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おまけの同棲日記 その1

おまけの小話(ほんとに小さいお話)をいくつか投稿します。

しおりを挟んでくださっている方、乱してしまってごめんなさい。

時系列もばらばらの番外編も章立てて載せていきますのでよろしくお願いします。


 私と永田の恋愛小説は、これからも日常の中で続いていく。

 筋書きもなく、終わりもないのだ。


 だからここからは、

 ゆるゆると日々の出来事ノロケを綴っていこうと思う。




****




「ただいまー」

「おかえりなさい!」


 玄関の扉が開くと、スーツ姿の永田が現れた。

 先に帰宅していた私は、エプロンを外しながらパタパタと廊下を玄関まで駆けていく。


「…………ウッ」


 と、突然、永田が片手で顔面を押さえて唸った。

 ど、どうした!?

 具合でも悪いのかと顔を覗き込む、と。


「すごい……帰宅したら芽衣子がいる……!」

「……当たり前でしょ、一緒に住んでるんだから」

「平日なのに、平日なのに」

「って、昨日も一昨日も言ってたよねぇ」


 くすりと笑いながら指摘すると、永田は赤くなりながらモゴモゴした。

 日曜の夜なんかは、「明日会社いきたくない」と膝を抱えていたっけ。


 夏の終わりに同棲しはじめてから秋口の今まで、永田はたまに感動でこうなる。

 嬉しいけど、そろそろ落ち着こうぜ、永田くん。


「帰るのがすごく楽しみになりました」


 スーツの上着を脱ぎながら、彼は幸せそうにはにかんだ。

 その上着を受け取ってハンガーに掛けながら、私も微笑む。


「仕事サボって帰ってきてないよね?」

「まさか。早く帰れるよう今まで以上に頑張ってます」

「無理しないでね」


 心配になってそう呟けば、彼はくるりとこちらに向き直る。


「ちょっと、ネクタイとシャツを脱がせてくれませんか」

「えぇー、自分で脱ぎなよぉ」


 と文句を言いながらネクタイに手をかけると、永田はそっと私の両肩に触れながら、おでこに軽くキスをした。


「僕は今、手が離せなくなったので」


 囁きながら、彼の両手は肩を撫で、背中へと滑る。

 同時に唇は髪の生え際を辿りながら、耳へと降りていく。


「ちょ、ちょ、ちょ!」


 頬にキスされながら、私は慌てた。

 このままだと濃厚なイチャつきに突入しそうなので、シャツのはだけた胸を押し返す。


「ご飯、ご飯食べよう!」


 せっかく用意したのに冷めちゃう!

 そう急かすと、永田は仕方ないなぁと笑う。


「じゃあ、お帰りなさいのキスだけで我慢します」


 そう言って、少し屈んで可愛く目を閉じた。

 しょ、しょーがないなぁ……。

 腕の中で少しだけ背伸びして、ちゅっと軽く口付けし、「おかえりなさい」と囁く。

 永田は目を開けると、満足そうにとろける笑顔をみせた。



 こんな感じで、私たちは割りと甘々な生活を送っている。


 最初はモメないようにと家事の役割分担表なんかも作っていたけれど、

 元々お互いがお互いの世話を焼きたいタイプなこともあって、

 出来る方が出来ることをやり、むしろ相手のことを率先してやってあげる、というスタンスに落ち着いている。


「食事の用意、任せっぱなしでごめんね」


 テーブルについて食事をしながら永田が言う。

 平日の彼は忙しくて帰りも遅い。だから当然、夕食は私が作ることが多い。


「全然いーよ。今朝、お洗濯してくれたでしょ?」

「ええ。芽衣子のパンツ干すのにも慣れてきました」

「私だって悟くんのパンツ干してるもん!」

「……え、今、なんで張り合ったの?」


 クスクス笑いながらお味噌汁を飲む。

 その仕草が綺麗で、いつもうっとりしてしまう。


 生活を共にすれば、イヤなこと、譲れないことが出てくる。だけど私にとって永田は、決定的に嫌、という要素がない。

 永田にとってもそうみたいで、だらしない所を注意してはくるけれど、嫌だとは思っていないみたいだった。有り難い。


 そうやって、お互いの生活や価値観が日常に溶け込んでいく。


 だけど忘れちゃいけないのは、


「今日も美味しかったです。ありがとう、ごちそうさまです」

「こちらこそ、ありがとうございます」


 ぺこりとお辞儀しあって、目を合わせて笑う。

 感謝と、笑顔と────


「このあと、一緒にお風呂はいります?」

「えっ!?」


 ほんのちょっとのスペシャルだ。

 お互いに、相手に恋をすることを忘れない。


「う、う、う……はい」

「照れすぎ」


 真っ赤になって俯けば、永田は嬉しそうに微笑む。


「そんなだから、可愛くて何度でも口説きたくなるんだよ」


 なんて、私が照れて挙動不審になるのを喜ぶ人は、世界中で彼だけだろうな。


「じゃ、お風呂洗ってお湯張りますね」

「私はお皿洗っとく」


 役割分担をして、ソワソワしながらお風呂が沸くのを待って。

 のぼせないようにしなきゃねー、なんて笑って。

 照れながら服を脱がしあって、きゃっきゃしながら湯船につかって。

 お揃いのパジャマを着て、手を繋いで眠る。


 そんな幸せな毎日を送っています。




****




 ────とはいえ、最初からラブラブってわけではない。


 ケンカする時はするのだ。例えば────


「芽衣子、ちょっと来て」

「な、なに……?」


 低い声でそう言われると、大体お説教だ。

 私はビクビクしながら彼のあとを追う。


「この、脱ぎっぱなしはどういうことです?」


 洗面所で、脱いだ服が床に放られた惨状を見せつけられる。

 いや、半分以上はちゃんとカゴに入れたんだよ?

 だけどちょっとだけ床に散らかっちゃってて。

 というか、本当は洗濯ネットに入れて、洗濯機に突っ込んで、翌朝終わるようにタイマーをセットしなきゃいけないんだけどね……。


「えへへ……片付けようと思ったら、スマホのゲームの通知が来ちゃってね、ちょーっとやってから片そうかなって」

「そして1時間経過してるわけですね……」

「え、もうそんなに!?」

「もー……しっかりしてよ」

「……むぅ」


 呆れたようにため息を吐かれると、ちょっとムッとしてしまう。

 自分が悪いんだけどさ、たまにはダラダラしたい時があるっていうか。


「あとは僕がやっとくからいいよ」

「ええっ、自分でやるし!」

「待ってたらいつになるかわかんないから」


 そう言って永田は散らばった洗濯物を拾う。

 私は慌ててそれを取り返した。


「今やるって」

「いいって、やってあげます」

「うわ……あげます、て嫌だな」

「だって事実でしょう」

「そういうのよくない」

「先に良くなかったのは芽衣子でしょ」


 う。ごもっとも。


「ごめんなさい」

「……僕もごめんなさい」


 私が謝れば、永田もすぐに謝ってくれる。

 そして結局、ふたりで協力して洗濯機へ汚れ物を突っ込んだ。


「芽衣子がどちらかというと怠け者なのはわかってるんだけど……」


 永田はそんな失礼な前置きをしながら、洗剤の分量を量る。


「怠ける日があってもいいけど、習慣はなるべく理由なく崩して欲しくないっていうか……その、子供が、……もし、結婚して子供ができたら、こういうのって大事になると思うから」


「へっ!?」


 こ、こども!?

 突拍子もない言葉にびっくりすれば、永田は耳までカーッと赤くなった。


「も、もしも! いつか! だ、だけど……いずれ」


 いずれ────。

 そっか、だってプロポーズ自体はもうされてるわけだし……。


「悟くんは、子供欲しいんだ?」

「そりゃ欲しいですよ」


 私もつられて赤くなりながら訊けば、永田はピッピと洗濯機のタイマーを力一杯いじりながら答える。


「……子供がっていうか、芽衣子の子供が欲しい」

「う、う、うひゃぁぁぁぁ」

「その色気のない声……まあいいか、このあと聞けるもんね?」

「やめて!」


 18禁になっちゃうから!

 その声は心の中に仕舞っておいて!


 私が慌てれば、永田はくすくすと笑う。


「きっと芽衣子に似た変な子が生まれるんだろうなぁ。だったら女の子がいいな。ふたりではしゃいでるのを見てたい」

「ちょっと今日暑くない!?」


 まだ私には刺激が強すぎる!

 大量の汗をかきながらTシャツの裾をつまんでパタパタすると、そこへ永田の腕がするりと滑り込んできて、素肌に触れながら背後から抱きしめてきた。


「男の子だったら僕に似るのかな? それとも、お転婆な芽衣子みたいになるのかな」


 耳元に、笑みを含んだ声で囁く。

 なにその妄想ヤバイ。

 男の子? たとえば、永田そっくりの小さい永田を育てられるの?

 ふわぁぁぁ……! カワイイだろうなぁ。

 小さい永田を永田が肩車したり、小さい永田と永田が一緒にお風呂入ったりキャッチボールしたり……あぁ、なんと尊い光景!


「男の子欲しい……!」

「女の子と男の子、両方ですね」


 両方とか天国か。

 4人で手を繋いでぐるぐる回る謎の幸せ映像が脳裏をよぎる。


「じゃあ、がんばんないとね。ちゃんと生活まわしていけるようにならないと」

「うん、そうだね!」


 永田の言葉に力強く頷く。

 親になるって大変だもんね。まだ想像の域を出ないけど、しっかりしなくちゃ。


 そうやって気合いを入れていると、ふいに、抱きしめる腕に力がこもった。

 どうしたの? と背後を窺おうとすると、


「……でも、まだまだ独占し足りないかな」


 後頭部で、髪に押し当てられた唇から弱々しい声が届く。

 途端におかしくなって、私は小さく噴き出した。


「あれ、もしかして想像して寂しくなっちゃった?」


 ママが子供にとられちゃって悲しがるパパみたいな。

 なにその超ほほえましいやつ。


「そんなんじゃないです。ただ、もうちょっと恋人期間というか、イチャついてたいなって」

「えー、悟くんは甘えん坊だなぁ」

「あまっ……えんぼう、かも……?」


 否定しようとして、私を抱え込んだまま首を傾げる永田。

 うん、たぶんね、かなりの甘えん坊さんです。

 私がニヤニヤしながら振り返ると、ちょっと嫌そうに眉をしかめる。

 そしてプイと顔を背けると、


「この話《妄想》の続きは、ベッドでします」


 と言い放って私を解放し、プンスコしながら部屋へ帰っていった。


 なにその、こっから先は課金制です、みたいなの。

 永田ってば、自分の優位に立てるフィールドへ持ってったな。


 しょうがないから聞いてやるか。

 たまには永田の妄想を語ってもらうのも悪くない。




 ────って、あれ、おかしいな。

 ケンカの話だったのに、なんだかんだでラブラブだったよ……。






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