ED1AS ふたりきりの結婚式
・・・もう直ぐ、だな。
今日ほど誕生日が待ち遠しい誕生日はなかった。
オレにとって誕生日などどうでもいい。
今までそう思ってきた。
ただ、オレが生まれてから18年後の4月7日。
この日だけは特別だと、今なら思える。
「駿、明日ですね」
「正確にはあと1時間半と少し・・・ってところか」
今日は4月6日。
そして時刻は10時27分。
そう、あと2時間以内にオレは18回目の誕生日を迎える。
18、それはこの国の男が結婚できる年齢。
「と、いっても・・・籍を入れるのはまだ、時間はあるけどな」
「それでも、この日をどれだけ待ちわびたことでしょう」
一年間、学校に通いつつも千秋を寂しがらせないよう、オレも努力した。
勉強よりも努力した。
勉強なんて二の次だ。
だが、学年でもトップクラスの学力はキープし続けた。
それは千秋のおかげだろう。
「初めて出会ってから、十年以上経つのですね」
「そうだな・・・オレはあの頃、お前に剣の腕を見せるために必死に腕を磨き続け、免許皆伝までして・・・あまりに必死になりすぎてお前のことを忘れてしまっていた。ごめん」
「べ、別に謝ってもらうようなことではないですよ」
「再開した時よりもずっと素直になったよな、千秋」
「ひ、人とあまり接してなかったので・・・あまり素直ということが・・・まだよく分かってなかったみたいです」
確かにな。
千秋はずっとひとりで自らの学力を磨き続けた。
ひとりになりすぎて、いざ他人と接するとしたら素直になれず、偽りの自分を見せていたのだろう。
「お前が誰だか思い出してからすぐに離れてしまった。そこからか、オレが普通の人ではいられなくなったのは」
「・・・そうですね。でも、あなたは変わらない。いくら人から外れた存在になっても、人としての思いは残っている」
「ありがとう・・・意識はしてなかったけど、そう思われていたんだな」
「記憶を失った時もありましたね」
「あの時はびっくりしたよ。オレのカードに億単位で金が入ってたからな。マジで焦った」
結局あのカード、湊に渡してきたけど・・・上手に使ってるかな。
あの調子だともう1億は無くなってそうだ。
「あと、二分ですね」
「ああ、待たせた」
二分が長い。
たった一秒が凄く長く感じられる。
それを120回も繰り返す。
二分間、オレたちは黙っていた。
まだ少し寒気のする空気の中、ベランダで。
いくら都会になったこの町でも、少し離れた千秋の家なら星空も見える。
星の煌めきを瞳に映していると、日付を変える鐘が鳴った。
「0時に・・・なったな」
「はい・・・お誕生日、おめでとう、駿」
何故か涙目になっている千秋がオレの腕に納まる。
「駿、私のプレゼント、受け取って下さい」
「・・・ああ」
トロンとした目でオレを見つめ、そのままオレに口づけをした。
千秋の唇は、いつも以上に熱く感じた。
「一足先に、結婚式を挙げましょうか」
「それも・・・いいかもな」
客などいない、それでもよかった。
祝ってくれる人が一人もいなくても、それでも幸せだった。
「私、椎名千秋はあなた・・・片瀬駿を永遠に愛します」
千秋の言葉に、オレは歓喜の感情を覚えた。
だが、何故かそれを言葉に表すことはできなかった。
嬉しすぎたのか、何故言葉に表せなかったのかは、自分でも理解できない。
「・・・駿?どうして泣いているのですか?」
「・・・え、オレが?」
目に触れてみると、何故か濡れていた。
「さあ、どうしてだろうな」
「こんなときですよ、笑いましょう」
「・・・ああ、そうだよな。笑わないと」
オレは笑って見せた。
「らしくないですよ、作り笑いなんて」
え?
あれ・・・え・・・。
「作り・・・笑い?」
オレはそんなつもりはなかった。
どうした、何が起こっている?
作り笑いなんて・・・。
「だ、大丈夫ですか!?」
「か、感情が・・・表せない」
喜怒哀楽の内、喜と楽が表せなくなっていた。
「副作用か」
「・・・駿、私の目を見てください」
何かと思ったが、彼女が真剣な眼差しでこちらを見つめてくるのでオレも彼女を見つめた。
「あなたは恐れているのです」
・・・。
「この感情を表して、私を傷つけないかと」
・・・。
「悪魔や神の所為にしてはなりません、あなた自身の問題です」
・・・。
「・・・そう、だよな」
オレは少し笑った。
「ほら、作り笑い以外もできますよね」
「心の持ちようか」
「なんて、私がちょっと暗示をかけただけです」
暗示・・・千秋はそんなことが得意だったな。
「ありがとう。これでやっと言えるさ。さっきは心が不安定だったのかもしれない」
「・・・聞かせてください。あなたの言葉を」
「私、片瀬駿は・・・千秋・・・あなたを永遠に愛します」
続編でもいずれ書こうかと思いつつ最終話にします。
たぶん、そのいずれは結構近いと思います。