第8章第11話 炎と焔の戦い、そして劫火の中での決戦
朝目覚めると大変なことになっていた。
これこそまさに大事件。
単刀直入に言う。
街の半分が焼け野原になっていました。
「な、何―――――――――――――――――!!」
宿屋の店主は既に逃げたようです。
全く、客を見捨てるとは無責任な店主ですねぇ。
!?・・・この気配・・・奴か?
この街に来ているのか?
奴が。
わざわざオレを迎えに来てくれたってか。
「ルイン、テクノ。お前たちは一般市民の避難を手伝ってくれ!オレはボスを討つ!」
二人の騎士は頷いて、別々の方向に走って行った。
「影麗、お前はどうする?お前はオレの騎士じゃないからオレからは指示できない。でも、もしよければオレについてきてくれないか?」
こいつの腕は一流だ。
盗賊だとしたら、ザコは影麗に任せたい。
「分かった。私に西洋を見せてくれたのはお前だ。今はその恩返しをするときじゃないのか?」
助かった。
「それじゃあ、頼んだ」
オレは炎が飛び交う中、剣を手にしてその中を駆け抜けて行った。
やはり、こいつか。
「ようやく来たか」
「悪かったな、遅くなって」
「人生最大の楽しみが今から味わえるんだ。そのことで咎めたりはしないさ」
盗賊王は偃月刀を構える。
「その前に、お前の本名はなんだ?作者が盗賊王じゃなんかイマイチとか言ってるからいい加減教えてくれ」
「仕方無いな。我が名は炎飛だ」
そうか、炎飛か。
その名を聞くことはもうなさそうだな。
オレはお前をここで討つからな!
「いざ!」
互いに剣をぶつけ合う。
「この殺気、これが真のお前の力か!剣を持っただけでここまで凶悪な気を放つとは・・・楽しくなってきたぜ!」
ふざけるな。
お前と遊ぶために剣を手にしたんじゃない。
オレはお前との決着を早期につけて帰るんだ!
元の世界に!
「奥義・天地開闢!!」
これ使ったの久々だな。
大気を切るこの技を避けることは困難。
だが、それを楽々と避けるとはこいつは人ならざる者だな。
「避けやがった・・・ならしかたない。出でよ、我にその歌声聞かせよ!セイレーン!!」
セイレーンとは、鳥人である。
・・・悪い、あまりにも簡潔すぎた。
上半身は人間の女性、下半身が鳥ってとこか。
海の怪物とされ、美しいその歌声で多くの船乗りたちを惑わしたらしい。
そして、今オレが召喚したセイレーンだが。
「綺麗な歌声だ・・・確かに」
これなら多くの人間は耳を澄ませて動きを止めるだろう。
・・・だが。
「オレにはそんな小細工通じねぇよ」
「え、マジかよ」
「マジだ」
・・・オレの作戦は失敗した。
力押しで勝てなかったから頭脳戦で行ったんだが・・・。
暫く剣を打ちつけているうちに、オレは炎飛にひとつ質問をした。
「お前、人間じゃないだろ」
「オレか?ああ、オレはこの地域に現れる妖怪と人間の間にできた子だからな。半分は人間じゃないんだよ!そう言うお前はどうなんだよ?お前の動きも十分人間じゃないぜ?」
既に自覚してるわ!
「悪魔との契約、龍の魂とその他、数々の強大な魂をこの身に宿している。オレも人ならざる者だ。だが、オレに剣術を教えた者は人間。オレ以上の凄腕の女だ!」
勿論、リズの事。
師匠はオレより弱いし・・・。
「オレは師を超える。だからこの技を作り出した」
「!?」
お前との決着のためにわざわざ作りだした奥義。
お前に拝ませてやるよ!
「二十二代目真一刀奥義・クリムゾンエタニティ!!」
これはオレが編み出した奥義。
自ら灼熱を身に纏い、近づく者を焼き尽す。
自らの気があまりに少ないと、灼熱の炎を身に纏うどころか呼び起こすこと自体できない、難度の高い奥義。
森羅万象と違い、一刀で繰り出す奥義だが、威力は数億倍に跳ね上がっている・・・はず。
「どうした、怖気づいたか?」
「オレは怖気づくような軟な奴じゃないぜ」
炎飛が偃月刀を突きだしてくる。
「死ぬのはお前だ―――――――――!」
「焔の鎧、これは見せかけじゃない」
そう、この鎧は
どんな炎より
灼熱よりも
地獄の業火よりも熱いんだ・・・。
人間には耐えられない程の高温。
「劫火に身を委ねろ。今なら楽に逝ける」
光速とも言えるような速さでオレに突き刺さるべく飛んでくる偃月刀に剣を当てる。
それだけで、偃月刀はバターのように・・・いや、バターよりもあっさりと溶けてしまった。
「お前の命、オレがもらった!」
オレは焔を宿した剣を振りかざし、これとは対になるはずの奥義の構えをする。
さようなら、炎飛。
これはオレの試練のひとつだったのかもしれない。
そうだったのなら、ありがとう。
また先に進むことができる。
これで終わりだ。
「十代目真一刀奥義・アブソリュートゼロ!!」
オレは熔解していく炎飛に冷気を与えた。
地獄の業火を極限の零度で凍らせて行く。
焔が凍る。
それは、普通ならばありえない現象であった。
辺り一帯、焼き打ちで元から炎に包まれていたが、それもろとも全て氷となっていた。
その光景が、オレにはどこか、悲しく見えた。
焔の氷が、オレに何かを訴えているように・・・そう感じた。