最終章第16話 その刹那、光り輝く神の劔が瞳に映った
帰路についているとき、その出来事は起こった。
凄まじい速度で森を駆け抜ける二つの影がオレの目には映った。
ひとつは三本の刀を構えた人影。
もうひとつは銃を構えた・・・兵士だろうか、そんな人影。
もともと、この森は暗かったため、顔までは認識できなかった。
「まずいな、千秋たちがこの戦闘に巻き込まれていたら・・・」
安全を確保しに行くか。
オレは腰に差していた妖刀を抜くと、その影に近づいて行った。
剣士は弾丸を尽く切り裂いている。
相当な腕だろう。
人間がこれを行うなど、神業に等しい。
なお、オレは悪魔(元人間)だから普通にできる。
悪魔と称すには少々誤りがあるから、半悪魔とでも言おうか。
ハーフデビルってとこだ。
ハーフエルフってのはよく聞くが・・・。
それで、その戦闘であるが。
オレは刀を振った剣士から流れ出たかすかな妖気に気を取られた。
「・・・妖刀か」
「キリュウ、力を解放せよ」
・・・この声は・・・。
それにキリュウ・・・間違いない。
「エッケザックス!」
キリュウの魔剣形体はエッケザックス・・・か。
ん・・・エッケザックスは聖剣だったか?
まあいいや。
剣士はエッケザックスを振り回し、兵士の銃を切り裂いた。
「勝負あったな」
「・・・こ、殺すな」
「ふ、吾も人間だ。情けくらいは掛ける。これで分かったであろう。吾は魔女ではなく、剣士だということが」
剣を突き付けられた兵士は、怯えながら何度も頷いた。
「わかったなら吾にはもう手を出すでないぞ」
エッケザックスを妖刀に戻し、そして鞘に戻す。
「だが、その剣は何なんだ!?」
「これか。これは妖刀。神から授けられた剣だと思ってくれていい」
「神など、非科学的なものを」
「この世のものなど、ほとんどが非科学的だ」
剣士はそう言い、身を翻した。
翻した先には、オレがいた。
「か、片瀬!?」
「おう」
剣士は驚いたような顔をしていた。
「刀、また増えたんだな」
「ああ。また増えた」
剣士は刀を抜く。
その瞬間だった。
「・・・ま、魔女!?」
兵士が大声で叫んだ。
その声はどこか、怯えが入っていた。
「ここの魔女は倒したはずだぞ!?」
オレが。
「ここの魔女は双子って噂だったんだ!オレの相方がもう片方を担当したはず!」
あ、あいつこいつの相方だったんだ。
「私たちの森から出て行け・・・」
魔女はそう言って呪文を唱え始めた。
「片瀬!おまえはその兵士を連れて逃げろ!吾は奴をしとめる!」
「気をつけろよ、刹那!!」
手に持っていた刀の一つを鞘ごと前に突き出した。
「力を解き放て!」
力が解き放たれた刀は、西洋剣のような形をしておらず、普通の刀のままであった。
だが、形状は若干違う。
「十握剣!!」
刹那はそう言い放った。
居合刀のようであるが・・・。
「散れ!五月雨!」
一度鞘にしまった刀を抜き放ち、その勢いで五回連続切りつける。
勢いは大気を震わせ、大地をズタズタに切り刻んだ。
魔女も魔女で呪文を唱え続ける。
炎、風、水、土・・・ありとあらゆる呪文を刹那にぶつけるが、それを十握剣で弾き飛ばす。
さすがは刹那といったところか。
刀を使ったところで、負ける気配を見せない。
岩が飛んでこようが、水が降ってこようが、火が周りを囲もうが、風が服を切り裂くまいとしようが、それを尽く両断してゆく。
魔女のところまでたどり着くと十握剣で杖を切り飛ばし、魔女を蹴り倒した。
そして刹那はマントを広げ、倒れた魔女に向かって言った。
「十握剣、布都御魂剣、天之尾羽張、雷切、天叢雲剣・・・日本神話の刀なら沢山持っているが」
彼女のマントの中にはそれらの刀が収納されていた。
「汝は、どの刀で屠られたいか?」
魔女の瞳には恐怖が映し出されていた。
彼女の目には狂気が宿っているように見えたのだろう。
「なんなら、西洋剣も一本だけなら持っているが?」
魔女は恐怖のあまり言葉を発することができない。
自分自身が魔女だということを忘れるくらいに。
「た・・・助けて」
魔女が力を振り絞っていった。
それを聞いた刹那は、十握剣を普通の刀に戻し、鞘に納めた。
「はじめから襲うでないぞ」
刹那がそういうと、魔女は死に物狂いで逃げ去った。
「ふう、なんとかなったな。片瀬とも合流できたし、もうここでやることはなかろう」
こうして、刹那と駿たちは合流することができた。