最終章第17話 人柱にされた人はみなを憎んだのだろうか・・・。
「あとは洸だけか」
「ですね」
夕暮れ、オレは先日見つけた崖から千秋と二人で沈む太陽を眺めていた。
「それが終わったら帰るんだな」
「早く帰りたいです」
「梨瀬が心配だからか?」
「いえ、梨瀬は大丈夫です。私がいろいろ教え込んできましたから。ひとりで料理位はできますよ」
・・・まだ約1歳だぞ、おい。
どれだけ教え込んだんだか。
・・・も、もしかしてこのスパルタ教育(か、どうかはしらんが)が原因で梨瀬は千秋に懐かなかったとか・・・。
そしてファザコンに・・・。
・・・うーん。
難しいもんだ。
「それと駿、私・・・また妊娠したみたいです」
え?
「なぜ?」
「駿とエッチしたからに決まってるでしょう」
まあ、そうだけど・・・。
「いや、そんなんじゃなくて。なぜそんなことがわかるのか」
「分かるんですよ。そんな症状とかが出てきましたから」
翠香が誕生するのか、ようやく。
梨瀬のときはめちゃくちゃとまどったけど、今はそんなでもない。
一度経験しているからか。
普通の・・・オレと同じ年の男だったらマジで死にたくなるだろうが、オレには希望がある。
なんとかして見せるさ、また。
「この先、生きていく中で・・・オレとお前の間に歪みが生じたらどうする?」
「それもまた運命・・・とでもいいましょうか。でも、そんなことはないと思いますよ」
はは、まさかね。
オレは刹那たちと話をしている時、千秋が嫉妬しているのを知っている。
とても悲しそうな目でオレを眺めているのをよく目にする。
そんな千秋が・・・歪みが生じることを心配しないわけがない。
「安心しろ、オレはいつもお前がいるから頑張れるんだ。だから、お前が考えているようなことは起きないさ。オレから話を吹っ掛けたのにオレが言うのもなんだが、歪みは生じさせない」
「・・・当然です、私だって」
そう言い放った瞬間、急に振り向いた千秋がお互いに顔を向け合っていることに気づき、笑いだした。
つられてオレも笑う。
「はは、そうだよな。余計な心配だった。今は帰ることに集中しよう」
「はい!あの・・・帰ったら・・・」
ん?
「帰ったら、結婚しましょう!」
「オレの年齢が足りないけどな。あと、死亡フラグは立てないでおいてくれ」
「す、すいません、気づきませんでした」
まあ、オレが死ぬってこともないだろうがな。
「・・・日も暮れてきたな。みんなのところに戻ろう」
「はい!っと、その前に」
千秋がオレにそっとキスをした。
頬にだけど。
「いいですよ」
ニコッと笑った千秋を見ながらオレは立ち上がる。
「さあ、今度こそ戻ろう」
オレと千秋は、並んで歩きだした。
「洸の居場所がわかった!?」
「・・・というより、吾と共に来た。すぐに呼んでくる」
刹那は走って行った。
なんか案外早く見つかったな。
「それじゃあ駿くん、こちらはこちらで帰り方を見つけましょう」
「・・・それなら気にしなくていい」
はやて姉が首をかしげる。
「なぜ?」
「もう、戻る術はある」
オレは腰に差した刀を一本取り出す。
取り出した刀は、カタストロフ。
「これの力で元の世界に戻ることができる」
「さすが駿くん、もう手を打っていたのね」
ただ・・・。
「そうだが・・・ただ、ひとつだけ・・・」
「何?」
「戻るために、必要なことがあるんだ」
オレの話を全て聞いたはやて姉は言葉を失っていた。
「まあ、人柱立てるだけで戻れるんだ」
「そ、そんな・・・」
「ふざけるな!」
陰から轟騎が出てきた。
「話を耳にはさんだことは謝る。だけど・・・戻るために生贄がいるって・・・どういうことだよ」
「・・・仕方がないことなんだ」
「・・・お前・・・お前まさか・・・自分が生贄になるとか考えてんじゃ・・・」
よくわかったな。
誰も犠牲にならないだろう。
犠牲になりたくもないだろう。
なら、オレがなるしかない。
「ふざけるな、お前が生贄になったら千秋ちゃんたちはどうなるんだよ!!」
「あいつなら、オレがいなくてもやっていける」
永遠に離れない・・・とか言っておいたのにさ、オレ・・・何やってんだろう。
「人の心ってのはお前が考えているほど丈夫じゃないんだ。心の支えを失っただけで簡単に崩壊する。千秋ちゃんがお前を失ったら・・・それこそ廃人になっちまうんじゃないか?」
「だったら・・・誰が人柱になるってんだよ!」
「そんなことだったら俺がなる。俺がなれば・・・」
「轟騎、それも間違いよ。誰が生贄になるとかじゃない。生贄を必要とせず、どうやって元の世界に戻るかが重要なのよ」
その方法が・・・それがないから困ってるんだよ・・・。
「みな、洸を連れてきた」
刹那が戻ってきたようだが、この状況で構っていられるはずがない。
「どうした、そんな険しい顔をして」
「気にするな」
その日の空気はずっと暗いままだった。