宝箱と 恋の再出発
「マーサおばさんがころんだ!」
夢うつつの 中で、両耳を ふさぐ。
遠い記憶のむこうで、切なげな わびる声が こだまする。
ーごめんなさい、わたしの 若様・・・
耳元で 紡がれた言の葉に、 なぜか 涙する 自分がいた。
「マーサおばさんがころんだ!!」
先ほどより さらに大きな声が聞こえ、 完全に 覚醒する。
「マーサが転んだって?!怪我は?」
慌てて 寝床から飛び起き、廊下へ 飛び出す。
「キャアアアアア♡♡♡すてきいいいいい♡♡♡♡♡♡」
廊下には 館の メイドたちや 手伝いに通う ふもとのむらの 若い娘たちが あつまっていた。
そして 両手を顔に当て、その 指の隙間から しっかりこちらを のぞいている。
一瞬 固まったが、はっと 我に返り 部屋に引っ込んだ。
ー俺、上半身 裸で 寝ていたんだ(゜ロ゜)
昨夜 夜遅く 館に到着し、疲労困憊であった俺は、寝床に潜り込むと同時に 意識を 手放したはずだ。
どうやら 無意識に 上着だけは ぬいでいたらしい。
決まり悪さに そのまま 戸口のまえで じっとしていたら、
聞き覚えのある 野太い声が との向こうから 聞こえてきた。
「あらあら 相変わらず ヘタレさんなのねえ~ぼーや♡
みんなで ちょっと 遊んでいただけなのよ」
「その呼び名は やめろといったはずだ!ガイドライル=グロウザ!」
バーーーン!
キャアアアアアすてきいいいいい
黄色い歓声のむこうに ニョッキリ生えた 頭一つ。
ニタニタ笑うその顔は、傭兵時代に イヤというほど 見飽きていた もの。
「お♡ひ♡さ♡ぼーや。
相変わらず むっつりさんなのねえ~
あなたが 巫女姫殿の “おもいびと”とは・・・
これも くされ縁かしら、ふううっっっ」
ため息つきたいのは、こっちのほうなのにー
「もしかして、命の恩人を忘れたばかさまって、おじさんなの?」
突然後ろから 幼い声がして、振り向いた。
ゴイン。
「あいた!」
突然 向こう臑を 思いっきり蹴られた。
「おじさんのばか!なんで アニィねいちゃんのこと 忘れちゃったの?
ねいちゃんは、ねいちゃんは・・・うわあああああ。+゜(゜´Д`゜)゜+。」
展開についていけず オロオロしていたら、最強乳母の声で 我に返った。
「ライラさんの 弟さんですよ。
若様と同じで アニィちゃんから 命を救ってもらったんです」
ーあのこの、アニーアンのおかげで この国の どれだけたくさんの命が 救われたことか。
そんな 命の恩人を 忘れてしまうなど、
おまえという奴は・・・
父上の あきれ顔がふっと 思い出された。
誰もが 彼女のことを 褒め称える。
なぜ 俺は、君を 忘れたのか?
なぜ 君は、姿を 消したのか?
なぜ、なぜ、なぜ。
疑問符だけが 俺の頭を 満たしていくばかりだった。