第8章最終話 この世界との別れは輝く光の中で・・・。
「・・・用事はもう、済んだのか?」
オレが俯きながら歩いていると、影麗が沢山の死体の山の上で待ち構えていた。
「ああ、用は済んだ・・・」
そうだ、済んだんだ。
あいつは歴史上でも有力な剣豪だったろうに。
名を載せるよりもオレとの戦いを望んだ。
もしかしたら、この世界にはそんな猛者が数え切れないほど存在してきたのかも知れない。
現代の人々の記憶に存在していないだけで、その時を制した王者よりもはるかに強い猛者が、影の世界でひっそりと、強者に出会うことを望んで生きていたのかも知れない。
そんなことは誰一人知ることはできない。
オレはこんな機会があったため、そのようなことを思ってみた。
歴史を変える訳にはいかないからな。
辺境の勇者より、歴史に名を残す王者を優先させるさ。
「もう、行くのか?」
「ああ、オレには帰る場所があるからな」
別れとは、これほどまで悲しいものなんだと感じた。
今まで殺した人間や、情を入れなかった人間との永遠の別れは数え切れないほどあったが、友人との永遠の別れとなると、やはり寂しいものである。
「元気でな。駿。大好きだ」
「ああ、オレもだ」
これは友達としてだからな・・・一応。
「ルインを探さないとな」
「彼女ならもう迎えにきているであろう」
影麗が指さす方に、二人の騎士が待っていた。
「悪いな、遅れて」
「君主が待てというならば、百年だろうと千年だろうと待ちます」
「俺にはそんなことは無理だな。寿命で死んでしまう」
まあ、テクノの言葉は当然だな。
「テクノにも一応聞いておこう。これからオレ達は未来に行く。一度行ったらもう二度度戻って来れないと思っていい。来る覚悟はあるか?ないならばここでお別れだ」
「・・・この世界に残すものなどないからな。親も妻も子も。どこまでもついていくさ。俺はお前の騎士だからな」
そうか、これで元の世界に戻れるな。
思い残すことはもう、ない。
「ルイン、テクノ。行こう、オレたちの世界に!」
「君主よ、ひとつお尋ねしたいのですが」
ん?
「どうした?」
「どうやって時を超えるのですか?」
ははは、そんなことか。
それなら問題ない!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・訳がねぇじゃねぇか・・・。
どうやって戻る気だったんだよ・・・オレ。
「そう言えば・・・時の妖刀がこの世界に存在します」
それだ!
「私たちと同じく、騎士の姿に変貌することができる刀です」
よしきた!
探そうか!
「悪いが主。気付かないか?」
「どうした?」
「・・・さっきの言葉から推測するに・・・ルインも、妖刀じゃないのか?」
は?
さっきルインが言った言葉は・・・。
「私たちと同じく、騎士の姿に変貌することができる刀です」
・・・騎士。
ルイン・・・騎士・・・。
あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!
どうして気付かなかったんだ!?
「それでは改めて。我が名はルイン。最も最古の妖刀として、全ての妖刀の誕生を見届けてきた存在。時を司る能力を保持し、その身に別の時空から持ち出されたデュランダルを埋め込まれた騎士」
・・・え、何これ、一番偉いの?
「私が従う者は、私を創造した者。若しくは、その魂を受け継ぐ者のみ」
「・・・それが、オレなのか?」
「はい」
そうか・・・その主はオレには話しかけてきてはくれない。
未だ、心の中で会話できるのはリリィだけだからな。
「あなたが望むなら時を越えましょう。ただし・・・」
ただし・・・?
「ただし、私にはそのほかにも使命があります。その使命を叶えることを、手伝っていただけないでしょうか?」
「内容による」
「この世界全ての妖刀を、あなたが手にすることです」
妖刀を・・・か。
悪くない。
「私たちと同じ妖刀は全て、人間の魂とそれを宿す刀、そして伝説上の剣で構成されています。中には、槍や弓に魂を宿している者もおります」
もはや刀じゃねぇ・・・。
「それをも手にすることを誓えますか?」
こうなったらやってやろうじゃねぇか。
「オレが契約しよう、その願いを叶えると!」
どこか似たようなセリフを聞いた記憶があるが、まあ、問題ない。
「それでは、時を越えましょう」
ああ、そうだな。
「待ってくれ!」
この声は・・・。
影麗・・・。
「やはり私も連れて行ってはもらえないだろうか?またひとりになるのは・・・寂しい」
そんなことか。
「ああ、来い!」
オレは手を差し伸べ、時を越えようとする光の中で彼女の腕を掴んだ。
「行こう、オレたちの時代へ!」
そうして、この時代に別れを告げた。