15.部活について聞こう
「話も変わったことですから、部活の
作り方について話しましょう」
「ひどい話の入り方だな」
今、俺とミコは新たに部活を作るべく
生徒会室に赴いたのだが、時間と知識の
都合上、生徒会長本人から部活の話を
聞けず、同じ学年の副会長から話を
聞いている。
「それで、具体的にはどんな部活を
作りたいのですか? 例えば運動部とか
文化部のような」
そう言いながら生徒会室にある棚から一冊の
ファイルを取り出し、スチャッと眼鏡をかけた。
髪を直すしぐさが色っぽい。
「えーっと、そりゃ文化部だろうな」
「いや、運動部でしょ?」
まさかここで、ミコと話が食い違うとは。
しかも、こんなどうでもいいことで。
「いや、活動諸々を抜きにしたらこれは
オカルト研究部だろ? なら文化部のカテゴリの
一つになるって相場が決まってるだろ!」
「いやいや、その活動が大事でしょ。オカルト
研究って言ってるけどやることはオカルトの
撲滅で、正しくはオカルト撲滅部よ。
こんな物騒な名前の文化部がありますか!?」
「いやいやいや、だからって運動部だとしたら
『除霊が運動』ってことだろ? それは
おかしいだろ!」
「いやいやいやいや、普通のオカルト研究部ってのは
部室にこもって悪魔払いの書物とかを読んで、
語り合うのがセオリーでしょ? 私たちはもっと
アグレッシブに動くのよ。運動部って捉えても
全く問題ないわ!」
「いやいやいやいやいや、……」
「いやいやいやいやいやいや、……」
もう途中から、なんでこうも言い争っているのか
分からなくなってきたが、何故かどうしてもこの
運動部と言い張る小娘には負けたくなかった。
……いや、最初っからなんで争ってたんだ?
しかし、しびれを切らしたのか副会長が俺たちの
無駄な口論に水を差した。それも鋭い口調で。
「あなたたちは実際にオカルト研究部という
ものを見たことがあるんですか? 正直、
「小説」や「漫画」の中でしか見たことが
私はありませんので。」
「「あっ……」」
その一言で俺たちは口論をやめるしか
なかった。はい、すいませんでした。確かに
リアルでそんな部活は見たことも聞いたことも
ありません。オカルト研究部って実際にある
学校って実は珍しいのでは……? アニメや
マンガじゃ必ずと言っていいほど、一校に一つは
あるというのに。
閑話休題
「はぁ、聞きたかったのはそういうことじゃ
なかったんだけれど……まぁ、それは
活動してみてから後々報告してもらえれば
いいですし」
ほんとになんで俺たちは争っていたんだ。
今になって、無駄な時間だったなと空しく
覚えてくる。
「部の活動はさっきの会話で予想はついた
ので言及はしませんが、見たところ部員は
……二人だけのようですね」
「えぇ、それが何か?」
「規約ですと、部の存続には最低でも3人の
部員が必要と書かれているので」
「へ? さ、3人?」
「えぇ、一人二人ですと「学校側の支援が
なくとも別に問題ない」という判断の下る
ので最低でも3人以上の所属がが部の存続、
及び作るのには必要ということですね」
「…………」
ミコの思考が止まったように見えた。今にも
プシューッっと音を出しそうな作画崩壊の
仕方をしている。
「ですので顧問等の問題はさておき、部員を
有志しないことには部活自体ができません
のでまた後日詳しい話をするとしましょう。
そろそろ、先生方の会議が終わる頃なので
私は教室に戻らないといけません。あなたたちも
そうでしょう?」
「あ、あぁ。悪いな時間をとっちまって」
「…………部活、できたらいいですね」
副会長は少し微笑んでいたが、あれは嘲りの
笑いではなく、本当に笑っていたのだろう。俺は
次の授業に間に合うように教室に戻ることにした。
ブーたれるミコを引きずりながら。
「HEEEEYYYY! あァァァんまりだァァアァ
!!!!!!!!!!!
AHYYY! AHYYY! AHY!
WHOOOOOOOHHHHHHHH!!
これじゃあ部活なんてできないじゃないかあ
ァァァァァ~~~~!!」
ミコは腕を切り落とされたように泣きながら俺に
制服を引っ張られ引きずられている。見ていて
滑稽ではあったが、今は授業中だからできれば
お静かに願いたい。
「いや、部員を探せばいいだろ」
「え!? こんな実態なし・実績なしのただの
巫女(最強)と、悪魔とかにこの年になっても
興味があって、さらには見よう見まねで実践も
しちゃう危ない思考の厨二君がいる活動方針
皆無な部活に誰が入部しようと思うのさ!!」
「あ"、お前! なんつったオイ!?
危ない思考のなんだって!?」
確かにミコのいう通り、部員集めは非常に困難を
極めるかと思われる。が、それとこれとはさっきの
俺の紹介の話は別だ。あとで覚えていやがれ。
「ていうか、なんでココは驚かないのよ!?
部活を作るのに3人いるってことに」
「いや、だって
知ってたからなぁ…………」
「(°Д° )」
なんつー顔してるんだお前。
「部を作りたいって言ったのは俺だぜ。だから
学校の校則とか部活のシステムは片っ端から
調べてあるに決まってるだろ。そんなこと
はなから問題視してたわ」
「じゃあ、なーんで先に教えてくれ
なかったの!?」
「俺から何も聞かずに生徒会室にぶっ飛んで
いったのはどこの誰だよ」
「うぐぅ…………」
というかなんで俺はまだこのふてくされた
この荷物を引きずってるんだよ。
もうそろそろ、自分で歩けよ! 階段も
角擦りながらそのまま引きずっていくぞ!!
「つーか、なんでそんなに部活を
作りたいんだよ? それも俺以上に」
「……だってぇ。
部活って入ってみたかったんだもん。
ずっとみんなテニスとか吹奏楽とか
楽しそうにやってるのを見てて、私も
やりたいなぁ、と。それに、私は巫女で
除霊ができる部活って聞いたことないし
面白そうだなと…………」
俺はもちろん引きずったままだ。
「じゃあ、あきらめるのか?」
「そんなわけないでしょ。こんな楽しそうな
ことをやめるなんて! やるなら
とことんやるつもりよ。それも学校中の
霊から悪魔まで木っ端微塵にするくらい」
物騒な響きだな。あと、その悪魔に俺も
含まれるんだろうな。俺は階段手前でミコを
引きずっていた手を放した。急に放され、
ガッツリ床に頭をぶつけ、「あいたぁ!」と
言って悶えている。
「なら、諦めれないよな? さっきも言ったが、
俺はそんなの承知で部活を作りたいって
言ったんだ。存分に付き合ってもらうぞ」
「ええ、もっちろん! …………イタタ」
さて、とは言ったものの足掛かりとなる物事が
ないとなると一体、どこから手を付ければ
いいのやら……
「クソッ!! 何処だ畜生!!」
上の階からどたどたとうるさい足音を
鳴らしながら誰かが下りてきた。見たところ
同じ学年か一つ上の先輩だとは思うが、今から
授業だというのに教室ではなくどこに向かおう
というんだ。それもずいぶんと困った
様子………
「あ」
これはひょっとして使える手なのでは。
「ちょっと待て」
「あ"、んだよ、てめぇ。今、忙しいんだよ!
邪魔すんじゃねぇ!」
その慌ただしい男の見た目はかなり怖い。
さらに言葉遣いも荒い。何かに使えると
話しかけてしまった俺は、話しかける相手を
間違えたかとも思ったが、だいたいこの手の
ヤツこそ話しかけるべきだ。
あえて平静を保ちながら話を続ける。
「何かあったのか?」
「お前、なんか知ってんのか!? 知って
んだったらとっとと吐けぇ! こっちは
急いでんだよ!!」
これにはミコは俺に「これ以上は」と
言わんばかりに止めに入る。俺はこの
何かに怒り狂った生徒を背にし、ミコに
俺が今思いついたことを言った。
(いいか、俺たちは基本的には除霊が
目的なんだ。つまり、霊に困っている人を
助けるって意味でもある。ならば、これは
『お悩み相談』といった具合だろう。だから
まずは除霊だけじゃなく、単純な生徒の
悩み相談も部の活動の一つにしてしまえば
いいだろ。仮にもミコ、お前は巫女だろ?
つまりはキリスト教でいうマリアなんだ。
懺悔とまではいかなくとも、ここは
少しでも悩み相談を受けて、今後の部員確保に
つなげるんだ)
(おぉーお、なるほど!)
理解してくれたようだ。ちなみにその間、
わずかに5秒!! この人から「長い!」と
反感を買っている雰囲気はない。はー……
ほっとするぜ。
「悪いな、あんたが一体何で困っているのか
よくわからないが、よかったら手を貸そうか?
もしかしたら多少なりとも力にはなるだろ?」
「あ"、んだよ知らねぇのかよ。だがてめぇが
手伝うっつってんだったら手伝ってもらうか。
ま、ただの足手まといなんだろうがな」
「いやー、足手まといにはならないさ。
で、見たところ何か探しているようだが、
なにを探しているんだ?」
ここで、俺たちが見つけないとこの人に
磔で処されかねないが部のため
ここは手伝うしかあるまい。それにこういう
人に協力しておくと後々、便利になることが
多い。……と思う、多分。
「あー、探しているのは……クソッ!
名前が出ねぇ……」
「どんな感じのものとかわかるか?」
「あぁ、大きさはこんなもんで……
おぉ、ちょうどてめぇの足の長さくらいの
鉄の棒だ。それでいて先端が釘抜きみてぇに
鋭くて、そうだなぁ……何かをバキッと
ぶっこわすのにつかえるものだな。」
「…………バール?」
「あ、それだ。それそれそれ」
「…………」
俺たちは二人で見合って、
思い当たる節しかないことを確認した。
そして、そのままこの怒り狂った生徒を
例の学校裏に連れて行った。




