第9章第8話 大賢者様の役に立たない回答を拝聴することになりました
本日は今まで無駄に謎が多いと見せかけて案外少なかった妖刀について全てを知っている大賢者様に教えていただこうと思います。
「妖刀ってなんですか?」
<お前の思っている通りだ>
ええ!?
「妖刀は世界に何本あるんですか?」
<数え切れないくらい>
ええ!?
「以前ルインが言っていた、妖刀強化パーツとは何ですか?」
<いかにもサイバーな感じの鎧が強化パーツ。刀の時はなんかトリガーっぽいのがついて、魔力を蓄えることができ、それを発射することができる。以前からそれをできる奴もいたけど、そいつのは威力が上がっている>
やっとまともな答えが出たわ。
<ちなみにサイバーはSからじゃなくてCから始まるぞ?Cyberって書くからな?>
いや知ってるから。
しかもなんでそこ?
別にどうでもいいんですけど。
「それでは、どうやって強化パーツを作るんですか?」
<安心しろ、時が満ちたとき我がそれを作り出す>
オレには教えてくれないんですね・・・。
<そう言えば、お前が作った妖槍、なかなかの出来だった。お前なら我を継ぐことができるだろう。お前はそうしないと思うが。何せ、使う材料に神話の武器と、人もしくはそれを超える者の魂が必要。さらに、完璧に仕立て上げるなら、通常形態時の武器も必要になるだろう>
人の魂を使ってまで妖刀は欲しくはない。
万が一、オレが失いたくない人を失うことになった時は、その人を封じ込めるかもしれないが。
<お前は現在何本の妖刀、もしくはそれと同等のものを所持している?>
えっと、ルイン、ハヤブサ、オロチ、シロガネ、イザナギ、コクヨウ、タイガ(ルインがくれた)、ヴリトラで全部か。
「ルイン、ハヤブサ、オロチ、シロガネ、イザナギ、コクヨウ、タイガ、ヴリトラで全部だ」
<なかなか多いじゃないか>
無駄に努力したからな・・・。
最初の五本はあっさり手に入ったけど。
<だが、ここにはお前が言った8本のほかに、二本の気配がある>
ああ、侵入者の・・・誰だっけ?
記憶力はいいはずなんだけど・・・ああ、そうだ、鶴谷真琴だっけか?
「ああ、そのことに関して。この刀、あなたに託します」
え?
いきなり出てきてそれかよ?
怪我は治ったみたいだけど。
「私はあなたに敗北しました。敗北したら、次はない。私は既にあなたに殺されています。ですから、私のものは全てあなたのものです」
そんな考え方か。
確かにあの灼熱の中、体を狙ってはいなかったとはいえ、周りは鉄をも融かす炎だったからな。
オレが情けをかけていなかったら死んでたわな。
「私はこれから常にあなたの身を守り、そしてあなたが望むことを最大限叶えることができるよう精進します」
剣士の少女は刹那もいたけど全くタイプが違うな。
「それが、負けた者の宿命・・・」
「いや、無理しなくていいよ?」
人権とかも考えなきゃね?
「でも人権とか考えないと・・・」
「私の人権は既にありません。死んでいますから」
生きてるって!
生きてるから喋れるんだろ?
「既に死んでいます」
いや〜、頑固ですね。
表情ひとつ変えずにこれだよ。
「・・・十分護衛いるんだけど」
妖刀の騎士団や、テクノたちもいるし。
「なら私を好きに使ってください。肉奴隷でも何でも」
ちょ、おい!?
えええええ!?
なんでそうなる!?
「なんでそんなことになる!?」
「私の剣の腕が不要ならば、体を捧げるしかないでしょう?」
「だから何故オレに使えようとする!?」
「私はあなたのものだから」
もう勝手にしてくれ・・・。
「どうしてもオレに使われたいなら・・・」
剣の腕は相当だ。
今はどうか知らないが、正妻戦争時点の刹那じゃ勝てないだろうな。
だが、こいつはオレのそばにいることを望んでいる・・・と思う。
さっきから離れないし。
料理は・・・千秋の方が美味いだろうし、掃除は・・・魔法で何とかできるし、・・・役職なくね?
「私はあなたのそばを離れません。あなたのものですから」
・・・しつこい・・・。
「オレの指示だ。自由に生きろ」
「ならばそうさせてもらいます」
・・・あれ、何でそこに立ってるのかな?
「何やってんの?」
「あなたの守護です」
・・・やられた・・・。
こいつ自身オレのものだと断言していたからこいつがやることはオレがこいつを自由にすること・・・。
嬉しいことなんだろうが、人権を侵害してるようで気が引ける。
ルインたちみたいな純粋な忠誠心じゃないし・・・。
「お前がオレに倒される以前の望みはなんだった?」
「あなたを倒して、我が流派を裏の世から表の世に引き出すこと」
「それ以外に・・・」
またオレに襲いかかられたらたまったもんじゃない。
「・・・」
「なんでも、本当にお前がやりたかったこと、欲しかったものとかないのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・愛・・・・・・目一杯愛されたい」
ん、これは何やら深刻な事情そうだな。
なんか深刻な問題抱えた奴多いな・・・。
「私は山中市の隣の市、山里市に生まれた私は、生まれたときから奥義を修得させられました。母は物心ついた時には既に他界しており、父と口をきいたことはほとんどありません」
だろうと思った。
で、お前は兄妹もいないし、友もいないし・・・ってことになってんのか。
「安心しろ、オレが愛してやる。人間、愛があればどこまででも分かり合えるはずさ」
そう言って、オレは真琴を抱きしめた。
その瞬間、ガラスが割れる音がした。
「・・・千秋!?」
そこにいたらしい千秋は無言のまま去って行った。
・・・誤解ですよ?
なんてありきたりな展開。
「おい、待てよ千秋!」
「・・・駿、もういいです・・・。私にかけてくれた言葉は・・・全部嘘だったのですね」
いや、違うが。
「全部知ってます。あなたが私と離れている間につばささんと・・・その・・・エ、エッチなこと・・・したことも知っているんですからね!」
・・・・・・・・否定できんわ・・・。
てか知ってんなら初めから言えよ・・・。
ちょっとした気の迷いだったのに・・・。
「もういいです。梨瀬は私が引き取ります。婚約も解消させていただきます」
「ちょっと、待てよ!?」
千秋は涙を流しながら部屋に閉じこもった。
その夜、千秋のすすり泣く声が聞こえてくるたび、痛く心に刺さった。
そして、寝付けなかった。