エンディング1 愛と力とペンダント
注意・エンディングはほかにもあります。
それぞれ違った結末を迎えますのでご注意ください。
「千秋、終わったぜ」
千秋に話しかけると、千秋は力が抜けたかのように地面にぺたんと座りこんだ。
「私、疲れました」
千秋は精一杯微笑んで体をオレに預けた。
「お疲れ様、千秋」
「それは私が言う言葉ですわ」
言ってもらえるとありがたいよ。
「あら、あのお姉様があんなことをするとは」
「千秋ちゃんは駿の前ではとても甘えん坊なんだよ」
千冬の問いに轟騎が返答する。
「まあ、ハッピーエンドなんじゃね?」
「あの殿方、人間なんですか?さっきまでの戦いで剣から波動を飛ばしていましたが」
「駿の剣術は基本的に突きを使う。斬りを使うときは決まって奥義を使うとき。その奥義は人間離れした奥義ばかり。全て己に宿る気を使用しているといってるけど」
轟騎は長年連れ添った相棒の話をする。
なんだかんだ言って駿が最も頼りにしている友は轟騎なのだ。
「駿は君のお姉ちゃんの旦那さんだから、君の義理の兄ってことになるのかね」
「まあ、あんな素敵な殿方がお兄様なら・・・私も悪い気はしません」
照れ隠しする千冬の頭を轟騎が撫でる。
「ま、そういうこった。仲良くな」
頭から手を離すと、ゆっくりと立ち去っていった。
「わ、私は!あなたが・・・お兄様でも」
千冬の思い切った発言に、轟騎はびっくりして振り向いた。
だが、すぐに真面目な顔になって、一言呟いた。
「俺には、先客がいるから・・・さ」
千冬には轟騎の大きな背中が眩しく見えた。
はやて姉が手懐けたカタストロフの力でオレたちは元の世界に戻った。
千秋の妹は戻る術をはじめから知っていたようだが、オレたちにはそんな方法はまるでなかったので普通にカタストロフの力で戻ってきた。
「戻ってきたな」
「はい、そうですね!」
帰宅後最初の夜。
オレたちは月を眺めながら話をしていた。
「結婚まであと1年先か。長いものだ」
「女性だけ16歳で結婚ができるというのは不公平なような気がします。何百年も前でしたら私たちはすでに結婚しているはずです」
昔の話だ。
現代は高校はおろか大学を卒業してないといい就職先なんて見つからないからな。
こんな世の中になっちまったから、結局結婚するのも遅くなってしまうものだ。
「ま、気長に待とう。別に今結婚する必要なんて無いんだから」
オレは千秋の頭を撫でる。
「な、なんですか、この行為は」
おや、お姫様は機嫌を損ねてしまったか。
「千秋がかわいいな・・・って思ってさ」
「か、かわいいなんて・・・も、もっと撫でてください」
ふふ、かわいいな。
本当に。
「さて、夜も更けてきたな・・・っと、ちょっと用事が出来てしまった」
「はい?なんですか?」
「まあ、気にするな。帰って来てからのお楽しみってことだ」
オレはベランダから飛び立った。
神の力を使い、自力で空を飛ぶことすらできる。
便利な反面、人間離れしたことに悲しさも覚える。
それでも、この力を出来るだけいいことに使いたい。
そう思った。
オレが向かった先はオレの家。
もうここにオレは住んではいない。
オレの帰る場所はここじゃない。
この家は今、はやて姉が泊まっている。
てか、もともとオレとはやて姉がふたりで住んでいた家だ。
はやて姉が泊まっても違和感は感じない。
「はやて姉、預けておいたあれは?」
「そこにあるわ」
鏡の前に置いてあった箱。
元の世界に帰って来てすぐにこれを見つけ、迷わず買った。
そして千秋に見つからないように、はやて姉に預けておいた。
今、これを渡そう。
我が、愛する者へ。
「千秋、ただいま」
ベランダに降り立ったオレを千秋は待ってましたと言わんばかりに抱きしめた。
「どこに行ってたのですか?」
「ちょっと、これを取りにね」
オレは先ほどの箱を渡す。
「オレからのプレゼントだ」
「私にですか?」
オレは首を一度だけ、縦に振る。
「開けても・・・よろしいでしょうか?」
「どうぞ、お姫様」
千秋はそっと箱を開ける。
「これは・・・ネックレスですか?」
「ああ。帰って来たときに目に入ったんだ。君に似合うと思ってね。悪いけど指輪は結婚の時までお預けだ」
「あ、ありがとうございます。指輪も、楽しみにしています!」
千秋にとってはこんなものは安物にすぎないだろう。
だが、それを大切にしようとする限り、その価値は衰えるどころか上がっていく。
愛とは、そういうものなんだ。
きっと・・・オレが想像しているよりも素晴らしく、美しいものなんだ・・・。
「本当にありがとうございます。一生大切にします!」
その声が耳に届いたころ、オレの口は小さな唇に閉じられていた。
「大好きよ、駿」
キスの後に響いた彼女らしからぬ言葉が、とても印象に残った。
まあ、ハッピーエンドじゃないですか。