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ダメな巫女娘に悪魔の加護を。  作者: 琴吹 風遠
SOMA
109/446

109.追おう

「待ちやがれ!!」


 気がついた時には義堂は動き出していた。

この手の行動力は義堂は俺よりも上だ。


「おい、ちょっと待て!」

「ん”だよ!! ここで逃しちまったら

 どーすんだよ!!」

「だが義堂あれは」

「どーせあいつらが目的の野郎共だろ!?

 だったら話が早ぇ!!」

「だから待てって」


 俺の話聞けよー。しかしその理由を

話すわけにはいかないかもしれない。


 あの二人の霊はとっくに俺たちの眼前から

いなくなっていたし、そのいなくなる様子を

見ていた義堂はそれを追って行った。


 とりあえずミコを起こしてこの状況を

説明する必要がある。今は義堂が霊のことを

追っているし、俺も急いで後を追う必要は

ない。


「おーい、ミコさーん」

「うー」


 これは起きているのか……?


「起きてますかー」

「ネテマース」


 うん、これは寝ているな。

めちゃくちゃ的確なアンサーが返って

きてビビったがこれは寝言だ。


 もう一度言う、これは寝言だ。


 これは無理にでも起こした方がいいのか?

いや、別にここで起こしても相手が霊なら

霊感ゼロのミコは無力に等しい。ならば

ここは俺が悪魔としてあいつらを成敗した

ほうがいいか。まぁ、俺がそこでしくじっても

起きた後に状況を説明すればいい。


 今はひとまず情報がほしい。

 霊を祓わずとも、霊の様子を見れれば

 及第点だ。


「確か義堂は右に行ったな」


 俺も義堂の後を追った方がいいだろう。

相手は二人、義堂に俺の眷属”ロズ”の加護が

あったとしても不安であるものだ。


 俺があの霊にビビっているか否かと

今、聞かれたら間違いなく「分からない」と

答えるだろう。俺より強いか弱いかなんて

分からない。


 が、それが一番不思議なのだ。


 最近の出来事で例えると”ノーティ”が

ちょうどいいだろう。俺がああもノーティと

対等に対決ができたのは俺が”ノーティ”の

力をなんとなくではあるが分かったからで

ある。もちろん、俺が上位種の悪魔である

からというものがあるが、俺が持つ霊感が

測定できる能力を使ってもいるのだ。


 この能力で霊の霊感を調べるとその

力関係が曖昧ではあるが分かる。霊の

霊感というとどこか矛盾しているように

聞こえるが、人間にこれを例えればいい。


 人でも周囲の見解から「人」として

認めてもらえないやつらがいるだろう。

学校では”いじめ”なんて言葉で揶揄

されるものだ。そういう人間は弱い、

力的にも存在的にも弱者として扱われる。


 つまり、人として扱われればその

人は力が強くなる。これを霊において

みれば、霊を霊として扱われれば

その霊は力強いのだ。それは霊の存在

そのものに関係している。


 ”人間らしい人間は強いし

  化物らしい化物は強い”ものだ。

 だからこそ霊感がそのまま力として

 還元できる。そういうものだ。


 さて本題に戻るとして、あの二人組みの

霊の様子は人ではあるが、それは形だけで

あって見た目は人ではない。何を言って

いるかよくわからないと思うが俺もあれが

何なのかよくわかっていない。


 いうなれば”影”だ。だが影のように

真っ暗ではなく多少なりとも質量を

もった”影”とでも表現しよう。これでも

説明が十分ではないのは悪いが、これが

俺が”あいつら”を見たときの感想

なのだ。


 それまではいい、初見で何もかも

わかれば簡単なゲームである。しかし

あれはゲームなのかすら分からなかった。


 話が逸れだす前に簡潔にまとめると

”あいつら”から一切の霊感を見て

取れなかったのだ。


 霊感のない霊なんているものなのか?

霊感のない人間はいるのは分かる。

だとしても霊感が皆無としてない霊

なんて存在しえるものなのか? まさか

俺がパラノイアを起こして見た幻覚

なんてものでもあるまい。それに義堂も

同じものを見ているのだし、そんな

はずはない。


 だとしたらあれはなんなのだ。


 俺は長らく生きていたがこんな奴は

初めて見た。俺の体が、俺の目が、悪魔

としての俺があいつらを霊として認識

しなかったのだ。だが完全に見た雰囲気は

霊なのに……


 俺みたいな”人に化けた化け物”の

ように”化け物に化けた何か”だと俺の

中でそう警鐘(けいしょう)を鳴らしたのだ。


「って義堂、大丈夫なのか」


 俺の目はエラーを起こしてるだけあって

義堂がどんな様子なのかすら検討も

つかない。いや、義堂は元々何を

しでかすかわからない奴ではあったか。

そうではなくて義堂が加害者側ではなく

被害者側の場合はどうなるか……


 考えるよりも探したほうが早いか。


「義堂!! どこいったんだよ!!」


「うるせぇ!!!!」

「見つかるの早いわ!!」


 もっと俺も「くそーどこいったんだ」

的なセリフ言いたかったんですが……

まぁ、それが目的というわけじゃないし

義堂とひとまず合流できただけオーケー

としよう。


「義堂どこいってたんだよ」

「いや、神前が呼んでやがったから

 戻ってきたに決まってんだろうが」

「よくこんな暗いところでそんな軽快な

 ムーブができるよな」


 そうだった。義堂は完全に暗いわけ

ではないが比較的暗い廃工場で生活

しているんだった。これくらいの暗さ

なら歩けるぐらい余裕なのか。それに

目も慣れたのだろう。


「それであの霊は」

「見失ったよ」

「そうか、でもこれで分かったな」

「あぁ、あんガキの言ってたバケモン

 っつーのはいる。それもきっちり言って

 やがった通り二人」


 それにしても義堂が見失うとはな。

てっきり追いっぱなしかと思っていたが。


「見失ったってどこでだ?」

「あー、確か本田の部屋だったか……」

「わかった、だけどいくら緊急だとはいえ

 プライバシーを守った行動をとれ!」


 勝手に人の部屋に入るじゃねぇ!

特に俺は所持品の都合上、そこんとこ

けっこうシビアだからな!


「本田の部屋まで行くか」

「いや、あんバケモンの片方がそこに

 入っていったんだ。もう片方はあの

 廊下で台所の方向に消えていった」


 別れたのか? 俺たちをまさか

まこうという魂胆からの行動なのか……

それとも偶然なのか……


「それでその部屋にいたのか」

「いや、消えたよ。スーッとな」

「消えた!?」

「あ”? なんかおかしいかよ。どーせ

 バケモンっつーのは出たり消えたり

 するもんだろうが」

「あ、あぁ、そうだよな」


 いや消えるはずがない。さっきも

言ったが霊は実際のところ消えている

わけではなく、移動によって場所を

移す、あるいは隠れたから見えなく

なっただけで義堂が見える状態で

霧のように消滅するなんてことは

まずありえない。いや、もしかしたら

俺の勝手な固定観念かもしれないが

霊の常識ではその現象は語れない。


 やはり、あれはただの霊ではない。


「神前、てめぇあいつが見えるんだよな?」

「あぁそりゃ見えてなきゃこんなに俺は

 焦ってなんかないさ」

「だったらんなとこで突っ立ってるだけ

 無駄だ。俺はまた本田の部屋に戻る。

 それと外の様子も見てくる。てめぇは

 台所にでも行ってろ」

「おぉ、わかったよ」


 義堂に指図されるとはな。少々意外

ではあったが、それだけ義堂が大真面目に

動いている証拠なのだ。今まで気だるい

感じをかもし出していただけあって俺は

なぜかうれしくも思う……


 なんかパパから見た息子のような

感覚だな…… 年も食うものだな俺って

野郎は。


 だが義堂の判断は的確だ。あの霊は

片方が浴室だけがテリトリーで動ける

だけではなく、二人どちらも部屋中を

動き回れるのだ。それに動きもまだ

目的が分かっていない上、あいつらが

今どこにるのかすら分からない。


 そうであれば俺たちはその霊の

足跡をたどればいい。というか

それしか方法がない。


 義堂はそのまま別れて本田の

部屋に向かった。俺も義堂が指差した

廊下の別れ道から台所に向かう。


 ミコのことを完全に忘れ去っているが

霊感がない以上、どんな霊でもミコに

危害を加えることはできないだろう。


 霊の常識が通じるならな……


 それは今、心配することでもないし

心配したところで何が起きるわけでも

ない。早く俺も台所に行って霊の

片方をさがさなくては。


 その道中もあたりを見て回ったが

やはりいない。懐中電灯は義堂に

託して俺は肉眼で探している。こっちの

ほうが都合がいい。


「なんで肉眼でもいいんだい?」


 なんて聞かれても構わない。それだけ

今は俺は切羽詰まっている。


 ガッ!


「いったぁ!」


 アシクビヲクジキマシター。

と、学園黙示録ネタを言うだけの

余力だけはある。俺の膝に鈍器で

殴られたような鈍い痛みが流れる。

ああ違う、これは完全に俺の不注意で、

俺がただイスとぶつかっただけだ。


 どちらかといえば

「膝にイスを受けてしまってな」

のほうが的確だな。


 そんなことはどうでもいいとして

台所の様子はというと、夕方に見た

まんまで変化はなかった。それに俺が

膝にぶつけたイスも本田のばあちゃんが

座ったものだ。


 証拠らしい証拠はない。それは当然か。

霊も移動したのか、あるいは消えたのか

台所にはいない。


 とりあえずここから移動できる範囲は

限られるし、また廊下を戻って……


「……あ」


 目の前の廊下を歩く俺と同じだけの

大きさの”影”がいる。そう思った瞬間

目の前から”それ”は消えていた。


「あ、ちょっと待て!!」


 俺は台所から飛び出す。そのときにまた

足にイスをぶつけかけたが、当たらずに

すんだ。


 廊下に戻ると俺は再びあたりを見渡す。

そんな早く動きまわれるはずがないし、

今なら見失わないはずだ。


 消えてなければな……


 だが、俺の願いが通じたのか廊下の

奥に見つけることができた。よし、何とか

見つけることはできた。しかし霊も

俺の視界から消えるように曲がり、

居間の方に向かう。


 このままでは見失いかねない。俺は

急いでその霊がいた廊下の奥に

向かい、急カーブを決めた。足から

キュルルルルルと鳴りそうな勢いで。


「……!!」


 霊がいないなんてことはなくもちろん

廊下には立っていた。俺が絶句したのは

二人に霊が増えていたからだ。いきなり

増えるものなのか? いや合流したという

表現のほうが正しいのか?


 などと考えているとまた目の前から

姿を消した。またかよ…… 俺はまた

その霊がいた場所、つまりは居間に

向かった。


 が、誰もいない……


 消えた。その表現がもっとも正しく

もっとも恐ろしい。だが本当にその通りで

俺の目の前から消え去ったのだ。俺は

この一瞬の出来事を回想する。


 俺が台所に来たときに霊は現れ、そして

俺から逃げるように廊下を抜け居間に

向かった。その道中にもう一人の霊と

合流したのを機に俺は見失った。


 見れば見るほど謎が深まる。一体

何者なのだあの霊は…… それに義堂の

ほうには霊は現れていないのか? 一応

俺の目撃証言も告げておきたいし、一度

義堂と合流するか。


 確か夕方に調べたときに圭佑君の

部屋の場所は聞いている。二階への

階段をあがってすぐのところのはずだ。


「おーい義堂ー」


 ……また部屋に入っているのだろうか。

人の部屋に勝手に入るのはさすがにモラルが

なっていないからなぁ…… あっ、そういや

ミコの風邪回に完全にモラル丸無視で

部屋に突入したんだったか。


 本田の部屋を申し訳程度にノックする。

もちろんここには本田はいないし、いたと

して義堂かあの霊だけだ。


 ガラッ


 部屋に入る。中はもちろん真っ暗だ。

それにここには一度本田本人を連れて

入っているし、中の様子はあれから

変わった風もない。


「……」


 さっき霊がここ以外の場所で見つけただけ

あってここにはいなさそうだな。それにしても

ここに義堂がいないのはおかしな話……


「あっ!!」


 床を見ると義堂が


 倒れている……だと……


「おい、義堂、どうした!?」


 目立った外傷はない。元々よほどの

霊でない限り外傷なんてものは出ないの

だが、あいつの能力値がわからない以上

何が起こるか、何をされるかわかr


「カー カー カー」

「……」


 こっ、こいつまさか。


「義堂、寝てます?」

「んぁ? んだよ起こすなよ」

「ビビらすなや!!」


 ややこしいからやめろや!


「何寝てんだよ!!」

「眠ぃからに決まってるだろうが」

「当然だけど今かよそれ!」

「で、バケモンは見つけたんかよ」

「え、あ、あぁ見つけたけど、そっちは

 見つけたのか?」

「いいや全然だ。だから寝てんだろうが」

「だから寝るなよ」


 分からない=寝るっておかしいだろ。


「それで見つけたっつったけど、どこで

 見つけたんだよ。俺の言った通り、台所で

 見たのか?」

「あーっとそうだな……厳密には台所ではない

 んだけど、まぁ台所で合ってはいるか。俺が

 その霊を見たのは台所なんだが、その霊は

 その手前の廊下にいたんだ。そしてそのまま

 逃げるように廊下を進んでいって、最後には

 もう一人の霊と合流していなくなったな」

「ってまた見失ったのかよ」


 俺は見失う気なんてなかったし、そもそも

見失う訳がないと思っていたぐらいだ。俺は

霊がどんなに奇怪な行動で俺たちをまこうが

それが見ることができれば追うことぐらい

たやすい。そう思っていた。


 が、俺の予想に反する程の行動をとったのか

その霊は俺の視界には映りすらしなかった。

「不覚」この言葉が似あう。


「にしても、そんバケモンはどーにもバケモン

 ってわけじゃなさそうだな」

「いやいや、義堂が勝手にその霊を化け物

 呼ばわりしているだけで、別に元々

 化け物だと断定してはいないだろ」

「だったらよ、なんで俺たちを襲わねぇんだよ。

 こーゆー状況で出てくる霊っつったら

 取り憑くなり、驚かすなりのことを

 してくるんじゃねぇのか?」

「それは…… なんでだ……?」


 義堂は今もバールの異能を持ち歩いている。

だからバールに憑いている”ロズ”が義堂を

霊から遠ざけているのは当然だ。


 ただならば俺の場合はどうなのだ?


 霊が人を襲う理由としては、やはりその

意志の強さが関係している。霊は生前の

思いによって霊になるかを左右し、その

霊の持つ感情諸々を統一するとは先ほども

言ったはずだ。


 しかしその大半の思いというのは死んだ

後では成しえないものばかりだというのは

予想がつくだろう。だからこそ生者にすがる。

そのために人を襲うということなのだ。


 なんとも自己中心的な存在だと思うが

それが霊の本質なのであり、霊が霊として

在り得る一つの要因と言っても過言ではない。


 義堂に危害を加えられないとしても悪魔

である俺、霊感100の俺にはちょっかいの

一つや二つくわえてこないのはおかしい。


 それに当てはめるとしたらあの霊は俺たちに

危害を加えないところを見る限り、生者では

なくとも成しえる思いを持っているという

ことなのだろうか? あるいは俺たちのような

”この家の部外者”では意味がない思いなのか。


 後者なら俺たちは何もできないな。


「そうだな…… 様子でも見ているんじゃ?」

「んなおどおどしたバケモンがいるかよ」

「だよなぁ」


 しかし、まだ忘れていることがある気が

しないでもないが……


「そういやミコの野郎はどうしたんだよ」

「あっ、それだ」

「あ”?」


 おーっといかんいかん! 大事な大事な

今作のヒロインを忘れていた。ミコは霊感が

ないから何かをされるわけではないと思うが

俺の予想を超えることをしてくる霊が

相手なのだ。ミコが100パーセント大丈夫

だなんて保証なんてないよなぁ。


「とりあえず戻って作戦でも考えるか……

 だから義堂……とっとと起きろ!!」

「ここにミコを連れてこい」

「なんでやねん」


 義堂はさっきから横になったままだ。

こんなシリアスシーンにシリアスのシの字も

ない体制で話されていたと思うと、どこか

惜しい気がする。


 義堂はしぶしぶ起きる。しぶしぶかよ!

と言いたかったが別にそこまでツッコミを

入れる必要なんてない。


 寝室に戻る。道中に霊はいない。


「ったく何処に行ったんだあのやろう」

「俺にもわからないなそれは……」


 霊が出てくるタイミングで変わったところを

確認できなかっただけあって、次にどこに

出てくるか、どこが出現しやすいかを絞る

ことができていない。今夜はまだまだ長い

ゆっくりと急いで探せ、ば。


「「……」」


 寝室に着いた。ミコがさっきの体制のまま

ぐっすり寝ている。実にほほえましい光景で

ある。


 その隣でむせび泣いている一人の霊を除けば


 ……な。


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