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ダメな巫女娘に悪魔の加護を。  作者: 琴吹 風遠
My Name Is ...
148/446

148.会長と話そう

「どうしたんですか」

「それは当然、君が僕の仕事場からそんな

 顔で出てきたら声をかけたくもなるさ」


 それにしても確かこんな感じで前に生徒会長と

話したことがあったよな。


 その時は確か、部活を作るにあたって職員室に

呼び出されたときに、俺に伝言があったと言って

来たんだったか。その時と比べたらまさかこの

生徒会長とここまで長く付き合うことになるとは

思えなかったよな。


「それで僕に何か聞きたいことでも?」

「いえ、それは逆に俺のセリフじゃ」

「違うでしょ。もっと逆に言うけどキミは僕に

 聞きたいことがないのかい?」

「……」


 そう聞かれるとは思わなかったが、それはある。

生徒会長の予想通り、ある。


「副会長のことです。動き出すというのはまさか

 副会長のことですか」

「あぁ、やっぱりね。それにしても早かったなぁ」


 春休みに動き出すとは聞いていただけあって

警戒すべきだったのに俺の不注意でこんなハメに

なってしまったんだ。もっともそれを知っていた

生徒会長なら何か知っているはずだろう。


 それに、それしかできることがない。


 今、俺にできることは3つほどある。

一つは副会長に俺が悪魔じゃないと証明するために

ミコのもとへ向かい、俺が行った諸々についての

裏を作ってもらう。だが、どれだけ腐ってもミコは

巫女だ。そんな悪魔がらみのお願いなんて聞いては

くれないだろう。仮にそれがバレなかったとしても

そんなことをして証明になるかとも思えない。

俺は副会長を一度襲っているんだ。そんな生半可な

理由付けで納得なんてしないだろう。俺ならしない。


 もう一つがさっき言った力技だ。

全ての「俺」に関する記憶を副会長を覗いた全員から

葬り去る。そして俺はここではないどこか別の

場所に移る。そうすればこの学校で俺の存在を

知っているのが副会長だけになる。そうなれば時間が

何とかしてくれるだろう。これが一番個人的には

手っ取り早く終わる手段だと思っている。信頼を

作るのは時間がかかるが壊すのはものの数秒だろう。


 無論、その場合は今までの思い出もなかったことに

なる。それでも俺は将来と自分を守るためならやる。


 そしてもう一つ、たった今思いついた方法が……


「生徒会長は何か知っているんですか?」

「んん? あぁ六郷君のことかい? なんか変わった

 ことをしようとしていることは分かっていたけど

 それで何をしようとしているかまではねぇ?」


 俺は今、副会長に秘密を握られている状態なんだ。

ならばこちらも副会長が持つ、何かを握ればいい

のだ。もっともあれほどの霊感を持つのだから

何かしらの裏があるともとれる。


「そんな変な様子があったんですか」

「そうだねー、ずいぶんとせかしている雰囲気だった

 って感じかな」

「せかしている?」

「この様子だと六郷君がどんなことをしたのかは

 もうわかっているんだよね?」


 どんなことと言われても、俺に対して完全に

準備周到な状態で挑んできたことか。


「何があったかは聞くつもりはないけどね。六郷君も

 そこは言及しないでって言ってたし。それで

 この何でも知っている生徒会長様に何か聞きたい

 ことでもあるのかい?」

「……」

「……」


「副会長は、何か隠しているんですか」

「……


  うーん、それは……ちょーっと教えられないな。

 僕も100パーセント六郷君のことを理解している

 とは思うつもりはないけれど……まぁ、「隠し事」が

 あるっていうのは確かだよ。でもなぁ……」


 やっぱり何かしらの秘め事を持っているんだな。

できればそれを教えてほしいが……


「会長、それって俺に教えてもらうことって

 できませんか?」

「え?」

「会長はその隠し事というのは会長以外に知っている

 人間ってこの学校にいませんか?」

「いやー、僕が何気なく知ってしまっただけあって

 他にももしかしたら知っている人がいるかもは

 知れないけれど……まぁ、知ってて生徒会の

 人間だけだね。それもかなり限られる人d」


「ならそれを俺に」

「教えてほしいとか言うんじゃないよ?」


 ……


 思ってもみなかった言葉に俺は固まる。会長の

顔はいつものようにニコニコと笑ったままだが

いつもよりもどこか厳かにも感じる。


「神前君」

「?」

「それが一体どんなものだと思って、その発言に

 至っているのだい?」

「それは当然…… 俺たちが「異能部」だからです。

 今までもあったでしょう。今までみたいに、

 生徒会の手伝いをするように、副会長の手伝いを

 するために」


 というのは建前だ。それを種にして俺についての

諸事情を丸め込むことが目的だ。なかったことにする

のは不可能だ。ならばその俺の情報が漏洩するまでの

時間を稼ぐだけでもいい。


 あの体質を考えても俺と対等にやりあえていたのは

あの”札”が力を持っていたからだと思う。……うん、

そう思う。そうじゃなかったら話が変わってくるが。


 それでもあの札が力を失うだけの時間があればいい。

あれがなければ十二分にやりあえる。それに副会長の

場合は前に一度、家を訪問している。寝込みを襲う

なんてこともできる。


「そうか…… やはり君は……


  それは誰の判断だい?」

「? それはもちろん俺の独断ですよ」


 ……!?


 俺の身体が浮き上がる。痛みはない。別に

首を絞められているわけではないしただただ

ふわりと身体が不思議さもなく浮き上がった

だけだ。


 絞められたのは、俺の胸倉だ。


「神前君、もう一度聞くけれどそれはどういう

 ことだい?」

「?」

「キミはいったい何者だと思って僕と対等に

 話しているつもりなんだいと聞き方を変えた方が

 いいかい?


  それだけのことを今からしようとしたと

 思ってくれて結構。それと、君はやっぱり

 ”ヒト”ではないね」

「!?」


 その言葉はつい最近、おととい聞いたばかりだった。


「これは僕の勝手な解釈かもしれない。それでも

 君には僕に”自分が人である”という証明をする

 必要がある。それだけのことだよ」

「え」


 人である証明。


 これも最近思い切り耳元で聞かされた質問だ。

そして一晩、いや今となっても答えが出ない

クエスチョンだ。


 だからこそ俺は一つだけ回答を見つけた。

そう、人である証明なんてない。ないということは

必要性がないのだ。


「そ、そんなヒトである証明なんてできません」

「いいや、君にならできる。少なくともそんな回答を

 するニンゲンではないだろう君は。いいや君が

 ニンゲンならだけど」

「!?」


 なんだ。生徒会長は一体なにを思ってその言葉を

俺に向かって言っているのだ? 何かしらの根底が

あるからこそ言っているはずだ。そんな適当に言って

あてずっぽうに当てるなんて真似はする人ではない。


「あてずっぽうに言っていると思うかい?」

「いいえ、そんなことは」

「そう、それだけ君の今の行動と発言は実にまやかしに

 満ちたものだということだよ。君のことは実に

 生徒会がわとしても評価をしている。特に、君の事前の

 個人情報がおかしいという指摘があったからこそ

 学校での生活を見てから判断しようと思っていただけ

 あって、かなり見てきていた。そして六郷君と僕、

 二人で下した判断は、


  人間性が欠落した常識人だった。


  常識的でかつ客観的。仕事ができるニンゲンの特徴

 ともいえるかな。それが僕たち、人間離れした頭と

 権力を持ったこの学校のリーダー格二人から君に対する

 人間的評価だ。それは君が部活に所属する以前以後とも

 変わっていない。どんな状況でも君は何者にも左右されず

 自己主張を抑え、現状をまるで100メートル後ろから

 見ているような的確でかつ迅速な判断力を兼ね備えた

 実に放置するにもったいない人材だ。本来なら部活に

 入らなかったら、君に生徒会に入るように声をかける

 つもりだったよ」

「!?」

「驚く必要なんてない。それだけ君は力のある人間だと

 思ってるのは事実だ。だが、それがどういうことかは

 言わずともわかっているね。人間性がない。つまり人間

 ではなく何かロボットか何かでしか扱えない。それは

 僕たち外部の人間からしても、多分自分からしても。

 だが、それは部活に入ったことで人間性を戻したようにも

 思えた。なんとも素晴らしいことじゃないか。


  だがそんな常識を理解した君だからこそ僕は君が

 どれほどに「人間ではない」と言える。


  常識と理解をもとにそう僕に六郷君について問うた。

 僕自身、君をそういう性格だと思っているし実際そうだろう。

 なのに君はそれを成そうとした。それがどういうことか

 わかるかい。わからない時点で君はもう人ではない」

「?」


 ダメだ。今、この長い文面で一体何を説こうとしている

のかすらわからない。そういう顔をすぐさましたの

だろう。俺の回答を聞かずに生徒会長が畳み込む。

身体は中に浮いたままだ。生徒会長は華奢な見た目

以上に筋力があるのか。


「わからないだろう? 君は実に都合がよく人間性を

 欠いている。それもバケモノじみているように。


  君は一体、何を思って”六郷君の秘密”を聞こうと

 したんだい。それが特に君だけの判断だというなら

 無論、君に聞くしかあるまい」

「だから」

「だから?」

「生徒会のニンゲンが困っているのをほったらかす

 なんてできないってことd」


「それは、秘密を明かすにふさわしい理由か」

「……」


「そこなんだ。そこなんだよ。常識を右脳から左脳まで

 叩き込まれているはずの君がそんな回答に至る

 はずがない。そういう何か私利私欲ためにどこか

 キレイゴトを正当化させているようにしか見えない。

 それもそんな慌てた様子で聞いてくれば余計そうだ。


  リスクとリターン。


  それを理解しているはずの君がそんな何者かの秘密を

 聞き出して活動をしようとするのは理屈に合わない。

 ならばその理屈を合わせる”すべ”を持っているという

 ことだろう。そんなのニンゲンがなせる業ではない」

「そ、そんなの聞かないと分かりませんよ」


 グイッ


 俺の身体が落ちる。さすがに疲れたのか俺の身体が

降ろされた。俺とどっこいどっこいか指2.3本程度しか

身長が違う生徒会長に片手で持ち上げられるとは

思いもしなかったな。


「だからそれがおかしいと言っているんだ。君は六郷君が

 なぜ「秘密」にしているかを理解してその発言に

 至っているのか。あの頭脳明晰、独立至上主義である

 六郷君がなぜ隠しておく必要があるのかを。


  僕はうらやましいんだ。この生徒会長である僕

 ではなく君がその鍵を握っていることを。その理由は

 わからないがこの僕よりも「勝っている」という

 事実が実に腹立たしい。僕ではなく君である必要性が

 あることがたまらなくはらわたが煮えくり返るほどに

 苛立ちを覚える。


  それをいとも簡単に平然と聞き出そうとしゃしゃり

 出てくる、実にくだらないその発想に至るのが余計に

 僕を立たせるよ」

「……」

「? どうしたんだい? いつもの詭弁で僕と楽しく

 話そうじゃあないか。今、黙ると君はもう僕が

 知る人としての神前 滉樹、君ではない。何か

 別のナニカにしか見えないよ。


  ……まだわからないようだね。君はいかにその情報が

 六郷君に不利益であり、発展性がないものだと

 理解していない証拠だ。それだけ自己中心的な

 ただの屑でしかないというのは非常に残念だ。

 あぁ残念で不毛でしょうがない。君がそれを望んだ

 んだ。見損なったよ」


 投げ出された俺の身体を見つめる。投げ方がきれい

だったらしく痛みはない。悪魔の力で痛みが弱まって

いるとはいえ、あれだけグイッと持ち上げられた後

だとどうにも体の様子が気になってしまう。


 その様子を見下げて、見飽きたかのように生徒会長は

そっぽを向く。


「君に秘密を話す必要性はない。それでどうなるのかも

 知らない無知な後輩に手を貸す義理はない。

 僕は誠心誠意をもって僕にとって大事な後輩であり

 相棒である”副会長”を守るよ。それと春休みの

 活動についてはわざわざ毎度のごとく僕に報告を

 しなくていい。


  今は君の顔すら見たくないからね。


  それだけのことをしようとしたんだ。よく考える

 ことができる「ニンゲン」になってから僕と

 ゆっくりお茶でも飲みながら話そうか」


 床にべたりと座った俺を再び見つめ、そのまま

てくてくと廊下を後にした。生徒会長はさきの

発言の時ですら、いつもの笑顔を絶やさなかった。

それがいかに俺にプレッシャーを与えたことか。


「……」


 俺はニンゲンではない。


 だから俺は「自分がヒトとは違う」この意味を理解

できないだけなのか。そして今だに生徒会長が

あれほどまでに俺に対して、あの態度を崩さなかった

そのわけすらわからない。


 そしてそんなことよりも問題なのが、結局副会長と

対等になり得るだけの情報を握ることができなかった

というどうしようもない現状だ。残った選択肢は

「記憶の消滅」か「俺自身の蒸発」か…… あるいは

負け覚悟での「再戦」か。どのみち、最善手が使えない

のはやむなしだよな。


 とりあえず今は学校を出ようか。特に俺の手元から

ミコンが離れているこの状況が不安をあおる。

それも俺のミコンが”ミコン”であることを知っている

人間が今この場にいるのだから、盗まれてしまっては

もうどうしようもない。


 その場を後にする。それが今の俺にできる最善に

して最後の手段だ。まだまだ春は長い。いつかあるで

あろうチャンスを待つしか今できることはない。


 俺は下駄箱へ戻る。その際にちらりと部室を

覗いてみた。ミコが言っていた通り、部室は

鍵がかかっていなく、なんとも不用心ではあるが

ここにきて盗みようがあるものとしては、お茶

くみ用のポットぐらいだろう。あるいはロッカーに

放置してあるもの……っていうかたいていは持ち帰る

べきなんだろうが数個は面倒だとかいってミコとか

義堂なら大事なものでも放置してそうだな。俺は

善良な生徒代表だから持ち帰った、というかそこまで

このロッカーに物を入れてすらいない。


 とりあえずおとといの忘れ物はなさそうだ。ポットに

入れたお湯もカビができないように捨ててある。

こたつの電源も落としてある。カーテンはもとから

かけていない。


「……」


 なんだろうか、この感覚。今から卒業するみたいな

よくわからないこの感情は。


 ってなんだ当然じゃないか。俺がいまから副会長に

やろうとしていることは自分の立場を失うことを

引き換えとしたものなのだ。それは俺が進級して

2年になったとて、いつものように放課後になれば

この使い古した体育倉庫にきてポットにお湯を

入れて、ほかの部員を待つなんてこともできない。


 する必要がないといえば聞こえはいいが、それは

すべてをなかったことにする選択に他ならない。また

ここでミコに「お茶」なんて言われてイヤイヤに

お茶を注ぐなんてルーティンが続くことはあるかも

わからない。


 懐かしいな。


 そんな言葉が似合わずとも似合う。つい先日まで

できていたことができなくなるのはどんなことでも

ノスタルジックな気分にさせる。


 だからこそ俺はこれからの選択と出来事に向き合う

必要がある。再びミコと義堂とここに集まるために。

自分の立場を守るために。だが俺の不注意ですべてが

消え去ることになるかもしれない。それだけは

なんとしても避けたい。たった一人で生きてきた

「俺」が初めて作った「居場所」なのだから。


 廊下はもうしんと静かだ。吹奏楽部はもう練習を

終えて帰宅の時間か? ……いや違うなこれは。

たぶん、新入生歓迎的な流れで演奏をするから

その練習ということで体育館に集まっているの

だろうな。体育館側にはいかないからわからないが

そんな気がする。廊下にかすかに流れる風が

そう教えてくれた気がするだけだ。確証はない。


 下駄箱を開けると隠してあったミコンが出てくる。

盗まれたり誰か別の生徒が触った形跡もない。

それをいつもの懐にしまい込む。こんなにも

長らく持ち運んでいると逆に懐に「何か」ないと

不安になってしょうがなかったんだ。


 外は小雨だった。それも傘を差そうか悩む程度の。

当然ながら俺は差さずに歩き出す。濡れたところで

どうってことはない。


「……?」


 校門は大きく開いたままだ。だがそれよりも……


「副会長……?」


 校門に寄りかかってこちらを見つめる一人の面影。

その面影はおとといのあの夜以降、もう忘れ去る

ことができないほど頭と目に焼き付いている。小雨と

夕焼けでよくは見えないが、シルエットだけで

判断ができてしまうよ。


「……」


 無言のままこちらを見ている。俺を見送るために

わざわざ校門で待っててくれた、なんてことでは

ないよな。


 だがあれは困ったな。そのまま無言でスルーすべきか、

一つ軽い会釈をして通過すべきなのか…… そのまま

井戸端会議に発展なんて展開はないと思うが。


 が、俺の考えとは全く異なった展開になる。


「……!」

「え!?」


 俺を見ているなと思った矢先、俺から逃げるように

立ち去って行ったのだ。はい?? 一体なんだあれは。

まるで意味が分からない。俺が「悪魔」で恐れ

おののいて逃げ出したなんて雰囲気でもない……


「ちょっと待てって!!」


 気が付けば俺はそのあとを追っていた。なぜかと

聞かれてもよくわからない。ただあの副会長のこと

だから「何か」意味がある行動なんだと考えたから

ってだけだ。


 小雨を振り切り俺は走る。目の前を俺から逃げる

ように走る副会長を見逃さないように。これじゃあ

俺が「不審者」みたいじゃないか。


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