ED1AS 姉妹の反逆
ある日、千秋が焦ったような表情で頭を抱えていた。
「どうした?」
「・・・いえ、何でもないです」
何でもないわけがない。
明らかに焦っている。
「嘘はよくないよ」
「・・・そうですね・・・あの、閉じ込めていた姉が逃げ出しました」
え?
「閉じ込めていた?」
「姉の千春と千夏です。とある事情で父に閉じ込められることとなったのですが・・・妹の千冬には私がやったと言っていますが」
「なんでそんなことを」
「彼女らは椎名家当主にしか明かされぬ秘密を知ってしまったからです」
秘密?
千秋は知っているのか?
「あの、当主の基準はどんな基準なんだ?」
「椎名家の当主の四人の子供のなかで最も有能な者です。知能、技能、意志等、最年少の者が12歳の時点で最も優れている子供が当主となります」
・・・確かに千秋より優れている人間なんて見たことがない。
「椎名家の女は子供を四人産んだ時点で子宮を摘出されます」
なんだその掟?
「私もいずれそうなることでしょう。そして椎名家当主、もしくはその配偶者の女は四人の子供を、産まなければならない」
片瀬家も裏ではなんかやらかしてたみたいだけどそんな掟は・・・ああ、長女と長男しか本家に住むことができないって掟があったな・・・まあ、いいか。
「そして当主になれなかった二人が、当主の秘密を知ってしまった。そして閉じ込められた」
話が急に飛んだ。
まあ、いいか。
何なのか分かるし。
「彼女らの閉じ込められていた牢獄には巨大な穴が開いていました。大きな力でも使ったのでしょうか、核シェルターが見事に破壊されていました」
か、核シェルターが!?
あ、ありえない・・・。
まあ、オレなら可能だが。
一般人がそんなことができるはずがない。
「閉じ込められている以外は結構自由だったんですけど・・・食べたい物とか、彼女らの趣味とか、運動場とかは完備していましたし」
「もはや牢獄でも何でもない」
「どうしてそんなこと・・・ま、まさか・・・」
千秋の顔が青ざめた。
「どうした?」
「椎名家当主の秘術を使ったのでしょうか」
秘術?
「秘術?」
「はい、彼女らが閉じ込めるきっかけとなったことです。あなたには教えてもよいでしょう。椎名家の秘術、それは悪魔の子を孕むことを条件に絶大な力を得るという・・・昔は椎名家の女が許されないことをした時に強制され、利用されたと聞きます。ちなみに男は殺されていたそうです。男って役に立たないですね」
や、役に立たないのか、オレ。
それにしても悪魔の子ねぇ。
オレはもはや悪魔・・・いや、邪神か。
まあ、んなことはどうでもいいや。
「悪魔の子を孕むとどうなるんだ?」
「出産のときに地獄を見ると伝えられています。出産後は発狂するか廃人になるそうです。そして産み落とされた悪魔は冥界へと旅立つそうです」
・・・廃人・・・か。
「インキュバスという夢魔が、悪魔の子を孕ませるが・・・」
「そんな低レベルなものではないそうです」
なかなか興味深い。
「もうひとつ質問、絶大な力とは?」
「制限はあれど夢を現実にする力ですか。彼女らはおそらく破壊の力を得たのでしょう」
「・・・救う方法は?」
「分かりません」
そうか。
悪魔だけ殺すか、力を無力化するか・・・。
一縷の望みにでも賭けてみようかと思ったが。
一度も会ったことはないが、千秋の姉だ。
助ける理由は十分にある。
「オレがお前の姉を助けて見せるさ」
「む、無理ですよ・・・いくら駿でも」
「不可能なんてものはない。あきらめないから、人間はどこまでも進化する。空を飛びたかった人間が、飛行機を発明したように」
「それとこれとは違うような・・・」
「ま、まあ・・・とりあえず、オレはいろいろな力を持ってるから・・・なんとかなるだろ」
自分で言っといて何だが、非常に無責任である。
場所の見当は付いている。
・・・てか、エスナに特定してもらった。
「どうやら・・・ここに向かっているようだな」
「彼女らの目的は・・・私への復讐か」
しばらく待ってみると、爆発音が聞こえた。
「来たな」
「彼女らには洗脳は通じないはずです。現在の彼女らは悪魔の力で膨大な魔力を保持しているはず」
「問題ない、ちょっと試したい奥義もあったしな」
「・・・あんな人たちでも、一応私の姉です。あまり傷つけずにお願いします」
当然だ。
「悪魔の場所は、子宮か?」
「ええ、そうです」
なら話が早い。
オレは壁に立てかけてあったルインを手にする。
「ルイン、お前、今魔力はどれくらいある?」
「コキュートスを自分だけで放てるか放てないか程度ですね」
それだけあれば十分すぎる。
オレの新たな奥義、とくと味わうがいい。
そのためには槍も必要か。
「リア、力を貸してくれ」
「私の力を?高くつくぞ?」
既に他界から問題ない。
オレが扉を切り裂くと、その先のホールに二人の女がいた。
一人は20過ぎくらいの女性。
彼女は妖艶な雰囲気を醸し出しており、誘惑されたら有無を言わず、ついて行ってしまうような美貌の持ち主だった。
もう一人は小学生くらいの体系の小さな女の子。
千秋の妹、千冬よりも小さいが、彼女もおそらく千秋の姉だろう。
二人とも、顔が千秋とどことなく似ている。
「あなたは誰ですの?」
「あんたらの妹の旦那ってとこか」
「私たちをあんなところに閉じ込めておいて、あの子、何様のつもりですの!?男なんて作って」
嫉妬・・・か。
「おねーちゃん、ボク、秋ちゃんのこと許せない!」
体系だけでなく、言動も子供だ。
「千秋に手を出すなら、オレを始末してから行け。最も、そんなことができるかは・・・知らないけどな」
オレは剣と槍を構える。
「その刀、その槍、その魔力・・・あなた、ただものではないですわね?」
当然。
「おねーちゃん、悪魔の力を使えばこんなやつイチコロだよ!」
「残念ながら、オレにはお前たちを殺す気はない。だけどな・・・奥義・次元空間!」
オレはリアを地面に突き刺した。
「なんですの、この空間は!?」
「この空間はオレの固有結界の一つ、次元空間。この空間に存在しているもの全てに、オレの攻撃を届かせることが可能だ」
つまり。
オレは剣を横に振る。
「奥義・天地開闢!」
オレが斬ったところは・・・。
「何も起こらないですわよ?」
「そうだ、あんたにはなにもしていない。オレが斬ったのは・・・お前の子宮に潜む悪魔だ」
剣をジャンプさせた。
こんな芸当、並の剣士には到底できない。
「もう一人、奥義・真一文字!」
剣先がジャンプする。
その先で、悪魔を切り裂いた。
手ごたえはあった。
「斬った」
オレは刀を鞘にしまうと、槍を地面から抜いた。
「な、ふざけていますの!?あなたなんて私の魔力の前には・・・」
「悪魔はすでにいない。微力な魔力ならオレの神通力で閉じ込めることができる」
神は便利なものだ。
「おねーちゃん、こ、こいつなに!?」
「こっちが知りたいですわ!」
二人はとても焦っている。
その時を見計らったかのように、千秋がオレの横へ歩み寄ってきた。
「お姉様方、お久しぶりですね」
「ち、千秋!」
「秋ちゃん何が起こっているの!?」
「オレが貴様らの力を増幅させていた悪魔を断ち切った。刃の先を・・・お前らの胎内に送り込んでな」
「そう言うことです、観念して元の場所にもど・・・そうですね、あなた方、私の言うことを聞くなら出してあげてもいいですよ」
「・・・嘘、掟に反することは!?」
「洗脳を使えば口封じくらいの暗示は掛けられます。問題ありません。もちろん、実行も、もう二度々させません」
これで一件落着・・・なのか?
まあ、千秋の姉二人は了承したような顔をしているからな。
それよりもオレは気になることがあった。
「悪魔を身に宿しているとき、どんな感じだった」
「心の奥から力が湧き出てくるようだった。その力は禍々しい限りで・・・」
千春はそれを思い出したとたん、急に身震いを始めた。
今思えば恐ろしいことだったのだろう。
「やはりな・・・千秋、今直ぐにその術が記されているものを処分し、お前も忘れろ」
「え、ええ・・・ですが掟・・・」
「知ってるか?掟は破るためにある。そして違法も法だ。掟なんて気にしてたら生きていけないぞ。法を破るのはどうかと思うが、少しくらい破っても、そっちの方が人間味がある。自転車の交通法なんて破ってるやつの方が多いだろ」
「・・・確かにそうかもしれませんね」
千秋は自らの服に隠していた書物を取り出した。
「駿、この本を切り裂いてください」
「仰せのままに!」
ルインを抜き放ち、その勢いで書物を切り裂いた。
真っ二つに切り裂いたあと、オレは凄まじい速度で残りの破片を粉々にしていった。
「完了」
「これで私以外にこのことを伝える術を持つ者はいません」
これで一件落着ってか。
「これでよかったんです」
そうだな。
こうして、今回の事件は丸くおさまった。
オレの願望だが、もうこんな事件は起こらないでほしい。
物語の最後の方に出てきた千秋の妹・千冬。
彼女に言っていた残りの姉妹の話でした。