どこもかしこも気に囲まれた山中で、どうやって

俺たちがいた場所を特定したかといえば、意外にも

会長が置いた罠が目印になってくれていた。本来

熊を捕まえるための代物であるため、これはあの

くま並みの巨漢に効果があるかと言われても、きっと

ないと言わざるを得ない。あとでこれは回収するとは

いえ、目印として役立つとは思ってもいなかった。


 伝え忘れていたが俺は今日、ミコンを持ってきて

すらいない。理由は明白で、ここは山である前に

御前神宮のある神聖な山なのだ。そんな場所で

悪魔を呼んだり、憑依させるなんてしたら、あの

御前一家が黙っているとは思えない。ということで

毎度のことなのだが、ミコンすらも持ってきていない。

極力、リスクを抑えて行動をする目的だったはずが、

まさかこんな形でリスクを被るとは思いもしないがな。


 生身で挑むしかない。だが、それでも十分よ。


 それはそうと、あのメンツで動ける人間を選ぶ

としたら俺と義堂の二人だろう。ミコは気骨があると

しても女の子だし、会長は作戦のために引っ張り

出すわけにはいかない。


「なんかひっさしぶりな気がするぜ」

「? 何がだ義堂?」

「神前てめぇと共闘することがな」

「久しぶり、というか初めてじゃないか?」

「いや、てめぇ音楽室であっただろうが」

「え?」


 と、とぼけてみせているが忘れたわけがない。

だが、設定上所詮は夢オチでしかないんだあれは。

だからノーカンにしておいてくれ。


 あとはミコ救出のために出動したときぐらい

だが、あのときは俺と義堂は別行動したうえで、

結局俺の知らない俺が勝手に解決していたようだし、

「共闘」というには毛色が違うよな、確かに。


「お、あれだな」

「あれだよな」


 やはり目立つ。


 さすがに巨漢で人型とくれば大木と見まがう

なんてばかな真似はできるものじゃない。


 こちらには気が付いていない様子。さっきは

俺たちが義堂だと思って呼んだから気が付いたので

あって、こちらからの声掛けや近づくなどの軽めの

アプローチがない限り、襲ってはこない仕様なのか。


 なら思うより、作戦は楽に決行できるかもな。


「うし、神前、いいか」

「いいぜ」


 俺と義堂は息を吸い込む。俺は深呼吸のため、

義堂は限界まで離れた場所からくまを呼ぶために。


「お”-----------------い」


 キィィィィィィンンンンンンンン


 呼ぶためとはいえ、急に真隣でその声量での発声は

こちらの鼓膜に悪すぎる。


 だが、目的は達成した。遠方だがくまが俺らに

気が付いて振り向く姿が確認できる。


「気が付きやがった!」

「よし!」


 俺たちを確認したくまは考えるモーションもなく、

「プログラム通り」にこちらに向かってくる。


 さっきは明らかに油断していたからこそいきなり

近づいて素早く仕留められたのだと思っていたが、

どうやらそうではなさそうだ。動きは素早いにしろ

目視できないレベルではない。全然、対応できる。


「走れ!」

「おう!」


 俺と義堂は思い切りくまとは反対側に走り出した。

当然ながら、後を猛スピードで追ってくる黒い影。


「にしても、どうにかなるのか……」

「知らん! が、どうせ死なん!!」


 どうせ短すぎる空の旅をして同じ場所に

リスポーンするだけだ。だが、それでは意味がない。

”追われる”ことに意味があるのだ。


 にしてもあのロボット早すぎるだろうが。

日曜大工であんな爆速モンスターを作れて

たまるかよ。


 林道を走る俺たちはかなり危ない動きをしている

ことは理解している。ときに足を何かしらの枝か

何かに引っかかったり、前方不注意で気に突撃

するのが顛末だろう。だが、走っている二人は

体躯にだけは自信がある連中であり、しかもこの

道は一度通った道なのだから、ある程度はどう

動けばよいかはわかる。


 ブゥン


「うおっ! てめっあぶねぇ!」


 走りながらそれやってくるか!?


 よりも俺を驚かせたのは、背後をとられていた

義堂がそれに気が付き即座に頭を下げて避けた

ことだった。義堂なら普通にやりそうなことだと

言われればそれまでなのだが、今は「走っている」

のだ。そんな耳と目をフル活用させて避けるなんて

判断を脊髄を超えて反応できるのは人間業だと

いうにはレベルが違いすぎる。


「走れ神前!」

「わかってる」


 言われた通り、一歩遅れた義堂を見捨てて前を

見て走る。いや「!」をつけてくれてはいるが

そこまで死ぬ気でやることでもないからね、これ。

吹っ飛ばされるだけだし、失敗しても諦めるだけ

だからね、これ。


 だが、約束してしまった以上手は抜かん。


 約束ツーショットをしたのは義堂と会長だけ

ではないのだよ。


「ふっ!」


 山の小さな穴を飛び越える。小学生時代に下校

という名前の冒険をしてきた俺の体はまだなめた

もんじゃないな。かれこれ数十年と少し前のこと

なのだろうがまだまだ若々しいな。


 ふと後ろを振り返ると、コンマ単位でくまの

張りての一振りをふりかわしながらついてくる

義堂が見える。義堂は俺がひょいと超えた穴は

超えるどころか股一つ開くだけで超えて見せた。


 体のつくりがよい人間の超え方だな。


「義堂、まだか!」

「馬鹿野郎話しかけんじゃねぇ!」


 後ろを向かずに質問したのだが、それでも話

かけるのは御法度だったらしい。ってそうか、

コンマ単位で避けている人に対して質問する

ほうが無粋ってものか。


「あと少しだ」


 木々が開けてくる。もう少しでドッキング

ポイントだ。義堂は思ったよりも余裕で走り

抜けてきている。


 そして完全に木々が開けた場所に到着した。


「付いたぜ」

「はぁ、はぁ、あぁ」


 じゃあ本番と行くか、ロボ七武海。


 ブゥン!


 くまは、立ち止まった俺たちに同じように

振りかぶる……


「!??」

「どうした? 飛ばさないのか?」

「いやぁ、お疲れ様、義堂君と神前君」

「会長」


 俺たちはくまと見合っている。その背後から

会長が拍手とともに現れた。


 出方が「ザ・黒幕」なんだよな、それ。


「御前さん、これでいいんだね?」

「うん、大丈夫のはず」

「ほんとは原作準拠で正面対決したいところ

 だけどね、それはさすがに2年ほど修行が

 必要だからちょっとお預けってことで


  それで、正面対決をするわけだけど、


  くま、君は"どこに"旅行させるんだい?」

「けっ、飛ばしたところで意味ねぇよな」


 そう、ここは俺たちが飛ばされてきた場所。

木々が開けているのはくまが飛ばしてきた人の

ための場所。くま自身、ここに飛ばすことが

任務づけられた所詮プログラム。


 では、もともとその場所にいたらどうなる

のだろう。


「…………」

「どうした? 飛ばせよ」


 あの、俺たちを血眼になって追ってきていた

くまがピタリと止まった。しかし、腕は振れと

命令しているようにも見える。だが、それは

できないと頭が訴えているようにも見える。


「ま、所詮は日曜大工のロボット。エラー

 ひとつで止まってしまうのは仕方ないけどね」

「いいんですよ。目的が作戦通り捕まえること

 なんですから。ミコ、あとは大丈夫だよな」

「っしゃあ、あとはコイツを縄かなんかでぐるっと

 巻いちまってあん神社に持ってきゃ」









「「「あ、」」」


 俺たちは口が開いたままになっていた。


 それは急な出来事だったからだ。


 義堂が消えた。これは二回目の出来事ではあるが

作戦通りに事が進んだ後の出来事、事情が違う。


 チラッ


 俺はミコを見る。俺が口を開いて言おうと

したことを理解したようにミコは首を振っている。

それも首が折れんばかりにぶんぶんと。


 どうやら……


 ミコも知らないらしい、これに関しては。


「ミ、ミコ」

「いやいやいやいや知らない知らない!!」

「これって、どうなってるんだ……」

「さ、さぁ……、ここじゃないどこかに

 飛ばされているんじゃないかn」


 バヒュン


 あ


 ミコーーーーーーー!!!!!!


「ちょっ、会長…… 会長?」


 振り返ったときにはだだだ!!!

と走り去る音と、忽然と颯爽とその場を離れる

会長が遠方に見えていた。


「ちょっ!会長!! 待て!!」


 足速っ! 判断も早すぎるだろ!!


「会長、作戦h」


 ギシッ……


 後を追うはずの俺の足が動かない……

これは恐怖で身がすくんでの身体的現象

何かではない。


 がっつり、俺の足に絡まっている。

会長がさっきまで持っていた、狩猟用の罠が。


 スゥー……


 あのやろーーーーーーーーーーー!!!!


「どこに旅行がしたい」


 くまが俺のそばに立ち、言い放つ。怖え。


「ちょいちょいちょいちょいちょいちょい

 ちょいちょいちょいちょいちょいちょい

 待て待て待て待て!!!!!!!!!!」


 ブゥン!!!!!


 ぎゃああああああああああああああああああ

あああああああああああああああああああああ

あああああああああああああああああああああ

あああああああああああああああああああああ


「……?」


 あ、あれ? 飛ばされていない? ていうか

このまま飛ばされていたら危なかったかもな。

足には罠が引っかかっているのだから、さっき

同様に飛ばされたとしたら足が一本もぎ取れて

いた可能性がある。


 俺は反射的につむったままだった目を開く。


 そこにいたのは俺を殴る直前で止まったくまの

姿だった。……ぴくりとも動かない。


「は……はーっ、あぶねー」

「大丈夫だったかい神前君!」


 すたこらと会長が俺のもとに戻ってきた。


「いやー、エラーか何かはわからないけれど

 こんなことが起こってこんなことになるとは

 思ってなかったけど、故障してくれるとはね。

 助かった助かった」

「……」

「それを見越して、足元に罠を置いておいてよかった

 よかった。このまま全員が変な方向に飛ばされちゃ

 大変だったからね! 神前君がその罠に引っかかって

 時間を稼いでくれたおかげだよ!」

「……」

「ナイスおとりだったぜ☆」


 ブゥン!!!!!!!!!!!!!!!


 バヒュン!!!!!!!!!!!!!!


「ぎゃあああああああああああああああああああああ

 あああああああああああああああああああああああ

 あああああああああああああああああああああああ

 あああああああああああああああああああああああ」


 くまの腕は動くことはないが、俺の腕は動く。


 さすがの穏健派の俺でも黙ってられなかった。


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