最終章第19話 心の剣、それこそが己が生み出すことのできる最高峰の剣なり
「お前を直に見るのは初めてだな」
「ああ、オレもだ」
賢者との対面。
凄い威圧だ。
ハヤブサやルインを作っただけある。
「お前の考えていることは分かっている。現代に蘇らせてくれた礼は言わせてもらう」
「その代り、戻るのを手伝えよ」
「お前の考えは読めているといっただろう。それ相応の代価は払う。せっかく趣味の妖刀作りがまたできるようになったんだからな」
え、趣味だったの?
趣味で作られたオレの愛刀・・・。
「手合わせするほどでもないだろう。我の力はお前に以前見せたからな」
オレの力を多少使ってたけどな。
「安心しろ、魔術の才能は圧倒的に貴様よりも上だ」
うぜぇ・・・。
何こいつ。
前からウザいと思ってたけど、まさかここまでとは・・・。
「期待していいんだろうな」
「まあ、いいだろう」
信用ならねぇ・・・。
「剣も一応使える。剣を作る者、剣を使えず・・・なんて言われたら困るからな」
確かに、そうかもしれない。
「一度、手合わせ願えるか?」
「何をいまさら。貴様の腕は我も認めておる」
「いや、オレとじゃない。オレの・・・オレの大切な義妹と」
「義妹を危険な目にあわせるのか?」
いや、そうじゃない。
「義妹を・・・試してみたいんだ」
「どうした、片瀬。こんなところに呼び出して」
「お前、剣に自信はあるか?」
「あるに決まっている」
「・・・なら、ひとつ頼みを聞いてもらいたい」
少し間をおいて、刹那が声を発した。
「なに?」
「剣を抜け」
「え?」
「いいから早く!」
次の瞬間、賢者が刹那に切りかかっていた。
刹那はそれを紙一重で避けた。
「な、何を!?・・・って片瀬!?」
既にオレはいなかった。
ここからは、彼らの戦いだ。
なぜオレがこんなことをしたか。
理由はひとつ。
刹那には生きていてほしいから。
生きていてほしいから、力を試してもらっている。
オレじゃ・・・手を抜いてしまうから・・・。
「最終決戦に刹那の力は必須だ。だが、賢者にすら勝てなければ・・・使うのは止めるしかない。可能な限り、オレの大切な人を失いたくはないから」
・・・この剣士、何者だ?
見たことはない。
だが、この剣捌き、片瀬のそれと似ている・・・。
尤も、この剣士の方が手ごたえはないが、非常に強い。
私の居合を剣で華麗に受け流している・・・。
ただものじゃない。
剣を打ちつけ合っているから、いずれはあちらの剣が折れるだろう。
私のは妖刀だから、折れることはない。
だが・・・。
「吾が剣・・・受けてみよ」
私は剣を鞘にしまう。
「隼返し!」
燕返し・・・の強化といったところか。
それすらも華麗にかわす剣士。
いったい何者なんだ?
「貴様は、貴様は何のために剣を握る?」
「己の強さを証明するためだ!」
剣士は苦笑いする。
「では、強さとは何だ?」
「強さ・・・強さ?」
強さ?
そういえば強さって何なんだ。
剣術の達人だから強い?
違う。
魔法使いだから強い?
それも違う。
「我は不意打ちなどしない。貴様の答えが出るまで待っていよう」
・・・剣士としての心得はあるようだな。
それが強さか?
・・・強さって・・・何なんだ。
私は幼少のころから剣術を習ってきた。
剣術は力の証明にはなるが、強さの証明にはならない。
力=強さではないから。
力も、何種類も存在している。
剣術で証明できる力は、武力という点での力だ。
「強さなど・・・存在しないのか」
「否、だが、それに非常に近い答えにはなるだろうな」
非常に近い答え?
「強さなど、人間が一時一時に感じる小さな感情でしかない。貴様が我を強いと思おうが、我よりも強いものは我を弱く感じるだろう。このように、個人個人、感じ方が違う。それ故に強さは存在しているが、存在していないものともとれる」
・・・難しいな、哲学か。
私にはイマイチ理解できない。
「だが、我はそう考えてはいない。強さとは、己に打ち勝つための武器と考えている。己に打ち勝たねば、何にも勝つことはできない。競技などで勝利を手にしたところで、それは無駄。ただの自惚れにしかならない。己に勝つことのできるものこそが、真の意味で勝利を味わうことができる」
・・・この剣士、一体何者なんだ。
本当に。
「お主、名はなんと申す?」
「我が名など、教えるに値しない。価値のない名だ」
「それはどういう・・・」
「己に勝て、赤坂刹那」
「承知!」
私は刀を鞘に納める。
「刃で斬るのではない」
次に呼吸を整える。
「貴様の刃は刀にはない」
ゆっくりと瞼を閉じる。
「貴様が手にすることのできる最強の刃、それは・・・」
そして腰を落とした。
「そう、貴様の刃は―――」
「吾が刃は心にある!!」
次の瞬間、剣士が持っていた剣がバターのようにあっさりと切れていた。
「心・居合奥義・・・神葬心理!」
「これは神ですら切ることができる。覚えておけ、真の強さは貴様の心にあると!」
決して忘れない。
「吾が剣、今ならば何でも切れる!」
「これならば心配ない。片瀬駿から貴様の実力を見るように言われていた。以上だ。もう何もない」
私が礼をいう間もなく、剣士は立ち去っていた。