149.秘密を探ろう
「はっ……はっ」
「……」
かなりの前を走るはわれらが英嶺高校副代表、
六郷 加賀音。おおきく後方の神前 滉樹を
離して走っています。
などと実況をする暇はない。いったい全体
何をしようとしているのか……
ていうかほんとに副会長のフィジカル高いな
おい! 悪魔の力を使わないにしろ、一般男性の
走る速度を息切れもせずに走れるとは。もう
そろそろ街中に入るとは思うが…… そう
なったらめんどくさい。
ただでさえ、小雨を全力疾走する男女なんて
状況が目立つのだから、人目に触れないように
動きたいからな。
「おい! 待てって」
「……」
さっきから話しかけるが何も言わない。俺と
話す義理はないということか、はたまた別の
何か理由があるのか……
だが俺の予測は大方当たっているということは
この反応を見る限り推測できる。仮に追いかけて
ほしくないのであれば、この時点で「来るな」
みたいな反応があるはず。あるいは女の子みたいに
「きゃー来ないでー」とか言い出すだろう。
が、そうではなくただただ無言で俺に追いかけられ
ている状況だ。ならこれは追いかけてもらって
結構。むしろそちらのほうが本望だということ
でいいだろう。
「あ」
気が付けば街中にいた。人がいなくて気が付か
なかったがここ一帯は”いつもなら”人がわんさか
いる場所にあたる。今日はこのあいにくの天気と
いうこともあって人通りは少ないが。
問題はそこではない。人が少ないとはいえ、人
および障害物が道に増えだす。が、俺はそれに
対応できなかった。そう、見失ったのである。
が、俺の推測が正しければ副会長はまだこの
街にいる。というのも俺と副会長のかけっこが
いかに悪目立ちしていたかが物語っているだろう。
そんな誰かに偏見をされるのであればわざわざ
こんな人通りの多い道を選ぶはずがない。仮にも
相手は生徒会長曰く「頭脳明晰」な副会長だから
余計にそう考えられる。ならば目的地はこの街で
ドンピシャだろう。
うれしくも街ではあるが俺のいるこの地域の
都合上、そこまで大きくはないし探すにしろ
場所が限られる。そこをしらみつぶしに探して
いれば見つかるだろう。
さすがに小雨とはいえ雨の中での人探しは
億劫になるが、それは副会長も同じことだろう。
今は副会長の言いなりになっておいたほうが
得策といえる。
が、この俺の推測はここで外れる。
街をぐるりと見渡してみたがどこにも副会長が
いない。あれ? どこかの店に入ったのか?
いや俺を追わせるのであれば、そんな探し
にくい場所に行くわけがない。
……というかその追ってくれという目測
事態があっているかが定かじゃないわけだし……
探すほうがいいのか? あるいは逃げたと
解釈して追わないほうがいいのか。
とりあえず、うちの生徒がよくたむろする
エリアには来てみたが、ここで見つけれたら
苦労はしない。誰か証人がいれば助かるの
だg
「あれ? どったんココ」
「……ミコ?」
「あ! わかったわ……さてはあなたヤギね!」
「急にネタに走るな」
呼ばれてもいないのにこいつは。
「どうしたのさそんな息遣い荒く。誰か
ストーカーでもしていたわけでもあるまいし」
「いつもそんな性癖振りまきながら生活してないわ」
あ、でもやっていることは追っかけなのだから
実質ストーカー行為と見紛われてもなんの
弁解のしようがないな。
「ちょっと副会長に話したいことがあってな」
「? 前の部活のこと?」
「……まぁ、そんなとこだ」
「えー何何、ケンカでもしたのー??」
「恋愛相談みたいなノリを出すな。それでこの
街に行ったと思ったんだが……」
「副会長ならさっきそこからあっちに向かって
走っていったよ」
あーやっぱりここにはいなかったか。ただ単純に
街で見失っただけだったか。
「ていうかなんでミコがここに?」
「オフなんだから楽しくエンジョイしている
だけよ」
楽しくエンジョイって直訳で「楽しい楽しい」
じゃねーか。
「ココもなんでここに? 制服も着て」
「さっきまで学校にいたからな。学校に私服で
入るのは気が引けるだろ」
そういえば、なんだかんだミコの私服姿を
みるのはこれが初めてかもしれない。前に
神社にお邪魔したときも私服ではなく巫女服に
身を包んでいたからな。私服も巫女服なんじゃ
ねーのか? なんて妄想を勝手に抱いていた
だけあってこんなカジュアルな服装をしている
ミコは意外と新鮮味がある。
と、同時に私服のセンスが抜群に微妙なのは
つっこまないでおくか。いや、変なキーホルダー
とか「I・ラブ・東京」とか書かれたイキリ
ミョウガマンリスペクトみたいなTシャツを
着ているわけではない。ただ単純に無難。
何とも言えない、ただただ”フツウ”という
感想しか言えない服装だ。
だがそれが際立ってか、どうにも元が比較的
ヒロイン顔のかわいらしさが目立つ。やっぱり
かわいいのカテゴライズに当てはまるんだな
コイツ。俺にとってはかわいいの微塵も
感じ取ることができないが。
10歳若かったら考えてやる。
「ロリコン」
「ペドフィリアと呼べ。俺はロリコンではない」
「その副会長の用事って、部活のこと?」
「いいや、ちょっと個人的に問題が出てな。
それにミコもそれはわかっているだろ」
「?」
「? まぁ、いいや。それじゃあ次の部活でな」
これは嘘をついていることになるのか。俺が
部活をやめるやめないの話に最終的につながる
わけなのだから完全に個人的なものとも
言い難い。が、今はそんなどうでもいいことを
議論している暇はない。
「ココ、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫」
「えーココでも悩み事なんてあるんだー」
「は?」
「ほらほらよく言うじゃん。人に「大丈夫?」って
聞いて「大丈夫」っていう人はたいてい大丈夫
じゃないって」
「それよく聞くやつじゃねぇか」
「でも! この私、「異能部」部長:御前 小恋が
助けられるならなんでも頑張るよ!」
「ん?」
「なんでもするとは言ってない」
テンプレだ。
「困っているなら助ける。それが部員。
……って言ってたよね」
「……そうだったか?」
「それじゃ、またねー」
「あぁ、またな」
大丈夫
その一言を言われたのはかれこれ数年ぶりだな。
悪魔に頼ることはあっても誰かにすがったこと
なんて一度もなかったからな。大丈夫と心配の声を
かけるヤツなんて人と関わらない生活を続けていた
俺の周りには一人としていなかった。
でも大丈夫だよ。どんな結果になろうとも俺は
なんとかする。大丈夫だ、心配すんな。ミコ
お前は知らなくていい。
俺は街を出た。ここからあっちの方向に走ると
いうならば向かう先はあそこしかない。
……それにしてもなぜミコは副会長との一件に
ついて知らなかったのだろうか? あれほどの
力を持った対魔用の札を作るとなればかなりの
費用と時間がかかるはずだ。それにミコと
同じ学校の生徒であり副会長という立場の
人間がそれを頼むとなれば、ミコも耳に
はさんでいるはず。なのに俺との関係性は
知らないままというのはどうにもおかしい。
目的が何であれ、副会長からミコに
「神前に注意しろ」みたいな通達があるはずだ。
あるいは俺の正体が確定するまで秘密にしておく
ほうが良いという判断なのか。
それは本人に聞くこととしよう。今はその
本人に出会わなくてはならない。
急いで向かわないと夜になってしまう。
早く”銅栄墓地”に向かわなければ。




