第11章第4話 もう少し生きてみようぜ、どんなに今が辛くてもな
「私たちを見て驚かないとは・・・あんた、ただものじゃないね」
テロリストの一人が俺に囁いた。
てか女かよ!?
しかも日本人!?
「・・・オレは貴様らを殺せと言われてる」
そう言ってパイルバンカーを構える。
「パイルバンカー・・・私たちの情報ではあの団体にはそんな武器を使う奴はいなかったはず・・・あんた、何者よ?」
「ま、勝手にすればいいさ。想像は任せる」
武器に魔力が宿っているせいか、いつも以上に俺から大きい力を感じる。
強力な武器は確かに強い。
ただ、それに見合う代償が必要な場合もある。
そんなこと、俺には関係ないけどな!
「パイルショット!」
実は衝撃が加わった時以外にもパイルを発射する方法が、このパイルバンカーにはある。
てか、普通に発射できる。
これにより遠距離での戦いも可能とした。
それでテロリストAの喉を貫いた。
おお、なかなか強力だな。
「・・・同士をよくも・・・」
「俺は、女子供容赦なく殺せと言われている。悪いな、お前の命、貰いうける!」
だが、テロリストの女もなかなかのみこなしでパイルを回避する。
下手な銃よりも速いはずだが・・・。
それにより、テロリストの女以外の奴らに命中していき、ことごとく女以外は死んでいった。
「・・・パイルが・・・あと一本しかねぇ・・・」
「良いことを聞いた!死ね!」
機関銃だろうか、なかなか速い弾丸を連射してくる。
俺は地面を壁に錬成して難をしのいだ。
「普通に狙いはいい・・・結構いいとこで訓練されてたみたいだな」
「ふふふふ・・・確かにな。私は所詮・・・実験動物さ」
実験動物?
「強化人間プロジェクト。この間、この国に喧嘩売った本人がその実験台の一人。ま、誰かに殺されたけどな。戦車にひかれても死なないような男だったのにな、あんな奴倒せる奴がいたことに驚きだよ」
「駿が言っていたな・・・あそこのボスはプラチナよりも硬い肉体を持つ人間だったと」
「・・・お前はあいつを殺した人間を知っているのか?」
「・・・ああ」
駿はこんな化け物と戦っていたのか・・・。
「強化プロジェクトの研究者はみんな死んださ。私たちが、みぃんな殺したからね!」
彼女は笑いながらそんな事を言う。
「私は実験動物にされたことを呪った。生まれた時から実験動物にされ、身体を薬漬けにされたさ、何度も痛い注射を我慢したさ!その結果、手に入れたものはこれだよ!人を殺すことしかできない力を手に入れたんだよ!」
・・・俺には理解できない。
何故、人間はこんなことをするのか。
人間は残酷で醜い存在だと思う。
俺は今まで平和に暮らしていた。
駿と一緒に過ごして、みんなでバスケして、喧嘩して・・・。
俺には理解できないことをするような人間が・・・この世には多すぎる。
「私は自らの身体の強度を落とした代わりに、強力な腕力、脚力、知力、視力、聴力を手にした」
「・・・俺は・・・お前のしていることが理解できない」
「はぁ?ふざけてんの、その言い草」
「俺は人間を殺すことを許可されている。そして、殺せと命じられる。だけど!俺は人なんて殺したくない!でも、俺にしかできないこともこの世にはある。今、この騒動を食い止められるのは俺だけだ。そのためにお前を殺さなきゃいけなくなっても俺は殺すと思う」
「・・・そう?私は人を・・・殺すのが大好きだよ。だってさぁ・・・」
そこで女はクスクスと笑った。
「今まで私を利用してきた連中が死ぬのは、私が彼らを上回ったという証明につながる」
・・・そんなことのために・・・。
「俺は、お前を殺さなきゃいけない。小野崎轟騎、参る!」
「ははははは・・・いいよな、お前は名前があって。私なんて・・・与えられた名前がNo.14さ・・・。羨ましい、名前があるのが羨ましい・・・。私だって親に名前を付けてほしかった!こんな身体いらないから・・・名前が欲しいんだよ!!」
「・・・名前・・・か。俺はこの名前を気に入ってはいないんだ」
「なら・・・私に頂戴よ・・・その名前・・・」
女は泣き始めた。
実験台がどのような仕打ちを受けていたかはわからない。
「でも、俺はこの名を親がくれた数少ない・・・永遠に残るものとして大切にしている。だからお前にはやれない」
「なら・・・あんたを殺すまで!!」
・・・普通に俺が名前付けてやりゃあいいんじゃね?
・・・普通にそう思った。
が、
「死ね、もう死んじゃえよ!みんな死ねばいいんだ!」
うっわ、あぶねぇ!
1年前の俺だったら絶対死んでたよ!?
・・・俺、人間離れして行ってるなぁ。
錬金術で肉体強化なんてしなきゃよかったかなぁ・・・。
ま、してたら今頃死んでるけどな。
「おい、女!話を聞け!俺がお前の名前を付けてやる!!」
「もうどうでもいい!殺したい、殺したい、殺したいんだよ!!」
・・・無駄だな。
「なら、うりゃあああああああああああああ!!」
一瞬できた隙をついて女の右肩を殴る。
そして、パイルを打ち込む。
「う・・・」
「これを受けて悲鳴を出さないとはね・・・」
「は、だてに肉体を改造されてないさ。だが、もうパイルはない・・・私の勝ちだな」
確かに、このあと遠距離戦に持ち込まれれば俺の負けだろう。
ただ・・・1年前の・・・俺ならな!
「ふ、足を殴っても私の脚力は落ちないさ!」
「・・・パイルを打ち込まれれば別だろうけどな!」
そう言って、ないはずのパイルを打ち込む。
「・・・なぜ?なかったはずなのに・・・」
「錬金術。俺はあらゆるものを鉄に変え、更にそこからあらゆるものを作り出すことができる」
「・・・そんなことがあってたまる・・・か」
無駄だ。
もう歩けるはずはない。
こいつの肉体は強度が普通の人間より落ちている。
俺とかでも歩くのがやっとな怪我で、歩けるはずがない。
実際にそうだった。
すぐに崩れ落ち、倒れた。
俺はテロリストを殲滅しろと言われた。
でも、俺はこの女を殺したくはなかった、
「なんか可哀そうじゃないか」
彼女の武装を全て放棄し、俺は彼女を担いだ。
「あと少し、あと少しだけでも・・・生きてみようぜ、俺たちの世界を」
そう呟いた。
この女の名前を考えながら。