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ダメな巫女娘に悪魔の加護を。  作者: 琴吹 風遠
My Name Is ...
146/446

146.忘れよう

 そして俺は後者を選んだ。こいつは口止めをする

しかない。それしか方法がない。


「****************」

「"具現召喚・デリトー"」


「お久しぶりですねぇマスター。……おっとこれは

 いわゆるピンチってものですね」

「"デリトー"、あの女から俺のすべての記憶を

 消せ。命令だ」

「御意」


 いつもノンキなヤツだが、こういう緊急時の対応が

素早いのはやはり俺の眷属らしいところだ。それに

何者かに俺の正体が露見してしまうことがあれば

早急にそいつを仕留めるように教育をしてある。


「お嬢様、すいませんが今見たすべては紛い物の

 淡い夢でございます。なので目覚めなくては」

「なっ、何」


 "デリトー"が副会長に向かって飛び込む。

副会長のその反応を見る限り、俺の霊感センサーの

バグではなさそうだ。


 霊感98


 これは俺を100としたときの霊を見ることができる

感じることができるパーセンテージだと前に説明

したことがあるだろう。義堂が30前後で、ミコが

ゼロ。ミコの家族、つまりは御前神宮の対魔の

エキスパートたちが80から90だった。80から

90でも十分高く、俺の眷属のほとんどを見ることが

できるぐらいだ。


 対して副会長の霊感は98。


 ほとんどどころか大抵の悪魔や霊を見ることが

できる、俺と同じぐらいの霊感を持っていた。

が、俺と同じでは決してない。ならば100のうち

残りの2すらも残らないはずだ。


 つまり副会長は、他人よりも圧倒的に霊感が

強烈に高い。それも悪魔に引けを取らないくらいに。


「ふっ!!」

「なにっ!?」


 何!? かわすのかそれを!?


 "デリトー"の能力は触れることで触れた相手の

記憶を消去させることができる。さらに言えば

"デリトー"が一度でも対象を触れることができれば

その目標は達成するわけであるが……


「私に何か?」

「くっ、かわされるなんてことは初めてですね」


 霊障というものは基本的には逃れられない事象の

はずだ。墓場とかいわくつきの廃病院だとかで

取り憑かれるなんてことは当然のようにあるわけ

であり、「その場」に滞在した時点で憑くための

条件がそろう。


 が、実のところそうではない。


 「その場」にいるのは当然の条件ではない。

例で言えば、前にミコをいじめていたアイツに

取り憑かせたときも俺は家に居ただろう。もう

アイツの名前は覚えていない。モブの名前なんて

覚える必要なんてない。


 って思ったけどアイツって確か俺と同じクラス

だったな。だったら覚えておかないとダメか。


「マスター、憑依はできないのですか?」

「あぁ、あいにく条件が揃っていない」

「そうですか」


 憑依とは、俺がいつも言っている「憑依召喚」の

ことだ。今、"デリトー"は「憑依召喚」ではなく

「具現召喚」している。直接的に憑依させれれば

こんなわざわざ目の前で相まみえることなく、

"デリトー"の能力を使うことができる。


 だが、そんな上手くはいかない。上手くいくほど

俺の能力は万能の二文字には程遠い。


 召喚に必要な条件はその対象の"名前"、"肉親"、

"血"、そして"毛髪"が必要だというのはずいぶんと

前に言ったはずだ。そのうちわかっているのが

名前だけで、肉親も毛髪も、ましては血の一滴も

手に入れていない。それが「その場」の条件が

不必要な理由でもある。


 俺の場合はその4要素が憑依に必要であるが

悪魔や霊によってその条件は異なる。さっきの

廃病院ならその場にいる以外にも実際に悪魔、

霊との接点が必要だし、他には呪いの仮面だとか

イスとなれば持っていることが条件になったり

する。


 条件というのは一つで済むほどおいしくない。

その条件が運悪くも(・・・・)揃ってしまったヤツに

しか憑くことができないってものだ。


「神前さん」

「な、何? どうした?」


「あなたは何者なのですか?」

「え、何者?」


 そうは言ってもこの様子だと俺の事を完全に

疑いかかっている。一応、"デリトー"の召喚の

様子も見られてしまっているし、本当にこの場で

記憶を消去させるしか逃げ道がない。


 今までの副会長のやりとりや学校生活を

全てなかったことになったとしても俺はここで

副会長を止めることを選ぶ。そうやって今まで

俺は生きてきた。だからいつものように思い出と

未来を天秤にかけ、何の感情もなく後者を

選ぶ。


「よそ見はしないでいただきたい!」

「はっ」

「はっ! お嬢さん、私のマスターに何か

 御用時なら私を通してからお話しいただきたい

 ですね!!」


 外部からしか見ることができないだけあって

見ていて苦しいものがある。もちろん全力で

"デリトー"に有り余るほどの魔力を送っては

いるが、それだけしかできない。


 俺が副会長を力づくで動けないようにすれば

話が早いが、それをした瞬間に副会長に


「俺が自分に襲ってくるこの悪魔の仲間」


 だと証明しているものだ。それにそんな簡単に

副会長を止めることが俺にできるかといえば

そうではない。


 本当はそのつもりだった。俺が悪魔の手助けを

したとしてもその記憶を消してしまえば問題は

ないのだから。だが、目の前で起きている

悪魔と人間のかわしあいを見ている限り、

あの副会長はかなりの身体能力の持ち主だと

とれる。100パーセント純正の悪魔でもあの

かわし様を見せる副会長に半人半魔の俺が

食い止めるだけのスタッツがあるとは到底

思えない。


 もちろん俺が狂暴化して止めてもいいが、

俺が自分自身を制御ができなければ"デリトー"を

使っての記憶消去が出来ない。ならばその

狂暴化に使うだけの魔力を全力で"デリトー"に

注ぎ込んだ方がましだ。


 だが、時間が経てば経つほど俺たちのほうが

優位に立てるはずだ。


「くっ」

「わたくしもあまり好かないのですが、消耗戦に

 持ち込むことにしました。人間が一番嫌う

 方法な故、特にレディーに使うのは癪ですがね」


 人間は肉体の消耗がつきものだ。対して悪魔の

"デリトー"は魔力さえあれば動く効率的な存在。

その二人が長く戦えばリスクをはらんだ人間側が

先に根をあげるのは当然の条理だ。


 さっきから"デリトー"の掴みかかりを紙一重で

かわす副会長だが、あの動きは義堂ほどではないが

かなりの身体能力が必要とするはずだ。それに俺の

魔力を送ることができるのももう限界だ。だが

副会長が落ちる前には間に合うはず。


「さて、そろそろですかね?」

「あなた、なんなの!?」

「教える義理はありません。私のことはもうすぐ

 忘れてしまうのですから」


 副会長の動きが鈍り始めた。それを見逃さなかった。


「隙ができましたね!」


 "デリトー"の掴みをギリギリのところでかわす。

だが、そのせいかよけるだけの体制を崩した。

それを掴みかかった右手ではなく左手で襲う。


「それでは」


 左手は顔をがっしりと掴んだ。肌に触れていないと

能力は発動しないらしく、唯一露出していた顔を

掴んだ。手は何を察してか手袋をしていて掴む

ことができない。


「……」

「……」


「? ……!!!?」

「どうしたのですか?」


「どうした」

「能力が


 効かない!」

「!!?」


 ガシッ!!


 副会長が"デリトー"の左腕を掴む。手袋をしている

からこそできる技だ。素手で殴った前の俺とは違う。


 そしてそのまま左腕を持ち上げ、捻り上げる。

「うおっ」と"デリトー"が言った時には顔から手は

離され、逆に"デリトー"の身体が倒れる。柔道の

投げ技を見ている気分だ。


「ふぅ」


 副会長が一息ついて暑そうに制服のワイシャツの

首元を開ける。本当なら男として見てはならない

女性の胸元を見てしまったわけだが、そんなやましい

考えなんて浮かばない。どころか驚愕した。


「こちらのおかげかしらね?」

「!!?」


 胸に隠し持っていたのは……札。


 そこにはよくわからない感じが乱列していたが

見逃さなかった、見逃せれなかった文字列がある。


「御前神宮」


 この4文字だけであの札がどういうものかを

証明しているものじゃないか。あれは対霊障用の

札だ。それも上位種悪魔の眷属をはるかに凌駕する

だけの力を持つ。


「そっ、その札は!!?」

「デリトー!!」


 そのあとのセリフを聞けずに倒れた"デリトー"に

上からとどめの一撃をかました。"デリトー"の動きが

止まった。死んではいないだろうが、これ以上は

動けない。これであの副会長から記憶を消すことが

不可能になった。ならば俺が狂暴化しt


「神前さん、もう一度問います」

「え」


「あなたは何者ですか」

「お、俺は」


 そのとき、俺は判断をしくじった。さっきと同じ

ように答えようとしたが、さっきまでは足止めが

いたからこそ会話が成立しただけであり、今と

なってはこの質問の本当の意味は……


 俺の油断を誘うため!!


「う”っ!」


 そう勘付いた瞬間には俺の目の前に副会長が

いた。それも俺のことを仕留めんとばかりの

スピードと殴りかかり方で。


 かろうじて直撃は避けたが、それでもこれだけの

早さがあれば十分に体制を崩す。それを副会長は

見逃さない。


 さっきの一瞬の油断でしくじったから、

 同じようにはならない。


「なっ!!?」


 そして俺は倒れた。"デリトー"にさっき

されたように顔を鷲掴みにされて、その勢いの

まま床に叩きつける。床に頭をぶつけてゴンと

鈍い音がしたが、意識がもうろうとしていないから

大丈夫なヤツだろう。が、目の前の脅威に対して

マウントをとられたことに変わりはない。


「もう一度、神前さん、あなたに問います」

「な、なんだよ」

「あなたは一体、何者なんですか」

「お、俺は……!!」


「ココー! 儀式終わったよー!


  ……ってあれ? 副会長なんでいるの……って!

 なんで副会長がココの上に乗っかってるの!?

 なんかあったの!?」


 ……


 ……なんとも空気の読めない登場の仕方をしたな。

だがミコ、ナイスタイミングだ。


「……はぁ」

「……」


 副会長が俺の上から立ち上がる。俺の身体が

自由になったが、それどころではない。


「神前さん、明後日の13時に生徒会室に来てください。

 少しお話があります」

「え」

「お話があります」

「……わかった」

「御前さんこれから部活ですか?」

「え? そうだけど?」

「そうですか。では遅くならないように頑張って

 下さい」


 そう言い残して再び暗闇の中に消えていった。

あの言い方は完全に俺に対する脅しだよな。


「ココ? どしたのさ」

「……」

「……ココ?」

「いや、なんでもない」


 その日は俺の提案で早めに上がることにした。

そしてその夜、自分のことを殴った。


 何とも言えないこの感情を打ち消すべく

バシバシと頬が赤くなるまで殴り続けた。


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