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ダメな巫女娘に悪魔の加護を。  作者: 琴吹 風遠
始まり始まり
12/445

12.巫女と祓おう

神前(こうさき) 滉樹(こうき)……そんな名前は知らんが

 貴様、この俺と話せるとは一体何者だ)


 前に、霊はいる(・・)という認識があって

やっと存在できるものだといったはず。

しかし、俺がイレギュラーなだけであって

普通、霊の憑依とはそういうものだ。というか

それ以外に、霊が人に憑くという事態には

陥らない。陥るはずがないのだ。そして今、

相澤は"メア"のせいで嫌なほど霊に対する

認識が高まっている。と、同時に同じく

"メア"のせいで精神が不安定な状態と

きたものだ。


 ただの(・・・)霊にとってはこれほどまでに

憑きやすい優良物件はないだろう。


 今、相澤は別の霊に取り憑かれている。

それも、活動条件を「夢の中」といった具合に

絞らない能力の霊に。


(俺のことはどうでもいい。貴様、いつから

 この女に憑いていやがった)

(なぁに、適当にそこらを回っていたらちょうどいい

 カモが死んだように寝ていたものでよ。これは

 憑いてくれって言ってるようなもんだぜぇ?

 ま、どうも先客がいたんで俺が活動できる

 限界っつーのがあったがな)


 寝ていた。ということは俺たちが一度解散して

いる間に憑いたのかコイツ。クソっ、迂闊(うかつ)だった。

俺の放った憑依霊"メア"は夢の中でしか悪夢を

見せることができない。つまり、起きているならば

悪夢を見ないのだ。だというのにミキは何かに

怯えるように、ここ4階の教室に逃げ込んだ。

そう、まるで何かに追われるように。


 追われるだと?


(貴様、まさか"チェイス"か)

(ほぅ、俺の名前を知っているのか。本当に

 貴様は何者なんだ……


  あぁ、なるほどな。人を模した悪魔か貴様。

 それもさっきの先客の(あるじ)だろう)


 悪魔にも種族というものがある。俺は上位種の

悪魔と契約した「上位種」の悪魔であり、その

俺が召喚した悪魔、霊にも上位種とはならずとも

ほどほどの高い位の種族となる。


 そのため、相澤に憑いていた"メア"が体の中で

派閥を利かせていたことで、他の取り憑いた

霊は活動できなかったが、俺が何も考えずに祓って

しまったため、この憑依霊"チェイス"が相澤の

体を蝕む主導権を握ったのだ。まさか"メア"を

祓ったのが裏目に出てしまうとは……


 "チェイス(英語:chase)"


 この憑依霊は意味そのまま「追う」や「追跡」

する能力を持っている。何者かに「追われる」

という感覚を植え付けることで恐怖心をあおる

憑依霊で、かつてどこかで見たことがあったため

俺は名前を知っていた。だが、確かここまで

強い霊の類ではなかったはずだ。宿主となる

ミキの精神的な状態がこんな状態なだけあり、

"チェイス"の能力を底上げしてしまっている

のだろう。これはやっかいだ。


(説明は終わったか? 俺はいま飯の時間なんだ。

 邪魔しないでくれよ。な? わかるだろ?)

(いや、そういうわけにはいかねぇんだ。

 俺はこの女を助けるってほざいたヤツと

 協力するって約束したんだ。悪いが、お前には

 ここは引いてもらうぞ)

(ふん、なら話が早ぇ! ここでくたばってろ!!)


 相澤が上から俺を床に押し付けた。低級の

憑依霊でも、ここまで能力が上がれば対象を

『洗脳』することもできるのか。俺が悪魔

として"チェイス"を殺すことはできるが、

その場合はもれなく宿主、つまり相澤ごと

精神を殺すことになってしまう。


 それはさすがに決行するわけにはいかない。

宿主を殺さずに霊だけを取り除くのは『浄化』

であり、それこそ巫女や僧侶のできる技だ。

悪魔の俺にはそんな芸当はできない!


「そこまでだーーっ!! 悪魔めえぇーーっ!!」


 どこかで聞いたセリフだな。というかお前、

来るの遅すぎだろ! かれこれ約1話分くらい

階段を上っていたのかよ!!


「私は、御前の一族の末裔にして、最強の巫女。

 "御前(みぜん) 小恋(ここ)"! ミキちゃんの

 体を蝕むあくどき者よ、滅するがよい!!」


 ///ババーン///


 その効果音は必ずついてくるものなのね。

よーく働く効果音担当(自称巫女本人)だな。


(その恰好……な、なぜこんなところに巫女が!?)


 "チェイス"が怯えている。が、その巫女には

巫女としての才能はない。怯える必要はないのだが

この茶番をもう少しだけ眺めていようと思う。


「神前君! ミキちゃんの体押さえといて!」

「お……おう」


 俺は相澤を引きはがし、逆に後ろからミキの腕を

締め上げた。ミキが嫌がって暴れているが悪魔の

人並外れた筋力をなめないでもらいたい。ただ

憑依しただけの霊で身に着けた力相手に負ける

わけにはいかないのでね。自称巫女はその場で

目をつむり、手を動かす。


「阿毘羅吽欠裟婆呵…………」


 俺は詳しくは知らないが除霊に必要なおまじない

みたいなものだろう。その間、浄化されると察したのか

相澤はさらに狂ったように暴れだした。


「(くそっ!!離せっ!!)」


 ミキと"チェイス"が同時に叫んだ。人間の

感覚でいう、つい声に出てしまったといった

感じだ。多分、おまじないの中盤あたりに

差し掛かったであろうところで早くも

"チェイス"は気づいてしまった。


(…………この巫女、さてはフェイクだな。

 さっきから全く浄化される雰囲気が

 感じられないじゃないか)

「臨兵闘者皆陳裂在前……」


 うわ、やっべぇ。一度この自称巫女に

もしかしたらこのおまじないは最後まで

唱えて初めて効く(たぐい)のかもしれないが、

効いていないことは事実だろう。先に自称巫女に

「効いていない」と言ったほうがいいのか。

いや、それだと俺がバッチシ霊が見えてるという

ことを公言してしまうことになる。


(チッ、なめやがって…………いいだろう、

 この女の体にはもう飽きた。俺の体の能力は

 この女のおかげでかなり高まった。それも

 カモを選ばないくらいにな……へへ丁度いい、

 この「巫女もどき」には俺の実験台になって

 もらうか!)


 そういうと"チェイス"は相澤の体を飛び出し

自称巫女に向かって突っ込んだ。ここまで力を

つけると乗り移ることもできるのかよ。そして

自称巫女の体に憑依するつもりだ。


 だがこれはある意味、俺が知りたい情報の

一つだった。霊感0の人物が憑依の対象の場合、

霊が憑くと一体どうなるのかを。


 そして見る限り、その答えはもう出ていた。


(よしっ! 乗り移ったz……あれ?)

「我建超世願必至無上道…………」

「……」


(あれ? なんでだ? こいつ、すり抜けるぞ?

 ……!! マズイ!! やはり何かに憑いて

 ないと存在できなくなるっ!)

「同発菩提心………………」

「……」


(うおぉ一瞬だから大丈夫だと思ったのだが、

 まさか、こんな事になる、と、は……。

 あ、もうだ、メ……)

「往生安楽国…………!!!」


 …………パーン…………………


 自称巫女が唱え終わったとともに

相澤に憑いていた憑依霊"チェイス"は

消えていった。相澤はそのまま落ち着いた

表情でうなだれ、自称巫女は額から

流れた汗をぬぐい、満悦の顔をした。

そして俺はこういわざるを得なかった。


「「なんか思ってたのと違う!!!!」」


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