エンディング2 愛する者を失った者の末路
注意・エンディングはほかにもあります。
「勝利とは気持ちがいいものだ」
オレは剣を地面に突き立て、神を見下していた。
主人公補正を舐めるなよ。
「神、どうせ生きているんだろう。なら一つ言わせてもらう。正義は必ず勝つというが、それは誤りだ。正確には勝者が正義となるから正義は負けないんだ。分かったか」
神が秩序をいくら守ろうと、己の正義を貫き通して戦えば、それも正義になる。
戦争だって勝ってしまえば正義だ。
第二次世界大戦で戦争犯罪の罪に問われたのが敗戦国だけだったように、勝ったものは罪に問われない。
原子爆弾を使おうが何しようが勝ってしまえば問題ない。
オレはそれは悪いことだとは思わない。
負けた者はそこから学習することができる。
「貴様・・・人間風情が」
「おお、神。生きてたか」
体が徐々に再生されてゆく。
「次元の移動が可能なのがカタストロフだけだと思うな・・・」
「な、何!?」
神が手をかざした瞬間、オレのすぐ横の空間に切れ目が入り、オレが吸い込まれた。
ものすごい吸引力で、オレは逃げだすことができなかった。
「みんな・・・逃げろ!!」
オレは最後にそう言った。
神を道連れにして。
私たちが元の世界に戻って来てから約4年の月日が経ちました。
私、椎名千秋は二人の子供、梨瀬と翠香と一緒に幸せに暮らしています。
まだ若いですが、すでに二児の母。
そしてもう、私の子供は増えないでしょう。
私はもう孕むことはできません。
あの人がいないから・・・。
「お母様、どうして泣いているのですか?」
翠香が私に話しかけた。
「ちょっと・・・お父さんのことを思い出してしまいまして」
慰めてくれているようですが、私の涙は止まりません。
ひとりで過ごす夜は死にたくなるほど辛いものです。
いつ帰ってくるかわからない。
帰ってくるかすらわからない彼を待つことは・・・私には辛すぎました。
「お父様はどのような方でしたのですか?」
「パパはとってもカッコいい人だったよ!」
梨瀬が翠香に駿のことを教えているようです。
「偽りの幸せは・・・いつまで続くのでしょう」
私はそんなことを呟いたりしました。
「お母様、今日はお母様の誕生日ですよね」
誕生日?
今日は・・・3月3日。
そう・・・私の誕生日でしたね。
駿の誕生日には毎年指輪を買っていると言うのに・・・。
「ママ、ケーキもあるよ。何に・・・なんで泣いてるの?」
子供というものは時に心に傷をつけるものですね。
「一番祝ってほしい人に・・・一番祝ってほしい人が・・・なんで・・なんで・・・」
子供の前というにもかかわらず、私は泣き崩れた。
もう・・・耐えきれない・・・。
そう思ったとき、玄関のインターホンが鳴った。
「・・・ママ、誰か来たよ」
「雨が降っていますわ。お外で待っている人が風邪をひいてしまいますよ」
私は必死にハンカチで涙を拭った。
目はまだ赤い。
「今出ます」
涙声で私は声をかけると、玄関に向かった。
今思えば誰が来たかカメラで確認すればよかったものの、私の心にはそんな余裕はありませんでした。
そして私は玄関のドアを開く。
「―――――っ!」
私は驚きで言葉が出せなかった。
涙しか出てこなかった。
ドアの先には、雨に濡れた愛しい人がいた。
彼は私に声をかけなかった。
謝るような言葉も、帰ってきたことを伝える言葉も、何も。
「い、今まで何をしていたのですか!?」
彼はそれを聞いても目を閉じただけだった。
「何か・・・何か言ってください・・・お願いです・・・あなたの声が聞きたい」
それでも、彼は何一つ喋らなかった。
ただ、私を抱き寄せるだけで。
雨に打たれ、冷えてゆく体を彼の体温が温めた。
「お願い・・・何か喋って・・・声が・・・あなたの声が・・・私は聞きたい・・・お願いです、駿!」
私は思い切り言い放った。
もう、私はこれ以上大きな声は出せません。
私の魂の叫びと言ってもいいでしょう。
その言葉に反応したのか。
私にそっとキスをした。
・・・このキスの味・・・やっぱり・・・駿ですね・・・。
私の意識は、キスの味とともに途絶えた。
翌日。
私は何故かベッドで寝かされていました。
「お母様、どうしたのですか?」
「うん、昨日の夜、誰もいない玄関で一人で喋ったりして」
え・・・?
・・・げん・・・かく・・・でしたの?
駿は・・・駿は・・・。
「駿・・・駿はどこですか?冗談でしょう、あなたたち、私をからかっているのでしょう?」
「な、何言ってるの?」
「大丈夫ですか、お母様・・・お疲れなのでは?」
・・・。
嘘・・・。
嘘よ・・・嘘よ・・・嘘・・・。
ありえない。
あの時・・・確かに駿とキスをした・・・。
駿の温もりを感じた・・・。
「ママ!?」
「お母様!?」
それから私はどうなったかは覚えていない。
今、私はどうしているのか。
私はどうなってしまったのか。
自分でも分からなくなる。
もう、自分が誰だかわからない。
何も覚えていない。
ただ、ひとつだけ覚えていたことは。
「片瀬駿という男を愛していたということだけ」
何が起こっているか分からない自分の口から、その言葉だけが零れた。
これは、たぶんバッドエンドですね。