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ダメな巫女娘に悪魔の加護を。  作者: 琴吹 風遠
嗤う門には複来る
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125/458

125.逃げよう

 俺が目覚めたのはある部屋の中だ。

といってもさっきと同じく、西洋風の

装飾があることに変わりはなく、

俺たちが目が覚めるまでに、絵の中

から脱出できたわけでもない。


「あ”おきたか」


 義堂が隣で俺を呼ぶ。聴覚には

問題はなさそうだ。が、今はそんな

ことよりも気になることがある。


 この手にかかっている縄だ。


 いや、俺だってそこまで鈍くなど

ない。あの時俺が威勢よく宣戦布告し、

それと同時に二人組みに襲われ、

俺と義堂は不意打ちになすすべなく

気絶。そのままこの部屋に運ばれ

気がつき今に至る。というのが

大方の流れなのだろう。そしてこの

縄は俺たちが逃げれないように

縛ってあるだけのもの。

……ではない。


 この縄は感覚だけで言うと

若干ではあるが、魔力をまとっている。

いや、だからどうというわけではない

のだが、そのせいで十分にこの

状態では力が出せなくなっている。

なんでこの代物がこの絵の中にある

のだと思うが、それはさすがに愚問か。


 ここは絵の中であり、俺たちを

拘束したであろうアルジ様の世界

なのだ。”デリトー”が模倣した

だけのあの部屋よりも言ってしまえば

タチが悪い。


「俺はどれだけここにいた?」

「んなわかんねぇよ。俺もさっき

 気ぃついたんだ」

「そうか」


 見たところ義堂にも同じような

縄がかかっている。が、仮に同じ

ものだとしたら義堂には別に魔力

云々は関係がないよな。でもこうして

黙って律儀にお縄にかかっている

様子からして、縄自体の拘束力で

動けないのだろう。あるいは来る

べき反逆のときまで力をためている

だけなのか。


 そのどちらかが定かではないが

どの道、今は動くべきではない。

何より俺たちをここに連れてきた

張本人らと対面すらしていない

のだから。


「てことはここに来た時も、その

 ここに俺たちを連れてきたヤツは

 見ていないと」

「あぁ、ったりめぇだろうが。んな

 寝てるっつーのにどうやってそいつを

 見るんだよ」

「だよなぁ」


 といっても、ずっと言い続けているが

敵の様子はざっとわかっているし、ここで

急に衝撃の事実が飛んでくるなんてことも

ないだろう。


 とりあえず今の俺たちの状態を伝える

としたら、縄で縛られているのはさっき

言ったとして。俺も義堂もイスにガッチリ

縛られている。イスの形状からこの絵の

中の部屋に元々あったモノを拝借したの

だろうな。それをまぁ律儀に二人分を

用意して、それぞれに座らせてから

背もたれの後ろで縛ってあると思われる。


 「と思われる」というのは実際はそう

ではないかもしれないから、一応保険と

いうことでいっているだけで気にしなくて

かまわない。俺の首が360度回転でき、

なおかつ首の上下運動に固定されている

状態でも十分に稼働できればの話で。

手首に感じる”なんとなく”のイメージでしか

ない。が、それでも十分あっているとは

思うが。


「義堂」

「黙れ」

「いきなりひどくない!!?」

(馬鹿、ちげぇよ。あの部屋の角から

 ”あの気配”がするんだ。ありゃ

 こっちにくるんじゃねぇか?)

(そこまでわかるの!?)


 おまえすげーよ。お前を部員に

誘った俺を讃えたいわ。


(それで、その気配っていうのは)

(いや、実際みねぇとわからねぇが

 タダモンじゃねぇってのはわかる)


 そりゃあ上位悪魔の眷属が一人だもの。

たかが人間ごときが太刀打ちできる

相手ではない。


 といってもその上位悪魔である俺も

こんな状況では太刀打ちの”た”の字も

ないがな。あのときに油断した俺の

責任でもある。


「こんにちは、ニンゲンさん」

「「……!!」」


 俺たちの背後から声がした。

義堂が驚いている様子だという

ことはこんなにも近くにいた

というのに気配がしなかったという

解釈でいいだろう。


「……さっきっからいたのは

 てめぇか」

「私じゃなくて妹が見ていたの。

 ほら、ビビも来なさい」


 義堂の言うとおり、部屋の奥から

こそこそともう一人出てきた。確かに

義堂の感じていた気配というものは

当たっていたようだな。


「おねえちゃんオネエチャン、どうして

 私を呼んだの」

「これでもマスターの前なのだから

 礼儀正しくするのは当然よ」

「おねえちゃんオネエチャン、でも

 マスターはもうマスターじゃない

 っていっていたよね」

「ビビ、今はそれは言わない約束」


 やはり俺のミコンから出ていった

時点で、俺の配下から降りることを

目論んでいたのか。別に俺はそれに

対して文句は言わないし、それが

正しい「判断」だと思っている。


「お久しぶりですマスター。

 このようなご無礼をお許しください」

「こんな状況でよくもまぁいけしゃあ

 しゃあと礼儀云々を語れるな


  ”ムム”」

「あら、すっかり忘れられていると

 思っていたのに、非常に残念」


 ”ムム・ビビ(英語:movie)”


 俺の名づけ方の都合で不思議な

名前になっているが、これはこういう

ものだと思っていてくれ。それでも

英語でなんとなく言いたいことがわかる

とは思う。単純に日本語でも使う言葉

「ムービー」を「ム」と「ビ」に分けて、

2回続けるだけだ。


 ムービーというのは今では動画などの

画面上で動くものを指すものであるが、

実際は「映画館」という意味が正しい。

が、ここでは前者の意味を用いることに

する。この二人の悪魔は動かない二次元

作品を動画のように動かす事ができる

ようになる。それでどうやって何か悪い

ことが起こるのかと言われてもそれも

よく聞く話だろう。ハリーポ。ターの

階段のところにある絵みたいなものだ。


 そしてもうひとつ疑問がある

だろう。なぜ、悪魔が二人なのかと。

それも簡単だ。二人でひとつだからだ。


 もちろん悪魔のシステム構造上では、

あの二人の悪魔は、れっきとした二人の

悪魔ではあるが、その悪魔としての

力は二人に二分してしまっている。別に

このような現象は珍しくもないが、

独断よく見るものでもない。


 先に答えを言ってしまうと、あの

二人の悪魔”ムム””ビビ”は元が

一人の人間であったからであり、その

人間が多重に人格を持っていたのだ。

だから、死んだことにより悪魔として

人格分の二人に昇華した。


 なぜそんなことができるのかと言われても

それが悪魔のシステム構造であり、べつに

これがイレギュラーなわけでもない。


 悪魔や霊としてこの世にとどまるのは

何かしらの強い意志があるかないかで

決まる。それは前に”ノーティ”が

俺の眷属になったときに言っているはず。

ならば二人分の強い意志があるなれば

二人分の悪魔になりえるということだ。

ただし、母体がひとつしかないため

悪魔としても能力は二分化される。と

いうことだ。


 多重人格者が生前、何を思って

執着があったのかなんて今ではもう

聞くに不毛なことだ。


「あ”? 神前てめぇ知り合いかよ」

「あぁ、そうだな”昔からの仲”と

 でも言ったところかな」

「は?」

「それはそうと”ムム””ビビ”俺の

 ミコンに戻って来い。俺とこいつが

 ここにいるのはそれが目的で、こんな

 場所で縄で縛られているわけには

 いかない」

「おねえちゃんオネエチャン、マスター

 まだ泣き言を言っているよ」

「しーっ、あまり大きな声で言わない」


 聞こえてますよー。


「わざわざ私たちのことを迎えに

 きてくれたのは結構なことです。

 ですが」

「戻る気はないと」

「そりゃそうよね。だから私もビビも

 ここに残る。ここに残って、ここに

 いる住人たちと過ごすの」

「なににも縛られない自由なくらし」

「そう、私たちはここで手に入れたの。

 だからそれをみすみす手放すなんて

 愚案はいらないの。私とビビは

 こんな日をいつかいつかと待ち望んで

 いたの」


 これはだめだな。一向に話が進まない。

できれば暴力沙汰になりたくはないの

だが、やむなしといった感じか……

とは言ったものの動ける状態ではない

のも確かで、隣でギリギリと縄を引き

ちぎろうと躍起になる義堂も俺と同じ

ことを思っているのだろう。


 それにこいつらを見てわかった

ことがひとつ。


「ちょっと1つ聞いていいか?」

「はい、なんでも」

「……はぁ、やっぱりお前ら、俺が

 ”絶対に”動けないって確信がある

 風に見えたからな。


  俺を縛っている縄、これは俺の

 ミコンから持ち出したものだろ」

「ええ、もちろん」


 はぁ、そりゃ俺でも無理なわけだ。

この縄は魔力を持っているとは思ったが、

まさかその魔力の出元が俺だった

とはな。この縄は俺のミコンから持ち出した

俺を経由して強化される縄だ。だから

俺が力を込めて引きちぎろうとすれば

俺から魔力が抜かれて、俺が弱体化し、

縄のほうが強化される。


 矛盾とはこのことだな。


「それじゃあ、そっちの男を縛っている

 縄は……」

「マスター、それは2つ目の質問。

 契約違反です」

「こんな縄できつく縛ってる時点ですでに

 契約違反だろ。それじゃあ”ムム”

 じゃなくて”ビビ”にひとつ聞くよ。

 これでいいだろ」

「なんだか屁理屈くさいなぁ」


 けれども俺はさきに”ムム”に

「ひとつだけ」と言っている。何の

問題もないだろう。


「それで”ビビ”。あいつを縛っている

 縄はここにあったのか?」

「おねえちゃんオネエチャン、答えても

 いいの?」

「別にいいわビビ。それで何が変わるわけ

 でもないしね」


 どんだけ俺は警戒されているんだよ。


「ここの縄は強いの。絵の中のものって

 いうのは基本的に”壊れない”から

 頑丈に作られているの」

「そういうシステムなのか……」

「そういうシステムなの」


 返事がそっけないな…… よくある

構図ではあるが、陰気な妹とよく話す

姉っていったところか。しかし、なぜ

こいつらは同じ人間だった同士で

姉妹のように言い合うのだろう。


 いや、これ以上は考えてはならない。

悪魔にした張本人である悪魔:神前 滉樹が

考えてはならないことだ。


「なんか、その人からは悪魔の香りが

 しなかったから普通に縄で縛った。

 マスターは悪魔だから、特別な縄で

 縛った。どう、マスター痛い?」

「いや、縛られている以上痛くないと

 言えば嘘になるが、やっぱり痛いものは

 痛いよ」


 そんな軽快な解答をしている間にも

俺の思考回路はめぐりにめぐっている。

どうやってこの縄をほどこうか。仮に

ほどけたとして、義堂を縛っている

縄は俺がほどくことができるのだろうか。

あるいは、義堂が自力でこの縄をほどく

ほうが効率的か。


 そして開放されても”コイツら”

相手にこの絵から出ることが可能なのか……

考えるだけで、課題があふれてくる。が、

そのどれにおいても先にこの縄をほどく

ことが最優先だな。


「それとマスター、もし私たちをここに

 残してくれるというのであれば、そのまま

 何事もなかったかのように開放して

 あげます」

「え」

「おねえちゃんはやさしいのです」

「そんなことではないわビビ、ただ単に

 このままだと何かしらの手段でこの

 縄を引きちぎるなりして、そのイスから

 立ち上がり、私たちに挑みに来る。

 それでも今の私たちはあなたよりも強い。


  ね? マスター?」

「……」


 あぁ、悔しいことにそのとおりで、その

有様がこの拘束された状況なのだから。

俺にはあの時、いかに集中していなかった

とはいえ、俺の眷属の動きが見えない

はずなんてない。しかし、それも見えなかった

というなれば完全に俺が「絵の中」では

下手に出てしまうと証明しているものだ。


 が、その理由なんて考えるだけひとつ

しか思い浮かばない。俺の手元にはミコンが

ないのだから。


 音楽室で寝ている俺の本体はもちろんの

ことながらミコンを持っている。しかし

こんな非現実的な場所に行くとなれば、

実態のあるミコンは置いていくしかないし、

俺がこの場所に降り立ったときに、俺の

手元からミコンが消滅しているのは確認

してあった。からこそ、俺はこいつらと

もめることなく事なきを得たかった。

というのも前にぼんやりと言ったが俺の

力を最大限に引き出すにはミコンの存在が

欠かせない。ようは俺は今本調子ではない。

さらに言えば、ここは目の前にいる創造主が

作り上げた世界であり、どの事象において

どのようにうごくかも見当がつかない。


「マスター私たちには勝てない。だから

 かえって」

「そう、ビビと話し合ってそうしたの。


  マスター、あなたは何も見ていない。

 そう、何一つみていない。だから

 マスター、おとなしくここから

 きえることをオススメしますよ?」


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