最終章第15話 変えたと思った運命が、実はそれが本当の運命だった
「神への反逆・・・それが最大の罪だということを理解しているの!?」
「オレの刀は神への反逆を望んでいる。そう、オレの刀の中で最も禁忌とされている力を持つ刀・・・カタストロフが!」
オレには聞こえた。
オレが神への反逆を誓った瞬間、心に響いた。
「カタストロフ。彼は古より封じられた悪魔。彼の心の一部が現代に強力な悪魔として残ってはいるが、その真の力はこの剣に宿されている」
賢者の受け売りだけどな。
「悪魔・・・神への反逆を望み、強力な力を持つ・・・悪魔」
ルシファーたちもそのひとりであるはずだ。
時の流れから強大な力を手にした、最強の悪魔。
オレはこれを解き放つ。
「オレは今、カタストロフの封印を解く!」
危険は承知の上だ。
だが、神を敵に回してしまった以上、それ以上の危険はないはずだ。
オレはそっと鞘から刀を抜く。
今まで抜いたことのなかったその刀身は、炎のように紅く、氷のように冷たく、光のように輝いていた。
まるで悪魔が封じられているとは思えないように美しかった・・・いや、悪魔が封じ込まれているからこそ、綺麗なのかもしれない。
「なるほど、それでこの刀を抜くな、覚醒させるなと言っていたわけだ」
刀の状態ですらオレの魔力は吸収され続けている。
この状態が続いたら危険だろう。
オレは地面にカタストロフを突き刺した。
「剣に封じ込まれし悪魔よ、今ここに姿を現せ!!」
オレを中心に魔方陣が描かれ、オレの後ろから巨大な悪魔が現れた。
「こ、これは!?」
「反逆を行うには、こいつらだけで充分だ」
立場上エスナの力は借りれない。
だから、これしかないんだ。
「さあ、悪魔8人と人間ひとり。神はひとりで制することができるのか」
オレは挑戦的にいった。
ナナリーは唇をかみしめた。
おそらく悪魔たちはこう思っているだろう。
神々を葬ることは困難だが、神を葬ることはたやすいことだろうと。
神ひとりくらい、どうってことないさ。
「オレを制してみろ、神よ!」
オレは高らかに宣言した。
焼け落ちた屋敷を見下ろす空をバックに。
うん、快晴だ。
オレの翼はサラサラと砂になり、魔力は刀に戻って行った。
だが、こいつを倒すのにはもう、この翼は必要ない。
オレはルインを手にした。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」
オレは大声を上げながら突き進む。
傍から見れば馬鹿にしか思えないが、これも作戦だ。
ナナリーは無表情でオレの攻撃をひらりと回避、そしてそこから攻撃を仕掛けてくる。
この瞬間だ。
攻撃するとき、誰でも隙ができる。
隙が大きいか大きくないかで、実際に隙は誰にでもできる。
オレに攻撃が直撃する直前、ナナリーの身体が吹き飛んだ。
戦闘対象がオレだけじゃないことに気付くべきだったな。
悪魔が8人。
これだけでも強敵な上に、オレもいる。
力も徐々に戻ってきている。
オレは確信した。
「この戦い、オレの勝ちだ」
悪魔たちとの連携攻撃を行う。
そして、少しとはいえこの連携攻撃を受け止めることができる神は、やはりすごいと思う。
だが、確信は揺るがない。
攻撃を受け止められても、あちらには反撃する隙すら与えない。
徹底的にたたきのめしたのち、地面に倒れこんだナナリーの胸倉を胸倉。
そして、ルインを彼女の首筋にあてた。
「やめて・・・殺さないで・・・」
この光景だけ見ていれば、ただの少女にしか見えない。
「オレは神をも殺す覚悟でお前が殺そうとした人たちを守ろうとした」
「・・・私を殺しても、神を殺したことにはならない」
・・・どういうことだ?
「意味が分からない。説明しろ」
「私は・・・神界を追放されて、もはや邪神となったも同然」
邪神・・・。
「神の力は残っていても、神ではない」
よくわからんな。
「見逃して。そうすれば、私はあなたのピンチに駆けつける」
よくあるパターンだ。
不意打ちとかもしてきたりするんだろう。
「そんなこと、聞けるわけないだろう?」
「・・・やっぱり殺すの?」
「・・・オレも悪魔に準ずるものといえど、一応人間だからな。人情ってもんがある。生かしてやるよ。悪魔はみんな悪い者じゃないということも、証明したいから」
オレはルインを首から離し、鞘におさめた。
「・・・人の心・・・それは神よりもずっと優しいんだね」
神は時に残酷だ。
運命は残酷だという人がいるが、それは違う。
その運命を設定した神が残酷ってことじゃないかな。
そもそも運命を変えるってことは不可能だ。
自分が歩く道、それが運命だったと、その時にわかるんだから。
わからないものを変えるということは無理だ。
運命は変えられない。
運命だと思い込んでいたことが変わっても、それが本当の運命だったということだから。
「まともな人間は神よりずっとやさしいさ」
オレはまともな人間じゃないけどな。
跪いて涙を流すナナリーは、神ではなく普通の女の子に見えた。
「ナナリー。人として生きてみないか?」
「私は邪神といえど神。人として生きるなんて」
「安心しろ。オレの友達、仲間はほとんどが人間離れした力を持っている。錬金術師、魔法使い、魔砲使い、銃士、武士、軍人、三國時代の武将、中世の騎士・・・そして姫もいるさ」
「私なんかが・・・一緒にいていいの?」
「まあ、オレの守るものが増えるだけだからな」
オレは少し笑って見せた。
涙を浮かべながら微笑むナナリーの顔はとても可愛かった。
オレが頭を撫でてやると泣いて喜んだ。
本当は、甘えたかったんだな・・・彼女は。
「オレはたとえ神を相手にしても大切なものは守り抜いてみせる」
それが、オレの誓い。
それに後ろの悪魔たちは神を殺す気がある。
「安心しろ、一応彼女は堕ちた。彼女は邪神だ」
オレが悪魔たちに言うと、そのうちの一人・・・カタストロフに封じ込まれていたベリアルが答えた。
「邪神は我らの仲間だろう。堕天した者同士、仲良くしようじゃないか。そして、ともに神を滅ぼそう」
なんか目的変わってるなぁ・・・。
オレは守るためなら神をも敵にするってだけだったのにほかの連中は攻めに入っている。
「確かに、我ら悪魔の上位者が8人も揃っているんだ。神に勝つことくらい、苦もない」
「それに我々を同時召喚した彼、彼はただものじゃない。彼とともになら勝てるだろう!」
すさまじい覇気を見せつけてくる彼らに、オレはついていけなかった。
「あの、オレの目的は神を滅ぼすことじゃなくて元の世界に戻ることなんだが」
そういった瞬間、全員に睨まれた。