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ダメな巫女娘に悪魔の加護を。  作者: 琴吹 風遠
SOMA
116/446

116.話をまとめよう

 これで俺たちに一つ実績が増えた。


 が、これは除霊と言ってもいい一件なの

だろうか? それに根本的な除霊自体を

できていない。言ってしまえばそれを見た

上で放置したに等しいのだから。


 だとしても今回のミコはよく頑張った。

今までのような、俺が御膳立てして得た

”頑張ったで賞”なんてものと比べれば

全然オーケーだ。パーフェクトだ。

100点満点中100点まではいかなく

とも99点を出してやる働きを見せたの

だから俺から文句の一つとして言うこと

ない。申し分ないということだ。


 残りの一点は、その走馬灯とわかった

上でそれすらも解決することだし、たかが

人間無勢にそれができるとは思えない。

となればこれは99点満点中99点

ってところか。満点じゃないか。


 そして事の顛末を告げるとしようか。


 本田が忌引きで休んでから一週間後、

再び本田が「異能部」を訪ねた。ここ

一週間はずっと親戚のあいさつだったりと

忙しかったのだろう。ずいぶんと疲れた

顔をしていた。


 もちろんではあるが、あの日に

ミコが何も言わずに去ってしまったことで

言い逃したお礼の言葉を伝えるために

来た…… わけがなかった。


「どういうことだ!!!」

「……ごめん、ホンダ君」

「ごめんじゃないんだよ!!! なんで

 ばーちゃんが死んじまったんだよ!!」

「……」


 本田のばあちゃんは近いうちに死ぬ。

それがあの家で起きた走馬灯を映す現象が

意味することで解明されたとして「死」の

事実は変わるなんてことはない。ミコが

ここで本田に詰め寄られる意味なんて

一つとしてないし、そのまま俺と義堂が

「やることはやった。だからやめろ」と

止めにかかってもよかった。


 だが、そうはしない。

 ミコがそれを望んだからだ。


 家族を亡くす痛みなんて自分以外はわかる

わけがないし、それを他人のせいにする

なんてよほど人間ができていない奴の

やることだ。とミコは言った。それでも

俺たちはあの場所であの時、あの人を

救えなかったからこそ、その痛みを何か

別の形で受けなくてはならない。とも

ミコは言ったのだ。


「何か言えよ!! おい!! まさか

 ばーちゃんが死ぬってわかってたのか……」

「……」

「おい、嘘だろ……嘘だろ、おい」

「ごめんホンダ君……全部知っていた」

「……!!」


 本田にはもう理性について問いただす

ことも意味がない。それほどに取り乱した。

そしてなりふり構わずミコのことを

突きとばした。ただでさえ「異能部」の

部室は狭いんだから至極やめてほしいが、

それでも俺も義堂もその様子を見ている。


 もちろんそれもミコが望んだことだ。


 逆上して突き飛ばすかもしれない。

分が悪かったら殴られるか蹴られるけど、

どんなことがあっても止めないで、と

念を押されているのだ。


 それが私にできる唯一の義務。

 そうされなければ私は巫女として、

 人として、失格だと言って。


「なんで……なんで助けなかった!! 圭佑が

 どんだけ、どんだけお前らを、お前らのことを

 恨んだかわかってるのか!!?」

「うん、わかっている…… だから今だから

 話したいことがあるの」


 そして飛ばされたことで汚れた服を手で

払うと、あの家で起きていた一連の現象の

意味を伝えた。


 圭佑君が見たのは走馬灯だったこと。


 本田のばあちゃんが死ぬこと。


 そして、


 それをなぜ本田たちに伝えなかったかを。


「……じゃあ、もうばーちゃんは死ぬ運命

 だったってことか……」

「そう、人の生き死にを操るなんて私……

 じゃなくても誰にもできないことだから。

 それを自分で受けて止めてほしかったから

 言わなかったの」

「……そう、か…… そうだったのか……

 いや、ごめんな……気が動転して突き飛ばし

 ちまって…… 医者も言ってたよ、死因は

 単純に「寿命」だって。それでも俺と

 圭佑はお前らが何かヘマをしたんだなって

 恨んで仕方がなかったよ。そうか……

 そういうことだったのか」

「……」


 俺たちはヘマなどしていない。

だからこそ何もできなかったのだが……


「いや、ここにはお前らが一体何考えて

 俺たちの家を出て行ったかを聞きたかった

 だけなんだ、今日は。これからまた

 圭佑つれて親戚のあいさつ回りに行かないと

 いけないからじゃあな、もう行くよ」

「あっ! ちょっ!!」


 ミコが出ていくのを止める前にさっさと

本田は出て行った。まるでもう俺たちの顔を

見たくないと言わんばかりに。


「……それで、どうなんだミコ」

「はぁ、やっぱりこうなっちゃうか…… ま、

 覚悟していたことだしね。もうこんな

 目に合うのはこりごりだけど。でも

 これで私としては十分、とも言えないけど

 やるべきことは全部やったって思う

 ……かな」

「ったく、んなこと言ってるくれぇなら

 あん野郎、ぶん殴ってやってもよかった

 んだぜ?」

「もっと穏便な考えってできないの!?」

「できねぇ」

「すがすがしい!」

「ま、てめぇがこれで満足だっつーなら

 何もいわねぇよ。俺たちもそのとおり

 なんにもしなかったんだからよ」

「いやー、ホンダ君が私に手出したときの

 ギドー君の顔のほうがよっぽど……」

「? どうした?」

「あれ? ココは?」

「あ”ぁ? そういやさっきまでいたのに

 どこ行きやがった?」

「まぁ、荷物もあるしすぐ戻ってくるでしょ」


 ___________


 場所は教室。違うこととしたら

俺がいつも受けている教室ではないことだ。

具体的にいえば、ここは俺とミコのクラスの

教室ではない。義堂とマヤ、そして本田の

クラスの教室だ。


「何? 俺もう行くけど」

「圭佑君、俺たちのことをなんて言ってた」

「だからさっきも言っただろ。恨みに

 恨みまくってるって」


 教室には俺と本田の二人だけしかいない。

その本田も今から帰るといって荷物を

まとめていた。


「なら本田、お前はどう思った? あの時

 俺たちが嘘をついて、言ってしまえば

 事実を隠してしまった俺たちにまだ何か

 言いたいことでもあるんじゃないか?」

「……いや、ないよ」

「……そうか」


「……いや、そんな感傷的になるなよ。

 さっきの御前さんの話を聞いて自分でも

 考えたんだ。もしあのときにばーちゃんが

 死ぬってわかっていたら、あの場で

 無理にでもお前らに真実を突き詰めて

 いたらなんてさ。でもそのどれを考えても

 やっぱりばーちゃんは死ぬことに変わりは

 ないし変えることもできない。そんなこと

 わかりきっていたというのに感情に

 任せて乱暴になっちまった。


  だから正直に言うとお前らには感謝は

 しているんだ。


  俺、あのときに家に残っていなかったら

 何も考えずにアパートに戻っていたよ。

 そしたらばーちゃんから最後の言葉を

 聞くことすらできなかったかもな。ははっ」


 乾いた笑みを浮かべる本田が俺には

なよなよしく見える。自分の弱さを自覚

したかのように、自分を嘲るように。


「そうだとしても俺、そして圭佑は

 お前らを一生恨むよ。そうしないと

 この複雑な思いのぶつけ先がないからな。

 あぁ、わかってるよ、これは俺たちの

 ワガママなんだ……許せ」

「それも含んでミ、御前はおばあちゃんの

 死を受け止めてくれと言っていたんだg」


「ふぅ、お前もそうだが、あんたらは

 家族を亡くす痛み苦しみを知らないんだな」

「え」


 ミコは痛いほどにそれは知っている。

だから受け止めるしかないと悟ったとも

言えないでもないが。


「俺、そんなに強くないからさ。ばーちゃんが

 まだどこかで生きているって頭のおかしい

 発想が浮かんで仕方ないんだ。わかってるよ。

 もちろんこの世にばーちゃんはいないと

 わかってるさ。そうだとしてもどこか俺に

 都合がいい妄想が未だに消えないんだ」

「……」

「神前、あんたにもそういう家族がいるだろ?

 その家族がもし死んだときの痛みなんて

 わかるはずもないが」

「……


  あぁ、俺にはわからない。

  わかるはずがない」

「だろ? そろそろ俺いくわ。外にもう

 父さんが車を止めて待ってる」


 外には見慣れない軽自動車が一台、校門の

目の前に止まっていた。車の窓ガラスが

夕日で反射してて、中がまったく見えないが

あれには本田の父がいるのだろう。

結局、本田の両親とは一度も会わなかったな。

あったところで何になるんだとおもうが、

少なくとも挨拶のひとつはしたかった。


 が、この本田の様子じゃ顔すらも

あわせられないのがオチだよな。


 気がつけば教室に本田と荷物が消えていた。

廊下からは軽快なタッタッタという

走り遠ざかる音がこだまする。


 ふと、俺は制服のふもとからミコンを

とりだし、軽くなでて見せる。


「家族、か……」


 家族の喜び、痛み、楽しみ、死。そんな

ものは俺にはない。本田のように痛々しい程に

わかるはずなんてない。


 そう考えると俺はやはり人間ではないんだ。

人の皮をかぶったバケモノなのだと自覚する。

ミコと出会ってからの数ヶ月、自分はまだ

「ひと」を名乗れるのではないかと思ったが、

根本はもう「ばけもの」のそれに等しい。

それは俺の一生の中で味わいつくした感覚

ではあったが、こんな形で想起するとはな……


 ミコたちには何も言わずにここにいる。

そろそろ部室に戻らないとな。帰り際に

ふと、ほっと息をついた。さすがに室内な

だけあって息が白くはならないか。


 それでもあの日に食べたラーメン屋の

にんにく臭いメンツユの味がいまだに

のどの奥から消えてくれない。


 気持ち悪いあの感覚が。


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