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小話3 ふたりの一日

【染谷芽衣子の一日】


 私の一日は、目覚ましで始まる。

 で、すぐさま二度寝。ものっそいギリギリで、慌てて起床。


 お腹空いてると戦は出来ぬなので、生の食パンを台所の流し台でかじる。

 慌てたので半分までかじったらボロっと落ちる。泣く泣く拾って捨てる。

 そのあと牛乳をガブ飲みして、手をパパッと洗っておしまい。

 カップは帰ったら洗おうっと。


 ……あ、これ、今日は余裕ない日だから。

 永田くんに朝食作ったみたいな、あんな日もあるから!


 さあ、出勤。

 適当にセットになってる服を着て、適当に髪をとかしてほぼスッピンに近いメイクをして家を飛び出す。

 鍵かけたか心配になって、ドアノブをガチャガチャ。


 電車に揺られて会社へ向かい、大急ぎで自分のデスクへ。


「おはよー!」

「はよーざいまっす、染谷先輩」


 後輩ちゃんが手を振ってくれる。

 今日の業務を確認して、部署の朝礼があって、さあ、仕事仕事。

 大体雑務です。書類整理したり、頼まれたことやったり、連絡したり。

 パソコンに向かってることが多いけど。


 お昼。

 後輩ちゃんが携帯アプリの面白いのを教えてくれる。


 アニマルがイケメンになって滅亡寸前の地球で主人公と一緒に戦う、みたいなストーリーで、主人公、つまり私に、アニマルイケメンたちが惚れてるって設定ね。

 夜の動物園に行くとガチャが回せるの。


「アニマルプリンス、通称マルプリっす。あたしはライオンが推しですね。やっぱ男は強くなきゃ」

「タヌキかわいいぃ。あ、キツネはちょっと永田くんに似てる……」

「……二次元にまで彼氏ラブを反映させるんすか」

「えへへ」


 ちょっとウザったそうに茶化す後輩ちゃんに照れ笑いして、ガチャガチャして(5回くらい)お昼休みは終了。


 今日、永田くん休憩室に来なかったなー。忙しいのかな?


 そんなこんなで夕方までパソコンカタカタ。

 今日はそんなに忙しくないんで、帰れる時には帰ろうってんで帰宅します。


『めいこ帰りまーす! 永田くん、残業?』


 帰宅の電車内で愛しの永田くんにメッセージを打つと、数分でお返事が返ってくる。


『僕も早く帰りたいんですけど!』

『かわいそう。代わってアゲタイワ』

『嘘つき。怠惰な先輩がそんなこと思うわけない』

『見透かされてる!』

『気をつけてさっさと帰ってね、おつかれさまー』


 チッって言ってる猫のスタンプが送られてくる。

 私はちょっと笑いながら返信。電車の中で恥ずかしいので口元を手で隠す。


『お仕事がんばってね。大好き!』

『急になに。やめてください』

『文字に残るのがイヤなの? 照れてるの? 恥ずかしいの?』

『……だったらなんなの』


 すごく不機嫌そうだけど、めっちゃ喜んでるよねきっと。そうに違いない。そう思いたい!


『永田くん、だーいすきっ。早く会いたいなっ♪』

『うっざーーーーーーーー!!!』


 永田、怒のスタンプ連打!

 へへ、追い打ちをかけてやったぜ。……って、降りる駅だ。

 ひとまず降りることを伝えて、携帯をバッグに仕舞い込み降車。てくてく歩いて帰宅する。


 家に帰って携帯を見てみると……

 あれ? 追撃メールが着ている。


『ぼくもすき。はやくあいたい』


 …………くっそ……可愛いな。

 ひらがなヤバイ。誰かに見られないかハラハラしながら急いで打ってるとこが想像できてヤバイ。


 あー、早く週末にならないかな。


 にまにましながら携帯をぎゅっと抱きしめたりしてみる。The・乙女。


 そのあと冷凍ご飯と冷蔵庫の残り物で適当にご飯を済ませ、お風呂あがったらダラダラ携帯を見て過ごす。

 このアプリおもしろーい。

 永田似キツネイケメンをゲットして育てながら寝落ち。

 おやすみなさい……。




 ☆★☆★☆




【永田悟の一日】


 朝。目覚ましより1分ほど早く起き、鳴る寸前のアラームを解除。

 社会人になって体が慣れてしまったのか、最近はずっとこうだ。


 パリッと起床、洗顔、歯磨きなど、いつものルーチン。

 スーツに着替え、朝食。

 時間がないのでパン、サラダ、コーヒー。

 携帯で天気とニュースのチェック。

 洗い物をして、最後の身支度と持ち物チェックを済ませたら出社。


 いつもの通勤電車。

 出社時間に間に合う電車より、2、3本早いものに乗る。だって慌てたくないし。

 通勤快速を見送る各駅に乗ったので、悠々と座って本を読む。


 出社。机の周りを軽く整頓、掃除。

 そのうち皆がどんどん出社してくるので、挨拶したり雑談して、始業前にメールチェックを済ませておく。


 ついでに、先輩にメッセージ。


『おはようございます』

『おはのうござぃふ』


 まだ寝てるな(脳が)

 それか遅刻寸前で焦ってるってとこか。


 とりあえず先輩のことは置いといて、仕事に取りかかる。

 急ぎの案件。ちょっと大きい仕事で、僕に任せてくれるらしいから頑張らないと。

 後輩の松澤がチョロチョロしてるので手すきか確認してちょっとした雑用を頼む。


「はいっ! 永田先輩!!!」


 こいつすげー元気いいんだけど、僕を見る目がアイドルを見る目というか、キラッキラしててコワイ。

 決して悪いヤツじゃないし、使えるヤツなんだけどな。


「憧れの永田先輩のお手伝いが出来るなんて!」

「いや、雑用頼んだだけ……」

「嬉しいです! カッコイイ!」


 なんだかドッと疲れる。

 だが松澤は仕事を全力でやってくれたらしく、お昼前には終わったらしい。

 ……うん、使えるんだけどね。


 昼。

 休憩室には行けない。

 仕方ないからトイレに行くフリをして休憩室の前を素通りする。

 なにやってんだ、っていう脳内ツッコミは無視する。

 休憩室のドアから、先輩が見える。

 いつかみたいに、目が合うといいなー、なんて。

 ちょっとゆっくり歩いてみるけど、なんか後輩さんとキャッキャやっててこっちを見ない。なんでだよ。


 見ろー見ろー


 念力を送る。ああ、今だけテレパシー使えたらいいのに!

 だけど先輩は携帯に夢中だ。

 そしてドアの前を2往復くらいしたところで、「お前なにやってんだ?」と同僚から声をかけられ諦める。

 素直に入ったらよかったな……。


 デスクでおにぎりとお茶を流し込んで、僕の午後は始まる。

 一心不乱に仕事、仕事。

 打ち合わせあるのかよめんどくせー。なんて心の中で愚痴りながらにこにこ営業。


 夕方、気が付けば終業時間。

 先輩からメッセージが入る。


 甘いやりとり……か?

 好きとか書かれていて、思わず携帯を隠して周囲を見渡してしまう。

 ウザい。けど可愛い。うざかわいい。

 顔がニヤケそうになるから、ぐっと怒った顔を作ってみる。


『永田くん、だーいすきっ。早く会いたいなっ♪』


 へにゃっ。

 ああ、もう! 表情筋が持たない!

 おふざけだってわかっててもコレなんだから、相当だな、自分。

 戒めの為に『うっざー!』と怒ったフリで返信する。

 彼女はスルーして『駅ついたーまったねー』とか返してくる。

 ……ちょっとは残念がれよ。


 仕方ないので、折れてやる。

 周囲を見渡す。松澤がウロチョロしてる。

 パッと隠しながら、サッと打ち込む。


『ぼくもすき。はやくあいたい』


 変換とかどうでもいーからさっさと送信をタップ。

 ふぅー任務完了。


 おっといけない、仕事、仕事。

 今日は日が変わる前に帰るんだ…………。




 ──ようやく帰れたのは終電前。


 先輩、寝てるかな。

 でも連絡いれないのも嫌なので、『帰ったよ。おやすみ』とだけ送っておく。

 既読つかないや。

 今夜はまだちょっと冷えるから、お腹出して寝てないといいけど。

 ……って、母親か。


 はぁ、疲れた。おやすみ……。




 ☆★☆★☆




【週末】


 部屋を訪れた永田を迎える。

 最近暑くなってきたねー、なんて言いながら、特製レモネードを出してやる。

 ポッ○レモンとサイダーと蜂蜜で出来るよ!


 ソファに並んで座りながら、何があったとか、仕事のこととか、一週間のおさらい。


「今ね、イケメンアプリにハマってるの」


 この一週間のハイライト。永田似のキツネのマルプリを最強まで育てたよ!

 画面を見せて説明すると、彼はそれを一瞥し、半目で私へと視線を移す。


「そんな架空の男と僕と、どっちがいいんですか」

「ええー選べない。めいこ困っちゃう」

「……」

「うそ、うそ。永田くんがいいです」

「僕は繊細なんですよ? ねえ?」


 わざと怒った振りをしてデコピンされる。いてて。


「でも、口説き文句とかにドキッてするんだよー」


 おでこを押さえて反論してみれば、永田はちょっと興味をそそられた様子。


「へえ……ちなみにどんなの?」

「君を守るよ……とか、一生離さない……とか」

「なーんだ。現実では使い道のないセリフですよね。何から守るんだか」

「いいんだよ別に! なんかこう、車とか蚊とかから守ってください!」

「ちっさ。ガードレールと蚊取り線香に守ってもらえば」

「うるしゃい! 言われたいんじゃい!」

「へえ……じゃあ、まあ……君をすべてのものから守るよ」

「ざっくり!」

「うん。ざっくりすべてのものから守ります。揚げ物の油はねとか、牛乳の賞味期限とか」

「細かい!」

「ああ、やたら堅いお煎餅からも守ってあげます。口切ったら大変だから僕が食べてあげるね!」

「やめて!」

「……けっこう守れるものありますねー」

「守るの定義ィー!」


 途端に世界観が矮小に!

 だけどまあ、守ってくれる気持ちは嬉しいので、私もやりたくなった。


「私もなんか言って口説こう」

「どうぞ」


 手のひらで促され、私はオッホンと咳払い。


「えーっと。私も永田くんを守るよ!」

「ざっくり」

「じゃあ具体的に。胃袋とか。健康とか」

「お掃除とお料理作ってくれるとか?」

「うん。でも、あんま自信ないから一緒にやろう」

「守れてませんね。でも一緒にやります」

「今夜はなに食べる? ピザとろっか?」

「作らないのかよ」


 あっ、ご飯の話に流れちゃった。

 そうそう、肝心なこと言わなきゃ。


「あと、ねえ知ってる? 抱き合うとね、ストレスが軽減して寿命が延びるんだって」

「へぇー」

「だからね。私、ストレスから永田くんを守るよ」


 ぎゅっ。

 永田のお腹にめいっぱい抱きつく。


 ストレスよーなくなれー

 胃よー頭皮よー健康であれー


 って、むにゃむにゃしながら力を込めていると。


 へにゃっ。


 永田の表情が崩れた。

 慌てて顔を背け、焦ったように手で隠す。髪から垣間見える耳は真っ赤だ。


「あ、ちょっと、永田くんこっち向いてごらん?」

「嫌です」

「そう言わず、ちょっと写メとらせて?」

「ぜったい嫌です!」


 逃げる永田に追う私。

 そんな感じでドタバタと週末は終わっていくのでした。まる。






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