第8章第8話 醜い生き物が争う地・闘技場 - コロッセウム -
空は快晴。
太陽が煌煌と輝いている。
とても気持ちがいい天気だ。
本当に気分がいい。
・・・・・・・・・・・・・こんなところにいなければな。
血なまぐさい円状の空間にオレともうひとり、西洋人が閉じ込められている。
両手にグラディウスを持ち、鉄製の兜をかぶってオレの目の前に立っている西洋人。
彼こそ、この闘技場の王者だ。
ここで数々の死闘を繰り広げ、未だかつて無敗。
猛獣を複数相手にしても屈しず、全てに終わりを与えてきた男だ。
王族直属の騎士二名をも蹴散らした男。
そんな彼にオレは喧嘩を売っているのである。
「ここから出るにはオレを倒してからだ。もっとも、ここのルールはオレよりお前の方が詳しいだろうがな」
挨拶と呼べるものかは分からないが、コミュニケーションをとった。
剣闘士はそれを無視する。
想定内だ。
オレはタイガを構えると、始まりの合図を待った。
始まってから約10分。
攻撃しては避け、また攻撃しては避ける。
この動作を二人は延々と繰り返していた。
剣闘士の怒涛の攻撃が、オレに奥義の構えをさせてくれない。
こいつもまた、人として並はずれた能力を保持している。
恐らく第二騎士以上だ・・・。
確かに強い。
もう、最初の強敵はなんだったんだって思うほど強い。
タイガは折れる危険性はないが、それでもオレの腕が折れるんじゃないか、と思うほど強烈な攻撃を受け切っている。
確かに猛獣なんて楽に倒せるだろうな、これだけの力があれば。
更にこのスピードも異常だ。
パワーもスピードも常人をはるかに上回る強さ。
だが、オレはその先を行く!
強引に奥義の構えをする。
この奥義は、とっておきだぜ?
「奥義・絶対零度!!」
闘技場全体が凍結する。
闘技場に人が歩くスペースがないほど大きな氷がひとつ、生まれた。
それをみた貴族たちは驚愕して言葉も出ない。
一部の人間はオレを悪魔だとか言っているが、あながち間違いじゃないからな。
悪魔をも殺す、そして悪魔と契約した人間だからな。
人をひとり殺すにはこの程度の氷で十分だろう。
・・・だが、奴はその先を読んでいた。
オレが闘技場全てを包み込む氷の上に立っていると、奴は現れた。
空から。
「ひょ?」
思わず狂戦士の魂の被害者みたいな声をあげてしまった・・・。
「お前は今までで一番強いな。だが、俺は死にたくない、死にたくないからお前を倒すしかないんだ!うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
魂を貫くような言葉を放ち(ついでに咆哮も)、オレに剣を向けてきた。
死にたくない・・・か。
こんなに手を血で染めてもそんなに生にしがみつく。
人間とは、醜い生き物だな。
オレも含めて。
こんな状況でもオレは死にたくはない。
そして、生き残る方法はあいつを殺すこと。
合法的にここから抜け出すにはな。
既にオレは悪魔の扱いを受けている。
それにあいつは今更何をしたってここからは出してもらえないだろう。
合法的に抜けだすなんてことはしないさ。
もう、何度も世界の理から外れているからな。
「なら、やることはひとつ!タイガ、力を解放しろ!」
<任せておけ!>
タイガが黒い霧に包まれ、新たな姿を現す。
仮にもこれは魔剣だ。
当然の登場方法だろうな!
魔剣ティルヴィング!
「やることはひとつ、この闘技場を破壊する!」
「何!?」
「一代目真一刀奥義・エターナルヘル!!」
周囲一帯を全て焼き払う。
まるで、地獄のように。
そうだ、灰になれ、悲しみしか生まない闘技場よ。
「剣闘士!逃げるぞ!」
「!?お、お前・・・」
オレは剣闘士の手を引いて逃げた。
貴族全員を殺す覚悟はあるが・・・逃げた方が手っ取り早い。
「オレについてきな!」
最初からこうしてりゃよかったんだな。
権力を振りかざす癖に力がないことを知らないバカに従うよりだったら罪人を逃がした方がマシだ!
「お、お前は・・・何故?」
「オレは束縛されるのが嫌なんだ。だから、お前も一緒に自由になろうぜ!」
オレたちは地獄の業火の中を駆け抜けた。
いずれ、この闘技場があった場所は朽ちる。
灰になるからな・・・地面ごと。