表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/52

事後報告と、不安(side永田)

 染谷芽衣子は本当に無防備だ。

 ……って、何度思い知らされるんだろう。


 休憩室で、松澤に顔を寄せる先輩を見た時、世界が終わったかと思った。

 寄り添うふたりに、何かあるんじゃないかと疑った。


 すぐに誤解は解けたけれど、釈然としない。

 最初は松澤に裏切られた気分だったが、話を聞くとむしろ感謝しなくてはいけなくなって、さらに苛立った。


 僕の取り巻き?(そんなの居る?)の女たちに嫌がらせされそうになってたとか。

 どうしてそれ、相談しないわけ?

 いや、気を遣ってくれていたのはわかってる。

 むしろ僕は、どうして気付いてやれなかったんだ?

 助けに行くのは、松澤じゃなくて僕の役目だろうに!


 誰にやられたのか尋ねれば、染谷芽衣子は困ったように笑う。


「えー、ぶつかっただけだよ。顔とか忘れちゃった」


 ……お人好しが過ぎる。

 今さら睨みを効かせようとしても、もう終わったことだとふたりに言われてしまった。


 忙しい僕を気遣ってくれている。

 松澤だって、悪気があって先輩に近付いたわけじゃないんだ。

 後輩さんのこともあるんだろうけど、やっぱり僕のため。心配するようなことはない。


 …………だけどさ、ちょっとだけ不安になるんだ。


 僕のいない隙間に、他の誰かが住み着くかもしれない。

 一緒にいると嬉しくて、幸せで、でも、いつも少し切ない。

 君は本当にお人好しだから。我慢しちゃうから。

 僕のことを本気で欲しいと思ってる人が現れたら、かーくんを我慢したみたいに、簡単に譲ってしまうんじゃないかって。


 片思い思考から抜け出せない自分が悔しい。

 だけど、仕事で手を抜きたくはないから、やっぱり必要以上には構えない。


 ふてくされた僕を気遣って、ふたりはあれ以来、マメに出来事を報告してくれる。


 松澤からは、彼女に突っかかるヤツはいないか、とか。

 今日はやたら眠そうだったとか、お弁当がカレー味づくしだったとか。


 ……それ、お前から聞きたくないんだけど。


 先輩からは、後輩さんと松澤をくっつける算段、という名の妄想メッセージが送られてくるようになった。

 どうやら『おしるこ』が切っ掛けで好きになったらしく、そこからの派生なのか『妖怪あずき洗い』について長文で送られてきた時は、人生で一番、返信に困った。


 あのね、思ったことを何でも伝えたらいいってもんじゃないんだよ?

 そのくせ、小説は書いてくれない。

 どうして見せてくれないの?

 書いてるのは知ってるんだ。時々ニヤニヤしながらスマホに何か打ち込んで、たまに見かければ大あくびして。


 その小説の相手は、ちゃんと僕なんだよね?

 かーくんや松澤じゃないよね?


 わかってる? 僕にとって小説は、先輩からの大量のラブレターだ。

 先輩はわかってないだろうけど、僕にはそうとしか受け取れないんだよ。


 僕のこと、どれくらい想ってくれてるの────。




 女々しい思考でまた空回りしそうになる。

 こんなんじゃダメだと、一旦、先輩のことは忘れようとする。


 その直後、彼女からこんなメッセージをもらった。


『金曜日の夜、飲みに行くことになりました!

 まっつんと後輩の山田ちゃんをくっ付ける作戦の件です。

 楽しみだなぁ♪

 帰ったらちゃんと報告するから楽しみに待っててね。

 取り急ぎご報告まで!』


 松澤と……飲みに……。

 いやいや、例の、仲を取りもつってやつなのはわかってる。

 でも、先輩、そんなにお酒強くないし……。

 かといって心配だから行くな、なんて縛るようなことは言えないし。

 ……ちゃんと帰って……くるよな?


 あぁ……だめだ。最悪なことばかり考える。

 報告したらいいってもんじゃない。

 掻き乱すだけ乱して、『いってきまーす』なんて呑気に言うな!






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ