最終章第24話 千の四季の名を持つ姉妹の複雑な家庭事情
駿が神と戦っている間、逃げいていた人たちの前に一人の少女が現れた。
「やっと見つけた・・・椎名千秋!」
私こと千秋はその少女の瞳を見つめた。
「椎名千冬・・・」
「お姉様が椎名家の次期当主になられたと聞いて、駆けつけてきました」
「こんなところまで・・・なぜですか?」
「あなたをここで殺して・・・私が当主の座を奪うからです・・・あなたが二人の姉、椎名千春、椎名千夏を殺したように!!」
周りにいた人たちは驚愕の表情を浮かべた。
「殺してはいないです。あの雌豚たちを椎名家の牢獄へ閉じ込めているだけです」
みんなは「それでもひでーよ!!」って、顔をしている。
「お姉様!いつか私もそのような末路に迎えさせようとしているのですか?」
「あの二人の姉は私と違って無能でしたから・・・。ただ、私の姉妹の中で唯一まともな頭脳を保持していたあなただけは使えそうだったから見逃してあげていたのですが」
耳につけていたイヤリングを外す。
「私にあなたの洗脳は効かないですわよ!私も魔術師なのですから!」
イヤリングが太陽の光を受け、輝きを増した。
「イヤリングなど眺めていないで、私の話を聞きなさい!」
「聞いているわ、私はあなたとは人間的に出来が違うのですから、他の作業をしながら20人くらい同時に話されてもすべて理解することはできますよ」
「なにその聖徳太子もびっくりな無駄スキル!?」
「私はあなたの基礎能力から全てを上回っています。今更私に勝てるとでも?」
千冬は唇をかんだ。
「お姉様は何の感情もないのですか?どうしてそこまで冷酷なのですか?」
私は瞳を閉じた。
「それは違う。千秋ちゃんは愛する者のためならば身を捨てる覚悟ができている・・・この中で最も愛を理解している女さ」
轟騎が急にそんなことを言い出した。
「ご、轟騎!?そんな恥ずかしいこと言わないでください!」
「やっと顔が楽になったな」
え?
「悲しげな顔をしていた・・・これで少しは楽になるだろう」
轟騎は笑いながらそう言った。
「千秋ちゃんは笑えないわけじゃない。感情がないわけじゃない。君の考えてるほど冷徹な人間じゃない」
「お姉様はいつだって私に冷たく接してきた・・・なのに何故家族より・・・姉妹も友達にそんな顔を!」
「私の家族は今はまだ二人しかいません。姉妹だっていると感じた時は一度もありません。何故だかわかりますか?」
千冬は首を横に振る。
それを見た千秋は、ひとつの物語を話し始めた。
「酷なほどに天才だった私は大学を首席で卒業し、すぐにやることをなくしました。私には愛する男性がひとりいました。彼に会いに行こうと思ったのです。私は生れてから家族の温かさにも、友達の温かさも感じたことはありませんでした。ですが、その男性が私に友達の温かさというものを教えてくれました。彼と初めて話をした時、今まで色褪せていた感情が色を取り戻した・・・否、もともと色がなかった感情に色を染め上げていきました。私のその感情は大学に在学していた間、友情というものが恋心に昇華していきました。あ、すいません、轟騎には以前話しましたね?」
「はい、数時間かけて♪」
「帰国後、私は必死に彼を探しました。住んでいた場所は分かっていたので、いつも彼がいた海でずっと待っていました。もう何年もその街には来ていなかったので、街並みは変わってしまっていましたが、その海だけは何一つ変わっていませんでした」
「あのー、面倒なんで結論から話してくれませんか?お姉様」
「結論?ああ、要は命を賭してでも愛せる殿方を見つけなさい、ということです」
「・・・何の関係があるんですか?」
「自分で考えなさい」
「IQ250でしょう?」
「作者のIQが一般レベルですから。いくら私が設定で天才でも作者がバカじゃ意味がないということです。あなただってIQ180のくせに頭がよさそうに見えないじゃない」
「それは・・・それは作者のせいですわ!作者がIQ180もないのがいけないのです!」
「まあ、二人の姉・・・椎名千春と千夏はIQ100に満たないですから・・・ね。なんたって千春は掛け算ができないですし、千夏に至っては引き算すらできませんし」
「仕方ないですね。この境遇についてはお姉様も私も同じ様ですし・・・って、なんでこの話になったのでしたっけ?」
「まあ、作者が全て悪いということで丸くおさまりましたし、問題ないのでは?」
結果的に作者がバカということでおさまりました。
「どうしても当主の座がほしいのですか?」
「もちろんです!」
千冬は堂々と宣言した。
「そう、なら差し上げます」
「え!?」
私のあっさりとした返答に、千冬は驚きを隠せないようです。
「私、婚約者がいるのです」
「私が大学に行っている時に男を作ったのですか!?」
「先ほどの話で出てきた私が恋をした殿方です」
「はぁ〜、それで、庶民になるとでも?」
何か凄まじくうれしそうな千冬を見てむっとしました。
「いえ、私の婚約者は片瀬家正統後継者ですわよ」
「片瀬家・・・表の椎名、裏の片瀬・・・あの片瀬ですか!?」
「とはいえ、片瀬家もすでに正統後継者は三人・・・その上男性はひとりしかいないのです」
「と、言うことは?」
「結果的には私は庶民にはならないんですよ・・・ふふふ」
「・・・それで、その殿方は?」
「今は彼に近づかない方がいいですよ」
それを聞いた千冬は首をかしげた。
「何故?」
「いいから、言うことを聞きなさい」
それを聞いても千冬は言うことを聞かなかった。
そして私がとった行動は。
「亮平、撃ちなさい」
私が声をあげると、弾丸が彼女の左足を的確に貫いた。
精密射撃はメンバーの中でも随一といわれるだけありますね。
「お、お姉様・・・何をするのですか?・・・私を殺すのですか?」
「その逆、生かすためにあなたを撃った」
まるで理解できていないようですね。
それもそう、彼女は現在の状況を理解していないのですから。
「私はお姉様に釣り合う男かどうか見極めに・・・!!」
「死にたいのなら構いません。行きなさい、この先にいますから」
千冬は睨んできた。
「この足で・・・この足でどうやって歩けと?」
「さあ?その辺の木の棒でも、松葉杖代わりを使ったらどうですか?」
「どこに木の棒があるんですか?ふざけるのもいい加減にしなさい!」
「お姉ちゃんにそんな口は利いてはいけませんよ」
私が千冬に説教していると、駿がやってきた。