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ダメな巫女娘に悪魔の加護を。  作者: 琴吹 風遠
SOMA
115/446

115.帰ろう

 先に言っておくと次回のミコカゴは

「116.話をまとめよう」だ。だがその

前に今回の一連の流れを軽くまとめて

おこう。


 俺たちは本田から家に出た霊の除霊を

頼まれた。だが、それは霊ではなく

本田のばあちゃんが死ぬ前に見ている

走馬灯を具現化させたもので、俺の

考えていた霊の常識が通用するもの

ではなかった。だから体が変化したり、

泣いたり、笑ったりしたともいえるが、

俺の知っている死生観とは全く異なった、

人間らしい現象ともいえる。


「「……」」


 帰り道の俺たちはまるで葬式の帰りの

ようなテンションだった。いや、葬式の

帰りのテンションで当然といえば当然だ。

しかもそれを助長するかのように天気は

小雨だ。といってもほんの少しだけ

振っているか? と思うくらいのもので

傘を差すほどのものではない。


 今日の朝には雪が降り、今は小雨と

まったくずいぶんと気分屋な天気だな。


 前回に話は戻るが、俺が話を切り出した

内容について話していない。俺はあの時

ミコにはこう伝えたのだ。


「ばあちゃんが死ぬことを悟られずに

 家族と過ごさせてやるのが俺たちの

 最後の仕事じゃないのか?」と。


 ミコはその通りに実行してくれた。

お化けを追い出すための”おはらい”は

全てダミー。……ではないのか一応は。

結局あの”おはらい”はお化けを追い出す

ために使わず、他の霊が近づくのを

防止するために使われた。俺と義堂に

前にかけたものに似ているがあれほど

強力なものではない。


 しかしそれでの最大の目的は、やはり

お化けがいなくなることを伝えるための

ツールとしての役割だろう。


 お化けは無事、祓ったことにはする。

しかしまだ危険があるかもしれないという

念を押すことで圭佑君、そして数日後には

アパートに戻ってしまう本田を見事、

ばあちゃんの家に残せたのだ。


 これで本田のばあちゃんは晩年に

一人悲しく、逝ってしまうことはない

だろう。まさか本田が俺たちの忠告を

無視してアパートに帰ってしまった

なんてオチがない限りな。


「……」

「……」

「腹減ったな」

「……あのさぁ、義堂君よ? 今ってそんな

 セリフ言える雰囲気じゃないのは見て

 とれるでしょうに」

「腹が減るもんは仕方ねえだろ。それに

 神前にしちゃ、てめぇらしくねぇな」

「え」

「ミコはてめぇが言った通りのことを

 やりのけたんだ。だっつーのにてめぇは

 浮かねぇどころか反吐でも出そうな

 顔してんだよ」


 あぁ、義堂の言う通りだ。ミコは俺の

言った通りのことをやってくれた。俺の

選んだことで最高にして最悪の選択だと

俺だって思う。だからこそ俺はミコが

やったことに対して何も言えないし

何か言う資格なんてない。ましてはそれを

喜んだり悲しんだりすることもできる

はずがないんだ。


「いいのギドー君、私がそうしたいから

 そうしただけであって、ココは何も

 してない。だからそういうのは今は

 なしにしよ」

「……あぁ俺も、んな胸糞わりぃ結末で

 気味がわりぃんだ。んな突っかかる

 なんてことするつもりもねぇし、そう

 聴こえちまったらわるいな」

「……」

「でも、ココはなんであんなこと言ったの?」

「え、そりゃあ……」


 死ぬ者は死ぬし、生まれる者は生きる。


 俺にとって人間の生き死になんてそんな

程度の感覚でしかない。だとしても生きている

人間には死んだ人間の思うことなんて

分からないし、死んだ人間にとって

生きている人間の考えなんてわからない。


「……死ぬってわかって生きたくない。

 それが人だから。そうだと思っている

 から俺はミコの意見には賛成なんだ」

「……ココってなんかおじさんみたい」

「はぁ?」


 いや合ってるよ! 実質30代前後だもん

俺の実年齢は。見た目はまだまだ10代半ば

だとしてもね。


「今回のこれって私のおじいちゃんが逢った

 ことと全く一緒なの。だから私もそれに

 合わせて色々とやってたんだけど……


  でもその時と違うのが”それ”なの。


  おじいちゃんはそれが走馬灯だって

 わかった瞬間に走馬灯が見えていた家の

 家族みんなにそれを伝えたの。それが

 おじいちゃんにとって一番の間違い

 だったって今でも後悔していた。

 だから私にこの一件を話してくれた

 って言ってもいいのかな。


  ギドー君、もし家族の一人が数日

 経ったら死ぬって聞かされたらさ、

 ギドー君ならどうする?」

「あ”? 俺か?」


 義堂は親にあきれて廃工場に住んでいる。

そんな言ってしまえば親不孝者にそんな

質問をしても一般的な回答が出てくる

とは思わないが……


「俺は別に何とも思わねぇかな。だが、

 んな俺でも学校に行かせるなりのことを

 してくれてんだ。感謝はしてる」


 あ、意外と家族のことは考えている

んだなぁ、義堂にしては。


「だが俺じゃフツーの奴らとは同じことを

 言えるとは思わねぇが…… ま、悲しむ

 んじゃねぇか、フツーはよ?」

「そうだね、ギドー君の言う通りでその家族は

 みんな悲しんだの。もちろん最初は家族

 全員信じなかったけど、おじいちゃんが

 それが走馬灯だって理由とかを必死に

 話すにつれて信じてくれたんだって」

「ふーん、んでその言い草じゃどーせ

 いいことはなかったんだろうな」

「ギドー君も同じことをすると思うけど、

 その死んじゃう人、そのときは確か

 その家のおじいちゃんだったんだけど、

 そのおじいちゃんに家族みんなで

 優しくしてあげたんだって。それで

 家族みんな死んじゃう時も一緒にいて

 あげたってさ」

「それじゃただのいい話じゃねぇか」

「ううん、それが一番いけなかったんだって。

 その家族がおじいちゃんに


 「今までありがとう」

 「死んでほしくない」

 「みんないるから安心して死んで」

 「死んでも私が何とかする」って


  言い合ったんだけど……それが

 おじいちゃんの最後の日々を無残なものに

 したって。


  聞いててわかるでしょ? まるで

 もう自分が死んだみたいに扱われている。

 自分はもう死ぬんだ。生きる価値なんて

 ないんだ。葬式の前から自分の葬式の

 準備をされている気分で、ほんの数日の

 生きれるはずの時間すらも死んだ。


  そのおじいちゃんの葬式の前に

 家族がそんなことを愚痴るばかりの

 晩年だったことを告げたの。


  それから私のおじいちゃんは何度も

 そのことを悔やんだ。逃れられない

 死を迎えることは早ければ早いほどいい

 なんてことは決してない。そう思い

 知らされた瞬間だったって……」

「……」

「だから私には、もし同じようなものを

 見たら、決してその人が死ぬことを

 伝えないでって、そう教えられたの。

 だから私はあのときに、家族に何も

 言わずに帰ろうって提案したの……


  でもココがそう言ってくれたおかげで

 私にとっても、ホンダ君のおばあちゃんに

 とっても、誰も悲しまない唯一の道が

 あるんだってわかったの。だからココ、

 最初にそう言ってくれた時は本当に

 ありがとうって思ったんだよ」


 そう淡々と意見を言うミコはそれでも

道の先を見るばかりだ。話し相手である

俺たちの顔を見ずに。その理由は察しが

ついているから何も言わない。


「ミコ、お前……」

「ま、んなこと言っても俺たちはなんも

 できなかったんだ。だから俺たちゃ

 もういいんだよ、十分だ。それに……


  あいつらの前で、その泣き面

 見せなかっただけ十分だろ」

「やー! ギドー君見るなー」


 あーあ義堂、それ言わなかったらミコが

泣いているなんて読者に伝わらなかった

ってのに。


 というかミコはさっきから泣きそうで

泣かないみたいなギリギリの表情をずっと

していただけあって、義堂のそのセリフで

”とどめ”をさされたのだろう。


「だってぇ……圭佑君に、嘘ついたから……

 つい、おばあちゃん、大丈夫だって……」


 ガキんちょみたいに泣いてる。見ていて

見苦しいが泣くなと言っても泣き止むもの

でもないだろう。


「……はぁ、お”い神前、腹減ってるだろ」

「え、いや」

「腹減ってるか聞いてんだよ」

「あ、はい空いてます!」


 なんだこの誘導尋問……


「お”いミコ」

「グジュっ、何?」

「飯食いに行くぞ、神前からもなんか

 金出してくれるだろうからよ」

「なんでぇ!?」


 時間はお祓いもやっていたことをあり、

時間は正午を過ぎに過ぎて、2時近くだ。

確かに朝にコンビニで買ってきて以来

何も食べていないし、いつもよりも朝を

食べる時間も早かった。そりゃ腹が

空いても仕方がないか。


 だとしても義堂! なんで俺が金を

出す前提なんだよ!!?


「ズズッ、味噌ラーメンがいい」

「お、だったらうめぇとこ知ってるぞ」

「泣いてる割に要望だけは言うんだなオイ」


 だからなんで俺が金出す前提なんだよ。


 でも今回はミコなくして解決なんて無理な

話だったし、いくらかは払ってやっても

いいかもな。


 だからって味噌ラーメン丸ごと一杯は

払ってやらねぇからな!!?


「いいよ、餃子の一皿くらいはなら」

「うし決まりだな。ほら、んなしょげた

 面してねぇで行くぞ、ミコ!」

「……うん」


 小雨はまだやまない。それでも悲しい

顔をするなんて俺たちらしくない。

俺たちはこの一件に関しては解決したし、

俺たちはこの一件に関しては何も

出来なかったことを自覚したんだ。

それだけでも大きな糧としてこれからも

頑張るしかないさ。


 おいしいご飯でも食べてな。


「お”ら、行くぞ」

「ゴシゴシ、わかった」

「……」


 2日後の月曜日、本田は忌引きで

学校を休んだ。そしてその日の新聞の

お悔やみ欄には本田の名前があった。


 享年は80歳だった。


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