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ダメな巫女娘に悪魔の加護を。  作者: 琴吹 風遠
SOMA
114/446

114.正体を明かそう

 前回で本田家のお化け騒動は全部解決、

万々歳な結末になった……


 ような雰囲気ではないのは

察しが着くだろう。


 その話をしておかなくてはこの話は

全く意味がわからないし、俺はこの場で

説明しなくてはならない義務がある。


 というわけで話はさかのぼる。


「霊の正体?」

「そう、霊の正体がわかったの!!」


 ミコがそういって納骨堂に戻ってきた

シーンまで戻る。


「んな、御託はいい。とっととその霊が

 なんなのか教えろ」

「はい、えーとですね。端的に言えば、


  あれは霊に見えて

  霊じゃなかったの」


 ……


 ?(義・ω・)(・ω・神)?


「あのーミコさんやい、それは一体

 どういうことですかい?」

「つまりね、あれは霊に近い霊じゃない

 存在だってこと」

「う”-ん、だめだやっぱりよくわからん!」


 え、どういうこと? 霊に見える霊じゃない

何かだって?? そんなやつがいるのか?

それこそ”ヴァンダー”の言っていた

霊からかけ離れた存在だ。


「前に私のおじいちゃんがこの現象に逢った

 ことがあったって言ってたけど、これって

 本当に珍しいんだってね」

「え、じゃああれは誰なんだ?」


「あれはね多分

 ”ホンダ君のおばあちゃん”だと思う」

「……」


 んんん? 俺の思考回路が未だに

追いついていない。ということは何だ?

本田のばあちゃんは家族そろって

アパートに移っていると思いきや

どこかに隠れて俺たちの目の前に

現れたってことになるが。あるいは

アパートから死ぬ気でダッシュしたか、

その二択しか俺の中には残らない。


「あ”? んなわけねぇだろうが。

 あいつらはこぞってあの家には

 いなかったんだぜ? そりゃさすがに

 冗談がきついってもんだ」

「あれ? ギドー君って霊になる条件って

 前に言ってなかったっけ?」

「は?」

「人間、というか生きているモノはその

 生きている間に何かしらの強い思いを

 抱くことで、それが糧となって霊になるの。


  問題はその”生きている”ってことの

 決め付け方なんだよ。


  例えばそうだね…… 例えば、とある自分に

 とっての大事な人が死んじゃったとして

 その人の仕草、言葉、クセはずっと自分の

 心の中に残っている。なんてお話あるでしょ?

 それは本当にその人が心も体もすべてが全て

 死んだってことになる? また逆もしかり、

 生きているけど身寄りも好きなものも嫌いな

 ものもない人っていうのは生きているって

 言えるの? 人の生きる死ぬって意味合いは

 その人によって違うし、もっと言えば昔の

 原始人だって生きているー! って強く

 思っていればそれは生きているなんて私たちの

 世界では言われているの。


  つまりはね、生きているから霊には

 ならないなんてことはなく、生きている

 人でも霊になりえるってこと」

「……お、おう……」

「ただし、それにはやっぱり”死ぬ”ほどの

 強い思いっていうのが必要で、それは

 ほとんどの人ができない。


  けれど、それを本田のおばあちゃんは

 やってのけた。そしてお化けとして

 この家に現れた」

「それが何か大事なのか?」

「そうじゃないと説明ができないことが

 多すぎるの。そうだね…… よくわからない

 と思うけど、


  具体的には霊じゃないから

 「霊の常識」が全く通用しないの。


  ま、それにおじいちゃんは苦戦した

 って言ってたけど」

「霊の常識が通用しない……」


 その時に俺の中でストンと何かが納得

した感触があった。


 俺は今まで、何かの霊としてあいつらを

見てきていた。そして、そう思うにつれ

霊とは言えない特徴があらわになり、俺は

この騒動が大事だと思っていた。冗談だと

思っていた”ヴァンダー”のセリフが正しかった

ということか……


 あれは霊から離れた存在。だからこそ

霊として扱うことなんてできない。できる

はずがないのだ。


「前にさギドー君、そのお化けがスーッと

 いなくなったって言ってたよね? それも

 実は霊にはできない芸当なんだよね。

 後は霊じゃないから霊感なんてものは

 関係ないし、霊みたいに「何か」欲する

 ような行動はしないの」


 俺が疑問に抱いていたものを全て

「霊じゃない」からと解決していく。


「そんなことってあんのかよ?」

「本当はあり得ないっていっても過言じゃない。

 けれどできないことはない。それも

 生きている人がとてつもない思いを

 抱いていることが難しいだけで」

「つーか。だったら本田のおやじでも

 いいんじゃねぇか? そっちのほうが

 バケモンとして出やすいんだろ?」

「だから霊にならないで霊みたいなことを

 するのは生きている人じゃないと

 できないって言ってるでしょ! それに

 ちゃんと本田のおばあちゃんが正体

 だって証拠もあるんだから」

「?」

「さっきおばあちゃんのところに会いに行って

 「好きな事とおじいちゃんとの思い出」は

 なんですか? って聞いたんだ。そしたら

 「料理といつも重い料理皿を持ってくれる」

 ところだって」

「それが何か関係に?」

「ココって確か台所で見かけたんだよね?

 そして居間でいなくなったとも言ってた

 でしょ?


  多分、おばあちゃんはこの家での出来事を

 思い返すように霊として出てきている。


  それも前に私のおじいちゃんが体験

 したことの一つなんだけどね…… だから

 台所でココが見たのは丁度、完成した料理を

 居間に運ぼうとしている最中で、そのあとは

 居間の手前でおじいちゃんにお皿を渡している

 シーンだったってこと」


 追憶を具現化しているってことか。

そんなことが可能なのか。人というのは

やはり甘く見てはならないってことか。


「んなことできるのか?」

「それしか考えられないんだよね実際……

 それに二人出てきていたというのは

 おばあちゃんと一緒にいた人を同時に

 映し出しているからだよ」

「つーことは」

「そ、実はあり得ないって言ってたけど

 本田のおじいちゃんがそこにはいた。

 けどそれを出しているのは間違っても

 おばあちゃんであっておじいちゃんが

 意図して出しているわけじゃない。


  だからおばあちゃんから離れて、

 自室にいったおじいちゃんまでは

 映せない。だからギドー君が言ったように

 スーッと消えたの」


 確か本田の部屋は元は本田のおじいちゃんの

ものだったと言ってたな。だから

本田の部屋の目の前で消えたのか。


 その間にも俺はその追憶で出てきた

としたら何が俺たちの目の前に出てきた

のだろうかと考えていた。


 が、それはミコが全てわかっていた。

 とっくのとっくにわかっていた。


「昨日に話は戻るんだけど、おじいちゃん

 との思い出をおばあちゃんに聞いていた

 ことは知ってるでしょ? その話の

 中に「孫をよく寝室に寝かせていた」って

 話が偶然出てきたの。


  私、あとは圭佑君の隣で笑いかける

 霊がいたっていうのは私や圭佑君に

 向かって笑いかけているんじゃなくて

 そこに寝ていた子供に向かってしていた

 ことだと思う。だから圭佑君が見たのは

 ”赤ん坊のホンダ君に笑うおばあちゃん”、

 ココが見たのは”赤ん坊の圭佑君に笑う

 おばあちゃん”ってことになる」

「じゃあ泣いていたのは? まさか子供が

 泣いているのをもらい泣きしたって

 訳でもないだろ」

「うん違うね。その孫の寝ているところの

 話が出た理由がおじいちゃんが関係

 していたからなの。


  おじいちゃんも同じように

 あの寝室で最後を迎えたんだって。


  だからあの寝室はある意味で

 思い出深い場所って言ってた。だから

 そのお化けは”死んだおじいちゃんを

 見とるおばあちゃん”だったってこと」


 あぁ、そういうことだったのかと

どんどんとわかっていくこの感じが

たまらなく好きだ。だとしてもまだ

解決できていない霊がいる。


「じゃあ風呂場で出たのは……?」

「それは」


「ばーさんとその親だろ多分」


 義堂が全てを理解しているように

言った。俺にはまだその理由が

わかっていない。


「そうそう、ギドー君ファインプレー!」

「んな考えりゃそうだよな。泣いたり

 笑ったりっつーのはばーさん本人が

 やってることだろ? だったら赤子

 みてぇに泣いてるっつーのはやっぱ

 赤子のばーさんで、風呂場なんだから

 体でも洗ってる最中だったってとこか」

「半分あたりで半分はずれかな?」

「はあ”?」

「見えるようになるのは印象が強い

 思い出だってことは分かるでしょ?

 だからそんな赤ん坊の時に印象が

 強いって思う一番の瞬間って……」


「生まれたとき……?」

「そう、当たり。ホンダ君のおばあちゃんが

 生まれたのは病院じゃなくてこの家で

 あそこのお風呂場だって言ってたから

 それで合ってると思う。


  これで全部分かった?」


 すべてが理解できた。俺の霊として

見ていたあの夜のあの光景をまさか

霊感ゼロのミコに全て明かされるなんて

想像もしていなかったけどな。


「んじゃ、解決は楽だな。そのバケモンを

 出している張本人に「出すな」っつー

 ように言えばいいんだろ?」

「……」

「んなド直球に言わねぇが、ま、そんな

 具合で解決はできるだろ? な、ミコ」


「解決はできない。したいけどできない……」


「あ”? んでだよ?」

「話が戻るけど、この現象が”強い思い”で

 できていることだってことに関係

 しているの。


  なんで「強くなっている」かわかる?


  それを考えればすぐにわかるよ。それと

 今まで出てきたお化けのことを思えば」

「あ”ぁ?」


 俺もそれはよくわからない。なんといっても

霊でなければ俺の専門外なものなのだから。


「あ、言い方が悪かったね。大事なのは、


  お化けが出てきた順番だよ」

「順番だぁ? …………………………………あ”」

「あ、ギドー君わかった?」

「あぁ、わかったよ……わかっちまったよ……

 ミコ、てめぇはこいつをなんとかすることは

 できねぇのか、まじで?」

「それはさすがに私じゃ手に負えないし、

 仕方のないことだから」


 え、ええ?? ごめん、俺だけよく

わかっていないんだけど?? ミコも

義堂もなるほどみたいな顔をしているけど

そんな俺だけ理解が乏しいみたいじゃん。

ミコは順番だと言っていたけど一体何が

大事なんだ……?


 まずは圭佑君が見た風呂場の生まれた

ばかりのばあちゃん。


 次にまた圭佑君が見た赤ん坊のころの

本田に笑いかけるばあちゃん。


 そして俺たちが見た料理を運ぶ

ばあちゃんとじいちゃん。


 そして寝室でじいちゃんの死を悲しむ

ばあちゃん。


 最後にまた寝室で赤ん坊の圭佑君に

笑いかけるばあちゃん。


 うん、時系列には沿っているが別に

どこかおかしな点があるだなんて……


 ……


 ……違う。


 俺もさっきから言っていただろう。

「追憶」と。その通り追憶で意味は

合っているが、なぜこのタイミングで

本田のばあちゃんが追憶をしているのか

が重要なんだ。そしてミコも言っていたが、

これは強い思いから成る特殊な現象だと。


 俺は知っている。この現象の名を。


 今までの思い出を一気に強い思いから

追憶、フラッシュバックすることを。


 これは思い出に浸っているわけではない。


 これは、


 「走馬灯」だ。


「走馬灯……」

「……そう、おばあちゃんは寝静まった夜に

 走馬灯を見ているの。さっきも言った

 けど、これには”死ぬ”ほどの強い思いが

 必要だって。


 おばあちゃんはその通り、


 近いうちに”死ぬ”から、


 こうやってお化けを出している……」


 ……さっきからミコと義堂がわかったは

いいが喜んでいる顔をしていないわけが

わかった。わかりたくなかったな、これは。


「けっ、けど走馬灯って確か死ぬ前に

 一瞬で思い返すものじゃないのか!?」

「一瞬だよ。それも本田のおばあちゃんに

 とってね。それも人によっては一瞬を

 コンマ一秒なのか、はたまた一日丸ごと

 なのかは違う。おばあちゃんにとって

 ”一瞬”は”約一週間”だったってこと。

 そしたらなんとなくわかることもない?」


 あぁ、痛々しいほどにわかる。


「ちょうど一週間前におばあちゃんが生まれ、

 昨日の夜には圭佑君が生まれる走馬灯を

 見た。おばあちゃんの年は今、80歳だ

 って言ってたよね。そして圭佑君が生まれた

 のはほんの7~8年前だって。だからもう

 計算だと2~3日、最悪明日にも走馬灯は

 「今」と被ってしまう。そうなったら……」

「……言わなくていい、もう分かる」


 もう数日でこの長い走馬灯は終わりを迎える。

走馬灯の終わりはその人生の終わり。


 本田のばあちゃんは2~3日で、


 死ぬんだ。


 ガン!!


 横で義堂が床を殴りつけていた。俺も

本当は同じことをしたいくらい頭と

心の中にわだかまりがうずいているよ。


「クッソッ!! ミコ!! マジで

 何とかできないのかよ!!」

「……できない……それだけはできない……

 あれはもう、止められない……」

「なら神前いくぞ! そんこと本人たちに

 伝えに……」

「待ってギドー君! そんなことして何に

 なるって思ってるの!! ギドー君、

 死刑宣告をして一体何がしたいの!」

「でっ、でもよ」

「人の生死は変えられないのに、そんな、

 ただただ苦しいだけの事実を突きつけて

 何の意味があるの!」

「ぐっ……あ”あ”あ”じゃあどうすりゃ

 いいんだよ、お”い!! なんか言え!!」

「……」

「あ”ぁ? あんだよミコ? んな

 困った顔してりゃ何とかなるなんて

 思ってんのかぁ!? あ”ぁ!!??」


 義堂はミコの胸倉をつかむ。持ち上げは

しないが、それでもどれだけ義堂が

これにイラついているかは分かる。


 ミコは泣かない。


 泣くものかと言わんばかりに。


「私も、あんな心から優しいおばあちゃんを

 見殺しになんてしたくない!! ギドー君に

 私がどれだけ、これを認めるのがつらい

 なんてわかるはずがない!! 私もギドー君と

 おんなじで言いたいんだよ…… それでも

 私がそうしないのは、誰も傷つかないための

 選択だってわかってほしい……」

「……ちっ! ミコ、てめぇの言う通りだ……

 クソッたれが…… 俺たちは神じゃねぇ。

 死ぬもんになんか言えるはずもねぇ

 よな、はっ。わりぃ、取り乱したぜ……」


 義堂が手を放す。巫女服が乱れたが

ミコはあえてなのか直さない。握られた

胸倉の跡を心に刻むように。


「じゃ、どーすんだよ。そのてめぇが用意

 したそいつらも意味がねぇんだろ?」


 ”そいつら”というのは除霊だったりの

道具のことだ。まだ準備中だったため

床にそれらが散らばっている。


「うん、だから私たちじゃ何もできない

 からってそのまま帰ろうかと思う……」

「ま、そうだよな……クソッ」


「いや、言えることはあるだろ」

「え?」


 俺は居ても立っても居られなく切り出す。

伝えなくても伝わる思いというのはある。

と俺は思っているし、そうだからこそ

ミコは悩んでいると思ったからだ。


 それでどうなるかなんて俺にはわからない。

だとしてもこんな暗い感情で終わるわけには

いかない。そう俺は思う、思ってしまう。


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