宝箱と 恋の再出発
今日は もう 遅いからと、一晩 泊まることになった。
久しぶりの マーサおばさんのごちそうに 副隊長さんは すっかり 惚れ込んで
おかわりの 連続だった。
ライラの 弟くんも 負けじと おかわりを 連発する。
そんな 姿を見て、おばさんが ぽつりと つぶやいた。
「若様も ちっさいとき こんくらい食べてたら、
ヒョロオヤセノスケなんて 言われなかったのにねえ・・・」
ほんと、昔の 若様は 病弱で ガリガリだった。
いまじゃ 想像もつかないくらい タフに なったけどー
「・・・あの、おばさん、 若様のこと・・・」
「おだまり!!
何にも きかないし、何にも 知りたくないね。
だいだい 大事な命の恩人を 忘れちまう方が、おかしんだよ。
帰国以来 この屋敷には 出入り禁止に してあるから 安心おし」
ー忘れたの、わたしのせいなんですけど・・・(^_^;)
詳しい事情は たぶん 知らされていないのだろう。
おばさんの 怒りようは 尋常じゃない。
さわらぬかみに なんたら、っていうから ここは 黙っている方が 利口というもの。
そうこうしているうちに 弟君は うとうとし始め 副隊長さんが 寝室まで つれてった。
その 後ろ姿を見送りつつ おばさんは 疑問を 口にする。
「なんで あの ごっついおっさんが オネイサンに なるんかね~?」
「あっ、それは、副隊長さんのほうが 家事が 上手だかららしいわ」
ライラによれば、彼女よりも ダントツ女子力が高い上に、怖がらせないように
オネイサン言葉を 使っていたから 自然と 呼ぶように なったんだと。
今回も ライラが ついていくと言いはったものの、 お酒がらみのトラブルは
こりごりなので ご遠慮願った次第である。
片付けも 大方済んだところで、私は 散歩に出た。
プラプラと 湖へのみちを たどる。
折しも 今宵は 満月。
水面にうつる満月は、どことなく 懐かしく、切ない。
じっと 眺めているうちに、どこからともなく 竪琴の 音色が 耳に 届いてきた。
音色をたどると、竪琴を奏でる 人の姿が。
そして、
その周りを 銀鈴花が 取り囲んでいる。
竪琴を 奏でていた手が ふと 止まる。
「おや、お客さんですね。
よろしければ、
少し おはなしでも しませんか?」
顔を こちらに向けているものの、その瞳は 遠くを 見つめている。
ーあら、もしかして?
私の 考えを 見抜いたかのように、
その人は 優しく 微笑んだ。
「そうです。
私は この瞳に 景色を映し出すことが 叶わないのですよ。
だから 心の目で あなたを 感じているのですよ、
アニィアングレイシア孃」
「どうして…」
「私は あなたの 源ですから」
「源?」
「そう、源です」
「まさか、あなたは・・・」
リーンリリン、リーンリリン。
銀鈴花の 音色が 優しく 広がってゆく。