103.家屋を調べよう
前回までのあらすじ
俺たちはちゃんとした除霊関係の
仕事を引き受けることになり、その依頼主
である本田の家に来た。そこはなんとも
立派な日本家屋で、いかにも霊がいそうな
雰囲気をかもしだしていた。そこで俺は
本田の弟、圭佑に出会う。
「……これいる?」
「……いらないな……」
詳しくは前回読んでいれば問題ないし
ここで今、まとめて言う必要性なんて
ない。
「ま、気持ちの問題だ、キモチ」
「気持ちの問題なの?」
このままだといつものごとく話が
それだすのでこの辺でこのメタ会話は
ストップさせて本題といこう。
といってもやることは一つしかない。
霊の有無の確認程度だ。
ミコは霊を見ることができないが、俺と
もしかしたら義堂は見れるかもしれない。
依頼を受けてしまった以上それをテキトーに
流すわけにもいかない。それに俺がいれば
こんな楽勝な依頼もないさ。
本田につられるまま、俺たちは洗面台に
つれてこられた。これは霊を調べてもらおうと
つれてきたわけではなく、手を洗うためか。
「……ん? あの浴室って」
「あぁ、あそこで弟が霊を見たんだって
言ってるんだ。そのせいで最近は弟の
やつは銭湯にいってるんだよ」
「お前は」
「俺? 俺はそんなの気にもしてないからな。
俺もその霊とやらを見てもいないし、
それを言葉だけで信じろってのも無理だろ。
だから俺はフツーに入ってる」
「よくそんな根性あるな」
「そんなもんだろ霊ってのは」
見下げた根性だな。一度、こいつには
霊、いや悪魔の本当の恐ろしさを理解して
もらわないといけないかもな。
ダメだダメだ。俺はむやみやたらと人に
悪魔としての力で危害を加えるのはもう
やらないでおこうと決めたんだ。それで
俺が今まで、厳密にはミコと出会って
どれだけ苦労したか気が気でない。
自業自得だといわれても仕方がないけども。
「まったく、そんなんだから俺の弟は
まだまだガキんちょなんだからよぉ」
「そんなの人それぞれだろ。それに俺たちに
気を使って言ってるのか知らないけど
いつもどおり弟のこと”圭佑”って呼んで
いいぞ」
「あ、悪いな。どうもこういう言い方は
慣れないからさ」
俺には弟がいたことがない。だからこそ
真意は知ったこっちゃないが、兄から弟の
呼び名はやはり”圭佑”と下の名前と相場が
決まっている。本田も俺たちに気を使っての
行動なのだろうが、それには及ばないさ。
「ばあちゃんも圭佑のことを甘やかしすぎ
ってのもあるんだが……まぁ、ああ見えて
人懐っこい性格だからさ」
「そのおばあさんって」
「今は晩飯作ってるんじゃないか。よかったら
食べていくか? どーせ作りすぎるだろうし」
「いや、それh」
「「いただきます」」
「おい、食いしん坊二人」
節操というものを知らんのか。っていうか
もう時間は5時も超えて6時前なのか。そりゃ
家によっては少しはやめの晩御飯と言われても
不思議でもないか。
だとしてもだ。だとしてもだよ君たち。
(あのさぁ……)
(いただけるものはいただく。それが私の
やり方よ)
(あんたは盗賊か)
聖職者が言ってはいけないワードの
一つにランクインするよ。義堂は……
(食らえるものは食らう。それが俺の生き様だ)
(お前もか)
でもミコよりかはまともだな。ミコは盗賊
だとしたら義堂はどちらかと言えば乞食に近い。
ホームレスの生活ってのは想像以上に大変って
ことか。
が、この状況では俺が多数決では負けている。
3対1、圧倒的大敗だ。
「じゃあいただいていくかな」
「「よっしゃ-!!」」
「お前らが喜ぶんじゃねぇ!!」
だとしても俺たちは飯を食らう前に
やらねばならぬことがある。責務を果たす
ただそれだけのことだ。まずはさっきも
見てはいるが、現場の様子の確認から
始めるとしよう。
先に言ってしまうと、ここには霊は
いなかった。もちろん霊はこの家では
”まだ”見ていない。見ていれば俺は
とっくに解決に向かって動いている。だが
ここは霊的には少し、ほんの少しだけでは
あるが霊のいやすい環境なだけなのだろう。
とはいっても本田の弟が実際に見たと
言っているのであればいませんでしたー
終ー了ーと、とんとん拍子に事を進める
なんて芸当に走るのは美学に反する。
これを何とかするには現場検証しかない。
だから俺は時を巻き戻す……なんてことは
できない。だとしても証人がいればそいつ
から聞けばいいだけ。
「え、弟? 今は居間で晩飯でも待ってる
んじゃねーか?」
「とりあえずこの中では唯一、その霊を見ている
人物なんだから事情を聞くぐらいしないと
話が進まない」
「けどなぁ、具体的には話してくれないんだよ」
「えぇ」
「”トラウマ”ってやつだよ。俺だってそんな
真夜中に風呂場で泣き声が聴こえたら
そうなる」
相手は証人である以前にまだまだ幼げが残る
子供なんだ。ただ純粋無垢な少年の心の内を
見ておけば粗方わかってくれるかと踏んでいた
だけあって、意外と先が思いやられる。
つまりは俺たちはその弟のトラウマを
脱却させることが裏目標ってことか。
「あ、どうせだしばあちゃんに挨拶
しておくか」
「今は確か」
「台所だからこっちだ」
本田に台所に案内される。何かこの一件に
関する何かがあるのかとその道中に探したが
それらしきものは……
「本田」
「どうした」
「あの神棚って」
「あれは俺のじいちゃんのだ」
「俺が10歳ぐらいのとき…… 確か圭佑は
生まれたばっかだったからわからないと
思うが、その時に死んだんだよ」
この家には和室、ていうかほとんどが
和室に近い構造の部屋になっている。その
一つの部屋にあった一般的な大きさよりも
大きめの神棚。
「あれは確か、神棚っていうものじゃなくて
なんだったか……」
「納骨堂?」
「そうだそれ」
すまないが俺はそのジャンルの知識はない。
逆にそのジャンルにのみ特化したミコが見事解答。
「珍しい家なんだね」
「え? 珍しいって何が?」
「普通は納骨堂は神社とかお寺にあるもので
大抵はそこに納骨するものなの。でもその
大きさならそのままそこにそのおじいちゃんの
遺骨もあるんじゃない?」
「うーん、悪いが俺もじいちゃんが死んだときは
ガキでそのあたりのことは気にしてなかった
からよくわからん」
この家に祖父の遺骨がある。ならば、
(ココ。その霊なんだけど多分おじいちゃん
じゃないと思う)
(え)
こいつは俺の心を読むのは知っていたが、まさか
考えまで読むようになったのか……
(あの納骨堂、ものすっっっごくしっかり
作られているから霊が出てくるなんてこと
考えられないの)
(そうなのか)
(あの雰囲気だと多分……
うちの一族の技かと)
(あ、そぉれは一級品だぁ)
ミコがポンコツなのはわかっているがミコの
一族がとんでもない奴らだということは認める。
上位種の悪魔の俺が認めるのだから、かなり
実力があるのはわかっている。
(それにほこりも見当たらないし、管理も
ちゃんとしている証拠だよ)
(お供えもあるしな……)
(いや、お供えは当然なんだけど…… それ以上に
ロウソクも法名軸もすごくきれいにしてある)
(法名軸?)
(ほら、あそこの”中国人ですか?レベル”で
漢字が書かれている掛け軸のこと)
掛け軸には漢字で”釈…… んん? ダメだ
俺には読めないな。
「ホンダ君、私も巫女だから一礼ぐらい
させてほしいんだけど」
「あ、いいよ。ちょっと待ってろ。ロウソクに
火をつけるから」
ミコに言われるままに俺と義堂はミコに
合わせて一つ頭を下げる。ミコは線香に火を
付けたが俺と義堂は見ているだけだ。後で
調べたが線香をあげるのはどんな人でも
いいらしい。俺たちもやればよかったかも
しれないが、ミコも言ってくれなかった
わけだし別にいいか。
これで化けて出なければいいのだが……




