120.マヤと話そう
「その恰好、やめてもいいんだぞ?」
「今から着替えたら私が恥ずかしい恰好を
しているって認めることになるわ」
「認めてんじゃねーか」
マヤはまだモッ〇ルだ。といっても
顔も丸ごと覆ってマジモンの着ぐるみと
化しているわけではなく顔だけ出る
タイプの着ぐるみを着ている。
「それにしてもこんなのよく
見つけたよな」
「これもうちの事業の一つだからね。
前も言ったけど先見の明があるから
こういうサブカルチャーが本格的に
日本の立派なカルチャーになると
わかった瞬間に色々と準備をし出した
から」
「お前んち何でもあるんだな」
いいなーその能力ー。
「ココも着る?」
「着ねぇよ!」
「ほらあるよ。ワニ〇ーとト〇ケン」
「なんでそんな微妙なポイントのキャラ
持ってくるんだよ! もっとあった
だろ、ティラ〇ーとかマカ〇ンとか!」
「あるけどココには手に負える」
「手に負えるってなんだよ」
つーか全部、甘城かよ! もっと他の
アニメの着ぐるみはねぇのか!!?
「というかそのままで本当にいいのか?
一応、俺はここに”ある”取引のために
きたんだから、そんな恰好じゃ文字通り
格好がつかないわ」
「別にこの小説「ラブコメ」ってくくり
なんでしょ? だったら真面目パートも
こんな流れで進んでも構わないでしょ」
「かまうわ」
つい最近、人の死を扱ったガチ真面目パート
やったばかりなんだから、そんなメタ発言を
するんじゃない。それと着ぐるみイコール
コメディーじゃねぇぞ。
「それにしてもココ意外とアニメなんて
知ってるんだね」
「そりゃあ、一応これでも元ネットの住民
だからなぁ。否が応でもアニメみたいな
現実ではない、二次元系の情報は耳には
するけど」
だって学校行ってない数年めっちゃ暇
だったんだもん。そりゃインターネットにも
手を出すわい。
「それでも知識は少ないほうだよ。用語なり
なんなり程度知っているくらいだ」
「それでもそういうキャラだってわかれば
いいよ。それよりもここには話に来たって
言ってたけど」
「あぁ、それは」
「あ”ーちょっと待って! その前に逆に
聞きたいことがあるから! それ先に
聞かせて!!」
「え」
俺に聞きたいこと? そんな秘密らしい
秘密なんて俺は隠しているつもりはないぞ?
このときの俺は屋上の鍵の窃盗の件を
一切忘れているのであった。
「なんか聞きたいことでも?」
「本田のこと」
「それはノーコメントで」
「えー」
あーそうだね。確かにそうだね。
情報通な彼女はそういう人のうわさ
なりに興味があるんだった。
「というかなんで本田の話を俺から
聞こうとするだよ」
「そりゃ本人から聞けないからに決まってる
でしょ。そんな興味本位でこういうことは
聞けないからね」
「興味本位で聞こうとするなよ。つーか
なんで本田の話を知ってるんだ?」
「だって私、生徒会よ? 特に忌引きとかの
特別欠席なんかの情報を持ってるのは
当然って言えば当然よ」
生徒会って意外といろんな仕事に
手を回しているのか…… やはり俺は
生徒会に入るべきではなかったな。
だってめんどくせぇもん。
「それで、本田があなたたち「異能部」の
部室に偶然入っていくのを見てたから
その本田の休んだわけに何か関与して
いるんじゃないかってね」
「……
君のような勘の鋭いガキは嫌いだよ」
今回はアニメネタ回なんだな。っていうか
俺が勝手にセリフをそうしているだけだけど。
「ほらー! やっぱり! それで」
「だとしてもノーコメントだ。俺だってあの
一件に関しては胸が痛いんだよ」
「えー、そんなそんな、ここには今
私たちしかいないことだしいいじゃん」
「モッ○ル相手に話していると思うとなんか
気が抜けるからやっぱ脱げそれ!」
まじめな話もまじめに聞こえんわ。
「今は無理フモ」
「思い出したかのように語尾をつけるな。
なんでだよ? 本家よろしく中の人
なんていませんってか?」
「いやその中の人が着ぐるみ一枚しか
着ていないだけなんだけど」
「……」
……
「あ、もう一回言うね。今この部屋には
私たちしかいないんd」
「言い直すな! 意味変わるから!!」
そういえばその手の話で思い出したけど
マヤお前に一発ぶちかましてなかったな。
特に今なら着ぐるみを着ているわけだし、
子供(30歳前半:高校生)相手にぶん
殴られるのは仕方のないことだろ?
「なんか悪い顔してる! やっぱり私の
身包みを」
「”き”と”み”を間違えるんじゃねー!
……じゃない、そもそも脱がす気ねーわ!」
閑話休題
「それでやっぱり話すのは無理と」
「聞くならやっぱり本田本人にしろ。それで
情報が足りないというならつぎ足すし
それ以前に聞けなかったら、その話は
聞くなってことだろ」
「しかたないか」
当然だろ。個人のプライバシーを守った
節度ある行動だと自負しているよ。
「それじゃあ、あの薬は?」
「あの薬っていうのは……”あの”薬か」
「ええ、”あの”薬よ」
あの薬はまだ残っている。マヤがあの
部室に残していったのは1パック分、
つまりは6錠だ。そのうちミコがうっかり
飲んでしまったのが2錠だから残りは
4錠。もちろん誰も飲まずに俺のロッカーの
中で管理している。
もう二度と使いたくないけどな。
とっとと捨てたいくらいだもの。
「捨ててないの?」
「いや、あれって一応さ、お前からもらった
貰い物って扱いだから捨てるにも捨てられ
ないよ」
「……
本音は?」
「いつか適正用途ができると信じている」
「やっぱり下種な考えの持ち主だよねあんた」
当然、悪魔ですから。ゲスどころか
カス下郎な思考だって持っているよ。
つい前は否定してしまったが、本質上
大当たりだ。大大大当たりだ。
「それとさ、前にここに来たときに
「記憶抹消剤」がどうとかいってたけど
それって本当にあるのか?」
「本当よ」
「……」
本当なのか。あのまま冗談ってことで
スルーしておけばよかったかもな。
「けど、あれって副作用がやばいから
あんまり使いたくない代物なの。
だからはなから使う気なんてなかった」
「副作用?」
「あ、言ってないね。あの手の薬には副作用が
あるの。もちろん前にミコちゃんに飲ませた
やつにも、とんでもない睡魔が襲うって
いう副作用があったでしょ」
あ、あれって副作用の一部だったのか。
てっきり、前にマヤが言ったとおりに疲れて
死んだように倒れこんだだけかと思っていた。
「何か勘違いしている気がするからいって
おくけど、副作用にもしっかりとした
理由があるからね。前に言ったけど欲望の
まま限界突破して活動したから睡魔が
襲うんだよ」
「あ、そういうシステムなのか。だったら
記憶抹消剤は?」
「頭痛、それもヤバイほどの。
あの薬の詳しい効能を言うと「飲んで
1時間の記憶をなかったことにする」もの。
感覚的にいえば時間が飛んでいるイメージね。
飲んだら軽いめまいの後には1時間後に
なっているってこと。もちろん空白になった
1時間はぼーっとしないしいつもどおりの
活動をするよ。
ま、それが頭痛につながるんだけどね。
いってしまえば記憶になぞの時間の空白が
できるんだから脳はそれを補うべく、頭の
中のありとあらゆる記憶を探しまくって
その空白の1時間を埋めようとする。
その際に脳に甚大な負荷がかかるから頭痛が
起きるって事」
俺の眷属”デリトー”とは違う記憶の抹消の
仕方をするのだな。”デリトー”はある特定の
事象についての記憶のみを一時的、あるいは
恒久的に忘れさせることができる。対して
その薬はどんなことがあっても1時間分の
丸ごとの記憶を削除する。内容で切るか
時間で切るか違いか。そう考えれば悪魔
”デリトー”のほうが使い勝手がいいの
かもな。
「何? ほしいの?」
「いや、それはいらないわ。できれば何かと
使えそうだからもらうだけもらいたい
のもやまやまだが、そういうものでも
ないのだろ?」
「そうだね。あのビy、薬は試験的に作った
ものだからじゃんじゃん使っても
よかったんだけど、あいにく記憶抹消剤は
完全にうちの商品だから簡単に
つかうわけにはいかないわ」
もう媚薬っていっちまえよ面倒くさい。
そういえばテスト使用の一環として
俺たちにあの薬が届いたんだったな。
さすがに「商品」となっているものは
もらうわけにはいかないか。せめて
金を出して買うっていうのが常識だ。
「……もしかしてだけど、ココが
私に聞きたいことってそれ?」
「あぁそうだよ。さっきから取引する
っいってただろ。
それじゃあ本題なんだけどさ。
”ある”薬を買いたいんだ」




