最終章第14話 神に反逆した天使は堕天使になります。お気をつけください
「やってくれるじゃない」
やはり生きていたか。
空からすっと、ナナリーが現れた。
神の力を取り戻したせいか、一層強くなったと見える。
「オレの進む道に貴様が立ちはだかるなら、オレは何度でもお前と戦う」
「神の力が解放された今、私はまさに地上では最強。人間が神の抗うなど、愚かな行為」
オレは神への反逆を行っているのかも知れない。
だが、オレは神の気まぐれで命を落とす気もないし、大切な人の命も失わせたくはない。
「オレは何度でも立ち上がる。生きるため、守るために!千秋!はるかを連れて逃げろ!」
「は、はい!」
千秋が逃げ切ったのを見届けると、腰に下げていた妖刀―――ハヤブサを抜く。
そして魔力をシンクロさせる。
「妖刀ハヤブサ。空の刀にして五大妖刀の長を務める騎士王!」
そして妖刀とのシンクロは昇華する。
「彼女の力よ、我に宿れ!」
同調を超えた魔力の解放、融合。
オレは今、それを成し遂げた。
これによって能力の一部が飛躍的に特化する。
ハヤブサの力を得たオレは、青い鎧と灰の翼を纏っていた。
鎧と言っても軽装だが。
剣はエクスカリバーの形態をとる。
同調時にオレの守護獣だったハヤブサはオレの翼となる。
「賢者が言っていた、妖刀の強化パーツ。これは妖刀を強化するのではなく、妖刀がオレを強化する、という意味だったんだ」
同調は魔力を消費し続けるが、融合は魔力を消費しない。
ただ、一定時間経過すると融合が解除されてしまう。
結果的に魔力が尽きなければ解除されない同調よりも劣ってしまう。
だが、妖刀の魔力を自由自在に使うことができる。
「お前は・・・」
「オレは、もはや人間じゃない」
そう、こんな力を持っていて人間と呼べるわけがない。
「いくぞ!ナナリー!」
オレは身軽になった身体を宙に浮かせ、空中からの斬撃をナナリーに浴びせた。
スピードが格段に違う。
融合可能時間はたったの15分しかないが、それでも・・・それでも充分だ。
解除後、12時間は融合はできない。
チャンスは15分間のみ。
「その剣は何なんだ!?」
「エクスカリバー。アーサー王が使ったとされる聖剣だ!」
エクスカリバーは青い輝きを放ちながら光の双剣を何度も何度も切りつける。
防戦一方となっているナナリーの顔には苦渋の表情が浮かんでいる。
「対神兵器・・・それがその剣か」
対神兵器?
「昔、賢い人の子が強大な力を持つ剣を作ったそうだ。その刃は何人もの神を滅ぼしたといわれている」
それが・・・妖刀なのか?
「その片鱗の力を持つお前は危険すぎる!私が排除する!」
そう言った瞬間、ナナリーの双剣から無数の光の粉が飛び散った。
・・・目くらましか。
だが、無駄だ。
真の剣士は心眼を体得しているものだからな!
だが、オレの読みは外れていた。
ナナリーが指を鳴らすと、オレの周りが爆発した。
ちっ、粉塵爆発・・・ってやつか。
どうしてそこまで頭が回らなかったんだ?
「何故、あいつの行動が読めない」
オレはボソッと口にした。
「それは私が神だから。そしてあの光の粉を浴びた者は一定時間は能力が低下する」
なに!?
「対神兵器を持った相手にはこれくらいしないと」
「くそ・・・、身体能力の低下が尋常じゃない」
普通の人間程度の力しか発揮できない。
どれだけ力を吸収されたんだ。
「オレが剣でやつに勝てないなら・・・魔術を使うしかない」
オレは腰に差していた七本の刀を、オレを中心に地面に突き立てる。
「七つの大罪を司る者たちよ」
オレは言葉をつなげる。
オレはオレ自身の力を信じ、召喚の言葉を発する。
「我にその力を、今貸し与えたまえ」
七つの大罪。
それは、
傲慢(Pride)
嫉妬(Envy)
憤怒(Wrath)
怠惰(Sloth)
強欲(Greed)
暴食(Gluttony)
色欲(Lust)
罪を犯す者として、その罪を背負う覚悟を見せる。
オレは傲慢だ。
力をどこまでも過信している。
オレは嫉妬している。
自分よりも強い力を持つ者に。
オレは憤怒を覚える。
オレの大切なものを傷つける者に対して。
オレは怠惰な時間を過ごした。
今のこの力を手に入れるまでは。
オレは強欲だ。
力を手に入れてもどこまでも力を欲し続けている。
オレは暴食だ。
力という力をどこまでも飲み込んでしまう。
オレは色欲も強い。
そのせいで・・・千秋は・・・。
「オレは今、この罪を認め、これらの罪を司る王をここに呼ぶ!」
堕天した天使―――堕天使は自身の力を過信し、敗れていったものが多い。
悪魔のなかにはそのような悲しい天使だったものもいる。
オレは彼らの力を借りたい。
そんな強力な悪魔、もともと悪魔だったものも含め、神への反逆を夢見るものは多いはずだ。
しかし、神への反逆は最大の大罪であり、そして制したとき、最大の栄光を得る。
神が世界を見下ろす時代は終わり、悪魔が世界を見下ろす時代が来るかもしれない。
低レベルな神であっても、それでも神に勝利することは自信を得ることになる。
オレはすべての悪魔を従えるため、そしてその力で愛する者を守るために・・・命を賭して神への反逆を行う!
「オレは大切なものを守るためならどんな罪も背負う、たとえ神にでも反逆する!」
オレはそう宣言した。
「superbia、invidia、ira、acedia、avaritia、gula、luxuria...」
オレが呪文を呟いた瞬間、七本の刀に雷撃が落ちた。
そしてそこには七体の悪魔がいた。
傲慢を司る悪魔・ルシファー
嫉妬を司る悪魔・レヴィアタン
憤怒を司る悪魔・サタン
怠惰を司る悪魔・ベルフェゴール
強欲を司る悪魔・マモン
暴食を司る悪魔・ベルゼバブ
色欲を司る悪魔・アスモディウス
「神よ、人と悪魔の力・・・思い知らせてやる」
オレと悪魔たちは大声でそう、宣言した。