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ダメな巫女娘に悪魔の加護を。  作者: 琴吹 風遠
SOMA
105/446

105.晩御飯をいただこう

「う、うめぇ」

「そりゃぁ、よかったぇ」


 時間は午前6時。「異能部」各員は

本田のばあちゃんの粋な計らいによって

休憩&晩御飯タイムにはいった。


「もっと、オムライスとかがよけったか」

「いえいえいえいえ、これでいいです!!」

「カッカッカ」


 さっきと同じように喉から笑っている。

喉から笑うって一般的に使える単語なのか?

ま、しらないならイントネーションで

理解してくれればいい。


 俺たちはあの後、納戸に限らず寝室から

玄関までありとあらゆる場所に行った。

が、残念ながら成果らしい成果は一つとして

なく、晩御飯ができたからと茶の間に

戻ってきた次第だ。


 俺個人的にはやはり、死んだおじいちゃんの

納骨堂がどこか気になる部分があるが、それは

ミコの専門力で違うと指摘された。俺は

それを否定しないし否定するだけの知識と

情報がない。あそこの納骨堂に限らず、あの

部屋には霊に関るようなものは一つとして

見当たらなかったのだ。それもまぁ、ミコの

いる御前一族のなせる技だということか。

そんなことはどうでもいいとして、最も

問題視すべきことといえば俺が今まで言って

きたことの真逆のこと。


 つまり、”何もない”ことだ。


 学校にいた”ノーティ”を例に挙げると

その母体となる「骨」があったからこそ、

そこに存在できたのだ。基盤があるからこそ

霊という、実に常識外な存在は存在しえる。

もちろん”強い意志”なんかが要因に含まれて

くるが今はその強い意志なんてものは

重要視していないしそれがわかれば苦労は

しない。分かればいいのは霊がいるのか

どうかだけであって、そんな”第二”に

分かればいいものは知らなくても結構だ。

だが、俺たちはそれすらも分からない。


 なんにもわからないのだ。


「あの……」

「聞きたいことがあるんかぃ?」

「あぁはい、あの……」

「まぁまずは食べんさい。おいしいもん

 くうとるときはそういう話はせんでええ」

「はぁ……」


 飯がうまいか…… 確かにこの肉じゃがは

うまい。何がうまいとかじゃなくて……

「おふくろのあじ」というものだ。だとしても

俺が飯がうまいなんて思ったことはしばらく

なかった。俺にとっては食事なんてものは

単なる”娯楽”にしか思っていないし、人に

とってもこれは”娯楽”としての一面では

なく”生命の義務”なんて意味合い程度の

ものだと思っている。


 ……と、こんな性格をかれこれ20年以上

続けているから、もしかしたら”人間”として

純粋な一人の”人間”として今この場にいた

のであれば性格はおろか、こんな感情は

抱かなかったのだろうか……


「どうしたぃ」

「あ、いえ、別に」

「うんまいもんはうまく食べ。そやないと

 おいしくなか」


 気を使われた。俺は意外と顔に出やすい

んだったな。


 隣ではミコがもりもりリスのように

食べている。見ていて微笑ましいが人の

家でそんな食べ方はするんじゃないよ。

はしたない。


 そしてその奥では本田と弟と義堂が……


「あー! また肉取ったー!!」

「取ってねぇよ、黙って食え!!」

「俺が取っておいたやつだから食うなー!」

「んなカッカすんじゃねぇよ。うめぇもんは

 うまく食うもんだっつってんだろ!!」

「カーエーセー!!!」

「ギギギ、席に座れガキがっ……!!」


 あいつらほんと仲いいな……

だとしても席から離れて食事の場で

暴れられるのはちょっとなぁ……

ここで俺が叱るのも変な話だs


「あんたたち、座って食べな」

「げっ! はーい……」


 ぼそっと本田のばあちゃんは言った

にもかかわらずその風格はすごかった。

年配の方のこの圧倒的な風格はすごい

と思う。


 何でかは知らない。知る由もない。


「ばあちゃんも言ってよー。この頭の

 軽そうな兄ちゃんに肉取られたこと」

「誰が頭空っぽそうだって、あ”ぁ!?」


 圭祐君、大当たり。


「こんなことでわんわん言っとったら

 おおきくなれんよぉ」

「でも」

「でももなか。ごはんはおいしく食べぅもん。

 座って食べんさい」

「むー」


 義堂も大人げない気もするが、俺は義堂が

肉をとっていくところを見てなどいない。


 盗ったのはミコだ。


(あのなぁ……)

(モゴモゴモゴモゴモゴ!!!)

(食ってから言え!)


 口を開けるな、きったねぇ!!


「あれっててっきりバイキング方式だと……」

「だからって人のモノ盗っていきますか?」


 そんな貪欲になりますか?


「カッカッカ。面白ぅとんだちんもったな

 宗一」

「いや、それは……」


 俺たちは本田のばあちゃんからは面白い

人たちだと思われているのか…… 俺は基本、

無口なクールキャラな気がしていたからこそ

そういう評価を下されるのは少しばかし

不服ではある…… ミコに感化されたってこと

なのか…… ならよりもっと不服だな。


 さて、タイトル通りではあるがただただ

俺たちと本田一家の食事風景を映している

だけでは何の進展も進歩もない。ということで

ここからは真面目パートに入るとしよう。

いつも真面目ではない俺たちの初めてかも

しれない貴重なお仕事の機会をこんな肉一つで

争う茶番で潰したくなんてないし、ここには

もとより晩御飯をごちそうになりにきたわけ

では決してない。


 真面目パートになる前に今の現状を

話しておくと「とどのつまり」である。

この一言に尽きる。


 ミコは霊が見れないから仕方がないにしろ

俺がこの家で一人たりとも霊を見ていないのは

不思議でならない。いや、これも実は弟の

嘘でしたーなんてオチがあるのならば別に

不思議でも何でもないのだが…… いや、その線は

あったりするのか……? まぁ、それもこの

真面目パートで分かることだ。


 俺たちは探し物は探しつくした。ならば

やることは事情聴取だと相場は決まっている。


 とりあえず俺たちは用意してもらった晩御飯を

米粒一つ残さずいただき、しっかりと感謝の礼を

本田のばあちゃんに送った。礼儀はきちんと

するのが御前一族のしきたりらしい。


 ならミコ、先の肉の件はなんだったんだと

言いたいが、ここまで来た以上後の祭りだ。


 そしてそのまま流れるように家族に対して

事情聴取をすることとなった。ミコは本田の

ばあちゃん、俺と義堂は圭佑君みたいに。

本当は俺もミコと一緒におばあちゃんの話を

聞いてもよかったのだがミコがそれを断った

から俺はしぶしぶ義堂と行動を共にする

こととなったのだ。


 聞きたいことはやはりさっきは

「ありえない」と念を押していたが若干の不安が

残っていたあの死んだじいちゃんの件に

ついてだ。これはさすがに俺みたいな野郎では

話にならないし、霊感がなくとも専門家である

ミコが一人で聴いた方がいいということらしい。


 その言い分はわからないでもない。死んだ

人の話を俺みたいな興味本位で聞こうとしている

ヤツに話したくなんてないし、ここはあくまで

御前一族というブランドを持つミコだけが

聞いておくだけで充分だということだ。


 ようは、妻が死んだ俳優に無理やりでも

話を聞こうとするジャーナリストの関係だ。


「それでおいガキ、そのお化けを見たって

 とこに連れてけよ」

「やだよ! あそこになんて行きたくなんて

 ない!!」


 俺がこう説明してる間にも義堂と圭佑君の

戦いは続いていた。圭佑君はよほどこのことを

話したがらないようだな。


「あのな、俺たちはここにそのお化けを

 退治しに来たんだ。だからそのお化けの

 詳しい様子だとか出てきたタイミングとかを

 知りたいんだ」

「俺はぜってーいかない!!」

「ちっ、なら無理にでも……」

「ちょっとー義堂ー! 待て待て!!」


 喧嘩っ早いやつの扱いはいまだに慣れないな。

でも、昔よりかは俺とミコというストッパーが

ついたおかげで落ち着いてくれているが……


 番犬を飼っているんじゃないぞ俺?


「はぁ、まぁ言えることだけでもいいから

 何か言えることってあるか?」

「言えること……」


 しばらく悩んだ後に圭佑君は言う。


「そういえば


  ……お風呂以外でも見た気がする」

「「それを先に言えー!!」」


「確か、寝ているときに横でわらってる

 人がいたんだ」

「えぇえぇえ!? それ怖くない!?」

「そのときは目つぶってたからわかんな

 かったから」


 てっきり、家族のだれかだと思ってたと。

なるほどな……


 風呂場関係の霊ばっか考えていたけど

そんな寝ているところにも襲いに来るのか。

って、あれ? これってまさか余計

ややこしいことになってないか?


「そのときに何か気になったこととかない?」

「気になった?」

「そうだな……例えば、何かものの場所とかが

 変わっていたり」

「そんなの気にしてないよ!!」

「はい、だよね」


 そこまで気が回るほど霊に対して手馴れている

訳がないよな…… 俺みたいなエキスパートに

なればすぐさま確認するんだけどね。


「でもばあちゃんが大丈夫っていってくれたから

 大丈夫だよ」

「ばあちゃんパワーすげぇな」

「だからてっきりばあちゃんが俺の隣に

 いたんだって思ってたんだけど、朝起きたら

 違うって言われたんだ」


 まぁ、家族が隣にいるって思っていたら

安心するよな。家族の概念がない俺にとっては

目測でしか測れない代物なのだけど。


「それで、その寝ているときに来たお化けは

 置いといて、風呂場にいたお化けって何か

 見た目とか声とかで気になったこと……いや

 単純にどんな感じだったか覚えてるか?」

「どんなって」

「あぁ、そうだな……大きかったーとか逆に

 めっさ小さかったーとか、後は泣き声が

 野々村みたいだったーとか」


「野々村って誰?」

「……」


 今の人って知らないのか…… うん、

そうだね、あれってもう4年前の会見

なんだね。へー、年食うのって早いねー。

空しいねーなんだか。


「フツーに泣いてたよ。フツーに」

「フツーにねぇ……」


 できればその”フツー”を教えてほしかったな。


「あ、でも大きさもフツーだった!」

「全部フツーじゃねーか!!」


 だからその”フツー”を教えろって!!


「うーんと、確か大きくって小さかった」

「は?」


 え? 何?二人いたってことなの??


「あ”? そりゃお化けが二人いたって

 ことなのかよ」

「うん」


「「……」」


 俺と義堂は見合った。何も言わずに。


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