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ダメな巫女娘に悪魔の加護を。  作者: 琴吹 風遠
嗤う門には複来る
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128.反撃しよう

「みなさまミナサマ、この世界は外から

 来た野蛮なる悪魔によって、とても

 危険な状態です。気をつけてください」


 レオナルド・ダ・ヴィンチ屈指の名画

「最後の晩餐」の中で、絵の世界の住人の

ほとんどが呼ばれていた。ここは言うなれば

緊急避難場所だ。


「さ、さっきの新参だといっていたあの二人が

 まさか主様がおっしゃっていた、外部の

 者たちだっただなんて」

「静粛にー静粛にー。ですが安心して

 ください。私たちの手によって、彼らは

 拘束され、いまは何もできない状態になって

 います。ご安心をー」

「おぉ、さすがは主様だ」


 会場がざわつく。最初に悪魔が押し寄せてきた

といったときとは別のざわつきだ。それだけ

この主様への信仰心は深いということか。

そりゃそうだろう、あんな見た目と性格だ

とはいえ、丸々ひとつ分の「絵」を基底にした

世界を生成したのだから、その世界の住人の

信仰は主様へ向けられるのは当然のことか。


「ビビ、終わった?」

「おねえちゃんオネエチャン、終わったけど

 これでよかったの?」

「これでいいに決まっているわ。私たちは

 あの狭い場所から、私たちが好きなように

 つくり、私たちが好きなように描いた世界に

 やっと来たのよ。そんなことでここから

 出ていくなんていやだもの」

「でも、マスターはマスターだよ。私たちの

 えいよう? を運んでくれるのもマスターで

 私たちはこれからどうなっちゃうの?」

「それは……私たちでこの世界を広げようビビ。

 ほかにもこの「ガッコウ」という場所には

 絵はたくさんある。それをぜーんぶ私たちの

 世界にしよう」

「おねえちゃんオネエチャン、その話、もう

 6回目だよ」


 ”ムム”と”ビビ”の会話はほかの住人には

聞こえない。聞こえたところでどうなるなんて

ものはないが、二人は悪魔特有のテレパシーの

ようなもので話している。だから彼らに、この

絵の住人にこの世界が「神の娯楽」のための

場所だとは知られたくはない。知られたくはない。


「そ、創造主様」


 ざわつきがやまない会場に一人の白髪の男が

やってくる。彼は”ムム”と”ビビ”に直接

監視役につきたいと申し出た、ベートーヴェン

という作曲家だ。


「あら、どうしたの?」


「彼が……悪魔:コウサキが逃げ出しました!!」

「「……!!」」


 この言葉には会場も元のざわつきを戻した。


「主様、それは本当ですか」

「主様」「主様!」「創造主よ!!」


 呼び名が統一しない。呼び方なんて別に

どうでもよかったのだが、こんな形で先に

統一しとけばなと思う。


「んえーい! 静かに静かに! みんな

 大丈夫! ここはあなたたちの世界である

 以前に私たちの世界でもある。だから

 私たちがなんとかしてみせるわよ」

「「オォー」」


 歓声が上がる。が、あの縄がはずれた上位種

悪魔である彼が、どれだけの力を持つのか。

あのときは油断していたところを狙ったから

安全に拘束することができたものの、そんな

不意打ちが効かない、状況ではどうなるのか……


 そもそも、あの縄をどうやって解いたのか。


「ビビ、行くよ!」

「まっておねえちゃん」


 鏡の前で手をかざす。そして鏡は自分を

映さず、どこか別の場所を映し出した。

こうなれば別の絵への行き来が可能って

ことよ。それにしても彼らはこの構造を

いつ理解して、絵の中を行き来していた

のだろうか……


 それはどうでもいい、今は人質監視だ。


 が、証言同様、人質はいなかった。

ただ一人、ギドウとかいった男だけが

部屋にいる。そして肝心の悪魔:コウサキは

部屋のどこにもいない。縄もほどいた後は

なく、自分でゆるまったかのように乱雑に

いすの下に捨ててあった。あれを抜けた

ようにほどくなんて可能なのか…… あるいは

急に腕が細くなり、するりと抜けたかの

どちらかしか考えられない。


「おい、さっきのうるさいお前。どこに

 アイツが行ったか、言ってなかったか」

「……」

「そこのお前さんだ。何か言っている

 はずだろう!」

「おねえちゃんオネエチャン、その人

 様子がおかしい」

「おかしい?」


 確かにこの男、さっきのような

好戦的な顔つきをしていない。この手の

ニンゲンが罵倒や警告でびくつくなんて

ことはないだろうが。それはそうと

答えてもらわねば動きようがない。


「おい、おいと聞いている」

「……わ、わからねぇな。なにもいわず

 飛んでいきやがったから」

「嘘を付け。でもここにいないのは

 わかった。ビビ、私はここを離れる。

 どうせここから行ける絵なんて

 たかが知れてるわ」

「私は?」

「一応、この男を監視しておいて。

 ま、どーせ何もできないだろうけれど」

「わかった、何かあったら伝える。

 ベットベンつかって」

「私の名前で遊ばないでほしいのですが。

 さすがに創造主様であるあなた方でも

 承知しがたk」


 仕方がない。ここから近い絵は隣の

「東海道五十三次」という絵だったはずだ。

だが、なぜこんな絵がこの音楽室という

場所にあるのだろうか……


「う、うう」

「ビビ、お願いね」

「わかったおねえちゃん」


 ギドウはさっきから何かがおかしい。

それもさっきとは違った不可解さが

感じられる。まず第一になぜこんなにも

威勢がないのか。もちろん疲れたなんて

都合のいい解釈もあるだろうが、それじゃ

折り合いがつかない。単にそんな虫のいい

ことがあってはなるものかというだけだ。


「ぐ、ぐぐ」

「……」


 さっきから何か、疲れ以外の何か

変わった様子もうかがえるし、どうにも

こうにもまとめていうなれば、やはり

「おかしい」の一言に尽きる。


「……お、おい……」

「……?」


 誰かを呼んだのか? とはいっても

この場には二人しかいない。


「どうしたの? ニンゲン」

「……もう、いいのかよ……?」

「? 何が?」


「……イイヨ」

「? ……!!!???」


 そのときに”ビビ”はこの場でなにが

起きたのかを瞬時に理解したのだろう。

体中の肌という肌が、逆立っていくのが

感じられる。そして、同時に頭の中で

とんでもない音量の警鐘が鳴った。


 この男から離れろ。と。


 ”ムム”がギドウに向かってやったように

素早く、そのギドウから後ずさる。


「っ……!!」

「遅いなぁ、ビビ」

「!!」


 下がったはずの後ろから声がする。

後ろに下がったはずが、すでに後ろに

彼はいた。


 いや、彼らはいた。


「マ、マス、ター」

「はっ、なんだ? てめぇのマスター

 っつーのは知らねぇが、俺はてめぇの

 マスターなんかじゃねぇよ。ただ……


  今は俺がマスターだがな。


  ……あ”? んだよ、やっぱてめぇが

 こいつらのマスターってことでいいのかよ

 神前てめぇ。


  あぁ、そうだな。それにしても

 よくすぐに見破ったなビビ。さすがは

 俺の眷属ってところか……いいや、今は

 俺は俺じゃないか」

「!!!!」


 いまだに後ろを振り向けない。それも

すぐ真後ろから、聞き覚えのない聞き覚えの

ある口調の声がするというのに……!


「ど、どうやって……縄を」

「そりゃあ、ガッっと


  この世界はお前らが作ったんだろ?

 そしてその創造主様ってのがお前らなら

 そのさらに創造主様である俺なら、この

 世界の条理なんてものは範疇外ってもの

 だろ? だから、俺の常識はずれな部分

 プラス、義堂の腕力で引きちぎったって

 わけだ。


  だがよぉ、神前てめぇずっとなんてそれを

 しなかったんだよ。


  そりゃあ、これができるなんて考えて

 なかったからな。この世界にはよくある

 設定っちゃ設定だが、本来こうやって見える

 モノに関しては「肉体」の概念が存在する。

 けれど、どーせ”ムム”も”ビビ”もご都合の

 関係で、その概念を無視した世界にした。

 その通り、俺たちの肉体は今も音楽室で

 お休みしたままだろうし、俺たちの言う

 なれば精神だけがここにあるだけだ。


  で、どういうことだよ。


  だから俺たちは認識さえしなければ

 見た目何てなんにもない。だから俺は

 その精神ごと、義堂の精神とマッチさせた。

 ようは、義堂に取り憑いたんだよ。そして

 物理的に縄から抜け出したってわけだ」

「……」


 こんな話をしている間でもわかる。背後から

圧倒的で虚無的な強大な力が背中を通じて

前に突き抜けるように発していることを。

うしろを向くな。そう頭が叫んでいるのは

わかる。だが、ここで後ろを向かないわけには

いかない。


 そして、後ろを向いた。

 ……


「あーあ、見られちまったぜ。ったく

 んな恰好見られたくなかったんだが……


  それにしても義堂、お前の精神力って

 ハンパねぇよな。普通の人間なら多分、

 10秒も持たずにあの人間の姿を保てずに

 いただろうな。


  けっ、よく言うぜ。ったく”これ”が

 神前てめぇの本来の姿に酷似してるって

 思ったら、正直反吐が出るぜ。


  あいにく、悪魔である俺にはそれは

 誉め言葉にカテゴライズされるな」

「*************!!!!」


 ”ビビ”はさっきから何も言わない。

何も言えないという方が正しいだろうが、

それも限界だったのだろう。俺たちを見る

なり転移の呪詛を唱えて消えていった。


「あ”! あん野郎逃げやがった!!


  あぁ、これはしくじったけど……まぁ

 なんとかなるだろ」


 実をいうと”ムム”と”ビビ”で能力が違う。

そりゃ当然であるか。どちらも同じ能力を

持っているなら、片方がいたらそれで十分

成り立つし、それなら「二人で一人」なんて

言葉も似つかわしくない。


 ”ムム”は絵の世界の生成。

 ”ビビ”は絵の世界の転移を司る。


 ”ムム”は絵の中で、その絵が動くように

絵の中に絵の世界を作る。もちろんこれで

十分なわけではなく、ムービーと言える

だけの力はない。ただ、絵の中でワイワイ

楽しく過ごしているだけであり、それを

アウトプットする能力がない。


 その出力をするのが、”ビビ”であり

先に仕留めておきたかったほうだ。


 この世界は俺たちがわからない程に

巨大なものだと仮定する。そうなれば

”ビビ”がいる状況で動かれては、奴らを

捉えようがない。逆に”ムム”がいても

世界を作るだけであり、そこに逃げ込む

なんてこともできない。だからこそ

あの姉妹が分かれていた、あの瞬間を

狙ったのだが、現実はうまくはいかないか。


「それで、これからどうするんだよ。


  とりあえず、そこに倒れてる

 ベートーベンを起こすか。


  あ”? んでこいつは倒れてんだ?


  そりゃ誰だって今の義堂の姿かたちを

 見たら気絶の一つはしてもおかしくは

 ないだろ」


 俺は、いや義堂は、いや神前は……

あぁあまどろっこしいなぁ! とりあえず

俺たちはベートーベンをたたき起こす。


「お”い! 起きろ!!」

「……ん、んん? わ、私はなにw

 う、う”あぁああああ!! でたぁあ!」

「うるせぇ!!」


 こうなるかもなと思ったから、先に

ベートーベンをこの部屋から出て行かせた

のだが、こうなった以上後には引けないか。


「ベートーベン」

「はははははははいいいいいい、、、、

 なななななななんんnっでええええしょ」

「落ち着けぇ! なにも今から襲って

 血肉をむさぼるわけじゃないからs


  があああああああああああ!!!」

「でぇああああああああああ!!!」

「義堂ー! この体で遊ぶなよ! それに

 それけっこう陰湿だからやめろ!


  カッカカ、面白れぇビビり方するな

 お前。あーなんだったか、ベートーベン

 っつったか……」

「……も、もうそれでいいよ…… それで……

 き、キミはさっきの二人でいいのか?」

「そう言ってるだろうが。


  いや厳密には言ってないけどな」

「そ、そうか…… やっぱりミスターコウサキ

 キミは悪魔なんだね」

「今更遅いよ。この世界を壊すって言ってる

 時点で察しが付くだろ」

「い、いや、この姿を見たら、なんか

 納得が、いくと、いうか、なんと、いうか」


 そうだよな、今まで俺は人間の肉体という

決められた姿の束縛を受けていただけあって、

こんな悪魔らしい姿なんて見せたことは

なかったもんな。はたから見れば前の俺は

悪魔ではないと言っても過言ではない。


「それで、この部屋の鏡の場所を教えて

 ほしいんだが」

「あ、あぁそれならこっちだよ」

「わかった、それじゃあ後は俺たちに任せて

 お前は他の連中と合流してろ。それで

 そうだな…… 今の状況を伝えてやって

 あげたほうがいいだろうな」

「お、あぁわ、わかった」


「……よぅし、それじゃあ俺たちも行動に

 移るとするか。


  うし、とっとと行くぜ神前。


  そのつもりだ。俺もそんなに

 待てる性格じゃないからな」


「「世界を壊すぞ」」


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