16.不良を手伝おう
「んなとこにあったのかよ」
以前、学校に侵入する際にミコが
この偶然、落ちていたバールを使って
柵を壊したことは記憶に新しい。こんな形で
この話を思い出すことになるとは。
「で、探していたものだったようだな」
「あぁ。まさか、んなとこに捨ててあった
とは思わなかったが、てめぇら一体
何が目的で、んな学校の裏なんて
前に来てたんだよ」
「あー……っと、俺たち今、ボランティア期間
的な時期で、今こうやってるように人の
手助けをやってるんだよ。3週間前あたりに
おんなじ感じで、ゴミ捨てのボランティアを
やってたんだ。で、そのとき見つけたが、
あまりにサイズがでかすぎるからゴミにする
にも困って、結局そのまんま、ほったらか
していたんだよ」
「え? そんなことした? ただ、
私はこれで柵を壊s……」
「ソォイ!」
「アベバァ!」
ミコ、お前はちょっと黙ってろ。話が
ややこしくなる。とりあえず、ミコを一度
ダウンさせておいて話を続ける。我ながら
華麗なボディーブローが決まった。
「それよりも、このバールをなんであんたは
必死になって探してたんだ? 確かにこの
サイズのバールは、並大抵じゃ決して
お目にかかれない代物だとは思うが。
そんなに今必要なものなのか?」
「あ"? 今必要だからに決まってんだろうが。
じゃなきゃてめぇの助けなんて使って
ねぇんだよ」
この口調でずっと話されるのは心臓に
悪そうに感じるが、俺は心も体も悪魔だ。
厳密には「半人半魔」ではあり、人の
感情は残っている。が、恐怖とか畏怖に対する
感情は微塵と残っていない。なにより、
何をどうあがいてもこのいきった野郎も
言ってしまえば人間だ。本気を出した俺に
太刀打ちできるわけがない。
怖がる理由がないのだ。
そうでなきゃ俺はこんな堂々とした態度で
こいつとは対話はしていないさ。
「こいつは大事なもんなんだよ。っつったって
丸々、半月以上探せていなかったんだがな。
だが今はこいつがなきゃやられちまうんだよ」
「喧嘩か?」
『やられる』と表現したならばほとんど
この不良が、善良にバールを使って土木工事は
可能性の候補から消去される。それにこの
今にも襲い掛かりそうな、見た目もすでに
何をするのかは語りきっている。
「ふん、そら分かるよな。どんな鈍感野郎でも
ここまで話したらなんとなくだろうが察しは
つくよな。あぁ、そうだよ。俺は今から
喧嘩にいくんだよ。まさかてめぇ、
あぶねぇから行くな、なんてほざくんじゃ
ねぇだろうな?」
「あぁ、もちろん言わないさ。ただ」
「ただぁ?」
「俺もついていこうか? ボランティアの
一環として手伝ってやろうかってことさ」
これには無論のこと意味がある。こいつは
多分、部活云々に興味がない。だとしたら
この不良君から何かしらの好感をもらい
文面上だけでも入部許可をもらえば
「部員3名」の条件はそろう。しかも部活に
来ないのであれば部活内で俺の力は使い放題だ。
ミコは周知のとおり霊感は0で、はなから
何をやってもばれることはない。
こいつの霊感は32。一般的な霊感であり
もし俺が力を使ったら俺の力に気づきかねない。
だからこそ幽霊部員であったほうが助かる。
これは部活ができてから考えるとして、今は
こいつから好感を得るのが先だ。喧嘩なんて
上等さ。殺さない程度に戦うつもりだ。
「別に俺を戦力として加算しなくてもいい。
途中で俺を「おとり」に逃げてもいいし、
俺を「盾」として使ってもかまわない。
だから、この喧嘩が一体どんな意味を
持つものなのかを見せてくれ」
「………」
「どうだ?」
「……ふっ。変なやつじゃねぇか。
てめぇなんつー名前だ」
「"神前"だ。逆にあんたは?」
「…………"義堂"だ。よろしく」
「あぁ、よろしく」
義堂が手を出してきた。すかさず俺も、
手を差し出す。
「……ってワケにはいかねぇんだよぉ!」
……!!?
俺の手はそのままパシュっと払われ、
流れるように俺のみぞおちに回し蹴りを
ぶち込んだ。これには俺も予想してなく、
想像以上にダメージを負った。そして
そのまま飛ばされるかのように、柵に
体を打ちつける。
「……ガハッ!!」
……ガイィィン!!!
俺の耳元で鉄と鉄を互いにぶつけた
ような音がした。そこを見ると直したばかりの
柵にバールが突き刺さるように、俺の頬を
かすめていた。義堂はさらに口調を強め
俺のことを責める。
「……さっき、俺の喧嘩を止めるなんて
ふざけたことを抜かすなっつったよな?
確かにてめぇは、んなことは言ってねぇ。
そしたら、俺の喧嘩を手伝いたいだと?
ふざけるのもいい加減にしろやてめぇ!!
いいか、これは「俺の喧嘩」なんだ。
俺の喧嘩に俺以外のヤツはいらねぇ。
てめぇらの言うボランティアはもう
いらねぇんだっつーんだよ! もう一度、
おんなじこと抜かしてみろ。次はわざと
はずさねぇぞ。てめぇのドタマを間違いなく
ぶちぬく」
「…………」
「チッ、時間を喰っちまった。いいかてめぇ
これだけは覚えていろよ。
俺にはもうかかわるな。そんでも
俺とかかわりてぇっつってんなら、殺す」
そう言い捨てて、義堂は学校を出て行った。
もう俺の傷は癒えていたが、残念なことに
考えていた計画は諦めることを余儀なくされた。
「不良……か……」
不良という人種は案外、前回のオカルト研究部
ぐらいレアな人物である。だが、俺が"正しい"
青春を歩んだ小学、中学時代はこんなやつらは
数えられないほどいたし、町中で不良のうわさも
ひっきりなしに聞こえていた。だからこそ、俺は
不良の「扱い」には現代っ子以上には慣れている
と思っていたのだが、どうもそうではなかった。
やはり、ああいう人種は何を考えて動いているか
分からないし、俺の対人スキルを過剰に信用した
罰ともいえる。
あ、あいつ、K.Oしたまんまだった。
黙らせるためボティに一発入れておいたミコが
まだそこで伸びている。もう黙る必要ないから、
起きてもいいんだが結構いいところに入れたから
もしかしたらもう……
「生きとるわぁーーーーい!!」
「お、生きてた」
ひとまず、ミッション失敗をミコに伝えねば。
「あれ? あのバールとバールの持ち主は?」
「バールとバールの持ち主は学校の外で、俺が
失敗したせいでちょっとばかし面倒な事に
なった。とりあえず、これからあの人とは
話はできないだろうな」
しかし、こうなった以上また振り出しだな。
ミコが伸びていた以外に何か大事なことを
忘れているような気がしないでもないが……
「あ、授業……」
時計を見ると授業がある程度遅れている
とはいえ、授業の8割がとっくのとっくに
過ぎているであろう時間だった。
時すでに遅し。




