番外編:山中市の発展の裏側で何が起こっていたか
ここ、山中市には歴史がある・・・どこにもあるだろうけど。
まあ、現実世界とは違い、現実世界で行けば存在しないはずの県である。
冬は寒いため、雪国に比較的近いととれる。
たった十数年前まではとんでもなくド田舎だったにも関わらず、現在の山中市は首都をも上回る勢いで発展しつづけ、現在ではこの国の五大都市のひとつにまでなっている。
学校の方は昔の名残で少々田舎らしさが目立つが、椎名財閥の本拠地まで存在している。
こうなった原因は、とある少女が仕向けたのであった。
これはそのとある少女の物語。
かれこれ12年前の話である。
とある少女が存在した。
その少女は高貴で美しく気高い、他の女の子とはまるで違う品格を持っていた。
そんな彼女はある日、海を見たいと言い出した。
とても奇麗な海を。
生憎、彼女の住んでいた土地には濁った色の海しか存在しなかった。
プライベートビーチに向かうという手もあったが、彼女はそうしなかった。
「誰もいない海なんて、寂しいとは思いませんか?」
そう言って、近辺で最も美しい海を持つ土地、山中市を彼女は選択した。
彼女はそこで出会った。
青い海と空が見える場所で。
小さな少年に。
尤も、彼女も同じくらいの歳だったので小さなとは言えなかったが。
少女はただひとり佇んでいる少年に話しかけた。
悲しそうな目をしていたからであろうか。
「・・・何の用だ?」
子供らしからぬ反応に、少女は少し驚いた。
「いえ・・・あなたはどうしてここにひとりでいるかと」
「冬だからに決まってるだろ。冬に海に来たがる奴なんていねぇよ」
「ではどうしてあなたはここにいるのですか?」
彼は少し黙りこんだ。
「・・・・・・何もすることがないんだよ。お前こそなんでこんなとこにいるんだよ」
「・・・私は海が見たかったのです」
「海なんて何にもいい事ねぇよ。毎日見てるから分かる。ただただ延々と水があるだけだ。家にいてもどうせ良いこと無いし。ここって田舎だから周りは田圃だらけ。まあ、それよりはマシかと思ってここにいるんだけどさ」
「私も、ビルばかりの街には飽きて。それで、綺麗な海が見たかったのですよ」
「ビルか・・・。オレはそっちの方が見てみたいな・・・ここにはないからさ」
互いに違うものを求めあう。
片方が不要と思うものを、片方を必要とする。
そんな関係だ。
暫くして少女が浜辺に腰をおろした。
それをみて少年も腰をおろした。
「寒いですわね・・・」
「・・・そう・・・これ、着るか?」
少年は来ていた上着を指して言う。
「良いのですか?」
「この程度の寒さなんて慣れてるから」
二人はこうして2時間程の時を過ごした。
「そろそろ帰らねばなりませんね・・・また来てもよろしいですか?」
「・・・勝手にすれば。海はオレのもんじゃねぇし」
無愛想に答えると、少女は微笑んだ。
「とても有意義な時間でした。ありがとうございます」
「・・・・・・・・またな」
その後も度々彼女たちは一緒に海を見た。
晴れの日も、雨の日も、雪の日も、嵐の日も。
何度も何度も。
数カ月たったある日だった。
「お父様、どうしてですか?」
「お前は100万人に1人の超天才少女だ。証拠にこれだ。3412142×41543は?」
「14213605160です」
彼女は父に言われた問題を、1秒もかからずに答えを出した。
「私にはそれができない。だが、お前にはできる。だから、お前にはアメリカの大学で勉強してきてもらおう」
「・・・・・・はい」
少女は父には逆らえなかった。
「・・・そう、アメリカの大学か」
「私・・・行きたくない・・・だってあなたと別れないと・・・」
少年は少女をそっと抱き締めた。
「行ってこい。オレもそれまでにきっと強くなってるさ。君を守れるくらいに」
「・・・ありがとうございます・・・大好きですよ」
そして彼女はそっとキスをした。
「なっ、なにすんだよ!?」
「キスですわ。好きな人同士がすることですよ」
「そんくらい知ってる・・・ねぇちゃんにこの間やられたからな・・・」
「愛してますよ。帰ってきたら私、あなたのお嫁さんになります」
「・・・楽しみに待ってるよ」
二週間後、彼女は日本を発った。
そしてその彼女は父にひとつのお願いをした。
「私が帰ってくるまでに、山中市を、大都市に変えておいてください。でも、海は決して汚してはいけませんよ」
その願いがかなった今、山中市は大都市と化している。
「・・・そんな裏話があったんだ」
つばさがなんか感動している。
「ああ。ま、駿から聞いた話なんだけどよ」
話していた人物は実は骸でした。
「それでその少年と少女はその後会えたの?」
「は?何言ってんの?この話、駿と千秋ちゃんの物語だぜ?」
「え!?ホントに!?」
「ああ、まあな」
話し終えた骸は扉を開けて去って行った。