10.協力しよう
5時間目の授業は流れてしまったが
そのあとの6時間目以降はいつも通り
行われていたが、あんなことが起こった
後では誰も授業には集中できていない。
昨日まで元気にワイワイ仲のいい同士で
たわいのないことで盛り上がっていた人が
いきなり奇行に走りそのまま保健室送りに
なれば誰だってびっくりする。
先に言っておくがミキの命には全くの
別状はない。あるとしたら精神面だけだ。
それも骨一本折れるくらいの酷いものだが。
いや、そのまま「つらい!死んでやる」と
思い切りよくポックリいってしまうと話が
変わってしまうけどな。
そして、今は放課後。場所は保健室。
いつのまにか俺に"保健委員"を一任
されていたらしく、同じクラスのミキの
様子を見ておけと先生に頼まれたのだ。
先週からなぜかこの曜日は先生から
仕事を任される日になっている気がする。
やだなぁそんなジンクス。めんどくさい。
「………………………」
カーテン越しのベットで死体の
ようにミキが寝ている。死んでないけど。
この調子だと多分まだ起きないだろうし、
このまま寝かせておいた方がいいだろう。
保健室に俺は来たばかりではあるが、
先生いわく5時間目からずっと
寝っぱなしのようだ。
そういえばちゃんと話してなかったが、
俺が昨日(12:00を回っていたから
厳密には今日)、相澤に放った悪魔は
"メア"と呼んでいる悪夢を見せる霊だ。
見る夢のすべてを「負」の方向にする
悪魔でまだ相澤にとり憑いたままだ。
ちなみに、今は"メア"は悪夢を
見せていない。"メア"の活動条件が
その人物が「夢を見ている」ことだ。
医学的には「レム睡眠」と呼ぶらしい。
今、ミキは精神的に蝕まれ、軽く昏睡
状態にある。合法的に「ノンレム睡眠」を
している状態なのだ。また「レム睡眠」を
始めたら"メア"は活動するが。
保健室の先生が俺をねぎらって俺に
帰るように言ってきた。ラッキー。
そして保健室の先生は電話を取り
誰かと電話をし始めた。先生がミキの
母親の名前を言ったから多分、電話の
相手は相澤の母親だろう。それに、内容は
このまま保健室に寝かせておき、起き次第
帰らせるというものだった。ここからは
もう俺の出る幕はない。俺は荷物を
そそくさと片付け保健室を出た。
「どうだった? ミキちゃんは。」
保健室を出ると自称巫女がいた。
「別に大丈夫そうだったよ。
でも今はぐっすり寝てるから
起こさない方がいいだろうな」
「………………………あれって」
「あぁ、多分霊障だろうな。前に
心の弱いとこをついて霊が憑くって話を
したよな。完全にそれっぽい雰囲気だ」
この話を知らない人がこの話を聞いたら
「なんだこいつら」と思うほど厨二病の
ドギツイ香りがする会話だ。ひっでぇ。
「それに、俺は霊感はあるほうだって
いったけどあれほど霊がいるって
感じたのははじめてだったよ」
「なるほど。『こいつは感じるッー!!
霊の感覚がビンビンするぜッーッ!』
ってことだね」
「……どこからスピードワゴンを
持ってきた、お前」
ジョジョのネタを無理やりぶっこんで
来たなコイツ……ひとまず俺はこの
霊障の原因が俺だと気づかれず、かつ
これが霊障だとわからせるように
この自称巫女の前では振舞う必要がある。
この鈍感巫女にバレるということは
まずないとは思うが。
「いま、ミキちゃんは寝てるんだよね」
「うん、それもぐっすりと」
「ねぇ、私と協力してほしいの」
「はい?」
「今から保健室に入ってミキちゃんに
憑いてる霊を祓う。それには人手と
保健委員である君が一緒じゃないと
保健室に入れないからね」
うちの学校の保健室は基本的に
保健委員以外の入室はしてはいけない
という決まりになっている。多分、先輩方が
授業をサボって保健室に逃げ込んだのを
反省してつくられた決まりなのだろう。
もちろん、病人の入室は認めている。
「で、俺と協力してミキちゃんを霊から
助けてあげたいと」
「えぇ、そうよ」
「だが断る。
ドドドドドドドドドドドドドドドドド
この”神前 滉樹”の最も好きな事の
ひとつは自分のことを考えずに動くヤツに
「NO」と断ってやる事だ……」
ドドドドドドドドドドドドドドドドド
「な、なにぃ!!? き、貴様ッー!!」
乗ってくれるとは思ってなかった。意外と
この自称巫女と趣味嗜好が合うとは。
「なんで!? ミキちゃんが今大変な目に
あってるのよ。岸辺露伴、どうして?」
もうそのネタは引っ張らんくていい。
「今までミキちゃんに何をされてきたんだ?
俺にはわからないが大体の察しはつく。
それに対してお前は助けるだけの価値が
あると思っているのか?それにお前は確か
実際に霊を見たこともないし祓ったことも
ないはずだろ。こんな一発本番で霊が祓える
というだけの自信もないだろう」
「……っ!」
「それでもやりたいなら俺は協力してやる。
といったって俺は何もできないが。」
「…………じ」
「じ?」
「自信は…………ない……。
それに、ミキちゃんからヤなことを
たくさんされたのも確かよ。でもその分、
私も同じだけミキちゃんにヤなことを
してきたんだと今になって思う。
月曜日に君が呼んでくれた時にすぐに
教室に行けなかったのは隠された教科書を
探してたからよ。でも結局見つからなくて
ミキちゃんに隠した場所を聞いたら今度は
違うものを隠されて……そんなことばっか
されてきたけど、それだけミキちゃんに私は、
「私が巫女だから」とか言って無理にでも、
私のことを、知ってほしくて、しつこくした。
でも私は、実力がなくてずっと今まで、そして
これからも変わらない。今まで、何度も、
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
私が"御前の一族"じゃないのかなって自問自答
した。ダメな巫女なんだなって思う。だから
私は無理矢理、事実を作ろうとこのお化け騒動を
起こした。それもミキちゃんだけにとどまらず。
だから私は「卑怯者」よ。作ることでしか自分を
表現できないんだから。そんな私の弱いところを
ミキちゃんは知っていた。知っていたから私は
今まで色々されたんだと思う。自業自得よね」
唇をかみしめ、堪えているのがわかる。
それでも顔をあげて続ける。
「でも、私はどんなにダメな巫女だとしても
"御前の一族"よ。これだけは言える。
私は最強の巫女"御前 小恋"だと。
実力がない。実力があっても自信がない。
そんなことはただの言い訳に過ぎない。
それもすべてひっくるめて私は私であって、
私は正真正銘「巫女」よ。それが誰であろうと
霊がいればそれから救ってあげる。どんなに
馬鹿にされて嫌な目にあってもそれに屈せず
霊障に立ち向かわなくちゃならない。私は
そんな巫女でありたいと思っているし、それでこそ
私は巫女なんだと思ってる。だから、相手が
ミキちゃんだから助けないなんて嫌だ。実力がない
ってことで逃げるのも嫌だ。私は腐っても巫女よ。
最強の巫女"御前 小恋"よ。だから私は君の力を
借りてでもミキちゃんを助ける。
できる、できないじゃない。やるんだ。
もう一度言うわ。この私、"御前 小恋"に
協力して。ちゃんとお礼はキチンとする。だから
ミキちゃんを、そして"私"を助けて」
目はずっと俺のことを見ている。それも今にも
ぽろっと泣き出しだしそうな目をしながら。そんな
ことを言われて動かないのはさすがに人じゃない。
人じゃない俺が言うのもなんだが。でも俺は
「半人半魔」で半分は悪魔で、半分は人だ。
人として当然の回答をしなければなるまい。
「いいよ、協力してやる。でも除霊は今は
保健室の先生がいるから無理だ。だから
先生がいなくなってから動き出すぞ。それに
さっきもいったが俺は何もできないぞ。お前が
やるしかないんだ。」
「わかってる。はなからそのつもりよ。でも、
除霊にもさっき言ったけど人手がいることに
なるかもしれないから、その時はよろしく。」
この自称巫女は霊感がない。本人もそれを
自覚している。なのにこいつは「やる」と
いったのだ。これで分かったことが一つ、
"御前 小恋"はどこまでも馬鹿だ。先のことも
一切考えず、自分のために動く底なしの馬鹿だ。
でも、それが俺の無いはずの魂を震わせる。
ここまで俺を滾らせたんだ。最後まで
付き合ってやるさ。ダメなこの自称巫女に
悪魔としてこの俺が加護を与えてやるよ。
「あ、あとそれと」
念願のタイトル回収を終えたと思ったら急に
思い立ったように自称巫女が話しかけてきた。
「こちら対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル
専用弾は13mm炸裂鉄砲弾、弾核は純金製
マケドニウム弾核、弾頭は法儀式済水銀弾頭
でございます。………………………だっけ?」
「……」
前回の最後の俺のセリフの元ネタ
じゃねぇか。よく知ってるな、その漫画。
パーフェクトだ、自称巫女。




